客からの脅し・つきまとい|キャバクラ・ガールズバー勤務者の被害

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

 源氏名しか名乗っていないはずなのに、本名を知られている。自宅の最寄り駅を言い当てられる。「付き合わないなら店にも家族にもバラす」「今まで使った金を返せ」と言われている——。

 キャバクラやガールズバーで働く方から寄せられる相談には、こうした「つきまとい」と「脅し」が混ざった形のものが少なくありません。

 この二つは、感覚としては地続きでも、法的には動かせる制度が違います。つきまとい寄りの被害は警察の警告・禁止命令という行政の手続が中心になり、脅し寄りの被害は脅迫罪・恐喝罪といった刑事の枠組みが中心になります。どちらの色が濃いかを見分けないまま相談すると、「それは民事では」と流されてしまうこともあります。

 この記事では、被害の性質の切り分け、なぜ源氏名だけで働いていても個人情報が渡ってしまうのか、そしてお店にどこまで対応を求められるのかを整理します。待ち伏せへの現場対応やSNS運用、GPS・盗聴器のチェックといった具体策は別稿にゆずり、ここでは「どの制度で、誰を動かすか」に絞って解説します。

1.「つきまとい」と「脅し」は、使う制度が違う

 まず、受けている行為がどちらの性質かを分けて考えます。

つきまとい型脅し型
典型例待ち伏せ、帰り道の追随、連日のLINE・DM、交際の要求、監視をほのめかす言動「バラす」「晒す」「店に潰れてもらう」、金銭の要求、応じなければ危害を加えるという告知
主に使う制度ストーカー規制法(警告・禁止命令)刑法の脅迫罪・強要罪・恐喝罪
目的の要件恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的が必要不要
動き方警察本部長等の警告、公安委員会の禁止命令、違反すれば検挙被害届・告訴を受けた捜査

 ストーカー規制法のストーカー行為罪は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、禁止命令に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金です。脅迫罪は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、強要罪は3年以下の拘禁刑、恐喝罪は10年以下の拘禁刑と定められています(2025年6月1日施行の改正刑法により、懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されています)。

 注意していただきたいのは、ストーカー規制法には「目的の要件」があるという点です。相手の主たる動機が金銭の回収や逆恨みによる嫌がらせにある場合、恋愛感情を要件とする条文にうまく乗らないことがあります。

 その受け皿になり得るのが、都道府県の迷惑防止条例です。東京都の場合、第5条の2が「専ら、特定の者に対する妬み、恨みその他の悪意の感情を充足する目的」でのつきまとい・待ち伏せ・押しかけ・見張り、連続した電話やメッセージ送信、名誉を害する事項の告知などを反復することを禁じています。ストーカー規制法のつきまとい等に当たる行為は除かれる建て付けで、いわば両者が補い合う関係です。罰則は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、常習の場合は2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金とされています。

 「恋愛感情ではなく、逆恨みや金目当てに見える」というケースでも、諦める前に条例のルートを含めて検討する余地があります。

2.源氏名しか名乗っていないのに、なぜ情報が渡るのか

 「本名も住所も言っていないのに、どうして」という相談は非常に多く寄せられます。ここは、被害対応の設計図をつくるうえで最初に手をつけるべきところです。

 情報が渡る経路には、たとえば次のようなものがあります。

  • SNSの過去投稿:店外での写真、窓からの景色、行きつけの店、位置情報の残ったデータ。1枚の写真ではなく、複数の投稿の組み合わせから絞り込まれます
  • 勤務の動線:出勤・退勤の時間帯は固定されやすく、送迎の乗降場所、同伴やアフターの待ち合わせ場所も繰り返されれば把握されます
  • 決済まわり:送金アプリや電子マネーのアカウント名に本名が表示される設定、フリマアプリの取引、通販の受取
  • 人づて:共通の客、同僚、系列店への移籍情報、掲示板やSNSでの噂の集積
  • 贈られた物:バッグや小物に仕込まれた紛失防止タグ。2025年12月30日施行の改正ストーカー規制法で、紛失防止タグ等を用いた位置情報の無承諾取得も規制対象に加えられました

 そのうえで、相手が「何を」「どこまで」握っていそうかを書き出してみてください。本名だけなのか、自宅の最寄り駅までなのか、勤務シフトまでなのか。これが分かると、優先して塞ぐべき穴と、逆に今さら隠しても意味が薄いところが見えてきます。相談を受ける側にとっても、この棚卸しがあるかどうかで打てる手が変わります。

 なお、東京都の迷惑防止条例には、つきまとい行為等をするおそれがあると知りながら、その相手方の氏名・住所などの情報を提供してはならないという規定(第5条の3)も置かれています。この規定自体に罰則は設けられていませんが、「誰が相手に情報を渡しているのか」を考える視点は持っておいてよいと思います。国のストーカー規制法でも、2026年3月10日施行の改正で、警察本部長等が第三者に対し情報を提供しないよう求めることができる仕組みが設けられています。

3.営業上の断り方と、法的に意味のある拒絶は別物

 ストーカー規制法の条文には、「拒まれたにもかかわらず、連続して」電話やメッセージを送る、といった書き方が出てきます。また、待ち伏せや押しかけなどの類型については、身体の安全や住居等の平穏、名誉が害され、あるいは行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法で行われる場合に限る、という限定が付いています。

 ここで問題になりやすいのが、接客業ならではの断り方です。

 売上や指名を考えれば、「今は忙しくて」「お仕事が落ち着いたら」といった、角の立たない断り方を重ねてきた方が多いはずです。それは営業として自然な対応ですが、後から記録を見返したとき、「拒絶の意思を示した」と読み取りづらい材料になってしまうことがあります。相手側から「嫌がっているとは思わなかった」という主張が出る余地も残ります。

 対応としては、一度だけ、短く、記録の残る形で拒絶を伝え、それ以降は同じことを繰り返さないという組み立てが現実的です。長い説明や謝罪を重ねると、相手にとっては会話が続いている状態になり、かえって接点を延ばすことになりかねません。

 また、拒絶を伝えた後にどう振る舞うかは、相手の反応をある程度見極めながら決める必要があります。急に全てを遮断することがかえって行動をエスカレートさせるおそれもあるため、この点は個別の状況に応じた判断が要る部分です。刺激を避けながら接触を絶つ具体的な方法については、別稿で扱っています。

4.お店にはどこまで対応を求められるのか

 ここが、この問題でいちばん整理されていない部分だと感じます。「店長に言っても、お客さんだから強く言えないと返された」という相談は珍しくありません。

 法的な枠組みを押さえておくと、話の持っていき方が変わります。

出入り禁止には根拠がある

 誰と契約するかは事業者の自由であり、店舗という施設をどう管理するかは店側の権限です。したがって、特定の客の入店を断ること自体に法的な問題はありません。

 そのうえで、出入り禁止を告げた後に立ち入れば建造物侵入、退去を求めたのに居座れば不退去となり得ます(刑法130条・3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)。店内で騒ぐ、大量の予約を入れて妨害する、虚偽の情報を流すといった行為は、威力業務妨害・偽計業務妨害(刑法233条・234条・3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)にあたる可能性があります。

 つまり、この局面では店自身も被害者側に立ち得るということです。店名義で警察に相談し、被害届を出すという動き方ができれば、あなたが一人で矢面に立たずに済みます。

2026年10月から、カスハラ対策が事業主の義務になる

 改正労働施策総合推進法により、2026年10月1日から、顧客等の言動に起因する問題について雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となります。厚生労働省の指針(2026年2月26日公布・令和8年厚生労働省告示第51号)が、方針の明確化と周知、相談体制の整備、被害を受けた労働者への配慮などの措置を定めています。

 押さえておきたいのは、労働者を1人でも雇用していれば対象であり、中小企業向けの猶予期間も設けられていないことです。指針上のカスタマーハラスメントは、①顧客等の言動であること、②業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超えるものであること、③労働者の就業環境が害されること、の3要素で定義され、正当な苦情や要望はこれに当たらないとされています。対面に限らず、電話やSNSを通じた言動も含まれます。

 義務違反に直接の罰則はありませんが、報告徴求や助言・指導・勧告、公表の対象となります。

業務委託で働いている場合

 キャストとして業務委託契約で稼働している場合、上記の義務の対象からは外れる可能性があります。もっとも、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律・2024年11月1日施行)は、業務委託の発注事業者に対しても、ハラスメントに関する相談対応の体制整備を義務づけています。契約の形がどちらであっても、店側に「体制として対応してほしい」と求める足場はあります。

 なお、雇用契約と評価される場合には、労働契約法5条の安全配慮義務の問題にもなります。契約書の名称ではなく実態で判断されるため、この点はご自身で断定せず確認したほうがよいところです。

勤務先は「援助の主体」に位置づけられた

 2025年12月30日施行の改正ストーカー規制法では、被害者を雇用する者および学校長が、援助に係る努力義務の主体に加えられました。勤務先や学校は在所時間が長く、居宅以上に場所を変えることが難しいため、待ち伏せや押しかけの舞台になりやすい、というのが改正の趣旨とされています。夜の店舗はまさにこの説明が当てはまります。

 警察庁が勤務先向けに示している協力事項は、①従業員の被害を知ったら速やかに警察へ通報する、②助けを求められたら警察に引き継ぐまで一時的に保護する、③被害を受けた従業員の氏名等の情報管理に配慮する、④勤務店舗の異動など勤務形態に配慮する、という内容です。政府広報では、ホームページ等での氏名の公表を控える、勤務時間や場所を変更するといった例も挙げられています。

 ただし、これは努力義務であり、勤務先に具体的な措置を義務づけるものではありません。「法律で決まっているから店は必ず動くはずだ」とまでは言えない点は、正直にお伝えしておきます。

店に頼む内容は、具体的にする

 以上を踏まえると、店への依頼は「守ってください」ではなく、次のように項目を絞ったほうが通りやすくなります。

  • 指名・予約・電話を取り次がないこと、および出入りを断ること
  • 来店時に退去を求めるルールと、110番通報の判断基準をスタッフ間で共有すること
  • 出勤表やSNS、店舗サイトでの源氏名・写真の露出を一時的に絞ること
  • 送りのルートや退勤時刻を固定しないこと
  • 防犯カメラ映像・入店記録・伝票を保存しておくこと

 最後の項目は特に重要です。店舗の記録は保存期間が短く、こちらから依頼しなければ上書きされて消えます。あなたの手元には残らない証拠だからこそ、早い段階で保存を頼んでおく価値があります。

5.「脅し」への対応——応じても終わりません

 脅しの内容は、おおむね次の型に分かれます。

  1. 金銭型:「今まで使った金を返せ」「色恋営業で騙された分を払え」
  2. 暴露型:「本名を家族や勤務先にバラす」「写真を晒す」
  3. 業務妨害型:「悪い口コミを書く」「客を全員引き上げさせる」
  4. 関係強要型:「付き合わないなら〜」「同伴に応じないなら〜」

 このうち金銭型については、要求に法的な裏づけがあるのかを冷静に見る必要があります。店での飲食・接客はすでに提供されたサービスであり、支払った代金の返還が当然に認められるわけではありません。キャストに個人的に渡された現金やプレゼントも、原則としては贈与にあたり、渡し終えた部分の返還を当然に求められる性質のものではありません。

 2025年6月28日施行の改正風営法は、接待飲食営業について、客の恋愛感情等に乗じて関係が破綻する旨を告げて困惑させ飲食させる行為などを禁じています。ただしこれは営業者に対する行政上の規制であり、違反があったからといって客に返金請求権が当然に発生するものではありません。この点は誤解されがちなところです。

 そして、どの型であっても共通するのは、一度応じても終わらないことが多いという点です。支払いや要求への応諾は、相手にとっては「効いた」という結果として受け取られます。

 要求を伴う害悪の告知は脅迫罪、義務のないことを行わせれば強要罪、金銭が絡めば恐喝罪の問題となり得ます。性的な画像を用いた脅しは、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(いわゆるリベンジポルノ防止法)の公表罪(3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)などにも関わります。ネット上の書き込みは名誉毀損罪(3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)や侮辱罪の問題です。

 避けていただきたいのは、こちらからのやり返しです。相手の実名や勤務先を調べて晒す、第三者に頼んで圧力をかける、といった対応は、あなたの側が加害者として扱われる事態を招きかねません。立場が入れ替わると、それまで積み上げた被害の記録も使いにくくなります。

6.記録の残し方と、相談先

回数ではなく「態様」を残す

 「何回来た」よりも、日時・場所・滞在時間・立っていた位置・こちらの対応・そのとき感じた不安を書き留めるほうが有効です。前述のとおり、条文には「不安を覚えさせるような方法」という限定が置かれています。回数の記録だけでは、この部分が伝わりません。

 メッセージや着信履歴は、消さずに元データのまま残してください。相手が後から自分の投稿やメッセージを削除することもあるため、画面の記録も併せて取っておくと安全です。

本名を出さずに相談できるか

 「警察に行けば本名も職業も話さなければならない」「夜の仕事だと相手にされないのでは」というためらいから、相談が遅れるケースをよく見ます。

 まず前提として、キャバクラやガールズバーは風営法上の許可を受けて営業する接待飲食等営業であり、そこで働くこと自体は適法です。被害を訴える立場として相談することに、職業上の後ろめたさを感じる必要はありません。

 まずは助言だけ受けたいという段階であれば、警察相談専用電話「#9110」を使う方法があります。2025年12月30日施行の改正ストーカー規制法では、被害者からの申出がなくても警察の職権で警告を出せる仕組みが設けられました。表に立つことをためらう方にとって、選択肢が一つ増えたことになります。

 住まいを知られている場合には、住民票の写し等の交付制限(支援措置)の申出も検討対象になります。

弁護士に相談する意味

 弁護士が入る場合の役割は、主に次のとおりです。

  • 相手との窓口を一本化し、直接のやり取りをやめさせる
  • 接触禁止を求める書面の送付、再発時の取り決めを含む合意書の作成
  • 慰謝料の請求、ネット上の書き込みについての削除・発信者情報開示の請求
  • 警察に相談する際の資料の組み立て、告訴状の作成、同行

 「大事にしたくない」「店に迷惑をかけたくない」という希望がある場合でも、その希望を前提にした動き方を設計することはできます。刑事手続に進めるかどうかを含め、選択肢を並べたうえで決めていくことになります。

まとめ

  • 受けている行為が「つきまとい寄り」か「脅し寄り」かで、動かす制度が変わります
  • ストーカー規制法の目的の要件に乗りにくい場合でも、迷惑防止条例のつきまとい規制という受け皿があります
  • 源氏名で働いていても情報は複数の経路から渡ります。まず相手が何を握っているかを棚卸ししてください
  • 営業上の断り方と、法的に意味のある拒絶は別物です。一度だけ、記録の残る形で
  • 出入り禁止には根拠があり、店自身も被害者になり得ます。2026年10月からはカスハラ対策が事業主の義務となり、業務委託であってもフリーランス法上の体制整備義務があります
  • 店舗の記録は依頼しなければ消えます。早めに保存を頼んでください
  • 脅しに応じても終わらないことが多く、やり返しは立場を入れ替えてしまいます

 一人で抱えたまま時間が経つほど、証拠は失われ、選べる手は狭くなります。判断に迷う段階でも、早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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