【ストーカートラブル】好意ではなく恨みからのつきまといも、ストーカーとして扱われる?

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

待ち伏せや執拗な連絡が続いているのに、相手の言動からは好意より「恨み」を感じる。こうした状況で、「好意ではないから、ストーカーとしては扱ってもらえないのではないか」と不安を抱える方は少なくありません。
 結論からいえば、ストーカー規制法は「好意」だけでなく、「好意が満たされなかったことによる恨み」から行われるつきまといも対象にしています。一方、近隣トラブルや仕事上の対立など、好意と関係のない恨みによるつきまといは規制法の対象外ですが、東京都の迷惑防止条例や刑法、民事の手続など、使える手段は残っています。
 この記事では、その分かれ目と対象外の場合の手段を、警察庁の通達や警視庁の案内をもとに整理します。

この記事は、令和7年のストーカー規制法改正(職権による警告、第三者への情報提供の禁止など)と、令和8年5月に警察庁が示した解釈・運用の通達の内容を踏まえて作成しています。個別の事案での扱いは、経緯や証拠によって異なります。


ストーカー規制法が対象とする「恨み」とは


法律の定義に「怨恨の感情」が含まれている

 ストーカー規制法は、規制の対象となる「つきまとい等」を、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われる一定の行為と定めています(ストーカー規制法2条1項)。
 つまり、法律の条文そのものに「恨み」が含まれています。「好意ではなく恨みだから、ストーカーにはあたらない」とは限らず、恨みの出どころによっては、好意によるつきまといと同じように扱われます。

「好意が恨みに変わった」ことが必要とされる

 警察庁の通達では、ここでいう「怨恨の感情」を恨みや憎しみの感情と説明したうえで、自分の好意が相手に受け入れられなかったために、その好意が恨みに転化したものであることが必要だとしています。
 反対にいえば、最初から恋愛感情や親愛感とは関係のないところで生じた恨みは、規制法の「怨恨の感情」にはあたらないと考えられています。なお、こうした感情は男女間に限られず、同性からのつきまといでも対象になりえます。

対象になりやすい恨みと、対象になりにくい恨み

 恨みの出どころによって、ストーカー規制法の扱いは次のように分かれる傾向があります。最終的な判断は、相手の言動や関係の経緯をもとに警察が行います。

恨みが生じた経緯ストーカー規制法の扱い
交際を断られた、別れを告げられたことへの恨み対象になりうる
復縁を拒まれたことへの恨み対象になりうる
告白や誘いを断られたことへの恨み対象になりうる
騒音などの近隣トラブルから生じた恨み対象になりにくい
職場での評価や人事、取引上の対立から生じた恨み対象になりにくい
店舗での接客やクレーム対応から生じた恨み経緯による(好意が先にあれば対象になりうる)
金銭の貸し借りや訴訟・示談をめぐる恨み経緯による(交際関係の清算をめぐるものかで変わる)


 「経緯による」とした場面では、恨みの前に好意があったかどうかが分かれ目になります。客が店員に好意を寄せて断られた後の嫌がらせなら対象になりえますが、サービスへの不満だけが動機であれば対象から外れやすくなります。

好意と恨みが混ざっているときの見方

 実際には、「やり直したい」というメッセージの合間に恨みの言葉が混ざるなど、好意と恨みがはっきり分かれていないことが多くあります。この場合、警察は関係の経緯やメッセージの内容、行為の時期や頻度などを総合して目的を判断します。好意が出発点にあり、断られた後に恨みへ変わった流れが読み取れれば、規制法の対象として扱われる可能性があります。
 被害を受けている側が、相手の心の中を証明する必要があるわけではありません。ただ、相手との関係がどのように始まり、どの時点から行為が変わったのかを時系列で説明できると、警察が目的を判断しやすくなります。
 なお、元交際相手が金銭の請求を名目に押し掛けてくる場合もあります。通達では、請求できる権利があっても、その行使が権利の濫用にあたれば「義務のないことを行うことの要求」にあたりうるとされており、名目だけで対象外になるとは限りません。

ストーカー規制法の対象外でも使える手段


東京都の迷惑防止条例は「悪意の感情」によるつきまといも禁止している

 東京都の迷惑防止条例は、妬み、恨みその他の悪意の感情に基づくつきまとい行為等を禁止しています(同条例5条の2)。警視庁も、規制法との違いをこの動機の範囲の差として案内しています。条例で規制されるのは、正当な理由なく、もっぱら悪意の感情を満たす目的で、次のような行為を繰り返すことです。

  • 後をつける、自宅や職場に押し掛ける、付近で見張る・うろつく行為。
  • 監視していると告げる行為。
  • 著しく粗野または乱暴な言動。
  • 無言電話や、拒まれたにもかかわらず続く電話・メール・SNSのメッセージ・手紙。
  • 名誉を害する事項や、性的羞恥心を害する事項を告げる行為。
  • 承諾なく位置情報を取得する、GPS機器などを取り付ける行為。


 行為の種類は規制法とほぼ重なっており、好意と無関係な恨みによるつきまといでも、都内で行われていれば条例で対応できる可能性があります。ただし、条例には規制法の警告や禁止命令にあたる仕組みはなく、捜査や検挙につながるかどうかが中心になります。
 交際相手の元恋人からのつきまといなど、規制法と条例の境目が問題になる場面については、【ストーカートラブル】交際相手の元恋人からつきまとわれている|ストーカー規制法と迷惑防止条例の分かれ目でも解説しています。

行為そのものが犯罪にあたる場合

 動機にかかわらず、行為の内容によっては刑法などの犯罪にあたることがあります。

  • 「家族に危害を加える」などと告げる場合は、脅迫罪にあたる可能性があります。
  • ネット上や周囲で評判を落とす書き込みや言いふらしをする場合は、名誉毀損罪や侮辱罪にあたる可能性があります。
  • 自宅の敷地に入り込む、郵便受けや車を壊す場合は、住居侵入罪や器物損壊罪にあたる可能性があります。
  • 勤務先に繰り返し電話をかけて業務を妨げる場合は、業務妨害罪にあたる可能性があります。


 規制法の対象外と言われても、個々の行為が犯罪にあたらないかを確かめることで、警察が動ける余地が見つかることがあります。被害届の扱いについては、脅迫の被害届は受理されるのか|「民事不介入」と言われたときの再挑戦も参考になります。

民事の手続で接近や連絡をやめさせる

 裁判所に対して、相手に接近や連絡を禁じる仮処分を求める方法もあります。人格権などを根拠とするもので、相手の動機は要件になりません。受けた精神的苦痛について、慰謝料などの損害賠償を請求することも考えられます。
 警察による手続と裁判所による手続の使い分けについては、接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで詳しく説明しています。

 ここまでの手段を整理すると、次のとおりです。

手段恋愛・好意と無関係な恨みでも使えるか主な特徴
ストーカー規制法使えない(好意から転じた恨みに限る)警告・禁止命令などの行政上の措置がある
東京都迷惑防止条例5条の2使える(悪意の感情を対象とする)都内での行為が対象で、警告・禁止命令の仕組みはない
脅迫罪・名誉毀損罪などの刑法使える(動機を問わない)個々の行為が犯罪の要件を満たす必要がある
接近禁止の仮処分使える(動機を問わない)裁判所の手続で、担保金や疎明資料が必要になる
損害賠償請求使える(動機を問わない)金銭による解決で、行為を直接止める効果は限られる


警察に相談するときに伝えたいこと

 相談の際には、次の情報を整理しておくと、規制法・条例・刑法のどれで対応できるかを判断してもらいやすくなります。

  1. 相手との関係(交際していたか、好意を示されたことがあるか、どのような立場の人か)。
  2. 関係が変わったきっかけ(別れ、告白を断った、トラブルが起きたなど)と、その時期。
  3. つきまといや嫌がらせが始まった時期と、その後の回数・頻度。
  4. 相手から届いたメッセージや手紙の内容(好意を示す言葉と恨みを示す言葉の両方)。
  5. 待ち伏せや押し掛けの日時・場所と、撮影した写真や防犯カメラの映像。
  6. 身の危険を感じた言動の有無と、その具体的な内容。


 好意を示すメッセージと恨みを示すメッセージは、どちらも消さずに残しておくことをおすすめします。両方がそろうと、「好意が恨みに変わった」流れを説明しやすくなります。
 また、令和7年の法改正により、規制法の警告は被害者の申出がなくても警察の職権で行えるようになりました。通達では、逆恨みなどを恐れて申出をためらう方がいることが改正の背景とされています。申し出ることに不安がある場合は、その気持ちも警察に伝えておくとよいでしょう。

弁護士に相談する意味

 恨みからのつきまといは規制法の対象かどうかの判断が分かれやすく、警察から規制法での対応は難しいと言われることもあります。その場合でも、条例違反や刑法上の罪として整理し直したり、民事の手続に切り替えたりすることで、対応の道が開けることがあります。
 弁護士が代理人となれば、相手との連絡窓口を弁護士に一本化できます。相手が恨みを抱いている場合ほど、本人どうしのやり取りは対立を深めるおそれがあるため、窓口を代えることには意味があります。
 警察と弁護士のどちらに先に相談するかで迷う方は、【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序もご覧ください。

よくあるご質問


相手に恋愛感情があったことを、こちらで証明しなければなりませんか

 被害を受けている方が、相手の内心を証明する義務を負うわけではありません。警察は、関係の経緯やメッセージの内容、行為の態様などから目的を判断します。ただ、判断の材料となる記録をできるだけ残し、時系列で説明できるようにしておくことは、対応を早めるうえで役立ちます。

警察に「ストーカー規制法の対象ではない」と言われたら、何もしてもらえないのですか

 そうとは限りません。都内での行為であれば東京都の迷惑防止条例、行為の内容によっては脅迫罪や名誉毀損罪などで対応できる可能性があります。警察庁の通達でも、迷惑防止条例や特別法を含めた法令の活用に留意するよう示されています。

関連する解説記事



 恨みからのつきまといは、その感情がどこから生じたかによって使える手続が変わります。規制法の対象にならない場合でも、条例や刑法、民事の手続を組み合わせて被害を止める道を探ることができます。記録を残しながら、早めに相談先を確保しておくことが大切です。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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