【ストーカートラブル】禁止命令の前の聴聞に呼ばれた|聴聞で述べること
つきまといや連絡がようやく止まり、落ち着いた日々が戻ってきた。けれども、当時の恐怖や生活への影響を振り返るうちに「やはり相手の責任をきちんと問いたい」と考えるようになる方は少なくありません。一方で、「もう被害はないのに今さら告訴できるのか」「時間が経ちすぎていて受け付けてもらえないのではないか」と迷う声もよく耳にします。
この記事では、ストーカー被害がおさまった後に告訴を考えるときの期限の考え方、警察が告訴を受ける際に見るところ、告訴の前に考えておきたいこと、刑事手続以外の選択肢を整理します。
この記事は2026年10月時点の法令にもとづいて書いています。2025年6月の刑法改正により、懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されているため、刑罰の表記は拘禁刑で統一しています。
被害がおさまった後でも、告訴をすること自体はできます
結論からお伝えすると、被害が止まっていることだけを理由に告訴ができなくなるわけではありません。告訴は、犯罪の被害を受けた方が捜査機関に事実を申告し、処罰を求める意思を示す手続です。被害が今も続いているかどうかは、告訴の条件にはなっていません。
インターネット上では「ストーカー規制法違反は親告罪なので、犯人を知ってから6か月以内に告訴しなければならない」という説明を見かけることがあります。しかし、これは以前の制度の説明です。ストーカー規制法違反は、2017年1月に施行された法改正で非親告罪になりました。告訴がなくても検察官は起訴でき、親告罪に設けられている「犯人を知った日から6か月」という告訴期間(刑事訴訟法235条)も、現在のストーカー規制法違反には当てはまりません。
ただし、非親告罪になったからといって、告訴の意味がなくなったわけではありません。告訴状を出すことで、被害の全体像と処罰を求める意思を捜査機関にはっきり伝えることができます。被害が止まってから時間が経っている場合ほど、この「意思を示す」ことの意味は大きくなります。
期限として気にすべきなのは「公訴時効」です
告訴期間の制限がない代わりに、意識しておきたいのが公訴時効です。公訴時効が過ぎると、検察官は起訴できなくなります。告訴をしても処罰につながらなくなるため、実際上はこれが期限になります。
ストーカー規制法違反の公訴時効は3年
ストーカー行為をした場合の法定刑は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、禁止命令に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金です。いずれも公訴時効は3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。
時効はいつから数えるのか
公訴時効は、犯罪行為が終わった時から進みます(刑事訴訟法253条1項)。ストーカー行為は、つきまといや連絡を繰り返すことで成り立つ罪であり、一連の行為をまとめて一つの罪として扱うのが一般的です。そのため、多くの場合は最後の行為があった時から数えることになると考えられます。
「被害が止まった時期」は、時効の数え始めを考えるうえで大事な手がかりになります。最後に連絡が来た日、最後に姿を見かけた日を、記録から確かめておくことをおすすめします。なお、公訴時効は相手の名前が分かっているかどうかとは関係なく進みます。
ストーカー規制法以外の罪にあたる場合
つきまといに伴って、脅迫や住居への立ち入り、物を壊すといった行為があった場合は、別の罪として告訴を考えることもあります。罪によって時効の長さや、親告罪かどうかが異なります。
| 罪名 | 公訴時効 | 告訴の位置づけ |
|---|---|---|
| ストーカー規制法違反 | 3年 | 告訴がなくても起訴できる |
| 脅迫罪 | 3年 | 告訴がなくても起訴できる |
| 住居侵入罪 | 3年 | 告訴がなくても起訴できる |
| 器物損壊罪 | 3年 | 親告罪(犯人を知った日から6か月以内の告訴が必要) |
| 名誉毀損罪 | 3年 | 親告罪(犯人を知った日から6か月以内の告訴が必要) |
| 傷害罪 | 10年 | 告訴がなくても起訴できる |
器物損壊や名誉毀損のように親告罪にあたる行為は、公訴時効とは別に6か月の告訴期間があります。被害が止まってから半年以上経っている場合は、この点も含めて確認が必要です。どの罪にあたり得るかは行為の内容によって変わるため、一つの出来事を複数の観点から見直すことが大切です。
被害が止まった後の告訴で、警察が見ているところ
告訴は法律上の権利ですが、実際の窓口では、提出の段階で内容をよく確認されます。被害が止まっている事案では、次のような点が確かめられることが多いと考えられます。
- いつ、どこで、どのような行為があったかを具体的に示せるか。
- メッセージ、着信履歴、写真、日記などの客観的な記録が残っているか。
- 最後の行為からどのくらい時間が経っているか。
- 警察の警告などを受けて止まったのか、それとも理由が分からないまま止まったのか。
- 被害が止まった今、処罰を求める理由をどう説明できるか。
弁護士ドットコムにも、「警察の警告を受けて被害がなくなったが、1年ほど経った今から告訴したい」という相談が寄せられています。その相談では、警察から「受理しても立件するかどうかは分からない」と言われたことが書かれていました。告訴が受理されることと、相手が起訴されて処罰されることは別の段階であり、事案ごとに判断される点は押さえておく必要があります。
「今は被害がないのに」と言われたとき
窓口で「もう被害は止まっているのだから」と言われると、告訴そのものを諦めてしまいがちです。しかし、被害が止まったことは、過去の行為がなかったことを意味しません。当時の恐怖で外出を控えた、引っ越しを余儀なくされた、体調を崩して通院したといった事情があれば、処罰を求める理由として具体的に伝えることができます。
口頭での説明だけで伝わりにくい場合は、時系列の一覧や告訴状の形に整えて持参すると、話が進みやすくなることがあります。
告訴する前に考えておきたいこと
被害が落ち着いている時期に告訴をすると、相手が再び動き出すきっかけになるおそれもあります。告訴を決める前に、次の点を考えておくことをおすすめします。
相手が再び接触してくる可能性
捜査が始まると、相手は警察から事情を聞かれることになります。それを機に、怒りや不満を被害者に向けてくることも考えられます。告訴と並行して、警察に安全面の相談をしておく、相手に知られていない連絡先や住所を確保しておく、といった備えを整えておくと安心です。
相手に個人情報が伝わる可能性
刑事手続が進むと、記録や裁判の中で住所や氏名などが相手に伝わるのではないかと心配される方もいます。被害者の個人情報を相手に知られないようにする仕組みも整えられてきていますが、どこまで秘匿できるかは手続の段階や事案によって異なります。転居をしている場合などは、告訴の前に必ず確認しておきたい点です。
手続にかかる負担
告訴が受理されると、事情聴取に応じたり、記録を提出したりする場面が出てきます。被害当時のことを何度も思い出して話す必要があるため、気持ちの面でも負担がかかることがあります。どのようなことを聞かれるのかは、【ストーカートラブル】被害届を出した後の事情聴取|何を聞かれるのかで詳しく解説しています。
また、相手の側から弁護士を通じて謝罪や示談を申し入れてくることもあります。示談に応じるかどうかは被害者の自由ですが、どのような条件であれば受け入れられるのかを、あらかじめ考えておくと落ち着いて判断できます。
時間が経った被害を告訴するときの準備
被害が止まってから時間が経っているほど、記憶だけでは事実を正確に伝えにくくなります。告訴の前に、次の順で準備を進めると整理しやすくなります。
- 手元に残っているメッセージ、着信履歴、写真、動画、手紙などを集め、元のデータを消さずに保存する。
- 日記やメモをもとに、日時・場所・行為の内容を時系列の一覧にまとめる。
- 最後の行為がいつだったかを、記録で確かめられる形にしておく。
- 警察に相談したことがある場合は、相談した日付と警察署を書き出し、必要に応じて相談記録の開示を求める。
- 通院した場合は診断書を取り寄せ、被害が生活に与えた影響を書き出す。
警察に以前相談した記録は、被害が当時から続いていたことを示す材料になります。取り寄せの手順は【ストーカートラブル】警察への相談記録を手元に取り寄せる|開示請求の手順と黒塗りの読み方をご覧ください。
刑事手続以外にとれる手段
被害が止まっている場合、「相手を処罰してほしい」というよりも「受けた損害を償ってほしい」「二度と近づかないと約束させたい」という気持ちが強い方もいます。目的によっては、刑事告訴以外の手段のほうが合っていることもあります。
慰謝料などの損害賠償を求める
ストーカー行為によって受けた精神的な苦痛や、引っ越し費用、通院費などは、民事上の損害賠償として相手に求められる場合があります。民事の請求にも時効があり、損害と相手を知った時から3年、行為の時から20年が基本です。心身の不調について治療を受けている場合などは、扱いが変わる余地もあります。請求できる項目は【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立てで解説しています。
接触しない約束を書面で取り交わす
弁護士を代理人として相手と交渉し、今後接触しないこと、約束を破った場合の違約金などを定めた合意書を取り交わす方法もあります。刑事手続に比べて相手との関係を早く区切れる場合がある一方、相手が交渉に応じるかどうかは事案によります。
再開に備えて記録を残しておく
今は告訴まで考えていなくても、記録を整理しておくことには意味があります。時間が経ってからつきまといが再開したとき、以前の記録があれば、警察に被害の継続性を伝えやすくなります。詳しくは【ストーカートラブル】数年ぶりにつきまといが再開した|以前の記録を生かすをご覧ください。
弁護士に相談することでできること
被害が止まった後の告訴は、時効の確認、どの罪にあたり得るかの検討、記録の整理と、判断しなければならないことが多くあります。弁護士に相談すると、告訴状の作成や警察とのやり取りを任せられるほか、刑事と民事のどちらを優先するか、両方を進めるかといった方針を一緒に考えることができます。
被害届と告訴のどちらを選ぶかについては被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶ、弁護士に依頼した場合の変化については【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で解説しています。
よくあるご質問
1年前に警察の警告で被害が止まりました。今から告訴できますか
最後の行為から3年以内であれば、ストーカー規制法違反として告訴を検討できます。ただし、警告によって被害が止まっていることは、警察が対応の必要性を判断するうえで考慮されることがあります。当時の記録と、現在も処罰を求める理由を整理したうえで相談することをおすすめします。
当時は相手が誰か分からなかった被害も告訴できますか
相手が特定できていなかった場合でも、後から相手が分かれば告訴を検討できます。ただし、ストーカー規制法違反の公訴時効は、相手の名前が分かっているかどうかに関係なく進みます。いつの行為が対象になるかを確かめることが大切です。
一度告訴を取り下げた後に、また被害がありました
取り下げた後に新たに行われたつきまといや連絡は、別の行為として改めて警察に相談することができます。取り下げた経緯があっても、新しい被害の記録を残し、早めに相談することが大切です。
まとめ
- 被害が止まっていても、告訴をすること自体はできます。
- ストーカー規制法違反は非親告罪で、6か月の告訴期間はありません。
- 期限の目安は公訴時効の3年で、多くの場合は最後の行為から数えます。
- 器物損壊や名誉毀損など親告罪にあたる行為は、6か月の告訴期間にも注意が必要です。
- 告訴の前に、相手の再接触への備えや手続の負担も考えておくことが大切です。
- 目的によっては、慰謝料請求や接触しない約束を交わす方法も選べます。
被害がおさまった後に告訴を考えるのは、決して遅すぎることではありません。ただ、時間が経つほど記録が散らばり、時効の期限も近づいていきます。当時のことを思い出すのがつらい場合でも、手元の記録を集めるところから始めてみてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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