引っ越したのに住所を突き止められた|居場所を知られない対策

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

 引っ越して住所を変えたのに、相手が新しい住所を知っていると分かる出来事が起きた——。手紙が届いた、自宅の近くで姿を見た、自宅周辺が写った写真がSNSに上がっていた。こうしたご相談は、性別を問わず寄せられます。

 このとき最初に考えたくなるのは「もう一度引っ越すべきか」ですが、順番としては「どの経路で住所が伝わったのか」を先に置くことをおすすめしています。経路を塞がないまま転居を重ねると同じことが繰り返され、費用と生活の基盤だけが削られていくおそれがあるためです。

 このコラムでは、転居先が伝わる経路の整理、経路ごとに使える手続き、そして住所を知られてしまった後の初動について解説します。

この記事の要点

  • 再転居を検討する前に、「生活の中の経路」「公的記録の経路」「人を介した経路」の3つに分けて漏れた経路を点検する
  • 公的記録には住民票以外にも、不動産の登記簿、自動車の登録事項、裁判の書類という経路がある
  • 2026年4月から住所変更登記が義務化された一方、登記簿上の住所を非公開にする申出の制度が用意されている
  • 2026年3月から、警察が探偵業者などに対して加害者への情報提供を行わないよう求められるようになった
  • 住所を知られた事実は、警告や禁止命令の判断材料になり得るため、態様を記録しておく

 なお、身の危険を感じる状況では110番通報をご検討ください。急を要しないものの相談したい場合は、警察相談専用電話#9110が利用できます。

「なぜ知られたのか」を先に特定する

 住所が伝わる経路は、大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。

生活の中の経路

 日常生活の情報から新住所が推測される場面です。SNSやフリマアプリの投稿(背景の建物、近隣の店名、写真に残った位置情報)、郵便物の転送(転送は無期限ではないため、旧住所に届く郵便物から手がかりが残る場合があります)、通信契約や公共料金の名義が相手方またはその家族になっている場合の請求書、通販・宅配の伝票、旧居に残した書類、共通の知人や通院先を通じた伝達、通勤経路や生活圏を変えていないことによる遭遇などが挙げられます。

 位置情報アプリや紛失防止タグを使った追跡が疑われる場合は、経路がまったく異なります。この点は「GPS・紛失防止タグで居場所を把握される」を扱ったコラムをご参照ください。

公的記録の経路

 住民票のほか、不動産の登記簿、自動車の登録事項、裁判所に提出された書類など、一定の手続きを経れば第三者が確認できる記録から伝わる経路です。ここは対策が制度化されている領域で、後ほど個別に説明します。

人を介した経路

 相手方が自分で調べるのではなく、探偵業者などの第三者に調査を依頼する経路です。近年、法律上の対応が新しくなった部分があるため、独立して取り上げます。

棚卸しの手がかり

 どの情報が守られるべきかを考えるうえで参考になるのが、警察庁が探偵業者向けに示している情報の範囲です。そこでは、氏名・住所のほか、通学先、勤務先、避難先、通勤・通学の経路、電話番号、メールアドレス、SNSのアカウント名、使用車両の車両番号、駐車場所などが挙げられています。

 自分の場合はどの項目が相手方に知られているか、あるいは推測され得るかを一覧にしてみると、塞ぐべき経路が見えやすくなります。

公的記録から住所が伝わる経路と、その塞ぎ方

住民票・戸籍の附票

 住民基本台帳事務におけるDV等支援措置を申し出ることで、住民票の写しの交付や住民基本台帳の一部の写しの閲覧、戸籍の附票の写しの交付などを制限できます。対象となるのは、配偶者からの暴力の被害者、ストーカー行為等の被害者、児童虐待を受けた児童、およびこれらに準ずる方です。

 申出の手順、期間(原則1年で更新が必要)、そして「第三者による正当な目的の請求は制限できない」「住民登録のない居所への避難中は受け付けられない例がある」といった限界については、「交際相手から避難したい|安全な別居・避難と保護の手続き」で詳しく扱っています。健康保険情報の閲覧制限の届出についても同コラムをご覧ください。

 支援措置を申し出ているのに住所を知られた場合、この措置の対象外の経路から伝わった可能性を検討することになります。以下の3つは、その代表例です。

不動産の登記簿

 持ち家がある方に関わる経路です。不動産の登記事項証明書は誰でも取得できるため、そこに記載された住所から居所が伝わることがあります。

 そして2026年4月1日から、所有者の住所や氏名に変更があった場合、変更の日から2年以内に変更登記を申請することが義務づけられました(不動産登記法76条の5)。施行日より前の変更も対象で、この分は2028年3月31日までに登記する必要があります。正当な理由なく怠った場合は5万円以下の過料の対象となり得ます。つまり、放置するという選択肢が取りにくくなっています。

 これと対になる制度として、2024年4月1日施行の不動産登記法119条6項があります。登記記録に記録されている方が申し出ることで、実際の住所に代えて「公示用住所」を登記記録に記録してもらえる仕組みです。ストーカー行為等の被害を受け更に反復して被害を受けるおそれがある場合、配偶者からの暴力の被害者で更なる暴力を受けるおそれがある場合などが要件とされ、同居している方に被害が及ぶおそれがある場合も含まれます。

 申出は全国のどの登記所に対してもできます。必要な書面は、申出書や印鑑証明書のほか、被害の日時・場所・態様と住所公開により更に被害を受けるおそれの理由を記載した陳述書、そして原則として裏付けとなる書面です。裏付けとしては、市区町村による支援措置決定の通知書、ストーカー規制法に基づく警告等の実施書面、配偶者暴力相談支援センター等の証明書といった公的書面、または医師の診断書や撮影時期の明らかな写真などが想定されています。書面が不十分な場合、登記官から出頭を求められることもあります。

 なお法務局を公示用住所の提供者とする場合、受け取ってもらえるのは文書に限られ、裁判所からの特別送達などは扱われない点にご注意ください。手続きの詳細は法務省のウェブサイトに掲載されており、司法書士に相談する方法もあります。

 なお会社の代表者の方については、2024年10月1日から、株式会社の代表取締役等の登記簿上の住所を行政区画までの記載にとどめる申出ができるようになっています。

自動車の登録事項

 「ナンバープレートを見られたら住所が分かってしまうのではないか」というご心配をよく伺いますが、登録事項等証明書の交付請求には、自動車登録番号と車台番号の下7桁の双方を記載する必要があり、ナンバーだけでは請求できません。さらに、具体的な請求事由の記載と、請求書の氏名・住所と一致する官公庁発行の本人確認書面の窓口での提示も求められます。個人情報保護やストーカー対策の観点から、請求事由の内容によって交付されない運用がとられています。

 したがって、ナンバーを見られただけで住所が伝わるとは考えにくい一方、車台番号が記載された書類を相手方が見られる状況にあった場合には、経路として意識しておく必要があります。軽自動車についても、検査記録事項等証明書という同様の制度があります。

裁判所に提出する書類

 慰謝料請求などの民事手続きを自分から起こす場合、原則として訴状に住所を記載するため、相手方に住所が伝わります。逆に相手方から訴えられた場合も、答弁書などの書類を通じて伝わり得ます。

 この点については、2023年2月20日から住所・氏名等の秘匿制度が導入されています(民事訴訟法133条から133条の4、家事事件手続法38条の2、民事調停法21条の2)。住所や氏名が当事者に知られることで「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれ」があることを疎明できれば、裁判所の決定により、実際の住所・氏名に代わる代替事項を用いて手続きを進められます。疎明の資料としては、診断書、被害届の受理に関する資料、行政の被害者支援を受けていることが分かる資料などが考えられます。

 実務上重要なのは、秘匿決定が出れば自動的にすべてが守られるわけではないという点です。決定によって相手方が当然に閲覧できなくなるのは秘匿事項の届出書面であり、その後に提出する主張書面や証拠に住所を推知させる情報が残っていれば、そこから伝わるおそれがあります。自宅や職場の近くにある店舗・医療機関の名称や住所、子どもの学校名、家族の姓などが典型例で、必要に応じてマスキングをしたうえで提出することになります。

 また、代理人弁護士を立てる場合、訴状や委任状の住所欄に代理人の事務所所在地を記載する取扱いを裁判所に説明して進める方法もあります。

探偵業者などを介して調べられた場合

2026年3月から使えるようになった仕組み

 ストーカー規制法では、ストーカー行為等をするおそれがある者であることを知りながら、その者に相手方の情報を提供することが禁止されています。これに加えて2026年3月10日から、警察本部長等が、情報を提供するおそれがある者に対し、提供先がストーカー行為等をするおそれがある者であることを通知して、情報提供を行わないよう求めることができるようになりました。

 依頼を受けた側が事情を知らなければ調査を進めてしまう可能性があるため、警察から先に伝える仕組みが設けられた、という位置づけです。

実際に提供された例

 この規定については、2026年6月、警視庁が都内の探偵事務所の代表者に対し、依頼者への情報提供を行わないよう通知・要請したことが公表されています。全国初の適用と報じられました。

 報道されている経緯は、約10年前に交際関係を解消した相手方の男性が、金銭トラブルの解決という理由を挙げて女性の住所などの調査を依頼し、伝えられた情報をもとに脅迫的な内容を含む手紙を送ったというものです。女性からの相談を受けて男性は脅迫の疑いで逮捕され、釈放後に禁止命令が出されています。

 この例が示しているのは、「調査を依頼する理由が一見もっともらしく整えられている場合がある」ということと、「警察に相談しておくことが、この仕組みを動かす前提になる」ということです。相手方の行動に不安を感じている段階で相談しておく実益は、以前より大きくなっていると言えます。

相手が弁護士に依頼した場合

 「相手が弁護士に頼めば自分の住所は簡単に調べられてしまうのではないか」というご不安も少なくありません。

 弁護士は、職務上請求や弁護士会照会(弁護士法23条の2)といった方法を用いることがありますが、これらは受任している事件について必要かつ相当と認められる範囲で行われるものであり、住所を知りたいという目的だけで利用できるものではありません。

 また、住民基本台帳の支援措置を申し出ている場合、加害者側の依頼を受けた弁護士等による請求についても、請求の理由が厳格に審査される取扱いとなっています。

 もっとも、相手方に正当な請求権があり、それを実現するために訴訟を提起するという場面では、手続きの中で住所が明らかになる可能性は残ります。この場合に備えるのが、前述の秘匿制度です。

住所を知られた後にとる対応

「知っている」と分かる言動を記録に残す

 住所を知られたことが分かる出来事は、それ自体が重要な記録になります。ストーカー規制法上のつきまとい等には、住居等の付近で見張りをする行為や押しかける行為が含まれ、この「住居等」には現在の住まいのほか、勤務先、学校、現に所在する場所などが含まれます。

 記録の際は、回数だけでなく態様を残すことが役に立ちます。日時、場所、滞在していた時間、立っていた位置、こちらがどう対応したか、送られてきた文面の全体、封筒の消印などです。届いた手紙や物は、不快であっても保管したうえで撮影しておくことをおすすめします。

 証拠の具体的な残し方については、「ストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方」で詳しく解説しています。

警察への相談

 まずは最寄りの警察署または#9110への相談が入口になります。転居している場合は、現住所を管轄する警察署に相談しておくと、その後の対応がとりやすくなります。

 なお2025年12月30日から、被害者からの申出がなくても警察の職権で警告ができる仕組みが設けられました。自分が前面に立つことに抵抗がある方にとって、選択肢が広がった部分です。警告から禁止命令に至る流れや、それぞれの効果については「SNS・LINEの執拗な連絡はストーカーになる?警告・禁止命令の流れ」をご参照ください。相談したものの動いてもらえないと感じる場合の考え方は、「警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができること」で扱っています。

再転居をどう判断するか

 住所を知られた以上、転居を検討するのは自然な発想です。ただし、経路を特定せずに動くと同じ結果になりかねません。判断の順序としては、経路の点検と塞ぎ方の手当てを済ませたうえで、住まいの防犯性(共用部の管理状況、階数、動線)や生活圏を変えられるかを検討していくことになります。

 現在の住まいに留まる場合も、玄関周りの表示、宅配の受け取り方法、帰宅時間の一定化を避けるといった生活面の工夫と、法的手続きを並行させる形が現実的です。

転居にかかった費用

 つきまといなどの行為によって転居せざるを得なくなった場合、慰謝料とあわせて転居費用などの財産的損害を請求する余地はあります。ただし、その行為と支出との間に相当な因果関係が認められるかが問題となり、認められる範囲は事案によって異なります。領収書や見積書は保管しておいてください。

 なお、相手方に請求すること自体が接触の機会を生むため、進め方は慎重に検討する必要があります。代理人を通じて窓口を一本化する方法については、接触遮断を扱った各コラムをご参照ください。

よくあるご質問

Q. 支援措置を申し出ていたのに住所を知られました。なぜでしょうか。

 支援措置が制限するのは住民票の写しの交付などであり、それ以外の経路は対象外です。不動産の登記簿、裁判の書類、生活の中の情報など、別の経路から伝わった可能性を順に検討することになります。また支援措置には更新手続きが必要で、期間が切れていた可能性もあります。

Q. 車のナンバーを知られています。住所を調べられてしまいますか。

 登録事項等証明書の請求にはナンバーと車台番号の下7桁の双方が必要で、請求事由の記載と本人確認も求められます。ナンバーだけで住所が伝わるとは考えにくい制度設計です。ただし車台番号が分かる書類を見られる状況にあった場合は、経路として検討する必要があります。

Q. 相手に訴えられそうです。住所を出さずに対応できますか。

 住所・氏名等の秘匿制度の利用を検討できます。ただし要件について疎明が必要で、決定が出た後も提出書類に推知情報が残らないよう注意が必要です。早い段階で弁護士にご相談ください。

Q. 探偵に調べられたようです。探偵業者に責任を問えますか。

 事情を知りながら情報を提供した場合には法律上の問題が生じ得ますが、責任追及の可否は依頼の経緯や調査の態様によって異なります。まずは警察への相談を通じて、情報提供を止める仕組みにつなげることが優先されるケースが多いです。

Q. 相手が家族や共通の知人から聞いた場合はどうすればよいですか。

 伝えた側に悪意がない場合も少なくありません。誰にどこまで伝えているかを整理し、住所を知らせる範囲を絞ることが現実的な対応になります。勤務先や学校については、2025年12月30日から、雇用者や学校長が援助に係る努力義務の主体に加えられています。

相談窓口

  • 緊急時:110番
  • 警察相談専用電話:#9110
  • 配偶者暴力相談支援センターへの案内:#8008
  • DV相談+:0120-279-889(24時間)

 住所を知られてしまった状況では、生活そのものを組み替える判断が必要になることもあり、一人で経路を洗い出すのは負担が大きい作業です。どこから伝わったかによって使える手続きが変わりますので、状況を整理する段階からご相談いただければと思います。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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