【ストーカートラブル】警告が出たのに接触が続いている|禁止命令への切り替え
この記事は、2026年10月時点の法令に基づいて書いています。ストーカー規制法は令和7年12月30日・令和8年3月10日施行の改正(紛失防止タグの規制、職権による警告の創設など)を反映しています。条例の内容は自治体ごとに異なるため、お住まいの地域の規定をご確認ください。
ご相談の現場では、「ゴミを出した翌朝、自分の袋だけ結び目がほどかれていた」「捨てたはずの郵便物の内容を、相手が知っているような口ぶりだった」というお話を伺うことがあります。一方で、「気のせいかもしれず、警察に言うほどのことか分からない」と、誰にも話せないまま何週間も過ごしていた方も少なくありません。
ゴミあさりについては、「ゴミをあさること自体は犯罪ではない」という説明をよく見かけます。その説明はそれ自体誤りではありませんが、ゴミあさりが単独で起きることは少なく、自宅の周りでの見張りや、ゴミから得た情報を本人に告げる行為とセットになっている場合には、法律上の扱いが変わってきます。
この記事では、ゴミをあさられていると気づいた日に何を優先するか、法律上どう位置づけられるか、記録の残し方と出し方の見直しまでを順に整理します。郵便物の開封、防犯カメラの設置そのもの、マンションへの押しかけについては、それぞれ別の記事で扱っています。
気づいた日に優先すること
まず「誰が開けたのか」を決めつけない
ゴミ袋が荒らされている原因は、人だけとは限りません。カラスや猫などの動物、資源物を持ち去る回収業者、分別を確認するために袋を開ける管理人や自治体の指導員など、ストーカー以外の可能性もあります。
ただ、自分の袋だけが繰り返し開けられている、個人情報の入った袋だけがなくなっている、ゴミを出す時間に合わせて人影がある、といった事情が重なる場合は、特定の人物による行為を疑う理由があります。この段階では犯人を決めつけず、「いつ・どの袋が・どうなっていたか」を事実として残すことが、後のすべての手続の土台になります。
相手に心当たりがあるときは、接触を避ける
元交際相手や職場の知人など、心当たりがある場合でも、本人に直接問いただしたり、ゴミ置き場で待ち伏せして現場を押さえようとしたりすることはおすすめしません。相手を刺激して行為がエスカレートするおそれがあるうえ、こちらの行動が新たな争いの火種になることもあります。
身の危険を感じる事情があれば、ためらわずに110番通報をしてください。緊急ではないものの不安が続く場合は、警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署の生活安全課に相談できます。
ゴミ以外にも異変がないかを確かめる
ゴミあさりは、相手が生活のパターンや個人情報を知ろうとする行為の一部であることがあります。郵便受けの中身、宅配の受け取り状況、帰宅時に周辺で見かける人や車など、ほかの異変がないかも振り返っておくと、相談のときに状況を伝えやすくなります。
ゴミあさりは法律上どう扱われるのか
ストーカー規制法の類型には「ゴミあさり」そのものは書かれていない
ストーカー規制法は、恋愛感情やそれが満たされなかったことへの恨みの感情を充足する目的で行われる「つきまとい等」を類型ごとに定めています。この中に「ゴミをあさる」という類型はありません。
もっとも、ゴミあさりに伴う行為が、次の類型に当たる場合があります。
- 住居の付近で見張りをする、住居の付近をみだりにうろつく(ストーカー規制法2条1項1号)。ゴミを出す時間を見計らって自宅の周りに現れる場合が考えられます。
- ゴミから知った内容を告げて、行動を監視していると思わせる(同項2号)。「昨日は〇〇を買ったんだね」といったメッセージがこれに当たり得ます。
- ゴミの中身をもとにした連絡や面会の要求を繰り返す(同項3号・5号)。
ゴミあさり単独では類型に当てはめにくくても、見張りや「知っているぞ」という告知と組み合わさると、警告や禁止命令の対象として扱われる可能性が出てきます。これらを同じ人に対して反復すると「ストーカー行為」となり、刑事罰の対象です。令和7年の改正では、被害者からの申出がなくても警察が職権で警告できる仕組みも設けられました。
「1回だけなのか、繰り返しなのか」で扱いが変わる点については、連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いで詳しく整理しています。
恋愛感情が絡まない場合は条例が受け皿になることがある
近隣の住民が恨みや嫌がらせの目的でゴミをあさっている場合など、恋愛感情が動機ではないケースもあります。この場合、ストーカー規制法の対象にはなりにくいものの、東京都の迷惑防止条例は、ねたみや恨みなどの悪意の感情を充足する目的で行われる見張りや監視の告知などを禁止しています(東京都迷惑防止条例5条の2)。動機が分からない段階でも、行為の内容を記録しておけば、どの規定で扱えるかを警察や弁護士と検討できます。
窃盗・住居侵入として扱えるかは事情による
ゴミの持ち去りが窃盗罪(刑法235条)に当たるかは、評価が分かれやすいところです。最高裁は、公道上のごみ集積所に出されたごみについて、排出者が占有を放棄したものとして捜査機関が領置できると判断しています(最決平成20年4月15日)。そのため、出した後のゴミの持ち去りを窃盗として扱うことには難しさがあります。
一方で、マンションの敷地内にある施錠されたゴミ置き場や、門扉で囲まれた敷地に入り込んでいる場合は、住居侵入罪(刑法130条)が問題になり得ます。最高裁は、集合住宅の共用部分への立入りについても住居侵入罪の成立を認めています(最判平成20年4月11日)。また、多くの区市町村では資源物の持ち去りを条例で禁止しており、資源ごみの持ち去りであればこちらが関係することもあります。
刑事で扱いにくくても、民事ではプライバシー侵害として争える
ゴミの中には、郵便物、レシート、処方薬の袋、宅配伝票など、生活の内情が分かるものが多く含まれます。先に挙げた最高裁の決定も、排出されたごみについて「通常は他人に内容を見られないという期待がある」ことに触れています。
特定の人のゴミを繰り返しあさって中身を知る行為は、プライバシーの侵害として不法行為(民法709条・710条)に当たり、慰謝料の請求や、行為をやめるよう求める根拠になり得ます。刑事手続で動きにくい場面でも、民事の手段が残っている点は知っておいてよいところです。
| 場面 | 検討される法律 |
|---|---|
| 自宅の周りでの見張り・うろつきを伴う | ストーカー規制法2条1項1号 |
| ゴミの中身を告げて監視を示す | ストーカー規制法2条1項2号 |
| 恨みなど恋愛感情以外の動機 | 東京都迷惑防止条例5条の2 |
| 施錠・囲いのある敷地内に立ち入る | 住居侵入罪(刑法130条) |
| 資源物を持ち去る | 各区市町村の持ち去り禁止条例 |
| 中身を繰り返し見られた | プライバシー侵害(民法709条・710条) |
後で通用する記録の残し方
ゴミを出したときと、異変に気づいたときの両方を記録する
記録は、異変に気づいたときだけでなく、ゴミを出した時点から残しておくと説得力が増します。次のような内容を、日付と時刻を添えて書き留めておきます。
- ゴミを出した日時と、袋の数・結び方。
- 異変に気づいた日時と、袋の状態(結び目がほどけている、中身が散乱している、袋ごとなくなっている)。
- なくなった、または中身を見られたと思われるもの(郵便物、明細書、伝票など)。
- 周辺で見かけた人物や車の特徴と、その時刻。
- 相手からの連絡で、ゴミの中身を知っているような内容があればその文面。
袋の状態はスマートフォンで撮影し、撮影日時が残る形で保存してください。相手からのメッセージは、画面の撮影に加えて、送信者のアカウントや日時が分かる形で残しておくことが大切です。記録全般の考え方は証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはでも解説しています。
防犯カメラの映像は早めに保存を依頼する
マンションのゴミ置き場や共用部に防犯カメラがある場合、映像は一定期間で上書きされるのが一般的です。異変に気づいたら、早めに管理会社へ日時を特定して保存を依頼してください。管理会社が個人への映像提供に慎重な場合でも、保存だけはしておいてもらい、警察や弁護士を通じて確認する流れをとることができます。管理会社やオートロックでできる対応は、【ストーカートラブル】自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることで整理しています。
ゴミの出し方を見直して、情報を渡さない
個人情報が分かるものは、捨てる前に処理する
相手がゴミから得ようとしているのは、多くの場合、生活のパターンや個人情報です。捨てる前の一手間で、渡してしまう情報を大きく減らせます。
- 郵便物、明細書、宅配伝票は、シュレッダーにかけるか、氏名・住所・番号の部分を切り取ってから捨てる。
- 処方薬の袋や通院先の分かる書類は、ほかのゴミと分けて細かくしてから捨てる。
- レシートは、購入店舗や日時が分かるため、まとめて処理してから捨てる。
- 個人情報を含む書類は、自宅で一定量ためてから、まとめて処理する方法も考えられる。
出すタイミングと場所を工夫する
自治体の収集ルールの範囲内で、前夜ではなく収集日の朝に出す、収集時間に近い時間帯に出すといった工夫で、袋が放置される時間を短くできます。マンションであれば、ゴミ置き場の施錠や、居住者以外が入れない構造になっているかを管理会社に確認し、必要に応じて改善を求めることも一つの方法です。
なお、相手を突き止めるために偽の書類を入れておく、袋に細工をするといった対応は、思わぬトラブルにつながるおそれがあるため避けてください。目指すのは相手を捕まえることではなく、自分の情報を渡さないことと、起きたことを記録に残すことです。
警察・管理会社・弁護士への相談の進め方
警察には「ゴミ」だけでなく前後の事情も伝える
警察に相談するときは、ゴミが荒らされたことだけでなく、自宅周辺で見かける人物、相手からの連絡、心当たりのある人物との関係など、前後の事情もあわせて伝えてください。ゴミあさり単独では動きにくくても、見張りや監視の告知と結びつけて説明することで、ストーカー規制法の枠組みで扱ってもらえる可能性が高まります。
相談したのに具体的な対応につながらないときの考え方は、警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることで解説しています。
弁護士に相談すると何ができるか
弁護士は、記録を時系列に整理して、警察に伝える際の資料づくりや相談への同行を行うことができます。相手が特定できている場合は、代理人として行為をやめるよう通知し、接触をしない旨や違約金を定めた合意書を結ぶ交渉、プライバシー侵害を理由とする損害賠償の請求なども検討できます。
代理人を立てる意味については、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で詳しく説明しています。
よくあるご質問
ゴミを持ち去る人を見かけたら、その場で返すよう求めてよいですか
相手が誰か分からない段階や、心当たりのある相手である場合には、その場で声をかけることはおすすめしません。安全を優先し、可能であれば離れた場所から時刻や特徴を記録し、身の危険を感じる状況であれば110番通報をしてください。
相手が誰か分からなくても、警察に相談できますか
相談できます。相手が分からない段階でも、記録をもとに相談しておくことで、後に相手が特定されたときに経過を説明しやすくなります。相手をたどる方法と、たどれないときの守り方は【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方で整理しています。
引っ越しを考えたほうがよいでしょうか
ゴミあさりに加えて見張りや待ち伏せが続いている場合は、転居も選択肢の一つになります。ただし、転居先を再び知られないための手続には順序があり、ゴミの出し方と同様、住所が分かる情報の扱いが重要です。転居後の対策は引っ越したのに住所を突き止められた|居場所を知られない対策をご覧ください。
まとめ
- ゴミが荒らされた原因は人以外のこともあるため、決めつけずに「いつ・どの袋が・どうなっていたか」を記録する。
- ゴミあさりそのものはストーカー規制法の類型にないが、見張りやうろつき(2条1項1号)、監視していると思わせる告知(同項2号)と組み合わさると対象になり得る。
- 恋愛感情以外の動機であれば、東京都迷惑防止条例5条の2が受け皿になることがある。
- 出された後のゴミの持ち去りを窃盗罪(刑法235条)として扱うには難しさがあるが、囲われた敷地への立入りは住居侵入罪(刑法130条)が問題になり得る。
- 特定の人のゴミを繰り返しあさる行為は、プライバシー侵害として民法709条・710条に基づく請求の根拠になり得る。
- 郵便物や伝票などは捨てる前に処理し、収集日の朝に出すなど、渡す情報と放置時間を減らす。
- 警察にはゴミ以外の前後の事情もあわせて伝え、動きにくい場合は弁護士を通じた通知や交渉も検討する。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。ゴミあさりのように「相談してよいのか迷う」段階でも、記録の整理や警察への伝え方からご一緒に考えます。
ゴミを荒らされて不安を感じている方はもちろん、相手に心当たりがあり、これ以上の接触を止めたいとお考えの方も、どうぞお早めにご相談ください。


