【ストーカートラブル】ペットに危害を加えられた|器物損壊と動物愛護法
本記事は、2026年10月時点の民法、ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」)の規定と、損害賠償の実務で一般的にとられている考え方に基づいて記載しています。個別の事案での結論は、行為の内容や残っている資料によって異なります。
つきまといや待ち伏せが続くと、「家を出るのが怖くて会社を休んだ」「警察で事情を聞かれるために半休を取った」「眠れなくなって通院し、しばらく休職した」というように、仕事を休まざるを得ない場面が出てきます。ご相談の中でも、慰謝料とは別に、休んだ分の収入を相手に負担してもらえないかというご質問は少なくありません。
結論からいえば、ストーカー行為によって仕事を休み、その分の収入が減った場合には、休業損害として加害者に請求できる場合があります。ただし、休んだ日数をそのまま請求すれば認められるわけではなく、「なぜ休む必要があったのか」「どれだけの期間が必要だったのか」を資料で説明することが求められます。この記事では、休業損害に絞って、認められるかどうかの分かれ目、働き方ごとの計算の考え方、そろえておきたい資料と請求の進め方を整理します。
休業損害は慰謝料とは別の項目
ストーカー行為によって被害を受けた方は、加害者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求できます(民法709条)。この損害賠償の中には、精神的な苦痛に対する慰謝料(同法710条)のほかに、治療費や引っ越し費用のように実際に支払ったお金と、仕事を休んだことで得られなかった収入が含まれます。この最後の部分が休業損害です。
慰謝料は行為の期間や内容を踏まえて裁判所が評価する部分であるのに対し、休業損害は給与明細や勤務先の証明などで金額を裏付ける部分です。慰謝料の目安としてよく示される金額には、休業損害は含まれていません。請求できる項目の全体像は【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立てで整理していますので、あわせてご覧ください。
また、警察からの警告や相手の逮捕といった刑事手続が進んでも、休んだ分の収入が自動的に補填される仕組みはありません。刑事手続とは別に、被害を受けた側から請求していく必要があります。
認められるかを分ける2つの問い
休業損害の請求で相手方や裁判所が確認するのは、主に次の2点です。
休んだことと行為とのつながり
1つ目は、仕事を休んだ原因がストーカー行為にあるといえるかどうかです。法律上は、行為と損害との間に相当な因果関係があるかという形で問われます。例えば、勤務先の前で待ち伏せが続いていて出勤すること自体に危険があった、つきまといによる不眠や不安で医師から休養を指示された、警察署での事情聴取や裁判での証言のために出向く必要があった、という事情があれば、つながりを説明しやすくなります。
反対に、行為が始まる前から予定していた休暇や、行為とは別の体調不良が重なっている休みは、つながりを説明しにくい部分です。休んだ日ごとに、その日の前後に何があったのかを記録と結びつけておくことが大切です。
休んだ期間が必要な範囲か
2つ目は、休んだ期間が必要な範囲に収まっているかどうかです。つながりが認められても、休んだ日数のすべてが損害として認められるとは限りません。医師の診断書に就労を控えるべき期間が書かれていれば、その期間が一つの目安になります。待ち伏せを理由に休んだ場合は、警察への相談や警告、禁止命令などで安全を確保するまでの期間がどれくらいだったかが問われることがあります。
身の安全を優先して休むこと自体は当然の判断です。そのうえで、休み始めた時期と、出勤を再開できた時期に何があったのかを説明できるようにしておくと、期間の相当性を示しやすくなります。
休んだ理由ごとの考え方
休業の理由によって、裏付けとなる資料と争点になりやすい点が異なります。主な場面を表にまとめます。
| 休んだ理由 | 主な裏付け資料 | 争点になりやすい点 |
|---|---|---|
| 心身の不調による通院・休養 | 診断書、診療明細、勤務先の勤怠記録 | 症状と行為とのつながり、休養の期間 |
| 待ち伏せ・押しかけによる出勤困難 | 行為の記録、警察への相談記録、勤怠記録 | 出勤できない状態がいつまで続いたか |
| 事情聴取・裁判での証言 | 警察や裁判所からの呼出しの記録、勤怠記録 | 半日・時間単位の休みの扱い |
| 転居や防犯対策の手続 | 賃貸借契約書、業者とのやり取り、勤怠記録 | 転居の必要性と手続に要した日数 |
警察での事情聴取については【ストーカートラブル】被害届を出した後の事情聴取|何を聞かれるのかで、裁判で証言する場合の配慮については【ストーカートラブル】裁判で証言を求められた|相手と顔を合わせない方法で解説しています。
働き方ごとの計算の考え方
休業損害の計算方法は法律で一律に決まっているわけではありません。実務では、交通事故の損害賠償で用いられている考え方が参考にされることが多く、基本は「1日あたりの収入×休んだ日数」です。働き方によって、1日あたりの収入の出し方が変わります。
会社員・公務員の場合
休み始める前の3か月程度の給与をもとに1日あたりの金額を出し、休んだ日数を掛ける方法が一般的です。賞与が減額された場合や、欠勤によって昇給に影響が出た場合は、勤務先の資料で減額の理由を示せれば、その分も損害として主張できることがあります。
有給休暇を使って休み、給与が減らなかった場合でも、本来は自由に使えたはずの休暇を失ったと考えて、その日数分を損害として扱う考え方が交通事故の実務では一般的です。ストーカー被害の事案でもこの考え方が参考にされることがありますが、相手方から争われることもあるため、取得日と取得の理由を記録しておくことが大切です。
パート・アルバイトの場合
会社員と同じく、休み始める前の収入をもとに計算します。シフト制で勤務日数が月によって変わる場合は、実際の勤務日数を基準に1日あたりの金額を出すほうが実態に近くなります。シフトに入れなくなった日が、本来は勤務予定だった日であることを示す資料(シフト表や店舗とのやり取り)があると説明しやすくなります。
自営業・フリーランスの場合
前年の確定申告書に記載された所得をもとに、1日あたりの金額を出すのが基本です。休業中も事務所の家賃などの固定費がかかっていた場合は、その固定費を損害に含めて主張することが考えられます。受注を断った、取引が打ち切られたという場合は、取引先とのやり取りの記録が裏付けになります。
休職や退職に至った場合
休業が長引いて休職した場合や、職場での被害を理由に退職せざるを得なかった場合は、請求できる範囲の判断がより難しくなります。休職中の収入の減少は休業損害として扱われますが、退職後に得られなくなった将来の収入まで請求する場合は、退職が行為によってやむを得なかったといえるか、再就職までにどれくらいの期間が必要だったかなど、説明すべき事情が増えます。
また、休業中に健康保険の傷病手当金や労災保険の給付を受けた場合、その分は加害者に請求する金額から差し引かれることがあります。同じ損害について二重に補填を受けることにならないよう調整される仕組みです。どの給付が差し引かれる対象になるかは制度ごとに扱いが異なるため、受給している給付の種類と金額を整理しておくと、請求額を見通しやすくなります。
加害者が職場の上司や同僚である場合は、加害者本人のほか、勤務先の使用者責任(民法715条)が検討の対象になることもあります。社内での対応については【ストーカートラブル】職場の上司・同僚からの執拗な好意|会社に伝える前にをご覧ください。
請求のためにそろえておきたい資料
- 行為の日時・場所・内容を一覧にした時系列表。
- 休み始める前の3か月程度の給与明細、または源泉徴収票。
- 勤怠記録や有給休暇の取得記録。
- 勤務先に作成を依頼する休業の証明書(休んだ日数と減額された金額の記載があるもの)。
- 医師の診断書(症状と、就労を控えるべき期間の記載があるもの)。
- 警察への相談記録や、事情聴取・裁判への呼出しの記録。
- 自営業の方は確定申告書の控えと、取引先とのやり取りの記録。
- 傷病手当金など、休業中に受け取った給付の通知。
特に時系列表は、休んだ日ごとに「その日に何があったか」を結びつける土台になります。記録の残し方はストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方も参考にしてください。
勤務先に証明書の作成を依頼すると、休んだ理由を一定程度伝えることになります。職場に事情を伝えること自体に迷いがある場合は、まず給与明細や勤怠記録など手元の資料で足りるかを確認し、伝える範囲を決めてから依頼する方法も考えられます。勤務先に配慮を求める場面については【ストーカートラブル】勤務先に配慮を求める|勤務地や勤務時間の変更で解説しています。
請求の進め方と注意点
休業損害は、慰謝料や治療費などと一緒に請求するのが通常です。示談交渉では最終的に一つの金額で合意することが多いものの、交渉の段階では項目ごとの内訳を示すほうが、金額の根拠を説明しやすくなります。相手が刑事処分を受ける可能性がある場合には、相手の弁護人から示談の申入れが来ることもあります。示談に盛り込む条件については【ストーカートラブル】示談に入れる条件|接触禁止・転居・違約金で整理しています。
注意したいのは、休業がまだ続いている最中に示談をする場合です。示談書には通常、示談書に定めるもののほかに債権債務がないことを確認する清算条項が入るため、示談後に生じた休業の分をあらためて請求することが難しくなる場合があります。復職の見通しが立たないうちは、示談の時期を調整するか、将来の休業の扱いを条項で明示しておくことが考えられます。
時効にも注意が必要です。不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年で時効にかかります(民法724条)。生命や身体を害する不法行為の場合は、前者の期間が5年とされています(同法724条の2)。請求の種類ごとの期間は男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかにまとめています。
示談がまとまらない場合は訴訟で請求することになります。訴訟では、住所や氏名が相手に知られることで社会生活に著しい支障が生じるおそれがある場合に、それらを秘匿する制度も設けられています(民事訴訟法133条)。弁護士が窓口となって交渉する流れについては【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味をご覧ください。
よくあるご質問
在宅勤務に切り替えて給与が減らなかった場合も、請求できますか?
給与が減っていない場合、休業損害として請求するのは難しいと考えられます。ただし、出勤できなくなったことで生活に支障が出た事情は、慰謝料の評価の中で考慮される余地があります。
早退や遅刻など、時間単位の休みも請求の対象になりますか?
警察署への出頭や通院のために時間単位で休み、その分の給与が差し引かれた場合は、請求の対象になり得ます。金額が小さくても、回数が重なると無視できない額になることがあるため、日付と時間、差し引かれた金額を記録しておくことをおすすめします。
まとめ
- ストーカー行為によって仕事を休み収入が減った場合は、休業損害として加害者に請求できる場合があります。
- 休業損害は慰謝料とは別の項目で、給与明細や勤怠記録などで金額を裏付けます。
- 認められるかどうかは、休んだことと行為とのつながり、休んだ期間が必要な範囲かという2点で判断されます。
- 計算は「1日あたりの収入×休んだ日数」が基本で、働き方によって1日あたりの収入の出し方が変わります。
- 有給休暇を使った日や時間単位の休みも、損害として主張できることがあります。
- 傷病手当金などの給付を受けた場合は、請求額から差し引かれることがあります。
- 休業が続いている最中の示談では、清算条項によって将来の休業分を請求できなくなるおそれがあります。
仕事を休んだ分の請求は、休んだ日ごとの事情を記録と結びつけられるかどうかで見通しが大きく変わります。休業が続いている方も、すでに復職された方も、手元の資料で何を請求できるかを整理するところから始めてみてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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