【ストーカートラブル】接客の仕事で客につきまとわれている|個人でできること

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

この記事は2026年10月時点の法令に基づいています。ストーカー規制法は令和7年12月30日および令和8年3月10日施行の改正内容を、カスタマーハラスメントに関する事業主の措置義務は2026年10月1日施行の改正労働施策総合推進法の内容を反映しています。


「閉店後、店の外で同じ客が待っている」「自分のシフトを把握されている気がする」。美容室やサロン、飲食店、コンカフェやガールズバーなど、接客の仕事をしている方から、こうしたご相談をいただくことがあります。店長に伝えたものの「常連さんだから」と様子見になっている方もいれば、業務委託で働いていて、そもそも相談できる上司がいないという方もいます。

 一般には「まず店に相談を」「警察に相談を」と案内されます。それ自体は誤りではありません。ただ、店が動いてくれるまでの間、あるいは店という後ろ盾がない場合に、本人が何を、どの順番でできるのかは、あまり整理されていないように思います。

 この記事では、つきまとわれている本人が個人としてできることを、接客の場での線引き、情報が渡る経路の絞り方、記録の残し方、会社への伝え方、警察と弁護士の使い方の順にまとめます。会社の側が講じるべき措置については【ストーカートラブル】職場や店舗で客からつきまとわれる|従業員を守るために会社ができることで扱っていますので、経営者や店長の方はそちらをご覧ください。

最初に確認したいのは「誰が一緒に動ける立場にあるか」

 個人でできることの中身は、働き方によって大きくは変わりません。変わるのは、誰を巻き込めるかです。

雇用されている場合|会社には対応する義務がある

 2026年10月1日から、事業主は、顧客等の言動で社会通念上許容される範囲を超えたものによって労働者の就業環境が害されないよう、相談に応じる体制の整備などの措置を講じなければならないとされました(労働施策総合推進法33条1項)。アルバイトやパートの方もここに含まれます。

 また、ストーカー規制法は、被害を受けている方を雇用する者を、援助に努める立場として明記しています(ストーカー規制法9条3項)。会社に相談することは「迷惑をかけること」ではなく、法律が想定している流れだと考えていただいてよいと思います。

業務委託・個人事業主の場合|自分で組み立てる部分が増える

 一方、業務委託のキャストやセラピスト、面貸しの美容師、個人でサロンを開いている方などは、事情が異なります。上の措置義務は「雇用する労働者」を対象としているため、契約の形によっては、そのまま当てはめにくい場面があります。もっとも、契約書の名称が業務委託であっても、働き方の実態から労働者と評価される場合もありますので、最初から対象外と決めつける必要はありません。

 いずれにしても、店や会社の動きを待つ時間が長くなりやすい立場ですので、このあと述べる個人の対応を先に進めておく意味は大きいといえます。

接客の場で個人が引ける線

 接客の仕事では、感じよく応じることが求められます。そのため、どこから断ってよいのかが分かりにくくなりがちです。ここでは、その場で使える線の引き方を整理します。

私的な質問への答え方を、あらかじめ決めておく

 住んでいる地域、最寄駅、休みの日、ほかの勤務先、SNSのアカウントといった質問には、答える必要はありません。その場で考えると迷いが出ますので、「個人的なことはお答えしていないんです」のような定型の言い方を一つ決めておくと、毎回同じ対応ができます。

 このとき、「恋人がいるので」「もうすぐ辞めるので」といった事実と異なる理由で断ることは、おすすめしにくいところです。相手の関心が別の方向に向いたり、後で嘘が分かったことが反感につながったりすることがあるためです。

拒否は一度、短く、ひとりにならない場面で

 食事や連絡先の交換に誘われた場合、あいまいな返事を重ねるよりも、一度はっきり断るほうが、その後の対応が組み立てやすくなります。理由を詳しく説明したり、何度も謝ったりする必要はありません。

 はっきり断ったという事実には、法律上の意味もあります。ストーカー規制法は、拒まれたにもかかわらず連続して電話をかけたり、メッセージを送ったりする行為を「つきまとい等」の一つとして定めています(同法2条1項5号)。断った後も連絡が続けば、この類型に当たるかどうかを検討する材料になります。

 ただし、断る場面は、同僚がいるところや店内など、ひとりにならない状況を選んでください。断ったことをきっかけに態度が変わる方もいるためです。断った日時と言葉は、その日のうちにメモしておきます。

贈り物や手紙は受け取らない。受け取ってしまったものは捨てない

 私的な贈り物や手紙は、受け取らないのが基本です。すでに受け取ってしまったものは、処分せずに保管しておいてください。手紙の文面や贈り物の内容は、相手がどのような感情から行動しているのかを推し量る材料になります。返却する場合も、ご自身が直接手渡すのではなく、店を通すほうが安全です。

自分の情報が渡る経路を、個人の側から絞る

 接客の仕事では、こちらの情報だけが一方的に相手に伝わっています。店にお願いすることと、ご自身でできることを分けて考えると、手をつけやすくなります。

情報が渡る経路個人でできること店・会社にお願いすること
名札・源氏名・呼び名私的なSNSなどで同じ呼び名を使わないフルネームの表示をやめる、表示名を変える
店のサイトやSNS顔写真や氏名の掲載を断る意思を伝える掲載を控える、過去の掲載分も見直す
個人のSNS勤務先や最寄駅、時間帯が推測できる投稿を見直す個人の領域のため、ご自身で管理する
出退勤時刻や経路を一定にしない、ひとりで帰らない退勤時刻の調整、同僚との退店や送迎の手配
シフトほかの客や同僚に予定を話さない在籍や出勤日を答えない運用を全員でそろえる
持ち物・車見覚えのない機器がないか点検するロッカーや荷物置き場の管理を見直す


個人のSNSは「勤務先が推測できる情報」を見直す

 店名を書いていなくても、制服の写った写真、店の近くの風景、出勤前後のリアルタイムの投稿などから、勤務先や行動の時間帯が分かってしまうことがあります。投稿を消すかどうかは慎重に判断していただきたいところですが、少なくとも今後の投稿の仕方は見直しておくと安心です。SNS上でのつきまといについては【ストーカートラブル】SNSに毎日コメントされる|ネット上の行為は規制法の対象になるかで整理しています。

持ち物と帰り道|居場所を知られる手段を点検する

 バッグや車に、見覚えのない小さな機器が入っていないかを一度確認してください。令和7年12月30日からは、いわゆる紛失防止タグを使って承諾なく位置情報を取得する行為や、それを取り付ける行為も、規制の対象に加えられました(ストーカー規制法2条3項)。詳しくはGPS・AirTagで居場所を追跡された|改正ストーカー規制法と位置情報無承諾取得の罪をご覧ください。

 機器以外の経路、たとえば共有しているアカウントや写真の位置情報などから居場所が漏れる場合については【ストーカートラブル】スマホや共有サービスから居場所が漏れている|位置情報以外の経路を止めるで、すでに自宅を知られている場合については【ストーカートラブル】自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることで扱っています。

周りの人から情報が流れる場合

 同僚やほかの常連客が、悪気なく出勤日や帰る時間を伝えてしまうことがあります。ストーカー規制法は、ストーカー行為等をするおそれがある者だと知りながら、被害を受けている方の氏名や住所などの情報を提供することを、誰に対しても禁じています(同法6条1項)。さらに令和8年3月10日からは、警察が、情報を提供するおそれのある人に対して、提供しないよう求めることができるようになりました(同条2項)。「あの人には何も伝えないでほしい」とお願いすることには、法律上の裏づけがあるということです。

記録は、会社とは別に自分の手元にも残す

 防犯カメラの映像や来店の記録は、店や会社が管理しています。異動や退職をすると、ご自身では取り出せなくなることもあります。そのため、記録は会社とは別に、ご自身の手元にも残しておくことをおすすめします。

手元に残しておきたいもの

 次のようなものが中心になります。

  • 日付・時刻・場所・相手の言動・その場にいた人を書いたメモ。
  • 相手から届いたメッセージや着信履歴の画面の保存。
  • 受け取ってしまった手紙や贈り物の現物、またはその写真。
  • 断った日時と、そのときに伝えた言葉。
  • 店や会社に相談した日時、相談した相手、言われた内容。


 防犯カメラの映像は、一定期間で上書きされることが多いため、気になる出来事があった日は、日時を特定して保存をお願いしておきます。口頭よりも、メールやチャットで依頼しておくほうが、依頼した事実も残ります。記録の形については証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはもあわせてご覧ください。

相手の「目的」を推し量る材料を意識する

 ストーカー規制法が対象とする「つきまとい等」は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われるものに限られています(同法2条1項)。客からのつきまといでは、好意なのか、クレームの延長なのかが外からは分かりにくいことがあります。手紙の文面や「付き合ってほしい」といった言葉の記録は、この目的を示す材料になりますので、内容が私的なものであっても残しておいてください。

会社に動いてもらうための伝え方

 相談したのに対応が進まない場合、伝え方を変えることで状況が動くことがあります。

「困っています」ではなく、具体的なお願いとして文面で伝える

 「困っています」とだけ伝えると、受け止める側も何をすればよいか分からず、様子見になりやすいものです。次のように、してほしいことを具体的に挙げて、メールなどの文面で伝えるほうが、検討してもらいやすくなります。

  • その客の対応を別の担当者に代えてほしい。
  • 名札の表示や、サイト・SNSへの掲載をやめてほしい。
  • 在籍や出勤日を聞かれても答えないよう、全員に共有してほしい。
  • 退勤の時間をずらす、同僚と一緒に退店できるようにしてほしい。
  • 防犯カメラの映像を、指定する日時について保存してほしい。


不利益な扱いを心配されている方へ

 「相談したらシフトを減らされるのではないか」と心配される方もいます。事業主は、労働者が相談をしたことなどを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないとされています(労働施策総合推進法33条2項)。

 ただ、会社の側が良かれと思って勤務日を減らし、結果として収入が減ってしまうこともあり得ます。勤務の変更を提案されたときは、ご自身の希望をはっきり伝え、そのやり取りも記録しておくとよいでしょう。

警察には、本人として申し出ることができる

 店や会社が動くかどうかとは別に、警察への相談や申出は、ご本人が行うことができます。

警告・禁止命令・援助の違い

 ストーカー規制法に基づいて警察などがとる措置には、次のようなものがあります。

手段誰が求めるか内容根拠
警告本人の申出のほか、警察の職権でも行われるこれ以上繰り返さないよう相手に警告するストーカー規制法4条1項
禁止命令本人の申出のほか、公安委員会の職権でも行われるつきまとい等をしないよう命じる。効力は1年で、延長もある同法5条1項・8項・9項
援助本人の申出被害を自ら防止するための措置の教示など同法7条1項
告訴・被害届本人ストーカー行為罪としての捜査を求める同法18条


 警告は、令和7年12月30日の改正で、本人の申出がなくても警察の判断で行えるようになりました。また、禁止命令は警告を経ずに出されることもあり、禁止命令に違反してストーカー行為をした場合は、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金の対象となります(同法19条1項)。申出をしたのに警告や禁止命令がされなかった場合には、その旨と理由が書面で通知されることになっています(同法4条4項、5条7項)。

相談する警察署はどこがよいのか

 警告をする警察は、被害を受けている方の住所地のほか、行為が行われた場所などを管轄する警察とされています(同法14条3項)。店の前での待ち伏せであれば、店の所在地を管轄する警察署に相談することも考えられますし、ご自宅の近くの警察署でも構いません。相談の際は、上で挙げた記録を持参すると、状況が伝わりやすくなります。

好意によるものか、嫌がらせか分からないとき

 相手の目的がはっきりしない場合でも、相談をためらう必要はありません。目的の要件がない軽犯罪法1条28号のつきまといの規定や、悪意の感情による反復したつきまといを対象とする東京都の迷惑防止条例(5条の2)、店からの退去要求に応じない場合の不退去(刑法130条後段)など、状況に応じて検討される規定があります。

 また、連絡やつきまといが1回だけの段階でも、相談すること自体は可能です。この点は連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いで整理しています。相談しても対応が進まないと感じる場合は、警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることもご覧ください。

弁護士を通じて個人がとれる手段

 警察の措置とは別に、ご本人の代理人として弁護士が動く方法もあります。

相手が分かっている場合|代理人からの通知

 相手の氏名や連絡先が分かっている場合は、弁護士から、接触をやめるよう求める通知を送ることが考えられます。ご本人が直接やり取りをせずに済み、以後の連絡先を弁護士に一本化できます。

 ただし、客の氏名や連絡先は、予約や会員の情報として店が管理していることが多く、ご本人が自由に使えるとは限りません。店と相談しながら進めるのが現実的です。相手が誰か分からない場合の考え方は、【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方で扱っています。

裁判所の手続|接近禁止の仮処分

 つきまといが続き、警察の措置だけでは不安が残る場合には、裁判所に対して、接近や面会の禁止を求める仮処分を申し立てる方法もあります(民事保全法23条2項)。警察の措置と裁判所の手続の使い分けは、接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで詳しく説明しています。代理人を立てることで何が変わるのかについては、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味もご参照ください。

ひとりで抱えたときに起きやすいこと

 個人で対応しようとするほど、次のような動きをとってしまいがちです。いずれも、相手を刺激したり、後で使える記録を失ったりするおそれがあります。

  • 相手と二人きりで会い、直接話をつけようとする。
  • 相手の素性を調べてSNSなどで公表する(ご自身が名誉毀損などの責任を問われるおそれがあります)。
  • 怖さから記録をつけないまま、我慢して時間だけが過ぎる。
  • 記録を整理しないまま、急いで仕事を辞めてしまう。


 仕事を続けるか辞めるかは、ご本人が決めてよいことです。ただ、辞める前に記録を手元に残しておくと、その後に警察や弁護士へ相談するときの材料が残ります。接触を断つ際の進め方はストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方、避けたい対応の全体像はストーカートラブルに遭ったら絶対にやってはいけない5つのこと|早期・穏便に解決するためにでまとめています。

よくあるご質問

愛想よく接客していた自分にも原因があるのでしょうか

 接客の仕事として感じよく応じることは、つきまといを受けてよい理由にはなりません。ストーカー規制法が問題にしているのは、相手の側の行為と目的です。ご自身を責める必要はなく、今後の線引きを整えることに目を向けていただければと思います。

相手の名前が分からなくても、警察に相談できますか

 相談できます。来店した日時、外見の特徴、店の防犯カメラの映像、予約時に使われた名前などの情報があれば、それをもとに相談を進めることになります。分かっていることを記録にまとめて持参してください。

業務委託のキャストですが、店に対応を求めてもよいのでしょうか

 求めてかまいません。会社の措置義務がそのまま当てはまるかどうかは契約の形や働き方の実態によって異なりますが、店が客の来店を断ったり、情報の扱いを見直したりすることは、契約の形にかかわらずできることです。具体的なお願いを文面で伝えておくことをおすすめします。夜の接客のお仕事に特有の事情については、客からの脅し・つきまとい|キャバクラ・ガールズバー勤務者の被害もご覧ください。

まとめ


  1. 接客の場での拒否は一度、短く、ひとりにならない場面で伝え、断った事実を記録に残す(ストーカー規制法2条1項5号)。
  2. 名札・SNS・出退勤・持ち物など、自分の情報が渡る経路を、個人と店の双方から絞る(同法2条3項、6条1項)。
  3. 記録は会社の記録とは別に自分の手元にも残し、防犯カメラの保存は早めに文面で依頼する。
  4. 雇用されている場合、会社には対応の措置義務があり、相談を理由とする不利益な取扱いは禁じられている(労働施策総合推進法33条1項・2項)。
  5. 被害を受けている方を雇用する者は、援助に努める立場にある(ストーカー規制法9条3項)。
  6. 警察には本人が警告・禁止命令・援助を申し出ることができ、警告や禁止命令は職権でも行われる(同法4条1項、5条1項、7条1項)。
  7. 相手の目的がはっきりしない場合でも、軽犯罪法や迷惑防止条例などの規定が検討されるため、相談をためらう必要はない。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害をはじめとする男女間のトラブルに関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。全国からのご相談にも対応しています。
店や会社に相談しても対応が進まない方も、業務委託や個人で働いていて相談先が見つからない方も、記録の整理や警察への相談の進め方を含めて、状況に合った手順を一緒に考えます。どこから手をつければよいか分からない段階でも、お気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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