【不当要求対応】要求の証拠が相手の端末にしかない|取り寄せの可否
「悪い口コミを消します」という営業の連絡が、店舗や事業所に届くことがあります。金額がはっきり示され、成功報酬だという説明であれば、一度試してみてもよいのではないかと感じる方も少なくないでしょう。
ただ、この依頼が問題になるとき、問題は一か所では起きません。ひとつは弁護士法という法律の線、もうひとつは口コミが掲載されているプラットフォームの規約という線です。この二本は、判断する主体も、動き出すきっかけも、結果が誰に向かうのかも異なります。
この記事では、口コミの削除を業者に頼むという場面を、この二本の線に分けて整理します。「違法かどうか」というひとつの問いに見えるものが、実際には別々に進む二つの問いであると押さえておくと、契約の前に確かめておきたい点が見えやすくなります。
この記事で扱うこと・扱わないこと
- 扱うのは、口コミの削除や口コミ対策を有料の業者に委託する場面です。
- 扱う視点は、事業者側(口コミを書かれた側)です。
- 削除が認められる要件そのもの(名誉毀損やプライバシー侵害の成否)には深く立ち入りません。
- 投稿者を特定する手続の詳細や、損害賠償の金額の目安は扱いません。
- 最終的な法的評価は個別の事情によって変わるため、断定的な結論は示していません。
「業者に頼んでよいか」には二本の線がある
口コミ対策の業者への依頼をめぐって語られるのは、多くの場合「非弁行為にあたるかどうか」という点です。これは弁護士法という法律の線の話です。
しかし、実務で事業者に痛手として現れやすいのは、もう一本の線であることが少なくありません。口コミが掲載されているプラットフォームが、自社の規約に照らしてどう扱うかという線です。こちらは裁判所ではなく、プラットフォーム自身が判断します。
二本の線は、次のように性質が違います。
| 比べる点 | 弁護士法の線 | プラットフォームの線 |
|---|---|---|
| 判断するのは | 最終的には裁判所 | そのプラットフォーム自身 |
| 動き出すきっかけ | 当事者間で争いになったとき | 自動的な検知や、他者からの報告 |
| 向けられる先 | 報酬を得て代行した業者 | 口コミが載っている事業者本人 |
| 事業者に生じること | 契約の効力や返金の問題 | プロフィールへの制限 |
| 言い分を述べる場 | 訴訟や交渉の中で主張できる | 原則として措置の後に再審査を請求する |
この表でとくに見ておきたいのは、「向けられる先」の行です。弁護士法の線では、責任を問われるのは業者の側です。ところがプラットフォームの線では、制限を受けるのは口コミが載っている事業者、つまり依頼した側になります。同じひとつの依頼から、向きの違う二つの結果が生じうるということです。
線その1|弁護士法から見た「削除の代行」
報酬を得て他人の法律事務を扱うことの制限
弁護士法72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、法律事件に関して代理や和解その他の法律事務を取り扱うことを業とすることを禁じています。違反した場合の罰則は2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金と定められています(同法77条3号)。
この条文を口コミ削除の代行にあてはめると、争点は「削除の申請が法律事務にあたるのか」という点になります。業者側からは、通報フォームに入力しているだけであって法律事務ではない、という反論がなされてきました。
この点について、削除要請を報酬を得て代行する行為を弁護士法違反と判断し、支払われた報酬の返還を命じた地方裁判所の裁判例があります(東京地方裁判所 平成29年2月20日判決)。フォームへの入力であっても、それは削除を求める権利の行使であり、サイトの運営者に削除の義務という法律上の効果を生じさせうる、という考え方が示されたものです。
依頼した側が罰せられる規定はない
誤解されやすい点ですが、弁護士法には、非弁行為を行った者を処罰する規定はあっても、依頼した側を処罰する規定は置かれていません。条文の趣旨が、資格のない者の介入によって依頼者の権利が損なわれることを防ぐところにあるためです。
また、こうした委託契約は公序良俗に反して無効と評価されうるため、すでに支払った報酬について返還を求める余地があります。取立ての委任について、弁護士でない者との契約を無効と判断した最高裁の判例があり(最高裁 昭和38年6月13日判決)、無効であれば法律上の原因なく受け取ったお金ということになるからです。
「返してもらえる」と「実際に戻る」は別の話
返還を求められることと、現実に手元に戻ることは同じではありません。業者が任意の返金に応じるとは限らず、応じなければ訴訟を起こすことになります。その費用と時間は事業者側の負担になりますし、相手方に資力がなければ、判決を得ても回収できないこともあります。
つまり、弁護士法の線において依頼者が受ける不利益は、刑事責任ではなく、支払った費用が戻らないまま、口コミも消えていないという状態として現れやすい、ということです。
線その2|プラットフォームの規約から見た同じ依頼
判断するのはプラットフォームであって裁判所ではない
Googleマップに投稿されるクチコミには、ユーザー投稿コンテンツに関するポリシーが適用されます。Googleは、マップに投稿するコンテンツは実体験に基づいている必要があるとしたうえで、虚偽のエンゲージメントを禁止し、削除の対象としています。具体例として挙げられているのは、実体験に基づいていないコンテンツ、金銭や現物が対価として支払われたクチコミや評価、1人のユーザーによって、またはその依頼により複数のアカウントから投稿されたコンテンツなどです。
ここで働くのは法律の要件ではなく、規約とその運用です。裁判のような手続を経ずに、検知や報告をきっかけとして措置が決まります。事業者にとっては、動き出すタイミングが読みにくいという性質があります。
制限の中身は、口コミそのものではなく事業所の見え方に及ぶ
Googleは、事業者が虚偽のエンゲージメントに関するポリシーに違反していると判断した場合について、違反しているクチコミの削除に加えてビジネスプロフィールに制限が課されることがあるとしています。挙げられている制限は、一定期間、新しいクチコミや評価を受け取ることができなくなること、一定期間、既存のクチコミや評価が非公開になること、虚偽のクチコミが削除されたことを消費者に知らせる警告がプロフィールに表示されることなどです。
同様に、不審なクチコミの動きが検出された場合やポリシー違反があった場合には、不審なクチコミを削除した旨のバナーの表示、一定期間クチコミや評価を投稿できなくなること、一定期間クチコミが非表示になることが生じうるとされています。
注目したいのは、これらが悪い口コミを1件消すという目的とはまるで釣り合わない範囲に及ぶ点です。高評価の口コミも含めてまとめて非公開になったり、消費者に向けた警告が自社のページに表示されたりすれば、当初の目的とは逆の結果になりかねません。
事前の説明の機会は乏しく、回復は事後の手続による
Googleは、プロフィールに制限を適用する予定がある場合はビジネスオーナーにメールで通知するとしており、また、事業者は決定に対して再審査を請求できるとしています。窓口は用意されていますが、順序としては措置が先に来て、事業者はその後に説明することになります。
そして、この措置を受けるのはあくまで事業者本人です。手を動かしたのが委託先の業者であっても、プロフィールに紐づいているのは自社です。弁護士法の線では守られている依頼者の立場が、規約の線ではそのまま責任の宛先になるという非対称が、この場面のいちばん重要な点だと考えています。
依頼の中身によって、当たる線が変わる
「口コミ対策」という言葉は幅の広い言葉です。同じ会社への依頼であっても、実際に何をしてもらうのかによって、問題になりうる線は変わります。
| 業者に頼む中身 | 主に問題になりうる線 | 事業者側に返ってきうること |
|---|---|---|
| 投稿の削除を代行してもらう | 弁護士法72条 | 契約の効力と返金の問題/削除されないまま費用だけが残る |
| 高評価の口コミを集めてもらう | 規約の虚偽のエンゲージメント/景品表示法 | 口コミの削除やプロフィールへの制限/措置命令とその公表 |
| 競合の評価を下げてもらう | 規約/景品表示法/民事上の責任 | 上記に加えて、自社が紛争の相手方になること |
| 口コミの監視や返信文の作成を頼む | ただちには当たらないと考えられる | 権限をどこまで預けるかという管理上の問題 |
最後の行のように、口コミの状況を集計する、返信の下書きを作るといった作業の委託は、性質が異なります。依頼の中身を契約書のうえで具体的に切り分けておくことが、後の判断を大きく楽にします。
「消す」から「増やす」に移ると、景品表示法の線が現れる
悪い口コミが消せないと分かったとき、「よい口コミを増やす方向で対応しましょう」と提案されることがあります。この提案は、規約の線に触れるだけでなく、景品表示法の線にも入ってきます。
景品表示法5条3号に基づく告示(令和5年3月28日内閣府告示第19号、令和5年10月1日施行)により、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示が不当表示として指定されました。事業者が自ら供給する商品やサービスについて行う表示でありながら、外形上は第三者の感想に見えるものが対象になります。
この告示の運用基準では、事業者が第三者に依頼して口コミサイト上に自社に関する表示をさせる場合のほか、他の事業者に依頼して、競合他社の商品やサービスについて低い評価を投稿させる場合も例として示されています。競合を下げる施策も射程に入っているということです。
違反と判断された場合には、消費者庁や都道府県から措置命令を受ける可能性があり、措置命令は公表されます。口コミの評価を守るために依頼したことが、社名の公表という形で信用に跳ね返る構図になりかねません。
管理権限を渡すという意味を確かめる
権限は、対外的な発信の窓口そのもの
業者から、ビジネスプロフィールの管理権限を付与するよう求められることがあります。運用を任せる以上は自然な求めに見えますが、権限を渡すということは、店舗情報の書き換え、口コミへの返信、写真の追加といった対外的な発信を、その事業者の判断で行える状態にするということです。
どこまでの権限を、誰に、いつまで渡すのか。日々の連絡担当者ではなく、自社側にオーナーの権限が残っているか。この2点は、契約前に確かめておきたいところです。
契約が終わった後に何が残るか
契約終了後の引き継ぎも見落とされがちです。権限の返還、作成されたアカウントの帰属、これまでに行われた申請の履歴の共有について取り決めがないと、次の対応を弁護士に相談する段階で、何がどう行われたのかを再現できないという事態になります。
自分でできること、弁護士に頼むこと
自社で行う削除の申告は非弁の問題にならない
前提として、自社の権利について自社が申告することは、他人の法律事務ではありません。プラットフォームの報告フォームから、どのポリシーに反すると考えるのかを指定して報告することは、事業者が自ら行える対応です。
なお、2025年4月1日に施行された情報流通プラットフォーム対処法により、一定規模以上の事業者には、削除の申出を受け付ける方法を公表することや、申出に対する調査の結果を申出者へ通知することが求められています。申出の窓口自体は整備の方向にありますが、これは削除の判断そのものを義務づける仕組みではないため、申告すれば消えるという性質のものではありません。
弁護士に依頼する場合との違い
弁護士に依頼した場合との違いは、削除率の高さというより、任意の申告で削除されなかったときに、次の段が残っているかという点にあります。裁判所に対する削除の仮処分の申立てや、投稿者を特定するための発信者情報開示の手続は、代理人として行えるものです。
業者に依頼した場合、任意の申告が通らなければそこで手詰まりになりやすく、しかもその間に投稿から時間が経過します。時間の経過は、投稿者側の記録が失われる方向に働きます。
契約の前に確かめたいこと
- 依頼する作業の中身が、削除の代理なのか、集計や返信の下書きなのかが契約書で特定されているか。
- 削除の申請を誰の名義で行うのかが明示されているか。
- 自社を装って申請を出す運用になっていないか。
- 提携する弁護士が対応すると説明された場合、その弁護士と自社が直接契約する形になっているか。
- 渡す管理権限の範囲と期間、契約終了時の返還が定められているか。
- 口コミの投稿を第三者に依頼する作業が含まれていないか。
- 「どのような口コミでも消せる」といった説明の根拠が示されているか。
すでに依頼してしまった場合
- まず、契約書と請求書、業者とのやり取りの記録を保存します。
- どの投稿に対して、いつ、どのような名義で申請が行われたのかを業者に確認します。
- 自社のプロフィールにバナーや警告の表示、口コミの非表示が生じていないかを確認します。
- Googleから制限に関する通知が届いていないか、登録しているメールアドレスを確認します。
- 支払った費用の扱いと、今後の対応の順序について弁護士に相談します。
依頼してしまったこと自体で刑事責任を問われる仕組みにはなっていません。慌てて関係を清算するよりも、何が行われたのかを正確に把握することが先になります。
避けたい進め方
- 「削除率」の数字だけを比較して契約を決めること。
- 成功報酬だからリスクがないと考えて、作業の中身を確認しないこと。
- 削除できないと分かった段階で、口コミを増やす方向へ流れること。
- 投稿者に直接連絡を取り、削除を求めて交渉すること。
- 制限の通知が届いた後も、同じ方法を続けること。
よくあるご質問
Q1|業者に頼んだ時点で、こちらも違法になるのでしょうか
弁護士法には、依頼した側を処罰する規定は置かれていません。ただし、プラットフォームの規約に照らした措置は、口コミが掲載されている事業者に向けられます。法律の線と規約の線を分けて考える必要があります。
Q2|「弁護士が対応します」と説明する業者なら問題ないのでしょうか
説明の中身によります。事業者と弁護士との間に業者が入り、業者が費用の差額を得る形になっている場合には、弁護士以外との提携を制限する弁護士法の規定との関係が問題になりえます。弁護士と直接契約する形になっているかを確認するのが確かめ方です。
Q3|事実と違う内容の口コミなのに、なぜ簡単に消えないのでしょうか
プラットフォームが判断できるのは、原則として投稿がポリシーに反しているかどうかです。書かれた出来事が実際にあったかどうかは、当事者しか知りえない事柄であるためです。事実関係の当否を争う場合には、裁判所の手続を検討することになります。
まとめ
- 口コミ削除の業者への依頼は、弁護士法の線とプラットフォームの規約の線の二本を同時に走らせることになります。
- 弁護士法の線では、報酬を得て削除を代行する行為が問題とされ、報酬の返還を命じた裁判例があります。
- 依頼した側を処罰する規定は置かれていませんが、費用が戻らず口コミも消えないという形で不利益が残ることがあります。
- 規約の線では、制限を受けるのは事業者本人であり、口コミの非公開や警告の表示といった形で広く及びます。
- 措置は先に行われ、事業者は後から再審査を請求する順序になります。
- 「消す」から「増やす」に移ると、景品表示法のステルスマーケティング告示の線が現れ、措置命令は公表されます。
- 自社の権利について自社が申告することは他人の法律事務ではなく、まず自社でできる対応があります。
- 任意の申告で動かなかったときに次の段が残るかどうかが、依頼先を選ぶ際の分かれ目になります。
口コミへの対応でお困りの事業者の方へ
悪意のある書き込みが売上に直結する以上、早く消したいと考えるのは自然なことです。ただ、進め方を誤ると、消したかった1件のために事業所全体の見え方を損なうことがあります。
当事務所では、削除の可否の見通し、自社で行える対応と代理人が行うべき対応の切り分け、すでに業者と契約している場合の整理について、ご相談を承っています。池袋・新橋の各事務所のほか、オンラインでのご相談にも対応しておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。


