【ストーカートラブル】同じマンションの住人につきまとわれている|相手も住み続ける建物で、行動の記録と手続をどう組み立てるか
この記事は、2026年10月時点の法令に基づいて作成しています。令和7年12月30日に施行された改正ストーカー規制法(紛失防止タグの規制、警察の職権による警告の創設、勤務先・学校による援助の努力義務など)を反映しています。統計は、警察庁「令和7年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応状況について」および警視庁「ストーカー事案の概況」によります。
ストーカー被害のご相談を受けていると、男性の方から「相手が女性なので、警察に話しても取り合ってもらえないのではないか」「男のくせに大げさだと思われそうで、誰にも言えなかった」という声をお聞きすることがあります。また、「交際していた経緯や、相手と関係を持ったことを話すと、自分のほうが責められるのではないか」と、相談そのものをためらっていた方も少なくありません。
インターネット上には、ストーカー規制法の仕組みや相談窓口を紹介する情報が数多くあります。どれもそれ自体は誤りではありません。ただ、男性の被害者が「なぜ相談しにくいのか」「相談をためらっている間にどのような行き違いが起きやすいのか」という点は、あまり整理されていないように見えます。
この記事では、男性がストーカー被害に遭ったときの相談しにくさの正体と、性別に関係なく使える手続、相談の場で状況を伝えやすくする準備を解説します。つきまとい行為の類型や、警告・禁止命令の流れの詳細は、関連する記事に譲ります。
男性の被害は、数字の上でも珍しいものではない
全国の被害者のうち、男性は1割を超えている
警察庁の公表資料によると、令和7年に全国の警察が受けたストーカー事案の相談等は22,881件でした。このうち被害者が男性のものは3,001件で、全体の13.1%を占めています。行為者の側を見ると、女性が2,808件(12.3%)となっています。
東京都内に絞ると、男性の割合はさらに高くなります。警視庁が受けたストーカー行為等の相談1,751人のうち、男性は337人(19.2%)で、およそ5人に1人が男性です。
男性の被害は例外的なものではなく、警察も日常的に受け付けている相談の一つです。「男性からの相談は前例がないのでは」と心配する必要はありません。
法律は、被害者の性別も加害者の性別も区別していない
ストーカー規制法は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことによる怨恨の感情を充足する目的で行われる「つきまとい等」を規制しています(ストーカー規制法2条)。条文のどこにも、被害者や行為者の性別による限定はありません。女性から男性への行為、同性間の行為も、同じように対象になります。
配偶者からの暴力についての保護命令を定めるDV防止法も同様です。「被害者」は女性に限られておらず、男性が申立てをすることもできます。
男性が受けやすい被害の形
ご相談の内容を見ると、男性の被害には次のような形が多く見られます。
- 別れ話に応じてもらえず、元交際相手から連絡や訪問が続く。
- 既婚男性が交際関係を終えようとしたところ、相手が自宅や家族の周辺に現れる。
- 職場の同僚や取引先の担当者から、断ったあとも好意を伝える連絡や待ち伏せが続く。
- 客として通っていた店のキャストや、パパ活で知り合った相手から、私生活に踏み込まれる。
- SNSで知り合っただけの相手から、執拗なメッセージや投稿が続く。
店舗のキャストからつきまとわれる場面は風俗嬢・キャストからつきまとわれている|客側がとれる法的措置で、パパ活の相手からの被害はパパ活相手からストーカー・脅迫被害|身バレを防ぎながら止める方法で、それぞれ詳しく解説しています。
男性がストーカー被害を相談しにくい理由
「自分で何とかできるはずだ」という思い込み
男性のご相談者に多いのが、「体格も力も自分のほうが上なのだから、自分で対処すべきだ」という考えです。しかし、ストーカー被害で問題になるのは力の強さではありません。いつ現れるか分からない、どこまで知られているか分からないという状態が続くこと自体が、生活の平穏を損ないます。
また、相手と直接向き合って解決しようとすると、かえって関係がこじれることがあります。被害を受けている側が自分だけで抱え込むほど、取れる手段は少なくなっていきます。
相手が女性だと深刻に受け止められないのではという不安
「相手が女性だと言ったら、軽くあしらわれるのではないか」という不安もよく聞かれます。実際に、相談の場で十分に話を聞いてもらえなかったと感じた方がいるのも事実です。
ただ、警察の判断は、相手の性別よりも、行為の内容・頻度・期間、そしてどれだけ不安を感じているかという具体的な事実によって左右されます。相談の場で「男性だから」と遠慮して被害を小さく伝えてしまうと、それだけ緊急性が伝わりにくくなります。後で述べる記録の準備が、ここで大きな意味を持ちます。
交際や関係の経緯を話しにくいという事情
元交際相手や、不倫関係にあった相手、店で知り合った相手からの被害では、「関係の経緯を話すこと自体が恥ずかしい」「自分にも落ち度があると言われそうだ」と感じる方が少なくありません。
しかし、過去にどのような関係があったとしても、関係を終えたいという意思を示したあとのつきまといが正当化されるわけではありません。経緯は、相手の目的や行為の性質を判断するための材料として聞かれるもので、相談者を責めるためのものではありません。勤務先や家族に知られたくない事情がある場合は、そのことも含めて最初に伝えておくと、連絡方法などに配慮してもらいやすくなります。
相談をためらっている間に起きやすい行き違い
振り払う・押し返すことが「暴行」と主張されることがある
待ち伏せされた場面や自宅に押し掛けられた場面で、相手の腕を振り払ったり、ドアの前から押し出したりしたことが、後になって「暴力を振るわれた」と主張されることがあります。男性側の体格が大きい場合、周囲からもそのように受け取られやすい面があります。
相手が近づいてきたときは、身体に触れずにその場を離れる、建物の中に入って施錠する、周囲の人や警察に助けを求めるといった対応を優先することをおすすめします。
直接の話し合いで、かえって関係がこじれる
「一度きちんと話せば分かってもらえるはずだ」と考え、相手と会って話し合いの場を設ける方もいます。しかし、会うこと自体が「まだ関係を続ける余地がある」というメッセージとして受け取られ、連絡や訪問がかえって増えることがあります。
話し合いの場で感情的なやり取りになり、その発言を録音されて別の主張に使われることもあります。やってはいけない対応については、ストーカートラブルに遭ったら絶対にやってはいけない5つのこと|早期・穏便に解決するためにで整理しています。
「先に被害を訴える」と言われることがある
男性の被害で特徴的なのが、相手から「あなたにひどいことをされたと警察に言う」「会社に訴える」と告げられる場面です。こう言われると、自分が先に相談しても信じてもらえないのではないかと考え、身動きが取れなくなる方がいます。
このような場面ほど、早い段階で事実を記録し、自分から相談しておくことが、後の判断の土台になります。いつ、どのような行為があり、自分がどう対応したかを時系列で残しておけば、後から異なる主張が出てきたときにも、経緯を落ち着いて説明しやすくなります。
男性の被害でも使える手続
ストーカー規制法による警告・禁止命令と、改正後の職権警告
つきまとい等があった場合、警察は相手方に対して警告を出すことができます(ストーカー規制法4条)。従来は被害者からの申出が必要でしたが、令和7年12月30日に施行された改正により、被害者の申出がなくても警察の職権で警告を出せるようになりました。相手を刺激したくないという理由で申出をためらっていた方にとって、相談のハードルが下がる改正といえます。
より強い措置として、公安委員会による禁止命令があります(同法5条)。禁止命令に違反した場合や、つきまとい等を反復するストーカー行為をした場合は、刑罰の対象になります。SNSやLINEでの連絡がどこから規制の対象になるかは、SNS・LINEの執拗な連絡はストーカーになる?警告・禁止命令の流れで解説しています。
恋愛感情が絡まない場合の迷惑防止条例
ストーカー規制法の対象は、恋愛感情や好意、その怨恨を目的とする行為に限られます。職場での逆恨みなど、恋愛感情が絡まないつきまといは、この法律の対象にならないことがあります。
東京都の迷惑防止条例は、妬みや恨みその他の悪意の感情を充足する目的で行うつきまといも禁止しています(東京都迷惑防止条例5条の2)。動機が恋愛感情かどうか分からない場合でも、相談をあきらめる必要はありません。
配偶者や同居していた交際相手からの被害とDV防止法
相手が配偶者や元配偶者の場合、または生活の本拠を共にしていた交際相手の場合は、DV防止法の保護命令(接近禁止命令など)を裁判所に申し立てることが考えられます。保護命令は男性の被害者も利用できます。どちらの法律で守られるかの見分け方は、ストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?をご覧ください。
民事の手続と弁護士による介入
警察の措置とは別に、民事の手続を使うこともできます。弁護士が代理人として相手に通知を送り、今後の連絡窓口を弁護士に一本化するよう求めるのが代表的な方法です。相手の行為が続く場合は、裁判所に面談や接近の禁止を求める仮処分を申し立てたり、精神的苦痛に対する損害賠償を請求したりすることも検討します(民法709条、710条)。
警察の措置と民事の手続をどう使い分けるかは、接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで解説しています。
主な手続を整理すると、次のとおりです。
| 手続 | 窓口 | 主な対象 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 警告・禁止命令(ストーカー規制法) | 警察・公安委員会 | 恋愛感情や好意、その怨恨によるつきまとい等 | 令和7年12月から職権による警告が可能に |
| つきまといの禁止(東京都迷惑防止条例) | 警察 | 妬みや恨みなど悪意の感情によるつきまとい | 恋愛感情が絡まない事案の受け皿になる |
| 保護命令(DV防止法) | 地方裁判所 | 配偶者、生活の本拠を共にする交際相手など | 男性の被害者も申し立てられる |
| 弁護士による通知・交渉 | 弁護士 | 関係の経緯を問わない | 本人と相手の直接のやり取りを止められる |
| 仮処分・損害賠償請求 | 裁判所 | 法的な要件を満たす場合 | 証拠に基づく主張が必要になる |
相談の場で状況を伝えやすくするための準備
記録は「時系列」と「自分の対応」をセットで残す
相談の前に、次のような記録をまとめておくと、状況が伝わりやすくなります。
- 相手から届いたメッセージ、着信履歴、SNSの投稿の画面保存。
- 待ち伏せや訪問があった日時・場所と、そのときの様子のメモ。
- 相手に対して関係を終えたい、連絡をやめてほしいと伝えた日時と方法。
- 相手と接触した場面で、自分がどのように対応したかの記録。
- 防犯カメラの映像や、周囲の人の目撃の有無。
男性の被害では、4つ目の「自分がどう対応したか」の記録が特に重要です。相手から異なる主張が出てきたときに、身体に触れずに離れたことや、冷静に断ったことを示す材料になります。持ち物に紛失防止タグなどを付けられた疑いがある場合は、GPS・AirTagで居場所を追跡された|改正ストーカー規制法と位置情報無承諾取得の罪も参考にしてください。
相談先を使い分ける
身の危険を感じる場面では、ためらわずに110番通報をしてください。緊急ではないものの警察に相談したい場合は、警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署の窓口が利用できます。
警察以外では、法務省の「みんなの人権110番」が性別を問わず相談を受け付けています。法テラスでは、ストーカー被害を受けている方を対象に、資力にかかわらず弁護士による法律相談を受けられる制度があります(一定以上の資力がある場合は費用の負担があります)。東京都では、東京ウィメンズプラザが男性のための悩み相談を設けており、被害の受け止め方や気持ちの整理について話を聞いてもらうこともできます。
勤務先に伝えるかどうか
相手が職場の関係者である場合や、勤務先の周辺に現れている場合は、勤務先への相談も選択肢になります。今回の改正で、被害者を雇用する事業者も、被害者への援助に努める主体として明記されました。
一方で、勤務先に知られることへの抵抗感がある方も多いと思います。どこまでの範囲に、どのような形で伝えるかは、警察や弁護士に相談したうえで決めても遅くありません。職場に関わる対応は【ストーカートラブル】職場や店舗で客からつきまとわれる|従業員を守るために会社ができることでも触れています。
よくあるご質問
相手が女性で、自分のほうが体格も大きい場合でも、警察に相談してよいのでしょうか。
相談して差し支えありません。ストーカー規制法は被害者や行為者の性別を区別しておらず、警察も男性からの相談を日常的に受け付けています。相談の際は「相手が女性だから大したことはない」と自分から小さく伝えず、行為の内容・頻度・期間と、どれだけ不安を感じているかを具体的に伝えることが大切です。
交際していたことや、不倫関係だったことまで話さなければなりませんか。
相手の目的や行為の性質を判断するうえで、関係の経緯は重要な材料になります。話しにくい事情があっても、経緯を伏せたままだと適切な手段を選びにくくなることがあります。弁護士には守秘義務があり、家族や勤務先に知られたくない事情も含めてご相談いただけます。
相手から「先に被害を訴える」と言われています。どうすればよいでしょうか。
相手に会って弁解しようとしたり、要求に応じて黙らせようとしたりすることは、おすすめできません。これまでの経緯と自分の対応を時系列で記録し、早めに警察や弁護士に相談しておくことが、後の判断の土台になります。弁護士が窓口になることで、相手との直接のやり取りを止めることもできます。実際に、別れ話に応じてもらえず連絡が続いていた男性のご依頼で、弁護士が窓口となって解決に至った例もあります(【解決事例】別れ話に応じてもらえず連絡が止まらなかった男性|3年分割の提案を一括清算に切り替え、約1ヶ月で合意書を締結した事例)。
まとめ
- 令和7年の全国のストーカー事案のうち、被害者が男性のものは13.1%、都内の警視庁への相談では19.2%を占めている。
- ストーカー規制法は被害者・行為者の性別を区別しておらず、女性からの行為や同性間の行為も対象になる(ストーカー規制法2条)。
- 令和7年12月30日施行の改正で、被害者の申出がなくても警察が職権で警告を出せるようになった(同法4条)。
- 恋愛感情が絡まないつきまといは、東京都迷惑防止条例の対象になりうる(東京都迷惑防止条例5条の2)。
- 配偶者や同居していた交際相手からの被害は、男性でもDV防止法の保護命令を申し立てられる。
- 弁護士による通知・交渉や、仮処分、損害賠償請求といった民事の手続も使える(民法709条、710条)。
- 相手に触れずに離れること、自分の対応も含めて時系列で記録することが、後の判断の土台になる。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。男性からのご相談も多く、関係の経緯や、家族・勤務先に知られたくない事情も含めて伺ったうえで、警察への相談と弁護士による介入をどう組み合わせるかを一緒に検討します。
「男性だから相談しにくい」と一人で抱え込んでいる方も、相手から「被害を訴える」と言われて動けずにいる方も、まずは現在の状況をお聞かせください。代理人を立てる意味については、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味もあわせてご覧ください。


