「警察から電話が来た」|折り返す前に確認したい3つのこと
警察署で「禁止等命令書」を手渡された。あるいは、書面が届いた。そこには、特定の相手に近づかないこと、連絡をしないことが命じられている――。
この記事は、禁止命令を受けた側の方に向けて書いています。禁止命令は、警察から受ける「警告」とは法的な性質がはっきり違い、違反すれば刑事罰の対象になります。一方で、命令書が届いたこと自体で前科がつくわけでもありません。
ここでは、ストーカー規制法の禁止命令について、違反した場合にどの条文でどの刑罰が問題になるのか、有効期間の1年はいつから数えるのか、更新(延長)はどのように行われるのかを、条文と警察庁の解釈運用通達に沿って整理します。
禁止命令とはどのような処分か
刑罰ではなく、公安委員会が行う行政処分
禁止命令は、都道府県公安委員会が行う行政処分です(ストーカー規制法5条1項)。相手方に不安を覚えさせる行為(同法3条に違反する行為)があり、その行為をした人が更に反復するおそれがあると認められるときに、相手方の申出により、または職権で出されます。
刑罰ではないため、禁止命令を受けたこと自体で前科がつくわけではありません。ただし、警告と決定的に違うのは、命令に違反すると罰則の対象になる点です。警告のほうは、それに従わなかったこと自体を処罰する規定が置かれていません。
警告を経ていなくても出すことができる
「まず警告があり、それを無視すると禁止命令が出る」と説明されることがありますが、条文上、警告を経ていることは禁止命令の要件になっていません。事案の内容によっては、警告を経ずに禁止命令が出ることもあります。逆に、警告を受けた後に何もしていなければ、当然に命令へ進むわけでもありません。
命令には2種類あり、罰則の対象は一方だけ
見落とされやすい点ですが、5条1項が定める命令の内容は2種類あります。
- 1号の命令=更に反復して当該行為をしてはならないこと
- 2号の命令=更に反復して当該行為が行われることを防止するために必要な事項
2号の命令は、1号の命令の実効性を支えるための補充的なものと位置づけられています。警察庁の解釈運用通達は、その例として、送られた写真や画像データの記録媒体を廃棄させる措置を挙げています。
そのうえで通達は、1号の命令は罰則の対象になるが、2号の命令は罰則の対象になっていないと明記しています。条文の側から見ても、罰則を定める19条が「禁止命令等(第5条第1項第1号に係るものに限る。以下同じ。)」と定義しており、この定義が20条にも及ぶ構造になっています。
受け取った命令書に何が書かれているかによって、違反したときの意味は変わります。まず命令書の記載を正確に確認することが出発点です。
違反した場合の刑罰|3つの条文の読み分け
法定刑の整理
ストーカー規制法の罰則は、次のように整理されています。なお、2025年6月1日に懲役と禁錮が「拘禁刑」に一本化されたため、現在は拘禁刑と表記されます。古い解説では「懲役」のままになっていることがあります。
| 条文 | どのような場合か | 法定刑 |
|---|---|---|
| 18条 | ストーカー行為をした(命令の有無を問わない) | 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
| 19条1項 | 命令を受けた後、命令に係る行為を反復した | 2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金 |
| 19条2項 | 命令の対象になった行為と通じて評価するとストーカー行為が成立する | 2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金 |
| 20条 | 上記のほか、禁止命令等に違反した | 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
「一度連絡しただけで2年」ではない理由
19条が重い刑を定めているのは、ストーカー行為をした場合だからです。ストーカー行為とは、つきまとい等または位置情報無承諾取得等を反復してすることをいいます(2条4項)。一回きりの行為は、それ自体ではストーカー行為に当たりません。
反復に至らない単発の違反は、20条の対象として整理されます。通達も、20条の「前条に規定するもののほか」という書き出しについて、19条が適用される場合に同じ事実へ重ねて20条を適用することはできないという趣旨だと説明しています。
もっとも、これは「1回なら安全」という話ではありません。1回の接触が2回目、3回目につながれば19条の領域に入りますし、行為の内容そのものが脅迫罪や住居侵入罪に当たれば、そちらで立件されます。
違反の認定には「原因となった行為の反復」という枠がある
通達には、実務上重要な限定が置かれています。禁止命令違反の認定に当たっては、その違反に係る行為が、禁止命令の原因となった行為の反復であると評価できる場合に違反を認定するという記載です。
命令はもともと、特定の行為をやめさせるために出されています。したがって、命令書に書かれた行為とまったく無関係な事柄が、そのまま命令違反として扱われるわけではありません。違反が成立するかどうかは、命令の原因となった行為と、その後の行為との関係で判断されます。
この点は、身に覚えのない申告を受けたときや、偶然の接触を違反だと言われたときに、争点になり得るところです。
有効期間は1年|起算日はいつか
「命令をした日」から1年
禁止命令の効力は、命令をした日から起算して1年です(5条8項)。この1年が経過すれば、後述する延長がされない限り、命令の効力は失われます。
問題は「命令をした日」がいつかです。通達は、これを禁止等命令書を交付するなどして、その内容を了知させた日としています。命令の決裁がされた日ではなく、こちらが内容を知り得る状態になった日が起算点だということです。
受け取りを拒んでも効力は生じる
命令書の交付は、直接手渡すことが原則とされています。ここで通達がはっきり書いているのは、命令書を提示されたにもかかわらず受け取らなかった場合でも、命令は既に実施されており、効力は生じるという点です。
「受け取らなければ始まらない」という理解は誤りです。受領を拒んでも期間は進みますし、その後の行為は違反として評価され得ます。
口頭で告げられた場合
緊急を要して命令書を交付するいとまがないときは、口頭で命令することができます。この場合、後から交付される命令書の日付は、口頭で命令が行われた日になります。通達は、口頭による命令を、既に決裁がされていて、まさに行為が行われようとしているのを現認した場合などに限る運用を求めています。
更新(延長処分)の仕組み
1年ごとに延長でき、回数の上限は定められていない
公安委員会は、有効期間の経過後も命令を継続する必要があると認めるときは、相手方の申出により、または職権で、有効期間を1年間延長することができます(5条9項)。同項は、延長した期間の経過後に更に延長する場合も同様と定めており、条文上、延長の回数に上限は設けられていません。
一般には「更新」と呼ばれますが、法律上の名称は「禁止命令等有効期間延長処分」です。延長処分を行うのは、元の禁止命令を出した公安委員会とされています。
延長にも意見を述べる機会がある
5条10項は、聴聞に関する2項の規定を延長処分にも準用しています。つまり、延長についても、原則として事前に意見を述べる機会が設けられます。通知が来たときに何も述べずに終えるか、事情を説明するかで、判断の材料は変わり得ます。
何を見て延長が判断されるのか
通達は、「継続する必要があると認めるとき」の判断について、次の事情を総合的に勘案するとしています。
- 相手方の不安の状況
- 行為者のこれまでの行為
- 当該相手方以外の者へのつきまとい等の状況
3つ目は見落とされがちです。命令の相手方以外の人に対する行為も、延長の判断材料になり得ます。命令に書かれた相手にさえ近づかなければよい、という理解では足りません。
手続の中で認められている機会
原則は聴聞、緊急時は事後の意見の聴取
禁止命令を出すときは、原則として聴聞が行われます(5条2項)。行政手続法の一般的な基準では弁明の機会の付与で足りる場面ですが、この法律は、より慎重な聴聞を行うこととしています。
一方、緊急の必要があると認められるときは、聴聞を経ずに命令を出したうえで、命令をした日から起算して15日以内に意見の聴取を行うことになっています(5条3項)。この意見の聴取では、命令をした時点で3条に違反する行為があったか、反復のおそれが認められたか、緊急の必要があったかが審理されます。
命令書には不服申立ての教示がある
通達は、禁止等命令書の交付に当たり、行政不服審査法82条1項に基づく審査請求ができる旨と、行政事件訴訟法46条1項に基づく取消訴訟を提起できる旨を、命令書の2頁目を使って書面で教示するよう求めています。延長処分書についても同じ扱いです。
禁止命令は行政処分ですから、内容に納得できない場合には、これらの手続で争う余地が残されています。いずれの手続にも期限があるため、命令書に記載された教示の内容を早い段階で確認してください。
名義が「公安委員会」でないことがある
禁止命令は公安委員会の権限ですが、法17条により、その事務を警察本部長や警察署長に行わせることができます。通達は、通常時の禁止命令と延長処分については警察本部長が行うことを基本とし、緊急時は警察署長も行えるとしています。書面の名義が公安委員会でなくても、法律上の性質は変わりません。
刑事事件は別のルートで並行し得る
禁止命令が出たことで、刑事手続がいったん止まるわけではありません。通達は、警告や禁止命令などの行政措置は刑事罰とは目的が異なるとしたうえで、犯罪捜査と並行して行政措置を行うこと、またはその逆は当然に可能だと明記しています。
さらに通達は、行政措置を優先する考え方を排除し、危険性や切迫性に応じて、まず検挙によって行為を止めることを求めています。したがって、次のような整理になります。
- 命令が出る前でも、行為の内容によっては逮捕されることがある
- 命令違反に当たらなくても、脅迫・住居侵入・不退去・器物損壊などの罪で立件されることがある
- 反復した行為は、命令の有無にかかわらず18条のストーカー行為として扱われ得る
なお、ストーカー行為罪は2016年の法改正で非親告罪となっており、告訴がなくても起訴することができます。
前科・記録・資格への影響
禁止命令を受けただけでは前科はつきません。前科は、有罪判決が確定して初めて生じるものです。一方で、命令に伴って生じる法律上の効果もあります。
銃砲刀剣類所持等取締法5条1項15号は、ストーカー規制法の警告、5条1項の命令、9項の延長処分を受けた日から起算して3年を経過していない者を、銃砲刀剣類の所持許可の欠格事由としています。延長処分を受けた場合、この3年は延長処分の日から数え直されることになります。狩猟や競技で銃を扱う方には、実際上の影響があります。
また、警告・禁止命令・延長処分といった行政措置の情報は、警察の内部で管理されます。これは前科・前歴とは別のもので、就職などの場面で第三者に開示される性質のものではありません。
命令を受けた後に避けたい行動
- 相手に直接連絡して謝罪や説明をしようとする
- 共通の知人や家族を通じて言葉を伝えてもらう
- 相手に命令の取下げや申出の撤回を求める
- 相手のSNSやアカウントを見に行く
- 以前に設定した位置情報の共有や紛失防止タグをそのままにしておく
- やり取りの履歴やデータを消してしまう
特に、直接の連絡と第三者を介した伝達は、本人としては解決のつもりでも、命令違反や反復として評価されやすい行動です。位置情報の共有機能や紛失防止タグは、2021年と2025年の法改正で規制の対象に加えられており、設定を放置しているだけでも問題になり得ます。
履歴やデータの削除は、後から自分の説明を裏づける材料を失うことにつながります。消すのではなく、手元に残したうえで、相手との接触を物理的に断つことが基本です。
期間の満了に向けてできること
1年の有効期間は、何もしなければ自動的に更新されるものではありません。延長には、継続の必要性の判断と、原則として聴聞の手続があります。この期間をどう過ごすかが、次の判断に影響します。
- 命令書の記載を確認し、禁止されている行為の範囲を正確に把握する
- 連絡手段を物理的に整理する(連絡先の削除、アカウントの整理、共有設定の解除)
- 生活圏が重なっている場合は、通勤経路や利用する店舗を見直す
- 命令が出た後の自分の行動について、記録を残しておく
- 聴聞や意見の聴取の通知が来たときに、何を述べるかを整理しておく
延長の判断材料に「行為者のこれまでの行為」が含まれている以上、命令が出てからの経過そのものが評価の対象になります。
弁護士に相談する意味
この種の事案で弁護士に依頼する実際的な意味は、大きく3つあります。
1つ目は、窓口を移すことです。本人が相手に接触せずに済む形をつくること自体が、違反や反復と評価される事態を避けることにつながります。
2つ目は、聴聞や意見の聴取、審査請求といった手続で、何をどう述べるかを整理することです。命令の要件は、3条に違反する行為があったことと、更に反復するおそれが認められることであり、争点はここに絞られます。
3つ目は、刑事事件として動き出した場合の対応です。当事務所では24時間の相談受付に対応しており、初回の相談は無料です。身柄拘束が生じた場合の接見にも、即日で対応できる体制をとっています。
よくある質問
Q. 1年が経てば自動的に終わりますか
延長処分がされなければ、有効期間の経過によって効力は失われます。ただし、延長は相手方の申出がなくても職権で行うことができます。期間が近づけば自動的に終わると考えるのは早計です。
Q. 相手が許してくれれば命令は取り消されますか
法律に、相手方の申出による取下げや撤回の規定はありません。命令は公安委員会の判断で出されるものであり、当事者の合意で消えるものではありません。また、相手に働きかけて申出を撤回させようとする行為自体が、新たな問題になり得ます。
Q. 引っ越せば効力は及ばなくなりますか
命令の効力は人に対して及ぶもので、地域によって切れるものではありません。加えて2025年12月30日施行の改正で、命令を行うことができる公安委員会の範囲が広がり、相手方が違反行為の当時に住んでいた場所を管轄する公安委員会も主体に加えられました。転居によって手続から外れるという発想は成り立ちません。
Q. 命令書を受け取らなければ効力は生じませんか
生じます。通達は、命令書を提示されたにもかかわらず受け取らなかった場合でも、命令は既に実施され、効力が生じると明記しています。受領を拒んでも期間は進み、その後の行為は違反として評価され得ます。
まとめ
- 禁止命令は公安委員会の行政処分で、受けただけでは前科はつかないが、違反すると罰則の対象になる
- 罰則の対象は1号の命令であり、補充的な2号の命令には罰則の定めがない
- 反復してストーカー行為に至った場合が19条(2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金)、それ以外の違反が20条(6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)
- 違反の認定は、命令の原因となった行為の反復と評価できるかという枠の中で行われる
- 有効期間は1年で、起算日は内容を了知させた日。受け取りを拒んでも効力は生じる
- 延長は1年ごとで回数の上限はなく、原則として聴聞の手続がある。相手方以外への行為も判断材料になる
- 命令が出ていても、刑事手続は別に並行し得る
禁止命令が出ている状況は、対応を誤ると刑事事件に移りやすい局面です。何が禁止されているのかを正確に読み取り、接触の経路を断ったうえで、手続として認められた機会を使うこと。この2つが結果を分けます。判断に迷う段階で、早めにご相談ください。


