【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味
この記事は、2026年10月時点の法令と公表資料にもとづいて書いています。ストーカー規制法は2025年12月30日施行の改正(職権による警告の創設、勤務先による援助の努力義務など)を反映し、条文の解釈は警察庁の通達(令和8年5月13日付け)を参照しています。発信者情報の開示は、2025年4月に名称が改められた情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)にもとづく手続です。
「勤め先の口コミページに、私のことだと分かる悪口が毎週のように増えていく。別れ話がこじれた時期と重なっていて、元恋人が書いているとしか思えない」。被害を受けているご本人からは、このようなご相談を伺います。一方で、「従業員を名指しするような口コミが続いている。本人に聞くと元交際相手かもしれないと言うが、会社として何をすればよいのか」という、勤務先のご担当者からのご相談もあります。
ネット上の誹謗中傷への対応としては、削除の請求、発信者情報の開示、損害賠償という流れがよく紹介されます。それ自体は誤りではありませんが、書き込まれる場所が「職場」であることには固有の事情があります。投稿が勤務先の顧客や同僚の目に触れること、勤務先が口コミページの管理者という立場を持つこと、そして書き込み主があなたの勤務先や働く時間帯を知っていることです。
この記事では、元恋人と思われる人物から職場の口コミサイトへの書き込みが続いている方に向けて、安全の確認、記録の残し方、ストーカー規制法の当てはまり方、本人と勤務先それぞれが取れる削除の道、勤務先への伝え方の順に整理します。元恋人が職場へ電話をかけてきたり、直接訪ねてきたりする場合については、元恋人が職場へ電話・押しかけ|会社を巻き込む嫌がらせへの対応で扱っていますので、あわせてご覧ください。
最初に確かめたいのは、文面の悪質さより「居場所の情報」
口コミの文面そのものに目が行きがちですが、最初に確認したいのは、書き込みからあなたの居場所や動きがどこまで読み取れるかです。
勤務時間・持ち場・外見が書かれていないか
次のような情報が含まれている場合は、文面の内容とは別に、身の安全の問題として受け止める必要があります。
- 勤務日や時間帯、シフトに関する記述。
- 担当している売り場、受付、窓口など、職場の中での位置。
- 服装や髪型など、来店すれば本人を見分けられる特徴。
- 「また見に行く」「この前も見かけた」など、来訪を示す記述。
これらは、書き込み主が職場の外から様子をうかがっていることや、読んだ第三者に来訪を促すことにつながり得る情報です。書き込みが職場の情報を細かく含むほど、削除の手続より先に、出退勤の経路や一人になる時間帯を見直すことを考える必要があります。
身の危険を感じるときは警察へ
職場の近くで相手を見かけた、待ち伏せをほのめかす書き込みがあるといった場合は、口コミへの対応を後回しにして構いません。緊急のときは110番、そうでなければ自宅や勤務先を管轄する警察署に相談します。相談した日時と対応した担当者の名前を控えておくと、後の手続で役立ちます。
書き込みが消える前に残しておく記録
口コミは、運営会社の判断や投稿者自身の操作によって、ある日突然見られなくなることがあります。削除を求めるにも、書き込み主をたどるにも、まず記録が必要です。
1件ごとに残しておきたい項目
画面を撮影するだけでなく、次の項目がそろっていると、警察や裁判所に状況を説明しやすくなります。
- 口コミページのURLと、その口コミ単体のURL(共有機能などで取得できる場合)。
- 投稿日時、投稿者として表示されている名前やアイコン、評価の数。
- 本文の全体(長文が折りたたまれている場合は展開した状態)。
- 撮影した日時が分かる形での保存(端末の時計が写り込む画面、PDFでの保存など)。
- 同じ投稿者の過去の投稿一覧が見られる場合は、その一覧。
見つけるたびに日付順で一つのフォルダにまとめておくと、後から全体の経過を示しやすくなります。
通信記録の保存期間には限りがある
書き込み主を特定する手続では、サイトの運営会社や通信事業者に残っている接続の記録(IPアドレスや接続の日時など)をたどります。この記録の保存期間は事業者によって異なり、数か月程度で消去される例も多いとされています。書き込みが始まった時期の記録ほど先に失われていくため、相手をたどることを考えるなら、早めに相談することに意味があります。
「元恋人だろう」という推測は、推測のまま記録する
文体や内容から元恋人だと思っても、現時点では推測にとどまることが多いはずです。二人しか知らない出来事が書かれている、別れ話の直後から始まったといった根拠は別のメモにまとめておき、相手を名指しして周囲に話すことは控えます。推測が違っていた場合、今度は自分が名誉毀損の責任を問われるおそれがあるためです。書き込み主が分からないときのたどり方は、【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方で詳しく扱っています。
元恋人からの書き込みは、ストーカー規制法の対象になるか
ネット上の書き込みは名誉毀損の問題として語られることが多いのですが、書き込み主が元恋人であれば、ストーカー規制法を使える場合があります。
「名誉を害する事項を知り得る状態に置く」という類型
ストーカー規制法は、つきまとい等の一つとして、相手の名誉を害する事項を告げ、またはその知り得る状態に置くことを挙げています(ストーカー規制法2条1項7号)。警察庁の通達では、「知り得る状態に置く」とは、直接伝えるものではなくても、相手が日常生活の中で知ることのできる範囲に届けることをいうと説明されています。また、「名誉を害する事項」は、事実を具体的に示すことまでは必要としないとされています。
自分の勤務先の口コミページは、本人や同僚が日常的に目にする場所です。そこに本人を名指しする中傷を繰り返し書き込む行為は、この類型に当たり得ます。報道でも、元同僚の女性を中傷する投稿をSNSに繰り返したとして、ストーカー規制法違反の疑いで逮捕された例が伝えられています。
目的の要件――好意か、好意が報われなかったことへの恨みか
ストーカー規制法が適用されるには、恋愛感情などの好意、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的で行われていることが必要です(同法2条1項柱書)。別れを受け入れられない元恋人が、復縁を断られた後に書き込みを始めたという経緯は、この目的をうかがわせる事情になります。反対に、金銭の貸し借りなど別の目的が中心だと見られる場合は、同法ではなく名誉毀損などの問題として扱われることになります。
警告・禁止命令へ進む流れ
警察は、つきまとい等が繰り返されるおそれがあると認めるときに警告を出すことができ(同法4条1項)、2025年12月30日の改正施行により、被害者からの申出がなくても職権で警告できるようになりました。さらに、都道府県公安委員会による禁止命令があり(同法5条1項)、禁止命令に反して続けた場合は罰則の対象になります。警察に相談する際は、書き込みの記録に加えて、交際の終わり方や別れた後の連絡の経緯を時系列で示すと、目的の要件を説明しやすくなります。警告と禁止命令の流れはSNS・LINEの執拗な連絡はストーカーになる?警告・禁止命令の流れ、裁判所の手続との使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けもご参照ください。
削除を求める立場は「本人」と「勤務先」の二つある
職場の口コミへの書き込みは、あなた個人の名誉やプライバシーを傷つけると同時に、勤務先の営業上の信用にも関わります。削除を求めることのできる立場が二つあることが、職場の口コミに特有の点です。
| 立場 | 根拠になる権利や利益 | 主な方法 |
|---|---|---|
| あなた本人 | 名誉権、プライバシー権 | サイトの報告機能、運営会社への削除申出、裁判所の仮処分 |
| 勤務先 | 営業上の信用、業務の円滑な運営 | 事業者向けの管理画面からの報告、運営会社への削除申出、裁判所の仮処分 |
名前がなくても「誰のことか分かる」なら本人の問題になる
口コミに氏名が書かれていなくても、勤務先や持ち場、特徴の記述から、あなたを知る人が読めば誰のことか分かる場合は、あなた個人への名誉毀損やプライバシーの侵害として扱われ得ます。反対に、勤務先全体への不満として書かれ、特定の個人を指していると読めない場合は、本人ではなく勤務先が動く場面になります。
まずは掲載基準に反する投稿として報告する
多くの口コミサイトは、特定の個人を名指しした中傷や個人情報の掲載、実際の利用経験にもとづかない投稿などを、掲載基準で認めていません。法的な手続の前に、サイトの報告機能から基準に反する投稿として申し出ることで、比較的早く非表示になる場合があります。勤務先が口コミページの管理者として登録されている場合は、事業者側の画面から報告するほうが確認が早いこともあります。
報告で消えない場合
報告で削除されないときは、運営会社への削除申出や、裁判所に削除を命じる仮処分を求める方法に進みます。大規模なプラットフォームについては、情報流通プラットフォーム対処法で削除申出への対応の手順が定められています。詳しくは【男女トラブル】情報流通プラットフォーム対処法で削除依頼はどう変わったのかや【不当要求対応】削除を求めたのに応じてもらえない|プラットフォームが動かない場合をご覧ください。本人と勤務先が別々に削除を求めると、運営会社への説明が食い違うことがあるため、どちらが何を申し出るかをあらかじめ話し合っておくと進めやすくなります。
書き込み主をたどり、書き込みをやめさせる
削除だけでは、別の投稿が繰り返されることがあります。書き込みを止めるには、書き込み主を確かめ、その人に向けた手続を取ることが必要になる場面があります。
発信者情報の開示
書き込み主を確かめるには、サイトの運営会社や通信事業者に対し、発信者情報の開示を求めます(情報流通プラットフォーム対処法5条)。裁判所の発信者情報開示命令の手続(同法8条)を使えば、運営会社と通信事業者への請求を一連の手続の中で進めることができます。削除と特定のどちらを先に動かすかは、【不当要求対応】拡散された後の順序|削除と発信者特定のどちらを先に動かすかで整理しています。
損害賠償と、書き込みをやめる約束
書き込み主が分かれば、名誉やプライバシーを侵害されたことへの損害賠償を求めることができます(民法709条・710条)。元恋人との関係では、金額だけでなく、今後書き込みをしないこと、職場や自宅に近づかないこと、約束に反した場合の違約金などを合意書に盛り込むことが、再発を防ぐうえで大切になります。
刑事告訴を考える場合
名誉毀損罪(刑法230条)や侮辱罪(同法231条)は、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪で(同法232条1項)、告訴は原則として犯人を知った日から6か月以内に行う必要があります(刑事訴訟法235条)。一方、ストーカー規制法違反の罪は親告罪ではありません。どの手続を選ぶかについては、被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶもご覧ください。
勤務先にどこまで伝えるか
職場の口コミへの書き込みは、いずれ勤務先も知ることになります。自分から先に伝えておくほうが、状況を落ち着いて説明しやすい場面が多いでしょう。
勤務先にも援助の努力義務がある
2025年12月30日施行の改正ストーカー規制法により、ストーカー行為等の被害者を雇用する者は、被害者への援助に努めるものとされました(ストーカー規制法9条3項)。具体的な措置を義務付けるものではありませんが、警察は、勤務先が被害を知ったときに抱え込まず警察と連携することを呼びかけています。
伝える範囲は「対応に必要なこと」に絞ってよい
交際の経緯をすべて話す必要はありません。勤務先に伝える内容は、たとえば次のように、対応に必要な範囲に絞ることができます。
- 口コミに自分を指す書き込みが続いていること、その記録があること。
- 書き込み主に心当たりがあり、警察や弁護士に相談している、または相談する予定であること。
- 口コミページへの報告や削除の申出について、勤務先と役割を分けたいこと。
- シフトや持ち場、来客対応について配慮してほしい点があること。
勤務先には「何を知らせ、何を頼みたいのか」を先に決めてから伝えると、私生活の話を必要以上に広げずに済みます。職場での安全確保について会社が取れる措置は【ストーカートラブル】職場や店舗で客からつきまとわれる|従業員を守るために会社ができることで、元交際相手が同じ職場にいる場合は【男女トラブル】別れた相手が同じ職場にいる|職場での接触を減らす方法で扱っています。
避けたい対応
書き込みが続くと、すぐに何かをしたくなるものです。ただ、次の対応はかえって事態を長引かせることがあります。
- 口コミへの返信欄で、私生活の事情を説明して反論すること。顧客の目に触れる場所で、書き込みの内容を広げる結果になります。
- 元恋人に「書いたのはあなたでしょう」と直接連絡すること。接触のきっかけを相手に与え、推測が違っていた場合には別のトラブルになります。
- 別のアカウントから相手の悪口を書き返すこと。自分が名誉毀損などの責任を問われるおそれがあります。
- 報酬を払って削除を請け負う業者に任せること。弁護士でない者が報酬を得て削除交渉を代行することは、弁護士法に触れるおそれがあります。
反論や問い詰めは、相手に「反応があった」という手応えを与え、書き込みが続く原因になることがあります。業者への依頼の問題点は【不当要求対応】口コミの削除を業者に頼んでよいか|非弁とポリシー違反の二重で説明しています。
よくあるご質問
書き込みに自分の名前が出ていなくても、削除を求められますか。
求められる場合があります。勤務先や持ち場、外見などの記述から、あなたを知る人が読めば誰のことか分かる内容であれば、あなた個人の名誉やプライバシーの問題として削除を求める余地があります。どの記述から本人だと分かるのかを、記録の段階で書き留めておくと説明しやすくなります。
勤務先に知られずに対応することはできますか。
警察への相談、本人としての削除の申出、発信者情報の開示は、勤務先を通さずに進めることができます。ただし、口コミページの管理者が勤務先である場合や、書き込みが職場への来訪をほのめかしている場合は、勤務先の協力があるほうが安全の面でも削除の面でも進めやすいことが多いと考えられます。
書き込みが止まったら、記録は消してもよいですか。
しばらくは保管しておくことをおすすめします。時間を置いて書き込みや接触が再開することもあり、その際に以前の記録があれば、警察への相談や警告の判断、告訴期間の起算点の確認などに役立ちます。
まとめ
- 書き込みに勤務時間や持ち場など居場所の情報が含まれるときは、削除より先に安全の確保を考える。
- 口コミが消える前に、URL・投稿日時・投稿者名・本文を1件ごとに記録し、通信記録の保存期間を意識して早めに相談する。
- 元恋人が職場の口コミに中傷を書き込み続ける行為は、名誉を害する事項を知り得る状態に置く行為として、つきまとい等に当たり得る(ストーカー規制法2条1項7号)。
- 警察は職権でも警告ができ、公安委員会の禁止命令に反した場合は罰則の対象になる(同法4条1項・5条1項)。
- 削除を求める立場は本人と勤務先の二つあり、役割を分けて申し出ると進めやすい。
- 書き込み主の特定には発信者情報の開示を求め(情報流通プラットフォーム対処法5条・8条)、名誉毀損罪で告訴する場合は告訴期間に注意する(刑法232条1項、刑事訴訟法235条)。
- 勤務先は被害者への援助に努めるものとされており、伝える範囲は対応に必要なことに絞ることができる(ストーカー規制法9条3項)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。書き込みの記録の整理や警察への相談の準備、口コミサイトへの削除の申出、発信者情報の開示、勤務先との役割分担まで、状況に合わせて進め方を一緒に考えます。
職場の口コミへの書き込みに悩んでいるご本人はもちろん、従業員から相談を受けて対応に迷っている勤務先のご担当者からのご相談もお受けしています。弁護士に依頼した場合に何が変わるのかは、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味もご覧ください。


