ストーカートラブルに遭ったら絶対にやってはいけない5つのこと|早期・穏便に解決するために
「知らないうちに、かばんや車にAirTag(エアタグ)を入れられていた」「別れたはずの相手が、なぜか行き先を知っている」——。スマートフォンや小型のタグで人の居場所を把握することが技術的に容易になり、位置情報を無断で取得される被害の相談は年々増えています。
こうした行為は、令和3年と令和7年のストーカー規制法改正によって、規制の輪郭がはっきりしてきました。とりわけ令和7年12月30日施行の改正では、これまで条文の“すき間”に残っていたAirTagなどの紛失防止タグを使った追跡が、明確に規制の対象になっています。
この記事では、位置情報を無断で取得する行為がどのような法律に触れるのか、追跡されているかもしれないと感じたときにまず何をすればよいのか、そして弁護士に相談することで何ができるのかを、被害を受けた側の視点から整理して解説します。
「位置情報無承諾取得等」は、つきまとい等とは別の規制
ストーカー規制法(正式名称:ストーカー行為等の規制等に関する法律)が規制する行為には、大きく分けて「つきまとい等」と「位置情報無承諾取得等」の2つの類型があります。
「つきまとい等」は、待ち伏せや自宅付近での見張り、拒まれても続く電話・メール・SNSメッセージといった、相手に直接はたらきかける行為を指します。一方、GPS機器やAirTagで居場所を把握する行為は、これとは別に「位置情報無承諾取得等」(同法2条3項)として規制されています。相手に直接接触していなくても、居場所を無断でつかむこと自体が対象になる点が特徴です。
具体的に規制されているのは、次の2つの行為です。
- 相手の承諾を得ずに、相手が所持する位置情報記録・送信装置(GPS機器等)や紛失防止タグから位置情報を取得すること
- 相手の承諾を得ずに、相手の持ち物や自動車などにGPS機器等や紛失防止タグを取り付けること
つまり、車にこっそりGPS機器を仕掛ける、かばんにAirTagをしのばせる、といった“準備段階”の行為も、それ自体が規制の対象になり得るということです。
令和3年・令和7年の改正で規制対象が広がった
この位置情報に関する規制は、一度の改正で完成したものではありません。技術の変化を追う形で、段階的に対象が広げられてきました。
令和3年(2021年)改正では、元交際相手の自動車にひそかにGPS機器を取り付けて位置情報を取得する事案が相次いだことを受け、「位置情報無承諾取得等」が新たに規制対象に加えられました(同年8月26日施行)。条文はあえて「GPS機器」と限定せず「位置情報記録・送信装置」という表現を用い、新しい技術が出てきても対応できるようにしています。
ただし、この時点ではAirTagなどの紛失防止タグは規制の“すき間”に残っていました。AirTagは、それ自体が衛星電波で自らの位置を記録・送信する仕組みではなく、近くを通る他人のスマートフォンを介して位置を把握する仕組みだからです。当時の条文が想定していた「自らの位置情報を記録・送信する装置」には当てはまらない、と整理されていました。
そこで令和7年(2025年)改正では、この“すき間”を埋めるため、紛失防止タグを使った位置情報の無承諾取得等が明確に規制対象へ追加されました(令和7年12月30日施行)。同じ日に、警察が被害者からの申出を待たずに職権で警告を出せるようにする制度なども施行されています。
背景には相談件数の急増があります。警察庁のまとめとして報道されたところでは、紛失防止タグを悪用したストーカー関連の相談は近年で数倍に増えており、社会的な問題として注目されてきました。装置の名前がGPSかAirTagかにかかわらず、「相手の承諾なく居場所をつかむ」という行為の本質でとらえられるようになった、と理解しておくとよいでしょう。
どこからが「罪」になるのか
位置情報を無断で取得する行為が、どの段階で刑事罰の対象になるのか。ここは誤解されやすいところなので、順を追って整理します。
まず前提として、目的要件があります。 ストーカー規制法が対象とするのは、特定の相手への恋愛感情やその他の好意の感情、あるいはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的で行われる場合です。たとえば債権回収や純粋な業務上の目的で他人の所在を調べるようなケースは、この法律とは別の枠組みで判断されることになります。
次に、刑事罰の対象になる「ストーカー行為」は、原則として反復が要件です。 位置情報無承諾取得等を、同じ相手に対して繰り返し行うと「ストーカー行為」にあたり、処罰の対象になります。1回きりの行為でも、警告や禁止命令といった行政上の措置の対象になり得ますが、ストーカー行為罪として処罰されるのは、繰り返し行われた場合が中心です。
罰則は、拘禁刑への一本化を反映して、次のように定められています。
- ストーカー行為をした場合:1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(18条)
- 禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合:2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金(19条1項)
- 禁止命令等に違反した場合(ストーカー行為に至らなくても):6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(20条)
なお、ストーカー行為罪の公訴時効は3年です(刑事訴訟法250条)。
ここで押さえておきたいのは、「元恋人だから」「配偶者だから」「心配していただけ」といった事情があっても、相手の承諾なく追跡してよい理由にはならないという点です。関係の近さは、承諾がないことを正当化しません。
追跡されているかもしれないと感じたら
では、実際に「追跡されているかもしれない」と感じたとき、被害を受けた側は何をすればよいのでしょうか。落ち着いて進めたい初動を整理します。
1. まずは安全の確保を優先する
急な身の危険を感じる場合は、ためらわず110番通報を検討してください。相談段階であれば、警察相談専用電話「#9110」も利用できます。
2. 気づいたきっかけを記録しておく
iPhoneやAndroidのスマートフォンには、身に覚えのないタグが自分と一緒に移動していることを知らせる通知機能が備わっています。こうした通知が出た日時、車のバッテリーの減りが不自然に早いといった気づき、相手が自分の行き先を知っていた場面などを、メモやスクリーンショットで残しておくと、後の相談で役立ちます。
3. 見つけた機器は、勝手に処分せず記録する
かばんや車からタグやGPS機器が見つかっても、すぐに捨ててしまうと、誰が取り付けたのかを示す手がかりが失われることがあります。見つかった場所や状態を写真に撮り、そのうえで警察や弁護士に扱いを相談するのが安全です。また、相手を問い詰めると、かえって状況が悪化したり証拠隠滅を招いたりすることもあるため、慎重な対応が望まれます。
4. 警察に相談する
警察は、相談を受けると、相手の行為が「つきまとい等」「位置情報無承諾取得等」にあたるか、さらに「ストーカー行為」にあたるかを判断します。反復して行われるおそれがある場合には、警告(4条)や禁止命令等(5条)といった措置につながります。緊急の必要があると認められる場合には、事前の手続きを経ずに禁止命令等が出されることもあります。
令和7年改正では、被害者からの申出がなくても警察の職権で警告を出せるようになりました。加害者からの報復をおそれて自分から申し出ることをためらってしまう、という被害者の実情を踏まえた制度です。「自分が動かなければ何も始まらない」と抱え込まなくてよくなった点は、知っておくと安心材料になります。
弁護士に相談するとできること
刑事の手続きは警察が担いますが、被害を受けた側が加害者に責任を追及していく場面では、弁護士による対応も選択肢になります。
【加害者との交渉窓口になる】
弁護士が代理人として間に入ることで、被害を受けた側が加害者と直接やり取りせずに済みます。二度と追跡しない旨を約束させる合意(示談)や、再発防止の取り決めを、書面の形で進めることができます。
【慰謝料などの損害賠償を検討する】
承諾なく居場所を継続的に把握される行為は、平穏な生活やプライバシーを害する不法行為(民法709条・710条)として、損害賠償の対象になり得ます。金額は事案によって幅があるため、具体的な見通しは個別に確認するのが確実です。
【接触・接近を止める民事的な手段を検討する】
弁護士名義での通知や、接触禁止条項を盛り込んだ合意、面談強要禁止の仮処分といった民事の手段もあります。これらの具体的な進め方については、別の記事でくわしく取り上げています。
なお、事情を家族や勤務先に知られたくない、夜の仕事に就いていて在籍店や源氏名への配慮が必要、といった事情がある場合にも、そうした点に配慮しながら対応を進めることが可能です。ひとりで抱え込まず、早めに相談することで選べる手段が広がります。
よくある疑問
Q. 家族の見守り目的なら問題ないのでは?
本人が承諾しているかどうかが分かれ目です。承諾を得たうえでの見守りであれば「無承諾」にはあたりません。逆に、成人の家族や配偶者であっても、本人に黙って持ち物や車にタグを取り付ければ、規制の対象になり得ます。
Q. 探偵に依頼して調べてもらうのは合法?
調査を依頼する側の目的が問われます。恋愛感情や怨恨から相手を追跡する目的での依頼は、自分で行った場合と同じ問題をはらみます。探偵業には探偵業法上のルールもあり、「他人に頼めば規制を回避できる」という理解は正確ではありません。
Q. 1回だけ位置情報を取られた場合も対応できる?
1回きりの行為でも、反復のおそれがある場合には警告や禁止命令等の対象になり得ます。刑事罰と行政措置では判断の枠組みが異なるため、まずは事実関係を整理して相談することをおすすめします。
位置情報をめぐる被害は、相手との関係が近いほど「事を大きくしたくない」と感じ、対応が遅れがちです。しかし、居場所を無断で把握される状態が続くこと自体が、日常の安全と平穏を損ないます。改正法によって規制の輪郭が明確になった今、被害に気づいた段階で証拠を残し、警察や弁護士に相談することが、事態を落ち着かせるための現実的な一歩になります。不安を感じたら、早めにご相談ください。


