不起訴になった後に民事で請求できるのか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

検察庁から「不起訴になりました」と知らされ、そこで手続が終わってしまったように感じる方は少なくありません。治療にかかった費用も、壊された物の代金も、受けた苦痛も、何ひとつ清算されていないのに、刑事の側だけ区切りがついてしまうからです。

 先に結論を書くと、不起訴になったことで、被害を受けた方が金銭の支払いを求める権利が消えるわけではありません。刑事の手続と民事の手続は、判断する人も、求めるものも、事実を認めるための水準も、別々に組み立てられているためです。

 ただし、不起訴によって変わる部分はあります。刑事裁判が開かれていることを前提にした被害回復の仕組みが使えなくなり、相手の情報や事件の資料を受け取る経路も、刑事手続の中からではなく、不起訴記録の開示という別のルートに移ります。この記事では、その違いを順に整理します。

この記事で扱うこと

 この記事は、被害を受けた側が、加害者とされた人の不起訴処分を知った後で、民事の請求をどう進めるかを整理したものです。記事の後半には、不起訴になった側から見た場合の章も置いています。

・不起訴処分が民事の請求にどう影響するのか。
・不起訴になったことで使えなくなる仕組みと、残る手続。
・請求の材料になる資料をどこから集めるか。
・請求できる期間の区切りと、回収の見込み。

 個別の事件では、罪名、証拠の残り方、相手の資力によって進め方が変わります。ここでの記載は一般的な整理としてお読みください。

不起訴は何を決めた処分なのか

 不起訴は、検察官が、その事件について裁判所に公訴を提起しないと決めた処分です。刑事訴訟法には、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重や情状、犯罪後の状況によって訴追を必要としないときは公訴を提起しないことができる、という定めがあります。訴追するかどうかの判断は検察官に委ねられているという建て付けです。

 ここで押さえておきたいのは、この判断が「被害はなかった」と認定したものではない、という点です。不起訴の理由には、証拠が足りないというものもあれば、事実は認められるが刑事裁判までは求めないというものもあります。裁判所が審理したうえで無罪を言い渡した場合とは、性質が異なります。

 したがって、不起訴の通知を受け取ったことは、民事の請求の入口を閉ざす出来事ではありません。閉ざされるのは、刑事裁判の中で用意されていた選択肢のほうです。

刑事と民事が別に判断される理由

 同じ出来事について、刑事では手続が終わったのに、民事では支払いが認められる。この結果は珍しくありません。矛盾しているのではなく、二つの手続がそもそも違うものを決めているからです。

比べる点刑事の手続民事の手続
誰と誰の間の手続か国と、罪に問われた人被害を受けた人と、相手方
手続を進める人検察官請求する側の当事者
決めること刑罰を科すかどうか金銭の支払い義務があるかどうか
事実を認める水準合理的な疑いを差し挟む余地がない程度の証明高度の蓋然性の証明
証拠を集める役割捜査機関原則として請求する側


刑事で証拠が十分でないと判断されたことは、民事でも支払いが認められないという意味にはなりません。刑事は、誤って処罰することがないよう水準を高く置いた手続だからです。民事は、当事者どうしのどちらに負担させるのが相当かを決める手続なので、求められる水準がそこまで高くありません。

不起訴の理由によって見通しは変わる

 もっとも、不起訴ならどの事件も同じという話でもありません。検察官がどの理由で不起訴にしたのかは、民事で自分がどこまで立証しなければならないかを見積もる材料になります。

不起訴の理由判断の内容民事で問題になりやすい点
起訴猶予事実は認められるが訴追を必要としないと判断されたもの事実の有無よりも、損害の範囲や金額が争点になりやすい
嫌疑不十分証拠が十分でないと判断されたもの事実があったこと自体を、こちらで組み立てて示す必要が生じやすい
嫌疑なし犯罪の嫌疑がないと判断されたもの請求の前提そのものを見直すところから始まる


 同じ「不起訴」という言葉でも、起訴猶予と嫌疑なしでは、民事での作業量がかなり違います。請求を検討する前に、まず理由の区分を確かめておくと、その後の判断がしやすくなります。

不起訴の理由をどう知るか

 告訴、告発、請求をした方については、検察官に対して不起訴の理由を告げるよう求めることができる、と刑事訴訟法に定められています。処分の結果そのものは、請求がなくても通知される仕組みです。

 これに対し、被害届を出しただけの場合は、この規定が想定する対象に入りません。その場合は、検察庁の被害者等通知制度に申し出て、事件の処理結果などの通知を受ける経路をとることになります。

 どちらの場合も、告げられるのは処分の区分にあたる部分にとどまることが多く、判断に至った詳しい経緯まで説明されるとは限りません。この点は、あらかじめ見込んでおいたほうが落胆が少なく済みます。

不起訴になると使えなくなる仕組み

 被害を受けた方が金銭の回復を図る方法のうち、いくつかは刑事裁判が開かれていることを前提にしています。不起訴の場合、これらは選べません。

仕組み前提となる状態不起訴の場合
損害賠償命令対象となる罪で起訴され、有罪の言渡しがあること利用できない
刑事和解刑事裁判が裁判所に係属していること利用できない
被害者参加対象となる事件が起訴されていること利用できない
公判記録の閲覧・謄写刑事被告事件が係属していること利用できない


不起訴のときに残るのは、当事者どうしの交渉と、通常の民事の手続です。刑事裁判に付随する簡易な回路が閉じるぶん、こちらで主張を組み立て、資料をそろえる作業の比重が増します。「請求できるかどうか」よりも、「どの経路で材料を集めるか」が実際の課題になる、と言い換えてもよいと思います。

残る請求の方法

話し合いによる解決

 相手に代理人がついている場合も、ついていない場合も、まずは書面で請求の内容を伝えて話し合う方法があります。合意ができれば、清算の範囲や支払い方法を書面にまとめます。手続の負担が軽く、金額以外の条件も入れられる点が特徴です。

民事調停

 簡易裁判所で、調停委員を交えて話し合う手続です。訴訟に比べて申立ての費用が抑えられ、進め方も柔軟です。ただし相手が応じなければ成立しません。

支払督促・少額訴訟

 金額や争点が限られている場合には、簡易裁判所の簡易な手続を使う余地があります。支払督促は相手から異議が出れば通常の訴訟に移り、少額訴訟には金額の上限があります。事実関係が争われている事件では、はじめから訴訟を選んだほうが早いこともあります。

民事訴訟

 支払いを求める根拠は、多くの場合、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者は損害を賠償する責任を負う、という民法の規定になります。精神的な苦痛についての賠償も、この枠組みで請求します。相手が複数いる場合の責任のとらえ方についても、民法に定めがあります。

資料をどこから集めるか

 不起訴の場合にいちばん困るのが、捜査機関が集めた資料に手が届きにくいことです。刑事訴訟法は、訴訟に関する書類は原則として公にしてはならないと定めています。ただし、被害を受けた方への開示については、法務省が全国の検察庁に指針と通達を出しており、一定の範囲で閲覧が認められる運用になっています。

不起訴記録の閲覧を求める

 この運用は、事件の種類によって基準が分かれています。生命や身体に関わる罪、性犯罪、逮捕監禁、略取誘拐など、刑事裁判で被害者参加の対象とされている類型の事件では、実況見分調書や写真撮影報告書といった客観的な証拠について、相当でないと認められる場合を除き、原則として閲覧が認められるとされています。この類型では、事件の内容を知ることを目的とする場合も対象に含まれます。

 それ以外の事件では、民事訴訟などで被害回復のために権利を行使する目的である場合に閲覧が認められ、対象は、代替性に乏しくその証拠なしには立証が難しいと認められる客観的な証拠が中心になります。代替性がないとまではいえない証拠についても、必要性があり弊害が少ないときは認められる余地があります。

 いずれの場合も、関係者の名誉やプライバシーに関わる部分、他の事件の捜査や公判に影響する部分などは、閲覧が認められないか、該当箇所が黒塗りにされます。請求できるのは被害を受けた方や法定代理人、その代理人である弁護士で、被害者が亡くなった場合や心身に重い故障がある場合には、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹も対象とされています。

民事の裁判所を通じて取り寄せる

 訴訟を起こした後であれば、裁判所を通じて資料を取り寄せる方法もあります。民事訴訟法には、文書の所持者にその文書の送付を嘱託するよう申し立てる制度と、裁判所が官公署などに必要な調査を嘱託する制度が置かれています。不起訴記録についても、民事の裁判所から嘱託があった場合の対応方針が示されており、必要性が認められる客観的な証拠については送付に応じるとされています。

供述調書と目撃者の情報

 供述調書の開示は、これよりも要件が絞られています。示されている方針では、特定の人の供述調書について送付の嘱託があること、その内容が民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点に関するもので、その争点についてほぼ唯一の証拠であるなど証明に欠かせないこと、供述した人が亡くなった、所在が分からない、心身の故障や深刻な記憶の欠落などで民事訴訟に供述を出せない、あるいは民事での証言と実質的に食い違うこと、開示によって捜査や公判に具体的な支障が生じず関係者の生命や身体の安全、名誉やプライバシーを害するおそれがないことが、すべて満たされる場合とされています。

 目撃者の氏名と連絡先の回答についても、同じように要件が並べられており、その証言がほぼ唯一の証拠であること、その情報が民事の裁判所や当事者に知られていないことなどが求められます。

 これらは、任意の協力を求める仕組みであり、応じなかった場合の制裁が定められているわけではありません。取り寄せの成否には幅がある、という前提で組み立てておくと予定が立てやすくなります。

相手の氏名や住所が分からないとき

 訴えを起こすには、相手を特定する必要があります。逮捕された報道や捜査機関からの説明で名前だけは分かっていても、住所までは知らされていない、という状況は珍しくありません。

 この場合、弁護士に依頼して、弁護士会を通じた照会や、職務上の請求によって住民票などを取り寄せる方法を検討することになります。不起訴記録の閲覧を申請する際にも、検察庁での事件の番号を特定しておく必要があるのが実務で、この確認にも同じ経路が使われます。捜査機関が把握している情報が、そのまま被害者側に伝えられるとは限らないため、ここは弁護士の関与が働きやすい場面です。

自分の住所や氏名を知られたくないとき

 請求をためらう理由として多いのが、訴えを起こすことで自分の住所や氏名が相手に伝わってしまう、という不安です。

 この点については、民事訴訟法に住所、氏名等の秘匿制度が設けられています。申立てをする人やその法定代理人の住所や氏名が相手方に知られることで、社会生活を営むのに著しい支障が生じるおそれがあることを疎明した場合、裁判所が決定でこれらを秘匿できるという内容で、令和5年2月20日から運用されています。秘匿の決定がされると、代わりとなる事項を記載すれば足りることになり、届け出た書面の閲覧なども制限されます。民事調停や家事事件についても、同じような規定が置かれています。

 ただし、対象は申立てをする側の当事者などに限られ、証人や、法定代理人以外の親族はこの制度の直接の対象ではありません。どこまで伏せられるのかは、事件ごとに確かめておくほうがよいと思います。

請求できる期間

 民事の請求には期間の区切りがあります。故意や過失によって損害を受けた場合の賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年で行使できなくなるとされています。人の生命や身体を害する不法行為については、3年とされている部分が5年になります。

この期間は、刑事の公訴時効とは別に進みます。刑事の結論を待ってから考えよう、と構えているうちに、民事の側の期間が過ぎてしまうことがあります。後で述べる検察審査会に申し立てた場合も、その審査が続いている間、民事の期間が止まるわけではありません。

 すでに時間が経っている場合でも、起算点をどこに置くかで結論が変わることがあります。あきらめる前に、事実関係を時系列に整理して確認しておく価値はあります。

検察審査会との関係

 不起訴の判断そのものに納得できない場合には、検察審査会に審査を申し立てる方法があります。告訴や告発をした方のほか、被害を受けた方も申立てができます。

 この申立ては、民事の請求と両立します。どちらかを選ばなければならないものではなく、並行して進めることができます。ただし、審査の結果が出るまでには時間がかかりますので、民事の期間との兼ね合いを見ながら順番を決めることになります。

決まっても回収できるとは限らない

 判決や和解で支払いの内容が決まっても、それは支払わせる根拠が手に入ったという意味であって、現実にお金が入ることまで約束するものではありません。相手に資産や収入がなければ、強制執行をしても回収できないことがあります。

 そのため、請求を始める前に、費用と時間をどこまでかけるか、分割払いを含めた現実的な着地をどこに置くかを、あわせて考えておくことになります。生命や身体に重い被害が生じた事件では、国の給付の制度が用意されている場合もありますので、賠償請求とは別に確認しておくとよいでしょう。

不起訴になった側から見た場合

 立場が反対の方が読んでいる場合のために、同じ話を裏側から書いておきます。

 不起訴になったことは、民事の請求を受けない理由にはなりません。不起訴の通知や不起訴処分告知書を示しても、支払い義務がないことの証明にはならず、民事の裁判所は独自に事実を認定します。刑事の手続が終わってから、内容証明郵便や訴状が届くという流れは実際にあります。

 一方で、刑事の段階で示談が成立し、清算の範囲を定めた条項が入っている場合には、その範囲について改めて請求できるかが問題になります。示談書の当事者が誰か、対象となる事案がどう特定されているかによって結論が変わりますので、届いた書面をそのまま受け入れる前に、手元の示談書と照らし合わせることになります。

 届いた書類を放置すると、こちらの言い分が示されないまま手続が進むことがあります。応じるかどうかを決める前に、まず期限を確認しておく必要があります。

誤解されやすい点

・不起訴は無罪の判決とは異なり、裁判所が事実を審理して否定したものではない。
・不起訴になっても、賠償を求める権利そのものは残る。
・不起訴の理由が起訴猶予か嫌疑不十分かで、民事での立証の負担が変わる。
・損害賠償命令や刑事和解は、起訴されていることが前提のため不起訴では使えない。
・捜査機関が集めた資料は自動的には渡されず、開示の運用に沿って請求する必要がある。
・刑事の手続が終わるのを待つ間も、民事の期間は進んでいる。

まとめ

・不起訴は、刑事の手続をここで終えるという検察官の判断であり、民事の請求権の有無を決めたものではない。
・刑事と民事では、決めることも、事実を認めるための水準も異なる。
・不起訴の理由の区分を確かめると、民事での作業量の見当がつく。
・理由を知る経路は、告訴等をした場合と被害届のみの場合とで異なる。
・不起訴では、刑事裁判に付随する回復の仕組みが使えず、交渉と通常の民事手続が残る。
・不起訴記録の開示や、民事の裁判所を通じた取り寄せが、資料を集める経路になる。
・相手の特定や、自分の情報の秘匿についても、それぞれ手当てがある。
・期間の区切りがあるため、刑事の結論を待ちすぎない設計が必要になる。

 不起訴の連絡を受けた直後は、何を言っても届かないような気持ちになりやすい時期だと思います。ただ、そこで手続がすべて閉じたわけではなく、民事の側には別の入口が残っています。

 どの経路を選ぶかは、不起訴の理由、残っている資料、相手の状況によって変わります。判断に迷われたときは、事実関係を時系列に整理したうえで、弁護士にご相談ください。当事務所では初回のご相談を無料でお受けしています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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