即決裁判手続とは|同意して進めるかどうかの判断材料
被害を受けた側が、検察官の不起訴処分を知らされ、そこで手続が終わってしまうことがあります。理由の説明は短く、どこに何を伝えればよいのかが分からないまま時間だけが過ぎてしまう、という相談は少なくありません。
その不起訴処分について、市民から選ばれた検察審査員が当否を審査する仕組みが検察審査会です。ただしこの制度は、捜査をもう一度やり直させるための装置ではありません。検察官がした判断が相当だったかどうかを、検察庁から取り寄せた記録を土台にして確かめる場です。申立てをする側にできることは、その記録の外にある事情と、記録の読み方を書面で示すことに集約されます。
さらに、いったん議決が出ると、同じ事件について再び審査を申し立てることはできないと定められています。使える機会が一度である以上、出す前に何を確かめ、書面に何を書くかが手続の中身を左右します。この記事では、申立ての対象と申立先、申立書の項目、理由の組み立て方、議決の後に進むことまでを順に整理します。
検察審査会は何を判断する場なのか
検察審査会は、選挙権を持つ人の中からくじで選ばれた11人の検察審査員で構成され、検察官が公訴を提起しなかった処分の当否を審査します(検察審査会法2条1項1号、4条)。全国に165か所あり、地方裁判所と主な支部の建物の中に置かれています。
審査会は独立してその職権を行うものとされ、会議は公開されません(同法3条、26条)。審査会議は検察審査員全員がそろわなければ開くことができず、通常は検察庁から取り寄せた捜査記録を読んで、検察官がどのような判断をして不起訴処分をしたのかを調べ、申立人が提出した資料なども踏まえて検討します。
ここで押さえておきたいのは、審査の対象が起訴するかしないかという判断の当否に限られるという点です。被害の弁償を命じたり、事件の真相を独自に調査して公表したりする場ではありません。損害の回復を求める手続は、これとは別に進めることになります。
申立てができる人と、対象にならない処分
申立てができるのは、告訴又は告発をした人、親告罪などで請求をした人、そして犯罪により害を被った人です。害を被った人が亡くなっている場合は、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹が申し立てることができます(同法2条2項、30条)。報道などで事件を知っただけの第三者は、申立人にはなれません。
もっとも、申立てがなくても、報道をきっかけに審査会が自ら審査を始めることがあり、これは職権審査と呼ばれています。
対象になるのは、検察官が公訴を提起しないという処分をした事件です。次の表のように、処分の形によっては対象から外れます。
| いまの状況 | 審査申立ての対象 | 次に向く方向 |
|---|---|---|
| 不起訴処分がされた | 対象になる | 申立ての要否と理由を検討する |
| 起訴されたが罪名が想定と違う | 対象にならない | 公判での立証を見ながら、被害者としての関与を検討する |
| 略式手続で罰金の裁判を受けた | 対象にならない | 不服を申し立てる仕組みは用意されていない |
| 処分がまだ出ていない | 対象にならない | 処分が出るまでに、処罰を求める意思と資料を検察官に伝える |
| 告訴が受理されず、処分自体が存在しない | 対象にならない | 告訴の受理に向けた対応を先に行う |
また、高等裁判所が第一審となる一部の事件や、独占禁止法に違反する罪に係る事件は、審査の申立ての対象から除かれています(同法30条ただし書)。日常的な事件の多くはここに当たりませんが、事件の性質によっては入口で対象外となることがあります。
どこに出すのか、費用はかかるのか
申立先は、不起訴処分をした検察官が属する検察庁の所在地を管轄する検察審査会です(同法30条)。事件が起きた場所を管轄する審査会でも、自宅の最寄りの審査会でもありません。たとえば東京地方検察庁の検察官が処分をした事件であれば、東京地方裁判所の中に置かれた審査会が申立先になります。どの審査会が管轄になるかは、裁判所のウェブサイトの一覧表で確認できます。
申立ては書面で行い、申立ての理由を明示しなければならないと定められています(同法31条)。裁判所のウェブサイトには審査申立書の書式が用意されており、これを使うこともできます。申立てや手続の案内について、費用はかかりません。
出す前に、不起訴の理由を確かめる
申立書の中心は「不起訴処分を不当とする理由」の欄です。ところが、検察官がどの理由で不起訴にしたのかを知らないまま書き始めると、争点がずれた書面になりがちです。先に理由を確かめておくことが、遠回りに見えて近道になります。
理由を知る経路
告訴又は告発をした人には、起訴・不起訴の処分結果が通知されます(刑事訴訟法260条)。そのうえで請求をすれば、不起訴の理由が告げられます(同法261条)。被害届を出しただけの場合はこれらの規定の対象ではありませんが、検察庁の被害者等通知制度によって、処分の結果や不起訴の裁定の主文、理由の骨子について通知を受けられる場合があります。どの経路を使えるかは、自分が告訴人なのか、被害届を出した被害者なのかで変わります。
理由によって、審査で問われる点が変わる
不起訴の理由は一つではありません。理由が違えば、検察官が何を判断したのかも違い、審査で問われる点も変わります。
| 不起訴の理由 | 検察官が判断したこと | 審査で問われやすい点 |
|---|---|---|
| 起訴猶予 | 嫌疑は認められるが、訴追を必要としない | 被害の実情、示談や弁償の有無、処罰を求める事情の評価 |
| 嫌疑不十分 | 犯罪の証明に足りるだけの証拠がない | 証拠の評価、未確認のまま残っている証拠の有無 |
| 嫌疑なし、罪とならず | 犯罪の嫌疑がない、又は犯罪が成立しない | 前提となる事実の把握そのもの、法律の当てはめ |
たとえば起訴猶予であれば、証拠の話を重ねるより、被害の程度や現在も続いている影響を具体的に示すほうが議論の対象に近づきます。逆に嫌疑不十分であれば、処罰を求める気持ちの強さより、どの証拠が確かめられていないのかを示すほうが噛み合います。
審査申立書に書く項目
裁判所の書式には、次の欄が並んでいます。作成の前に、手元にある通知書や告知書を並べておくと記入が進みます。
- 申立人の資格として、告訴人、告発人、請求をした者、被害者、遺族のいずれかを選ぶ欄。
- 申立人の住所、電話番号、職業、氏名、生年月日の欄と、押印。
- 代理人を立てる場合は、代理人の資格、住所、電話番号、氏名の欄。
- 罪名の欄。
- 不起訴処分の年月日と、事件の番号(◯年検第◯号)の欄。
- 不起訴処分をした検察庁と、処分をした検察官の氏名の欄。
- 被疑者の住所、職業、氏名、生年月日の欄。
- 被疑事実の要旨の欄。
- 不起訴処分を不当とする理由の欄。
- 書ききれないときに使う備考欄。
書式には、記載事項で分からないものがある場合は「不明」と書けばよいという注記が付いています。被疑者の生年月日や職業、処分をした検察官の氏名などは、被害者側では分からないことが通常です。分からない欄があるために申立てができない、という作りにはなっていません。
また、申立人や被疑者が複数いる場合、被疑事実の要旨や理由の欄が足りない場合は、備考欄や別紙を使うことができます。理由を厚く書きたいときは、別紙にまとめるほうが読みやすくなります。
「不当とする理由」をどう組み立てるか
ここが申立書の中心です。分量よりも、どこに向けて書くかが問われます。
審査会が最初に読むのは検察庁の記録
審査会議では、まず検察庁から取り寄せた記録を読み、検察官の判断の道筋をたどります。つまり、申立人が何も出さなければ、審査会が目にするのは検察官の側から見た事件像だけです。理由の欄は、その記録に載っていないこと、載ってはいるが評価が分かれると考えることを書き足す欄だと考えると、書く内容が絞りやすくなります。
事実と、評価や気持ちを分けて書く
いつ、どこで、誰が、何をしたのかという事実は、時系列に沿って淡々と書きます。そのうえで、どの点が不起訴という結論と噛み合わないのかを、事実とは段落を分けて示します。両者が混ざった文章は、読み手にとって何を確かめればよいのかが見えにくくなります。確認できていないことを断定して書くと、書面全体の信頼性を下げてしまいます。
意見書や資料は申立ての後にも出せる
審査申立人は、検察審査会に意見書又は資料を提出することができると定められています(検察審査会法38条の2)。申立書に書ききれなかったことは、後から意見書として補うことができます。申立書に審査に必要と考えられる関係者の氏名や住所を記載し、資料を添付することも認められています。診断書、写真、やり取りの記録、被害の後に生じた不利益を示すものなど、記録に含まれていない可能性があるものは、写しを添えて出しておくと審査の材料になります。
申立ての後に進むこと
申立てによる審査の順序は、原則として申立ての順序によります(同法33条)。会議は毎年3月、6月、9月、12月に開かれるほか、必要があるときに招集されます(同法21条)。
審査の過程では、検察官に資料の提出や会議への出席を求めること(同法35条)、公務所や団体に照会して報告を求めること(同法36条)、審査申立人や証人を呼び出して尋問すること(同法37条)ができるとされています。申立人が呼び出され、事情を尋ねられることもあります。法律の解釈や証拠関係が込み入った事件では、弁護士が審査補助員として関与し、法令の説明や問題点の整理を行います(同法39条の2)。
一方で、会議が非公開であることに伴い、審査の進み具合や記録を申立人が確認することはできません。審査記録の閲覧や謄写は、申立人からの申出であっても認められていません。連絡がないまま数か月が過ぎることもありますが、それ自体は結論を示すものではありません。
議決の三つと、その後に進むこと
審査の結論は議決という形でまとめられます。議決は過半数によりますが、起訴相当の議決には11人中8人以上の多数が要るとされています(同法39条の5)。
| 議決 | 内容 | 議決の後に進むこと |
|---|---|---|
| 起訴相当 | 起訴をするのが相当である | 検察官が再検討して処分をする。再び不起訴のときは二度目の審査へ |
| 不起訴不当 | さらに詳しく捜査したうえで処分をするのが相当である | 検察官が再検討して処分をする。不起訴が維持されれば手続は終わる |
| 不起訴相当 | 不起訴処分は相当である | 手続は終わる |
議決がされると、理由を付した議決書が作成され、その謄本が検事正などに送付されます。あわせて、議決後7日間、審査会事務局の掲示場に議決の要旨が掲示され、申立人には議決の要旨が通知されます(同法40条)。ここで通知されるのは要旨であり、評議の中身や議決の詳しい理由まで説明を受けられるわけではありません。
起訴相当又は不起訴不当の議決の謄本が送付されると、検察官はその議決を参考にして検討し、公訴を提起するか、提起しない処分をして、審査会に通知します(同法41条)。検察庁の内部規程では、この場合に事件を再び起こす(再起する)取扱いが定められています。検察官の側では、再捜査の結果や処分の内容と理由について、必要に応じて申立人に説明することとされた通達も出ています。
起訴相当の後に行われる二度目の審査
起訴相当の議決をした審査会は、検察官が改めて不起訴処分をした旨の通知を受けたとき、又は議決書の謄本を送付した日から3か月(検察官が3か月を超えない範囲で延長を必要とする期間と理由を通知したときは、その期間を加えた期間)以内に通知がなかったときは、その処分の当否について二度目の審査を行うこととされています(同法41条の2)。この審査では審査補助員が関与します(同法41条の4)。
二度目の審査で起訴をするのが相当と認められたときは、起訴議決がされます。これにも11人中8人以上の多数が要り、その前に検察官へ意見を述べる機会が与えられます(同法41条の6)。起訴議決がされると、裁判所が弁護士を指定し、指定された弁護士が検察官の職務を行って公訴を提起し、訴訟活動を行います(同法41条の9、41条の10)。
なお、申立てをした人の全員が、検察官が公訴を提起しないことに不服がない旨を申告したときは、二度目の審査を終了させることができるとされています(同法41条の3)。示談が成立した場合など、状況が変わったときの受け皿がここに置かれています。
審査が打ち切られることもある
事件を受理した後の事情によって、当否の結論を出すことができなくなったり、出す意味がなくなったりした場合には、審査を打ち切る議決がされます。申立てが取り下げられた場合、申立人が亡くなった場合、申立ての後に検察官がその事件について公訴を提起した場合などが挙げられます。
三つ目は、結果としては望んだ方向へ進んだ場合です。審査の申立てを受けて検察庁の側で捜査が再開され、議決を待たずに起訴されることもあります。
申立ての機会は、同じ事件について一度
検察審査会の議決があったときは、同一の事件について更に審査の申立てをすることはできないと定められています(同法32条)。議決そのものに対して不服を申し立てる仕組みも用意されていません。また、検察官がした不起訴処分を民事訴訟や行政訴訟で争うことはできないと解されています。
さらに、起訴相当の議決を受けた検察官が、前と同一の理由で再び不起訴処分をしたときは、その処分について申立てをすることはできないとされています(同法41条の8)。この場合は、審査会の側で二度目の審査が行われる仕組みになっているためです。
つまり、書面が整わないまま急いで出すことに実益は乏しく、理由と資料を用意してから出すほうが機会を活かせるということになります。不起訴の理由を確かめる、記録に載っていない事情を洗い出す、資料の写しを集める、という順で準備を進めるのが現実的です。
期限は定められていないが、時間は進む
審査の申立てについて、いつまでにしなければならないという期間の定めは置かれていません。処分から時間が経っていても申立て自体は可能です。
ただし、公訴時効が完成している場合や、被疑者が亡くなっている場合には、審査を求める利益がないため、申立てを受理したうえで不起訴相当の議決がされることになります。捜査記録の保存期間にも限りがあり、時間が経つほど確認が難しくなる面もあります。
あわせて、損害賠償を求める場合の期間の制限は、刑事の手続とは別に進みます。審査の結果を待っている間も止まりません。刑事と民事は並行して進めることができますので、時間の設計は分けて考えることになります。
検察審査会以外に取り得る道
不起訴に納得できないときの選択肢は、検察審査会だけではありません。もっとも、それぞれ対象や性質が異なります。
- 付審判請求は、公務員の職権濫用に関する罪など対象が限られており、処分の通知を受けた日から7日以内に、不起訴処分をした検察官に請求書を差し出す必要があります(刑事訴訟法262条)。
- 上級の検察庁に不服を申し出るという取扱いもありますが、法令に基づく制度ではないため、応答を求める権利までは生じません。
- 損害賠償を求める民事上の請求は、不起訴であっても行うことができ、検察審査会への申立てと並行して進められます。
- 不起訴記録については、被害回復のための権利行使を目的とする場合など、一定の範囲で閲覧が認められる運用があります。
申立てをする側が避けたほうがよいこと
制度の性質上、申立人の行動が結果を損なう場面もあります。次の点は控えておくのが無難です。
- 確認できていないことを、確かめた事実であるかのように書くこと。
- 検察審査員やその経験者、その親族に接触して働きかけること。面会、文書の送付、電話などの方法を問わず、威迫にあたる行為は処罰の対象と定められています。
- 審査に関して検察審査員に不正の請託をすること。これも処罰の対象です。
- 被疑者本人や関係者に直接連絡して、供述の内容を変えるよう求めること。
- 事件の内容や相手方の情報を公開の場に書き込むこと。別のトラブルを生む原因になります。
まとめ
- 検察審査会は、検察官の不起訴処分の当否を、11人の検察審査員が記録に基づいて審査する仕組みである。
- 申立てができるのは、告訴人、告発人、請求をした人、犯罪により害を被った人(死亡している場合は配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹)に限られる。
- 申立先は、不起訴処分をした検察官が属する検察庁の所在地を管轄する検察審査会であり、費用はかからない。
- 書き始める前に、不起訴の理由(起訴猶予、嫌疑不十分、嫌疑なしなど)を確かめると、書面の向きが定まる。
- 申立書の分からない欄には「不明」と記載してよく、理由や要旨は別紙で補える。
- 申立人は、申立ての後にも意見書や資料を提出することができる。
- 議決は起訴相当、不起訴不当、不起訴相当の三つで、起訴相当の後に検察官が再び不起訴とした場合には二度目の審査が行われる。
- 議決が出ると同じ事件について再度の申立てはできないため、準備をしてから出すことが結果的に近道になる。
不起訴の通知を受けた段階では、理由の意味も、次に何ができるのかも見えにくいものです。理由の確かめ方、書面の組み立て方、集めておくべき資料は、事件の中身によって変わります。手続の入口で迷っているうちに、確認できたはずの資料が失われてしまうこともあります。
当事務所では、刑事事件の被害に遭われた方からのご相談も承っています。不起訴の通知を受け取った方、検察審査会への申立てを検討されている方は、通知書や手元の資料をお持ちのうえ、お早めにご相談ください。


