【解決事例】一方的に好意を持たれ、ストーカー被害|弁護士と警察の連携により付きまとい・執拗なアプローチを阻止した事例
この記事は2026年9月時点の法令に基づいています。ストーカー規制法は令和7年12月10日に改正法が公布され、紛失防止タグによる位置情報の無承諾取得等の追加や職権による警告の創設などが令和7年12月30日から、情報提供をめぐる規定の一部が令和8年3月10日から施行されています。
深夜に無言電話が続く。帰宅すると郵便受けに差出人のない封筒が入っている。見覚えのないアカウントから執拗なメッセージが届く。けれども、それが誰の仕業なのかが分からない。相手が分からないつきまといには、被害そのものに加えて、誰に対して身構えればよいのかが定まらない苦しさがあります。
ご相談をお聞きしていると、この状態の方は二つに分かれます。心当たりが多すぎて絞り込めない方と、心当たりがまったくなく、なぜ自分が選ばれたのかも分からない方です。どちらの場合も、相手を突き止めることに気持ちが向き、いま手元でできる対応が後回しになりがちです。
私は、相手をたどる道筋と、たどれないまま身を守る道筋は、同時並行で進めるものだと考えています。以下では、手がかりの整理、警察が動いた場合に判明する範囲、弁護士会照会や発信者情報開示が届く範囲、特定できないままでも取れる手立てを順に見ていきます。
手がかりは「種類ごと」に分けて書き出す
相手が分からないという方の多くは「何も手がかりがない」とおっしゃいますが、一つずつ伺うと断片は残っていることがほとんどです。問題は、それが記憶の中に散らばっていて、他人に説明できる形になっていないことにあります。次の表のように、種類ごとに分けて書き出してみてください。
| 手がかりの種類 | 残りやすさ | いま自分でできること |
|---|---|---|
| 着信・メッセージ | 端末や事業者の設定によって異なる | 履歴の画面を撮影し、日時と回数を控える |
| SNSのアカウント | 相手の操作で消えることがある | プロフィールと投稿の画面を保存する |
| 郵便物・置き手紙 | 物として残る | 封筒ごと保管し、消印と投函の跡を残す |
| 車両 | 見かけた記録が頼り | ナンバーの全桁と車種・色を控える |
| 防犯カメラ | 上書きで消えることが多い | 設置場所を確認し、早い段階で相談する |
| 時間帯・場所の規則性 | 記録しなければ残らない | 出来事を日付順に1行ずつ書く |
見落とされやすいのが、いちばん下の規則性です。何曜日の何時ごろに起きているか、自宅の周辺なのか職場の近くなのか、自分がSNSに投稿した直後に起きていないか。個々の出来事は誰の仕業かを示しませんが、並べたときに現れる規則性は、行動範囲や生活時間帯を絞り込む材料になります。
書き出すときの形式
形式は凝らなくて構いません。1行に日付、時刻、場所、何が起きたか、残っている記録の五つを書くだけで十分です。
- 起きた順に、日付と時刻を入れて1行ずつ書く。
- 記憶があいまいな部分は「〇月上旬ごろ」と正直に書き、断定しない。
- 写真や画面の保存があるものには、行末に印を付ける。
あいまいな記憶を無理に確定させないことが大切です。後から説明する場面では、確かな部分とあいまいな部分が区別されている記録のほうが、全体として信用されやすくなります。
警察が動いた場合に、どこまで分かるのか
相手が分からないのだから警察に持ち込んでも仕方がない、と考えてしまう方がいます。しかし順序は逆で、相手を特定する力がいちばん強いのは捜査機関です。
捜査においては、公務所または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができるとされています(刑事訴訟法197条2項)。通信事業者や施設の管理者に契約者の情報や記録の提供を求める仕組みです。ただし回答を拒んだ場合の罰則はなく、常に回答が得られるものではありません。
また、通信履歴については、30日を超えない期間を定めて消去しないよう書面で求めることができ、延長しても通算60日を超えることはできないと定められています(同条3項)。記録は待っていると消えるという前提で組み立てられた制度であり、相談が遅れるほど、たどれる範囲は狭くなっていきます。
行政の措置と捜査は、動き出す条件が違う
ここで押さえておきたいのが、ストーカー規制法に基づく警告や禁止命令は、行為をした人に向けて出される処分だということです。相手が判明していない段階では、警告そのものを出すことができません。令和7年の改正で、被害を受けた方からの申出がなくても警察の職権で警告できるようになりましたが、これも相手が分かっていることが前提です。
一方で、犯罪の捜査は相手が分からない段階から始められます。つまり、まず捜査によって相手が判明し、その後に行政の措置が使えるようになるという順序になります。相手が分からないからこそ、まず警察に持ち込む意味があるのです。
なお、警告や禁止命令を扱う警察本部長等や公安委員会は、被害を受けている方の現在の住所や居所の所在地、行為が行われた場所などを管轄するところとされています。相手の住所が分からなくても、ご自身の生活の本拠を管轄する警察署に相談すれば足りる建て付けです。相談したものの動いてもらえていないと感じている場合の考え方は、警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることで整理していますので、あわせてご覧ください。
弁護士会照会・発信者情報開示で「届く範囲」と「届かない範囲」
弁護士が使える仕組みとして弁護士会照会があります。受任している事件について弁護士が所属弁護士会に申し出て、弁護士会が公務所または公私の団体に照会する制度です(弁護士法23条の2)。照会を受けた側には報告すべき義務があるとされていますが(最高裁平成28年10月18日判決)、拒絶に罰則はなく、回答が得られないこともあります。制度の細かい仕組みと限界は弁護士会照会とは|風俗トラブルで相手方を特定する仕組みで解説しています。
発信者情報開示は「公開されている投稿」が対象
インターネット上の相手を特定する手段として発信者情報開示がよく知られていますが、ここには誤解が多い点があります。この制度が対象とするのは特定電気通信、すなわち不特定の者によって受信されることを目的とする送信です(情報流通プラットフォーム対処法2条1号)。
誰でも見られる状態で公開された投稿が対象であって、1対1のダイレクトメッセージやメールは、この制度の対象になりません。匿名のつきまといは公開の場ではなく個別のメッセージで届くことが多いため、この制度が使えない場面がむしろ多いのが実情です。
もっとも、同じ人物が公開の投稿もしている場合は、そちらを入口にできることがあります。削除と特定のどちらを先に動かすかという判断は拡散された後の順序|削除と発信者特定のどちらを先に動かすかで整理しています。
車のナンバーから所有者は分からない
自宅前で見かけた車のナンバーを控えたので所有者を調べたい、というご相談も少なくありません。自動車の登録内容を確認する登録事項等証明書という書類はありますが、請求にはナンバーに加えて車台番号の下7桁が必要で、請求の事由も具体的に書く必要があります。そして運輸支局の案内では、盗難やストーカー行為などの不当な目的に使用されるおそれがある場合には交付しないとされています。
控えたナンバーは、自分で身元をたどる道具にはならないということです。それでも警察に渡す材料としては有力ですので、控えるだけ控えて、使い道は委ねるのが現実的な扱いになります。
相手が分からないままでも取れる手立て
特定が進まない間、何もできないわけではありません。むしろ、この期間に手をつけておくことで後の負担が変わってきます。
住所を調べられにくくする
市区町村には、ストーカー行為等の被害を受けている方について、住民票の写しや戸籍の附票の写しの交付、住民基本台帳の一部の写しの閲覧を制限する支援措置があります。支援の必要性が確認されると、第三者からの申出についても写真付きの身分証の提示を求めるなど本人確認が厳格に行われ、請求の事由もより厳しく審査されます。期間は原則1年で、終了前に延長を申し出ることができます。
ただし、この措置は本来、加害者にあたる方を特定して申し出る仕組みです。相手が分からない段階でどう扱われるかは運用に幅がありますので、警察署と市区町村の窓口に確認してください。
勤務先や学校に助けを求める
令和7年12月30日から、被害を受けている方を雇用する者と、その方が就学する学校の長が、援助に努める主体として法律に加えられました。勤務先や学校は、自宅と同じように長い時間を過ごしながら、居場所を変えることが難しい場所でもあるという事情が背景にあります。
職場に知られたくないというお気持ちは自然なものですが、待ち伏せや押しかけが職場周辺で起きている場合、事情を伝えておくことが現実の防御につながります。法律上の位置づけができたことで、相手が分からない段階でも状況を共有しやすくなった面はあると思います。
自分の情報が渡らないようにする
ストーカー行為等をするおそれがある者だと知りながら、その人に被害を受けている方の氏名や住所などの情報を提供することは、法律上禁じられています。さらに令和8年3月10日からは、警察本部長等が、そうした情報を持つ人に提供を行わないよう求めることができる規定も動き出しました。
ご自身の側でも次の点を見直しておくと、手がかりを与えにくくなります。
- 位置情報を共有するアプリやサービスの設定を確認し、不要な共有を解除する。
- SNSの公開範囲を絞り、写真に写り込んだ景色や建物から生活圏が分からないか確認する。
- 通勤や帰宅の経路と時間帯、郵便物や宅配の受け取り方を見直す。
特定を急ぐより先に手をつけたいこと
相手を突き止めたいという気持ちは当然のものですが、順序を誤ると状況が悪くなることがあります。
まず、自分で相手を追いかけないことです。心当たりのある人物に直接問いただしたり、周囲に「あの人ではないか」と伝えたりする対応は、人違いであった場合に名誉を傷つけたと評価されるおそれがあります。相手が本当に加害者であった場合にも、こちらの生活の状況を知らせる結果になり、行為がかえって激しくなることがあります。
次に、消えるものから押さえることです。通信の記録には保全を求められる期間の上限があり、防犯カメラの映像も多くは上書きで消えていきます。手がかりが不十分に感じられても、記録が残っているうちに相談したほうが、選べる手立ては多く残ります。
そして、危険の見立てを自分だけで決めないことです。身の危険を感じる場面で110番通報をためらう必要はありませんし、急を要しない段階なら警察相談専用電話の#9110があります。迷う段階でこそ、外の目を入れておく意味があります。
相談の場に持っていくとよいもの
相手が分からない事案では、最初の相談でどれだけ材料を出せるかが、その後の進み方を左右します。次のものが手元にあると話が早く進みます。
- 出来事を日付順に並べた一覧。
- 着信履歴やメッセージ画面を撮影した画像。
- 届いた郵便物や置き手紙の現物。
- 見かけた車両のナンバーや人物の特徴のメモ。
- すでに警察へ相談している場合は、相談した日と担当窓口の記録。
これらがそろっていなくても構いません。そろっていない状態から一緒に組み立てていく場面のほうが、実際には多いと感じています。あるものを、あるだけお持ちください。
相手が誰か分からない状況は、何も進んでいないように見えて、実際には手がかりが少しずつ失われていく時間でもあります。特定できるかどうかが見通せない段階でも、記録を整えることと身を守る手立てを組むことは並行して進められます。どちらから手をつけるべきかを含めて、一度整理する機会をお持ちいただければと思います。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


