交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応
別れた相手からの連絡が止まらない、自宅や職場に来る、暴力を振るわれた——こうした被害の相談でよく名前が挙がるのが「ストーカー規制法」と「DV防止法」です。ただ、この二つは目的も、動いてくれる機関も、使える手段も異なります。「夫婦ならDV防止法、それ以外はストーカー規制法」といった単純な線引きではないため、自分のケースがどちらで守られるのかが分かりにくくなりがちです。ここでは、両法の違いと、自分のケースをどう振り分けて考えればよいかを整理します。いずれの制度も、被害者・加害者の性別を問わず適用されます。
この記事の要点
- ストーカー規制法は警察・公安委員会が動く仕組み、DV防止法は地方裁判所の保護命令が中心
- 「夫婦だからストーカー規制法は使えない」ということはなく、両方を同時に検討できる
- 分かれ目は、①相手との関係、②受けている行為の性質、③どの機関に何を求めたいか、の3点
- 同棲していない交際相手からの暴力は保護命令の対象外となり、別のルートを検討することになる
- 危険が差し迫っているときは110番、相談は警察相談専用電話「#9110」を利用できます
二つの法律は「守り方」そのものが違う
ストーカー規制法:警察と公安委員会が行為をやめさせる
正式名称は「ストーカー行為等の規制等に関する法律」です。特定の人に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われる、つきまとい・待ち伏せ・押しかけ・見張り、監視していると告げる行為、面会や交際の要求、粗野または乱暴な言動、無言電話や連続した電話・メール・SNSの送信、汚物等の送付、名誉を害する事項の告知、性的羞恥心を害する事項の告知といった行為を「つきまとい等」として規制しています。GPS機器や紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得なども規制の対象です。
これらを反復して行うと「ストーカー行為」に当たり、警察本部長等による警告(4条)、公安委員会による禁止命令(5条)、悪質な場合の検挙という流れで対応が進みます。行為の相手方は本人に限られず、その配偶者、直系または同居の親族、社会生活において密接な関係を有する人も含まれます。
DV防止法:裁判所の保護命令と相談支援の仕組み
正式名称は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」です。配偶者からの暴力(身体に対する暴力、またはこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動)を対象とし、被害者が地方裁判所に申し立てて発令される保護命令が中心的な手段になります。あわせて、配偶者暴力相談支援センターによる相談・一時保護・自立支援といった支援の枠組みも定められています。
保護命令には、被害者への接近禁止命令(1年間)、電話等禁止命令、同居する子への接近禁止命令・電話等禁止命令、親族等への接近禁止命令、共に生活の本拠としている住居からの退去等命令(2か月間。住居の所有者または賃借人が被害者のみである場合は、申立てにより6か月間)があります。
主な違いの整理
| 項目 | ストーカー規制法 | DV防止法 |
|---|---|---|
| 中心となる機関 | 警察・公安委員会 | 地方裁判所(保護命令)・配偶者暴力相談支援センター |
| 対象となる関係 | 限定なし(面識の有無・婚姻の有無を問わない) | 配偶者、事実婚の相手、生活の本拠を共にする交際相手、およびそれぞれの元 |
| 主な要件 | 恋愛感情等を充足する目的+つきまとい等の反復 | 身体に対する暴力または一定の脅迫+更なる危害のおそれ |
| 主な手段 | 警告・禁止命令・検挙 | 接近禁止命令・電話等禁止命令・退去等命令など |
| 命令違反への罰則 | 禁止命令に違反してストーカー行為をした場合、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金など | 2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金 |
| 手続の費用 | 申立ての手数料はかからない | 申立手数料・予納郵便料などが必要 |
「夫婦ならDV防止法」という区分ではない
誤解されやすい点ですが、ストーカー規制法は「何人も」つきまとい等をしてはならないと定めており、夫婦間や元夫婦間を対象から外してはいません。要件を満たせば、婚姻中や離婚後であっても警告・禁止命令を求めることができます。
逆に、結婚していない相手であってもDV防止法が使える場合があります。2014年(平成26年)1月施行の改正により、生活の本拠を共にする交際相手からの暴力にも同法が準用されるようになったためです。
つまり両法は「関係性で二者択一」ではなく、要件を満たすものを重ねて使える関係にあります。実務でも、警察への相談と保護命令の申立てを並行して進めるケースは少なくありません。
自分のケースを振り分ける3つの軸
軸1:相手と「生活の本拠を共にした」ことがあるか
DV防止法で保護命令の対象となるのは、①配偶者(法律婚・事実婚を問わない)、②生活の本拠を共にする交際相手、③①②の「元」にあたる人(関係の解消前から引き続き暴力を受けている場合)です。実際に判断するうえで注意したい点が三つあります。
- 関係が終わった後に初めて暴力を受けた場合は、対象外と整理されています。この場合はストーカー規制法や刑事・民事のルートを検討することになります。
- 婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいない場合、たとえば単なるルームシェアは対象から除かれます。
- 暴力から逃れて一時的にホテルや実家などに避難している状態でも、「生活の本拠を共にする」場合に含まれ得ると解されています。
一方、ストーカー規制法には関係の限定がありません。元交際相手でも、同棲していなかった相手でも、面識のない相手でも対象になり得ます。
軸2:受けているのは「つきまとい」か、「暴力・脅迫」か
ストーカー規制法は目的要件があるため、好意や、それが満たされなかったことによる怨恨とは無関係な嫌がらせ(たとえば金銭トラブルが動機のもの)には届きにくい面があります。反対に、直接の暴力がなくても、繰り返される連絡や待ち伏せそのものを止める枠組みとして機能します。
DV防止法の保護命令は、身体に対する暴力、または生命・身体・自由・名誉・財産に対する加害を告げる脅迫を土台にしています。そのうえで、さらに暴力等を受けることにより心身に重大な危害を受けるおそれが大きいことが必要です。精神的な被害を理由とする場合には、その程度を示す診断書などの資料が求められます。言葉による攻撃だけでは要件に届かない場合がある点は、あらかじめ知っておいたほうがよい部分です。
軸3:何を、どのくらいの速さで求めたいか
警察のルートは、申立てに費用がかからず、緊急を要する場合には文書警告を経ずに禁止命令が出されることもあります。ただし、どこまでの措置を取るかは行為の該当性や証拠の状況に左右されます。
裁判所のルートは、住居からの退去を命じるなど効果の強い命令が得られる一方、申立ての準備と審理の期間が必要です。原則として相手方の言い分を聴く手続(審尋)が行われるため、申立てをしたこと自体が相手に伝わる前提で動くことになります。どちらを先に動かすかは、危険の切迫度と、相手に知られるタイミングを踏まえて判断することになります。
ケース別の目安
- 離婚後の元配偶者が復縁を求めて待ち伏せ・連絡を繰り返す……離婚前から暴力が続いていれば保護命令も検討できます。暴力を伴わない付きまといが中心であれば、ストーカー規制法による対応が現実的です。
- 同棲中の交際相手から暴力を受けている……保護命令の対象になり得ます。監視や執拗な連絡が併存していれば、ストーカー規制法による警告・禁止命令も並行して検討できます。
- 同棲していない交際相手・元交際相手から暴力を受けた……保護命令は原則として使えません。ストーカー規制法や刑事手続、民事の手段を組み合わせることになります。
- 別れた後、連絡や待ち伏せだけが続いている(暴力はない)……ストーカー規制法の枠組みが中心になります。
- 好意や怨恨とは結び付かない嫌がらせ……どちらの法律も届きにくく、刑法や民事の手段を検討することになります。
どちらの法律も届きにくいときの三つのルート
一つ目は刑法です。脅迫罪、強要罪、傷害罪、住居侵入罪、業務妨害罪など、行為の内容に応じて成立し得る犯罪があります。
二つ目は民事です。弁護士名での接触禁止の通知や合意書、面会・架電の強要を禁じる仮処分、慰謝料請求といった手段があります。
三つ目は生活面の防衛で、住民票の写し等の交付制限(支援措置)により、住所を知られにくくする方法があります。
2025年末から2026年にかけての改正で変わった点
両法とも、2025年12月10日公布・同月30日施行の改正が行われています。共通する変更点として、紛失防止タグ(AirTag等)を用いた位置情報の無承諾取得やタグの取り付けが、ストーカー規制法の規制対象および保護命令で禁止できる行為に加えられました。
ストーカー規制法ではこのほか、被害者の申出がなくても警察の職権で警告ができる制度が設けられ、援助の努力義務を負う主体に勤務先の雇用者や学校の長が加えられました。さらに2026年3月10日には、探偵業者等の第三者への情報提供を防ぐための規定が施行されています。
相談先の使い分け
- 危険が差し迫っているとき……110番
- どこに相談すべきか迷うとき、証拠を持って相談したいとき……警察相談専用電話「#9110」
- 配偶者や同棲相手からの暴力……配偶者暴力相談支援センター、DV相談ナビ「#8008」、DV相談+(0120-279-889)
- 手続の選択、書面や申立ての準備、相手方との連絡窓口……弁護士
よくある質問
Q. 両方の法律を同時に使えますか。
要件を満たせば、警察への相談と保護命令の申立てを並行して進めることができます。どちらか一方を選ばなければならないものではありません。
Q. 男性でも利用できますか。
どちらの法律も性別を問いません。同性のパートナー間で保護命令が発令された例もあります。
Q. 保護命令を申し立てると相手に知られますか。
原則として相手方の言い分を聴く手続があるため、相手に伝わることを前提に、避難先や連絡手段の確保とあわせて準備を進めるのが一般的です。
Q. どんな記録を残しておけばよいですか。
日時・場所・行為の内容が分かる形で時系列に残すことが基本です。メッセージや着信履歴は元データを消さず、拒否の意思を伝えた事実も残しておくと、反復性や不安を覚える態様の裏付けになります。


