【ストーカートラブル】ストーカー被害を会社に伝えるとき、どこまで話せばいい?

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

この記事は、2025年12月30日に施行された改正ストーカー規制法の内容を反映しています。取れる対応は個別の事情によって変わりますので、具体的な判断は専門家にご相談ください。


ストーカー被害に遭っていると、相手が職場に来るのではないか、会社に電話をかけてくるのではないかという不安がつきまといます。会社に事情を伝えておけば守ってもらいやすくなる一方で、交際の経緯や私生活まで話さなければならないのか、社内に広まってしまわないか、と迷う方は少なくありません。

 会社に伝える内容は、「会社に何を頼みたいか」から逆算して決めると、必要以上に話さずに済みます。この記事では、伝える相手の選び方、伝えると役立つ情報と話さなくてよいことの線引き、伝えた後に気をつけたいことを順に整理します。

会社に伝えることの意味|法改正で勤務先の位置づけが変わった

 勤務先は、自宅と同じように長い時間を過ごす場所です。自宅であれば転居などで所在を隠す手立てがありますが、職場は簡単には変えられず、出勤や退勤の時間もある程度決まっています。そのため、待ち伏せや押しかけが職場の周辺で起きやすいことが、行政の資料でも指摘されています。

 こうした実情を踏まえ、2025年12月30日施行の改正ストーカー規制法では、被害者を雇用する者(勤務先)や被害者が在籍する学校の長が、被害者への援助に努める主体に加えられました。警察が公表している資料では、援助の例として勤務場所や勤務時間など勤務形態への配慮が挙げられています。

 ただし、これは努力義務であり、会社に具体的な措置を義務づけるものではありません。また、会社が事情を知らなければ配慮のしようもありません。被害を受けている側に会社へ報告する法的な義務があるわけではありませんが、職場で接触が起きるおそれがあるときは、必要な範囲で伝えておくことが身を守る手立ての一つになります。

最初に伝える相手は一人か二人に絞る

 社内で広く知られることに不安があるなら、最初に話す相手を絞ることが大切です。誰に伝えるかによって、その後の情報の広がり方が変わります。

相手が社外の人の場合

 元交際相手や客など、加害者が社外の人であれば、直属の上司か人事・総務の担当者のどちらかに伝え、そこから必要な部署(受付、警備、電話の取り次ぎをする部署など)へ、必要な情報だけを共有してもらう形が考えられます。上司との関係に不安があれば、人事・総務やハラスメントの相談窓口に直接相談しても差し支えありません。

相手が社内の人の場合

 上司や同僚など、加害者が同じ会社にいる場合は事情が異なります。会社が懲戒処分や配置転換を検討するときは、加害者とされた人からも事情を聴くのが通常であり、その時点で相談したことが相手に伝わります。弁護士の解説でも、加害者への事情聴取が逆恨みにつながるおそれがある点が指摘されています。

 そのため、社内の加害者について相談するときは、「相手にはまだ知らせないでほしい」「聴取をする場合は事前に時期を教えてほしい」など、会社がどう進めるのかを先に確認しておくことが大切です。会社への申出より先に警察へ相談しておく、あるいは会社と警察の両方に相談したうえで進め方を決める、という順序も考えられます。社内の加害者への向き合い方は、【ストーカートラブル】職場の上司・同僚からの執拗な好意|会社に伝える前にでも解説しています。

伝える内容は「会社に頼みたいこと」から逆算する

 会社にすべてを話す必要はありません。頼みたい対応ごとに、必要になる情報はおおむね決まっています。

会社に頼みたいこと伝えると役立つ情報
来訪時に本人へ取り次がず、受付で対応してもらう相手の氏名、外見の特徴、写真があればその写真、これまでに来たことがあるか
電話やメールを取り次がない相手の氏名、電話番号やメールアドレス、別の名前を名乗るおそれがあるか
勤務時間・勤務場所・通勤経路への配慮どの時間帯や場所で接触があったか
外部からの問い合わせに在籍や勤務予定を答えない相手が勤務先をすでに知っているか
警察との連携相談している警察署と担当部署、警告や禁止命令が出ているか


 表の右側にあるのは、会社が対応するために必要な「相手を見分けるための情報」と「危険の程度に関する情報」です。逆に言えば、それ以外の事情は、伝えるかどうかを自分で選んでかまいません。

話さなくてよいこと・慎重に扱いたいこと

 次のような事情は、会社が安全面の対応をとるうえで、通常は必要になりません。

  • 交際していた期間や別れた理由など、相手との関係の経緯。
  • 相手との私的なやり取りの具体的な中身。
  • 心身の不調についての病名や通院先などの詳しい内容。
  • 警察への相談記録や集めた証拠の全部。


 証拠についても、会社に渡すのは来訪や電話への対応に必要な部分(相手の写真や電話番号など)にとどめ、残りは自分の手元で保管しておけば足ります。体調を崩して休む必要があるときも、会社に伝えるのは休業が必要であることとその期間で足りることが多く、診断書にどこまで書いてもらうかは医師と相談できます。

 なお、犯罪によって被害を受けたという事実は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたり、取得や第三者への提供に特に慎重な扱いが求められる情報です。会社に伝えるときは、共有してよい範囲を自分の側からはっきり示しておくと、その後の扱いを確かめやすくなります。

伝えるときに会社にお願いしておきたいこと

 事情を伝える際は、あわせて次のような点をお願いしておくと、その後の行き違いを防ぎやすくなります。

  • 情報を共有する人の範囲を、対応に必要な部署と担当者に限ってほしいこと。
  • 外部からの問い合わせに、在籍の有無や勤務日、退勤時間などを答えないでほしいこと。
  • 相手が来社したり電話をかけてきたりしたときは本人に取り次がず、必要に応じて警察に通報してほしいこと。
  • 相手から接触があった日時と、会社がとった対応を記録しておいてほしいこと。
  • 社内で情報を共有する人が増えるときは、事前に知らせてほしいこと。


 ストーカー規制法は、ストーカー行為をするおそれがある者であると知りながら、その者に被害者の勤務先や連絡先などの情報を提供することを禁じています(同法6条1項)。2026年3月10日からは、警察が、情報を提供するおそれのある人に対して提供しないよう求めることもできるようになりました。同僚や取引先が悪気なく勤務予定を話してしまうことも考えられるため、外部への回答を控える扱いを社内で徹底してもらうことが大切です。

伝えるときの手順

 伝える前に要点を整理しておくと、話しすぎや伝え漏れを防げます。

  1. 相手の情報、これまでの接触の日時と内容、会社に頼みたいことを1枚のメモにまとめます。
  2. 話す相手を決め、ほかの人に聞かれない場所と時間を用意してもらいます。
  3. 口頭で伝えた後、頼んだ内容の要点をメールなどで送り、記録に残します。
  4. 情報の共有範囲と、今後の連絡窓口になる担当者を確認します。
  5. 警察に相談している場合はその旨と担当部署を伝え、警察と会社が直接連絡を取り合うことに同意するかを決めておきます。


 警察への相談がまだの場合や、どちらを先にすべきか迷う場合は、【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序も参考にしてください。

会社に伝えた後に気をつけたいこと


不利益な扱いを受けたとき

 弁護士ドットコムには、相手が会社の受付まで来て騒いだ後、上司から「相手に来ないよう言わなければ職を失う」と告げられ、退職に至ったという相談が寄せられています。被害を受けている側が、加害者の行動を理由に退職を迫られるのは、本来の筋とは異なります。

 会社には、従業員が安全に働けるよう必要な配慮をする義務があるとされています(労働契約法5条)。被害を理由に退職を求められたり、不利益な配置転換を示されたりしたときは、その場で応じず、言われた内容を記録したうえで、弁護士や都道府県労働局の総合労働相談コーナーに相談することが考えられます。自治体の労働相談の事例集にも、ストーカー被害への勤務先の対応が不十分だったとして、従業員と会社が話し合いの場を持った例が紹介されています。

配慮を求めても思うように動いてもらえないとき

 努力義務である以上、会社がとれる対応には限りがあり、職場の規模や業務の内容によっては希望どおりの配置ができないこともあります。勤務先への具体的な配慮の求め方は、【ストーカートラブル】勤務先に配慮を求める|勤務地や勤務時間の変更で詳しく解説しています。

 会社の対応だけで接触が止まらない場合は、警察による警告や禁止命令、弁護士による相手方への通知など、職場の外での手続をあわせて進めることになります。

相手が仕事上の関係者のとき

 加害者が取引先の担当者や、客として職場に出入りする人である場合は、会社として取引や応対の窓口を変える判断が必要になることもあります。この場合は、伝える相手に営業部門や店舗の責任者が加わることがあるため、共有範囲を改めて確認しておくと安心です。取引先が関わる場面は【ストーカートラブル】仕事上、相手と接点が残る|取引先・同じ業界の場合、客からのつきまといへの会社の対応は【ストーカートラブル】職場や店舗で客からつきまとわれる|従業員を守るために会社ができることで取り上げています。

弁護士に相談するという選択

 会社に何をどこまで伝えるかは、加害者が社内の人か社外の人か、警察がどこまで関わっているか、職場で接触が起きているかによって変わります。弁護士に相談すれば、事情を整理したうえで、会社に伝える内容や伝え方を一緒に組み立てることができます。

 また、弁護士が代理人として相手方に接触の中止を求める通知を送れば、相手からの連絡の窓口を弁護士に集約できます。会社に対しても、相手から連絡があった場合の取り次ぎ先として弁護士を示しておくことで、職場の担当者の負担を軽くし、対応の方針をそろえやすくなります。

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まとめ

 ストーカー被害を会社に伝えるときは、最初に話す相手を絞り、会社に頼みたい対応に必要な情報だけを伝えるのが基本です。交際の経緯や体調の詳細まで話す必要はなく、共有範囲や外部への回答の控え方をあわせてお願いしておくことで、職場を安全な場所に近づけやすくなります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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