ロマンス詐欺の「二次被害」に注意|高額着手金を謳う相談先の見分け方
別れた相手が、会社の代表電話に何度もかけてくる。エントランスや駐車場で待っている。受付で「話がしたい」と名乗って取り次ぎを求めてくる——。自宅であれば居留守も引っ越しもできますが、職場はそうはいきません。出勤時間も場所も決まっていて、隠しようがないからです。
さらに、同僚や上司の目があるため「私生活の問題を持ち込んでいる」と思われたくない、評価に響くのではないか、といった心配も重なります。その結果、誰にも言えないまま我慢を続けてしまう方は少なくありません。
しかし、勤務先への電話や押しかけは、あなた個人に対するつきまといであると同時に、会社という第三者に対する加害行為にもなり得ます。だからこそ、自分ひとりで抱えるより、会社と警察を味方につけたほうが動きやすい場面があります。
この記事では、次の点を整理します。
- 勤務先への電話・押しかけがストーカー規制法でどう扱われるか
- 会社が受けている被害(業務妨害・建造物侵入など)という視点の使い方
- 2025年12月の法改正で「勤務先」が援助する側に位置づけられたこと
- 会社にどう伝え、何を頼めばよいか
- 職場でしか残せない証拠の保全と、相談の進め方
身の危険を感じる場面では、迷わず110番を。急を要しないご相談は、警察相談専用電話「#9110」が利用できます。
勤務先は、法律上も守られる場所として書かれている
「住居等」には勤務先が含まれる
ストーカー規制法は、恋愛感情や好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的で行われる「つきまとい等」を規制しています(同法2条1項)。
その第1号には、つきまとい・待ち伏せ・進路に立ちふさがる行為に加えて、「住居等」への押しかけ、付近での見張り、みだりにうろつく行為が挙げられています。そしてこの「住居等」には、住まいだけでなく勤務先や学校、現に所在する場所・通常所在する場所が含まれます。
つまり、会社の入口で待つ、駐車場から様子をうかがう、ビルの周りを歩き回るといった行為は、自宅前で同じことをした場合と同様に、規制の対象となり得るということです。「自宅には来ていないから大したことではない」という整理は、法律の建て付けとは合いません。
電話・面会要求も類型として挙がっている
拒まれたにもかかわらず連続して電話をかける行為、無言電話、面会や交際など義務のないことを要求する行為も、それぞれ「つきまとい等」の類型として規定されています。会社の代表電話に繰り返しかけて取り次ぎを求める行為は、これらが重なって現れる典型的な形です。
同僚や上司が巻き込まれた場合
ストーカー規制法が保護の対象としているのは、本人だけではありません。配偶者や同居の親族のほか、**「社会生活において密接な関係を有する者」**に対する行為も対象に含まれています(2条1項)。日常的に一緒に働いている同僚や直属の上司への行為が、これに当たると判断される余地はあります。
「同僚に迷惑をかけてしまった」と負い目を感じる方が多い場面ですが、法律の側は、周囲の人への行為も含めて被害として捉える構造になっています。
記録すべきなのは「回数」より「態様」
第1号から第4号までの行為には、身体の安全・住居等の平穏・名誉が害され、または行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法で行われた場合に限る、という限定が付いています。
そのため、記録に残すべきは「何回来たか」だけではありません。何時にどこへ来たのか、どのくらい滞在したのか、どの位置に立っていたのか、こちらがどう対応したのか——こうした態様が伝わる記録のほうが、後の判断材料として意味を持ちます。
なお、つきまとい等の類型全体や、警告から禁止命令に至る手続きの詳細については、コラム「SNS・LINEの執拗な連絡はストーカーになる?警告・禁止命令の流れ」で解説しています。自宅周辺での待ち伏せを含む全体像は「元交際相手のつきまとい・待ち伏せ|ストーカー規制法でできる対応」をあわせてご覧ください。
会社が受けている被害という視点を持つ
職場への押しかけが自宅への押しかけと決定的に違うのは、被害者があなた一人ではないという点です。相手の行為は、会社に対する別の犯罪を構成する場合があります。
- 建造物侵入罪・不退去罪(刑法130条)……立入りを認められていない社屋・事業所内に入る行為、退去を求められても居座る行為。3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金
- 威力業務妨害罪(刑法234条)・偽計業務妨害罪(同233条)……大声を出す、受付に居座る、電話を占有し続けるなどして業務を妨げる行為。3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
- 信用毀損罪(刑法233条前段)……虚偽の事実を流して会社の経済的信用を傷つける行為。法人の信用も保護の対象です
- 名誉毀損罪(刑法230条)……あなたの私生活上の事実を職場で言いふらす行為。3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
- 脅迫罪(222条)・強要罪(223条)・恐喝罪(249条)……危害を告知する、義務のないことを強いる、金銭を要求するといった行為
ここで実務的に重要なのは、業務妨害や建造物侵入・不退去については、被害を受けているのが会社であり、会社の名義で警察に相談・被害届の提出ができるという点です。
「自分が被害届を出したと相手に知られたら、逆上されるのではないか」という不安から相談をためらう方は多くいます。会社が当事者として動く形であれば、あなたが正面に立たずに事態を進められる場合があります。相手を刺激しにくい進め方を選べるという意味で、これは職場が舞台になったときの数少ない利点です。
※拘禁刑は、2025年6月1日施行の改正刑法により、従来の懲役刑と禁錮刑を一本化した刑罰です。
2025年12月の改正で、勤務先は「援助する側」になった
雇用者が援助の努力義務の主体に加わった
2025年12月10日に公布されたストーカー規制法の改正法により、同年12月30日から、被害者を雇用する者および被害者が就学する学校の長が、被害者への援助に係る努力義務の主体に加えられました(9条3項)。従来、この努力義務の主体は、行為が行われている地域の住民などに限られていました。
改正の背景として、警察庁や文部科学省の資料では、勤務先や学校は自宅と同じように被害者が長時間所在する場所であるうえ、自宅以上に場所を秘匿することが難しく、所在に一定の制約もあるため、待ち伏せや押しかけが行われやすい、という点が挙げられています。まさにこの記事のテーマそのものが、改正の理由になっているわけです。
警察が勤務先に求めている協力の中身
警察庁は、勤務先向けの案内資料の中で、協力してほしい事項として次の4点を挙げています。
- 従業員の被害を知った場合、速やかに警察へ通報すること
- 助けを求められた場合、警察に引き継ぐまで一時的に保護すること
- 被害に遭っている従業員の氏名等の情報管理に配慮すること
- 勤務店舗の異動など、勤務形態に配慮すること
会社に相談する際、この4点はそのまま「お願いしたいこと」の下敷きになります。感情を伝えるのではなく、警察が事業者に求めている協力事項として具体的に依頼するほうが、社内で話が通りやすくなります。政府広報でも、援助の例として社内・対外的な氏名の公表を控えることや、勤務時間・勤務場所の変更が挙げられています。
限界も正しく理解しておく
ただし、この規定は訓示的な性格のもので、勤務先に具体的な措置を義務づけるものではないと説明されています。会社が動いてくれるかどうかは、依然として会社側の判断に委ねられる部分があります。
とはいえ、法律に根拠のある依頼であるかどうかは、社内での受け止められ方を左右します。「個人的なもめごとへの配慮のお願い」ではなく「法改正で事業者に求められている対応」として持ち込めることには、実務上の意味があります。
会社への伝え方と、頼むべきこと
誰に、どこまで伝えるか
まずは直属の上司、または人事・総務の担当者が窓口になります。ハラスメント相談窓口が設置されている場合は、そちらも利用できます。
伝える範囲について悩む方が多いのですが、交際の経緯を細かく説明する必要は必ずしもありません。「以前に交際していた相手から、拒否しているにもかかわらず連絡と来訪が続いている」という程度の説明でも、会社が対応を検討するには足ります。プライベートを詳しく話したくない場合は、そのように伝えて構いません。
伝える内容の型
口頭だけで済ませると、担当者が代わったときに情報が引き継がれません。次の項目をまとめた簡単な書面かメールを残しておくと確実です。
- 誰が(相手の氏名・関係・特徴)
- 何を(電話、来訪、待ち伏せなど行為の内容)
- いつから、どのくらいの頻度で
- こちらが拒否の意思を伝えた事実と、その時期
- 会社にお願いしたいこと(取り次がない、来訪時の対応、勤務形態の配慮など)
現場の対応ルールをあらかじめ決めておく
押しかけや電話は、あなたが不在のときにも起こります。事前に決めておきたいのは次の点です。
- 代表電話に相手から着信があった場合、本人には取り次がないこと
- 来訪時は本人を呼ばず、担当者が対応し、退去を求めること(退去を求めたのに居座れば不退去の問題になります)
- 危険を感じた場合の110番の基準を共有しておくこと
- 出退勤の時間や動線を一時的に変えられないか相談すること
- 社内システムやウェブサイトでの氏名・所属の表示について配慮を求めること
会社に不利な扱いをされないか
事業主は、労働契約法5条により、従業員が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。相談したことを理由に不利益な取扱いを受けることは、本来あってはならないことです。
一方で、「迷惑をかけているから辞めるべきではないか」と自ら考えてしまう方もいます。退職は、住所も連絡先も知られている相手に対しては根本的な解決にならないことが多く、まず検討すべき選択肢ではありません。仮に退職を促されるような場面があれば、応じる前に相談してください。
なお、加害者が社内の同僚や上司である場合の会社側の対応や、企業が整えるべき体制については、当事務所コラム「職場でのストーカーで被害者と企業がとるべき対応を弁護士が解説」で扱っています。
職場だからこそ残せる証拠、消えてしまう証拠
職場が舞台になった場合、自宅では得られない客観的な記録が存在します。ただし、その多くは保存期間が短く、放っておくと自動的に消えます。
- 防犯カメラの映像……上書きされる前に、日時を特定して保存を依頼する
- 入退館記録・受付の来訪記録……来訪日時と滞在の事実が残る
- 代表電話の着信履歴、電話対応メモ……誰がいつ受けたかを含めて記録する
- 同僚が対応した場合のやり取り……記憶が薄れる前に、担当者に簡単なメモを残してもらう
これらは会社の管理下にあるため、あなたが依頼しなければ保全されません。相談の初期段階で、保存をお願いしておくことをおすすめします。
あわせて、自分の側でも、日時・場所・相手の言動・こちらの対応を時系列で記録してください。メッセージや着信履歴は、元のデータを消さずに残したうえで、画面を撮影して二重に保管しておくと安心です。証拠の残し方と、相手を刺激しない接触の断ち方については、「ストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方」で詳しく解説しています。
公的な手続きと、弁護士に依頼できること
警察への相談は、緊急時は110番、急を要しない場合は#9110が窓口です。相談を受けた警察は、行為の内容を確認したうえで、警告(4条)、公安委員会による禁止命令(5条)といった手続きを検討します。2025年12月30日からは、被害者からの申出がなくても警察の職権で警告を出せる制度が設けられており、「自分が申し出たと知られたくない」という方にとって選択肢が広がっています。
ストーカー行為罪の法定刑は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金です。
弁護士に依頼した場合には、次のような対応が考えられます。
- 窓口の一本化……以後の連絡先を弁護士とし、あなたや会社が直接応対しなくて済む状態をつくる
- 接触禁止を求める書面の送付……勤務先への来訪・電話を含めて明確に中止を求める
- 仮処分の申立て……面談強要の禁止などを裁判所に求める手続き。業務への支障が生じている場合には、会社自身が申立人となる形を検討できることもあります
- 警察との連携……証拠を整理して相談に同行し、警告や禁止命令につなげる
- 慰謝料請求……精神的苦痛に対する損害賠償を請求する
すでに警察に相談したものの動いてもらえないと感じている場合の考え方は、「警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができること」で整理しています。
よくあるご質問
Q. 会社に知られたくないのですが、隠したまま解決できませんか。
相手が会社に来ている以上、遅かれ早かれ社内に知られる可能性が高い状況です。むしろ、こちらから先に説明しておいたほうが、事情を知らない同僚が善意で取り次いでしまう事態を避けられます。伝える範囲は必要最小限で構いません。
Q. 相手は「借りていた物を返しに来ただけ」と言っています。
物の受け渡しは、相手と会う口実として使われることがあります。返還が必要なものがあるとしても、勤務先で直接手渡す必要はありません。第三者を介する、宅配便を利用するなど、会わずに済む方法をとってください。受け渡しを口実にした来訪が繰り返されている事実自体、記録に残す価値があります。
Q. まだ一度しか来ていません。相談するには早すぎるでしょうか。
ストーカー行為として刑事罰の対象となるには、つきまとい等が反復して行われたことが必要です。ただし、警察への相談や記録の開始に「早すぎる」ということはありません。一度目の記録が残っているかどうかで、二度目以降の評価が変わることもあります。
Q. 退職すれば収まりますか。
勤務先を離れれば職場での被害はなくなりますが、住所や連絡先を知られている場合、つきまといが続くおそれは残ります。収入を失うことで、その後の対応の選択肢も狭まります。退職を検討する前に、まず取り得る手段を確認することをおすすめします。
おわりに
勤務先への電話や押しかけは、我慢して収まる性質のものではなく、また、あなた一人で対処しなければならないものでもありません。法律は勤務先を保護されるべき場所として位置づけており、2025年末の改正では、会社が被害者を援助する側として明記されました。会社が受けている業務上の被害という切り口も含めれば、あなたが矢面に立たずに動かせる手続きがあります。
「大ごとにしたくない」「相手を刺激したくない」という気持ちから相談をためらう方は多くいらっしゃいます。当事務所では、相手との直接のやり取りを遮断しながら、穏便な解決を目指した対応を行っています。状況の整理だけでも構いませんので、まずはお気軽にご相談ください。


