【ストーカートラブル】ストーカー被害を理由に仕事を休んだ分を請求できる?
本記事は、2025年12月30日に施行された改正ストーカー規制法(職権による警告の創設など)の内容を踏まえて記載しています。個別の事案での扱いは、相手の行動や経緯によって変わります。
窓から見える景色、近所の看板、駅のホーム。何気なく投稿した写真をきっかけに「家の近くまで来た」「どこに住んでいるか分かった」と言われ、怖い思いをされている方がいらっしゃいます。住所を書いたつもりがなくても、写り込んだ景色や複数の投稿を組み合わせることで、生活圏が絞り込まれてしまうことがあります。
この記事では、SNSの投稿に写った景色から自宅を特定されたと感じたときに、その日のうちにすること、相手の行動が法律上どう扱われうるか、警察・SNSの運営・弁護士のそれぞれで何ができるかを整理します。
景色の写り込みから自宅が分かってしまう仕組み
自宅の特定は、一枚の写真だけで起きるとは限りません。多くの場合、いくつもの手がかりが少しずつ積み重なっています。たとえば次のようなものです。
- 窓やベランダから見える建物、山、鉄塔などの景色。
- 電柱の住所表示、マンホールの柄、店の看板、バス停の名前。
- 最寄り駅や通勤途中の風景、よく行く店の写真。
- 投稿の時間帯や、写真に差し込む日の向き。
- 写真に記録された位置情報(撮影場所のデータ)。
一つひとつは問題のない投稿でも、組み合わせると「この駅の近く」「この方角に窓がある建物」と範囲が狭まっていきます。位置情報については、投稿時に自動で取り除く仕組みを持つSNSもありますが、サービスや設定、投稿の方法によって扱いが異なります。
また、相手がもともと知り合いだった場合は、以前の会話で聞いた勤務先や最寄り駅などの情報と照らし合わせて、短い時間で特定に至ることもあります。元交際相手や、マッチングアプリで一度会った相手、配信やSNSで一方的に知られている相手など、関係はさまざまです。
「特定された」と気づいたその日にすること
身の安全を先に考える
相手が実際に自宅の近くに来ている、玄関の前にいる、危害を加えるような言葉が届いているといった場合は、記録よりも安全を優先してください。危険が差し迫っているときは110番通報をためらう必要はありません。しばらくの間、家族や友人の家など別の場所で過ごすことも選択肢になります。
相手の投稿やメッセージを記録として残す
「家の近くを通った」「あの駅を使っているよね」といったメッセージや投稿は、後で削除されることがあります。画面のスクリーンショットを撮り、相手のアカウント名、投稿のURL、日時が分かる形で保存しておきます。相手が自宅付近に現れた場合は、日時と場所、見かけた状況をメモに残しておくと、後で警察や弁護士に説明しやすくなります。
自分の投稿は「残してから」見直す
写り込みのある自分の投稿は、公開範囲を絞ったり、削除したりすることが考えられます。ただし、何が写っていたのかが後で問題になることもあるため、削除する前に該当する投稿の画面を保存しておくと安心です。アカウントを非公開にする、知らないアカウントからのフォローを承認しない設定にするなど、見られる範囲を狭めることも有効です。
相手に直接言い返さない
怖さや怒りから「警察に言う」「やめないと訴える」と直接返したくなることもあると思います。ただ、やり取りが続くことで相手の関心を強めてしまうおそれがあります。拒否の意思を伝える場合も、短く一度だけにとどめ、その後は警察や弁護士を通じて対応するほうが落ち着いて進めやすくなります。
自宅を特定する行為は、法律上どう扱われるのか
公開されている写真から場所を推測すること自体を、直接処罰する規定は見当たりません。問題になるのは、特定した後に相手がとる行動です。主な場面を整理すると次のとおりです。
| 相手の行動 | 問題になりうる法律など |
|---|---|
| 「家を知っている」「近くまで来た」と伝える、またはSNSで分かる形で書く | ストーカー規制法の「監視していると思わせる事項の告知」(2条1項2号) |
| 自宅の付近で見張る、押し掛ける、うろつく | ストーカー規制法の「つきまとい等」(2条1項1号) |
| 自宅の住所をネットに書き込む | プライバシーの侵害(民事上の損害賠償や削除の対象)、内容によって名誉毀損など |
| 危害を加えることをほのめかす | 脅迫罪(刑法222条) |
| 敷地や建物の中に入ってくる | 住居侵入罪(刑法130条) |
ストーカー規制法は、恋愛感情その他の好意の感情や、それが満たされなかったことへの恨みの感情を満たす目的で行われる行為を対象としています。好意とは関係のない恨みや嫌がらせが動機の場合でも、東京都では迷惑防止条例でつきまといや見張り、押し掛けなどが規制されています(同条例5条の2)。どちらにあたるかは相手の言動から判断されるため、受け取ったメッセージの内容が手がかりになります。
なお、相手が自分で投稿された写真を見ただけであっても、その情報を使ってつきまとうことが正当化されるわけではありません。「自分で載せたのだから仕方がない」と一人で抱え込まず、相談していただいてかまいません。
警察・SNSの運営・弁護士のそれぞれでできること
警察への相談
警察には、ストーカー規制法に基づく警告や禁止命令の手続があります。2025年12月30日の改正法施行により、被害者からの申出がなくても警察が職権で警告できるようになりました。相手の行為によっては、刑事事件として捜査の対象になることもあります。あわせて、自宅周辺のパトロールや防犯上の助言を受けられる場合もあります。相談の際は、保存した投稿やメッセージ、メモを持参すると状況が伝わりやすくなります。
SNSの運営への通報・削除の申出
自宅の住所や写真がネットに書き込まれている場合は、各SNSの通報フォームや削除の申出窓口を利用できます。2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法により、大規模なプラットフォーム事業者には、削除の申出に一定の期間内で対応することなどが求められるようになりました。もっとも、申出をしても削除されない場合もあります。
弁護士に依頼してできること
弁護士は、相手が分かっている場合には代理人として接触をやめるよう通知し、接触禁止や違約金を定めた合意書の作成を目指すことができます。相手が匿名の場合は、発信者情報開示請求によって投稿者を特定する手続をとることも考えられます。任意の削除に応じてもらえない書き込みについては、裁判所に削除の仮処分を申し立てる方法もあります。投稿者を特定する手続には、接続記録の保存期間という時間の制約があるため、早めの検討が大切です。
警察への相談と弁護士への依頼は、どちらか一方を選ぶものではありません。警察の手続を進めながら、民事の対応を弁護士が担うという形もとれます。
住まいの安全を立て直すために
特定されたと分かった後は、今の住まいにとどまるかどうかを含めて考えることになります。すぐに引っ越すことが難しい場合でも、次のような手当てが考えられます。
- マンションの管理会社や大家に事情を伝え、オートロックや防犯カメラの運用を相談する。
- 自宅の出入りの時間を変える、帰宅時に家族や友人と連絡を取り合う。
- 引っ越す場合は、新しい住所が相手に伝わらない手続の順序を確認する。
- 市区町村の窓口で、住民票の写しなどの交付を制限する支援措置を申し出ることを検討する。
住民票の写しなどの交付制限(DV等支援措置)は、ストーカー行為の被害者も対象とされています。申出にあたっては、警察などへの相談実績が求められるのが一般的です。
これからの投稿で見直したいこと
- 窓やベランダからの景色を投稿しないこと。
- 最寄り駅や自宅近くの店など、生活圏が分かる写真を控えること。
- 投稿はその場ではなく、時間を置いてからにすること。
- 位置情報の付加をオフにする設定を確認すること。
- 過去の投稿もさかのぼって公開範囲を見直すこと。
ただし、こうした見直しはこれからの被害を防ぐためのものであり、特定された責任がご本人にあるという意味ではありません。
よくあるご質問
相手が誰か分からなくても、警察に相談できますか
相談できます。相手が分からない場合でも、届いたメッセージや投稿の記録、自宅付近で見かけた状況などをもとに相談を受け付けてもらえます。匿名のアカウントについては、弁護士による発信者情報開示請求で投稿者の特定を目指す方法もあります。
「近くに住んでいるよね」と書かれただけでも、相談してよいですか
一度の書き込みでも、相手との関係やそれまでの経緯によっては、ストーカー規制法の「監視していると思わせる事項の告知」にあたる可能性があります。実際に来るかどうか分からない段階でも、記録を残したうえで相談していただくことで、警告などの手続を早めに検討できます。
自分の投稿をすべて削除すれば安心ですか
削除によってこれ以上の情報が広がることは防げますが、相手がすでに保存している情報までは消せません。削除する前に記録を残し、あわせて住まいの安全や相手への対応を考えていくことが大切です。
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まとめ
SNSに写った景色から自宅を特定されたと感じたときは、まず身の安全を確保し、相手の投稿やメッセージを記録として残すことが出発点になります。場所を推測すること自体よりも、その後に「家を知っている」と伝える、自宅の付近に現れるといった行動が、ストーカー規制法や迷惑防止条例などの対象になりえます。警察の手続、SNSの運営への申出、弁護士による通知や削除・開示の手続は、組み合わせて進めることができます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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