【解決事例】元同僚からのストーカー被害|弁護士の介入により付きまといを停止させ解決金100万円を受領した事例
この記事は2026年9月時点の法令に基づいています。カスタマーハラスメントに関する事業主の措置義務は、改正労働施策総合推進法により2026年10月1日から施行され、指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が同日から適用されます。ストーカー規制法についても、令和7年12月30日および令和8年3月10日施行の改正内容を反映しています。
閉店時間に合わせて、同じ客が店の前に立っている。名指しでSNSに投稿される。指名を断ると、次は別の時間帯に来る。従業員本人は「自分が我慢すれば済む」と言い、店長のほうが先に限界を感じている。接客業の現場から、こうしたご相談をいただくことがあります。
この場面がむずかしいのは、相手が客であることです。悪質なクレームなら断ればよい、という整理では収まりません。好意を向けられている側は「断ったら店に迷惑がかかる」と考えますし、会社の側も「どこから対応してよいのか」が見えにくくなります。
ただ、2026年10月から、この構図は法律上の位置づけが変わります。この記事では、会社が何を義務として求められるのか、特定される経路をどう断つのか、警察に持ち込むときに何を用意するのか、そして相談を受けた側が最初の1週間で何をするのかを整理します。
従業員個人の問題として抱えさせない
まず押さえていただきたいのは、これは本人が断れるかどうかの話ではなくなるということです。
2026年10月1日から、事業主は職場におけるカスタマーハラスメントを防止するため、雇用管理上必要な措置を講じなければならないとされます(労働施策総合推進法33条1項)。指針は、対象となる「顧客等」に、商品の購入やサービスの利用をする者を明示しています。常連客はここに含まれます。
あわせて次の点も指針に書かれています。
- 「労働者」には、パートタイム労働者や契約社員などの非正規雇用の方も含まれる。
- 派遣労働者については、派遣元だけでなく、派遣先も同様に措置を講ずる必要がある。
- 店舗で対面して行われるものだけでなく、電話やSNSなどインターネット上で行われるものも含まれる。
- 強い苦痛を与える態様であれば、1回の言動でも就業環境を害する場合があり得る。
つまり、アルバイトの方が受けている場合も、来店していないときのDMも、対象から外れません。「顧客等」の範囲についてもう少し詳しく知りたい場合は、患者・保護者・利用者は『顧客』に含まれるのかをご覧ください。
なお指針は、顧客からの苦情のすべてがカスタマーハラスメントに当たるわけではなく、社会通念上許容される範囲のものは正当な申入れであるとも述べています。行為の中身を見て切り分けることは、引き続き必要です。
ストーカー規制法で拾える場合と、拾いにくい場合
「これはストーカーではないのか」というご質問をよくいただきます。ここには、知っておくと動きやすくなる区別があります。
目的の要件がある
ストーカー規制法が規制する「つきまとい等」は、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われるものに限られています。勤務先の付近での待ち伏せ、見張り、押し掛けは、この目的が認められれば規制の対象になります。条文には「勤務先」が明記されています。
問題は、客からのつきまといでは、この目的の立証が常に容易とは限らないことです。好意なのか、クレームの延長なのか、単なる嫌がらせなのかが、外形からは判別しにくい場合があります。
目的が認めにくい場合の受け皿
その場合でも、対応の道がなくなるわけではありません。状況に応じて、次のような法律の適用が検討されます。
- 退去を求めたのに店内に居座る場合の不退去(刑法130条後段)。
- 害を加える旨を告げる場合の脅迫や、義務のないことを行わせようとする場合の強要(同法222条、223条)。
- 営業の妨げになる言動についての威力業務妨害(同法234条)。
- つきまとった行為そのものを対象とする軽犯罪法1条28号(この規定には反復や目的の要件がありません)。
- 各都道府県の迷惑防止条例(多くは反復して行うことを要件としています)。
そして重要なのは、会社の措置義務の側には、この「目的」の要件がないことです。好意によるものか嫌がらせかが分からない段階でも、社会通念上許容される範囲を超えた言動であれば、会社は対応を求められます。ストーカー規制法に当てはまるかを見極めてから動く、という順序にする必要はありません。
特定される経路を断つ|名札・SNS・シフトの規則性
接客業では、こちらの情報だけが一方的に相手に渡っています。ここを絞ることは、対応の中でも効果が出やすい部分です。
| 漏れやすい経路 | 断ち方の例 | 留意点 |
|---|---|---|
| 名札のフルネーム表示 | 姓のみ・下の名前のみ・記号や番号に変更 | 氏名を表示する法律上の義務はない |
| 店舗サイトやSNSでの紹介 | 氏名・顔写真の掲載を控える、過去分も見直す | 掲載済みの記事や画像の削除も検討する |
| シフトの規則性 | 曜日や時間帯を変える、担当を交替する | 本人の不利益にならない形で調整する |
| 退勤時間と経路 | 退勤時刻をずらす、複数人で退店する | 同じ経路の反復を避ける |
| 従業員個人のSNS | 勤務先が特定できる投稿の見直し | 強制ではなく情報提供として伝える |
| 問い合わせへの回答 | 在籍や勤務日を答えない運用を決める | 全員が同じ答え方をできるようにする |
「本人の情報を教えない」には法律上の裏づけがある
最後の行は、単なる社内ルールではありません。ストーカー規制法は、ストーカー行為等をするおそれがある者だと知りながら、その人に対して被害を受けている方の氏名・住所その他の情報を提供することを、誰に対しても禁じています。政府の広報でも、住所、氏名、メールアドレス、通勤経路、SNSのアカウントなどが例として挙げられており、情報提供を受けた者がストーカー行為を行った場合には、ほう助犯として検挙される可能性があるとされています。
「あの子、今日は何時まで」と聞かれて答えてしまうことが、法律上の問題になり得るということです。この一点は、朝礼などで全員に共有しておく価値があります。
会社は援助に努める立場に置かれた
令和7年12月30日から、ストーカー規制法は、被害を受けている方を雇用する者を、援助に努める主体として明記しました。政府の広報では、想定される援助として、助けを求められた場合に警察に引き継ぐまで一時的に保護すること、ホームページやSNSへの氏名や顔写真の掲載を控えること、勤務場所や時間の変更など勤務形態への配慮をすることが挙げられています。
従業員から「会社に迷惑をかけたくない」と言われたときに、会社が動くことは法律が想定していると伝えられる材料になります。
出入り禁止・警告文をどう位置づけるか
指針は、特に悪質と考えられるものへの対処について、あらかじめ方針を定めて労働者に周知し、その対処を行うことができる体制を整備することを求めています。対処の例として挙げられているのは、次のようなものです。
- 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること。
- 行為者に対して警告文を発出すること。
- 法令の制限内において、商品の販売やサービスの提供等をしないこと。
- 店舗や施設等への出入りを禁止すること。
- 民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てること。
ここが2026年10月の大きな変わり目です。これまで出入り禁止や警告文は「やってもよいこと」でしたが、今後はあらかじめ方針として定め、実際に行える体制を用意しておくことが求められます。事が起きてから社内で相談を始める、という進め方は想定されていません。
実際に告げる場面での言い方や順序については、「出入り禁止」を告げてよいかで整理していますので、そちらをご覧ください。
警察に持ち込むときに用意する資料
会社名義で相談に行くことには、二つの利点があります。従業員本人を矢面に立たせずに済むことと、店舗の記録という客観的な材料をそろえて出せることです。
持参できるとよいものを挙げます。
- 出来事の一覧(日付・時刻・場所・何があったか・その場にいた従業員)。
- 防犯カメラの映像(上書きされる前に、対象日時を指定して保存を依頼しておく)。
- 録音・録画したデータ(指針も対処の例として挙げていますが、個人情報の適切な取扱いに留意する必要があります)。
- 相手から届いたメッセージ、贈り物、手紙などの現物や画像。
- 店側がこれまでに行った対応(誰が、いつ、何を伝えたか)。
- 来店の記録や予約履歴など、頻度と規則性が分かるもの。
このうち4番目は、好意の感情という目的を推し量る材料になりますので、内容が私的なものであっても捨てずに残しておいてください。5番目も重要で、店として警告や注意をしていた事実は、その後に相手が同じ行為を続けたことの評価につながります。
警察の措置と裁判所の手続という二つの枠組みの使い分けは、接近禁止を実現する2つの道で整理しています。
相談を受けた側の初動|最初の1週間
従業員から打ち明けられた側が、最初にどう動くかで、その後の負担が大きく変わります。
- 相談を受けた事実と内容を、その日のうちに記録する。
- 本人に判断させず、当面の対応方針を会社として決めて伝える(対応を担当者に交替する、複数人で対応する、相手と接する場面を減らす)。
- 名札の表示、シフト、退勤の動線を見直す。
- 出来事の一覧を作り始め、防犯カメラの保存を依頼する。
- 警察への相談と、弁護士への相談の要否を検討する。
指針は、カスタマーハラスメントに該当するか微妙な場合や、発生のおそれがある段階でも、広く相談に対応することを求めています。判断がつかないから様子を見る、という対応は選びにくくなっています。
あわせて、相談したことを理由に解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないとされています(法33条2項)。よかれと思ってシフトを減らすことも、本人にとっては収入が減る不利益になり得ますので、変更の前に本人と話すという順序を守ってください。相談者のプライバシーを保護する措置も、指針上の義務です。
避けたい進め方
現場で起きやすいものを挙げておきます。
- 本人に「どうしたい?」とだけ尋ね、判断を委ねてしまう。
- 「お客様だから」と、その場を収めるために本人に謝罪させる。
- 相手に事情を説明しようとして、本人の勤務日や連絡先を伝えてしまう。
- 一人で対応させたまま、記録を残さずに時間だけが経過する。
いずれも、後で警察や裁判所に持ち込むときの材料を失わせるだけでなく、会社が措置を尽くしていたかという評価にも関わってきます。
接客業では、相手が客であるというだけで、対応が一段遅れがちです。ただ、10月からは、遅れること自体が会社の側の問題として見られるようになります。方針を決めて紙にする、告げる文面を用意する、記録の形を整える。この三つは、事が大きくなる前でも進められます。どこから着手すればよいか迷われる段階で、一度ご相談いただければと思います。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


