【ストーカートラブル】相手が不起訴になった|処分の結果を知る方法と身を守る準備
つきまといや待ち伏せが職場の周辺で続くと、「いっそ仕事を辞めてしまえば終わるのではないか」と考える方は少なくありません。通勤のたびに相手の姿を探してしまう、同僚に迷惑をかけているのではと気に病む、といった負担が重なれば、退職が頭に浮かぶのは自然なことです。
一方で、仕事を辞めることは収入や生活の基盤に直結し、後から取り消すのが難しい決断です。また、辞めたからといって相手の行動が止まるとは限りません。この記事では、ストーカー被害を理由に退職を迷ったときに、決める前に整理しておきたいこと、辞めずにとれる手段、退職を選ぶ場合に押さえておきたい点を順に説明します。
本記事は2026年10月時点の法令・制度をもとに作成しています。雇用保険の取扱いなどは個別の事情や運用によって異なることがあるため、具体的な判断は各窓口や専門家にご確認ください。
退職を決める前に考えておきたいこと
退職を考える理由はさまざまです。相手が職場の同僚で毎日顔を合わせなければならない、相手が勤務先の前で待っている、職場に電話をかけてくる、といった状況では、職場にいること自体が負担になります。気持ちが追い詰められているときに、環境を変えたいと考えるのは無理もないことです。
ただ、退職によって解決するのは「職場で相手と接する」という部分に限られる場合があります。相手が自宅や連絡先、SNSのアカウントを知っていれば、つきまといの場所が職場から別の場所へ移るだけになるおそれもあります。反対に、相手との接点が職場にしかなく、職場から離れれば相手がこちらの所在を知る手がかりを失う、という場合もあります。
つまり、退職が身を守る手段として役立つかどうかは、相手がどこで、何を手がかりに接触してきているかによって変わります。まずはこの点を落ち着いて整理することが、後悔の少ない判断につながります。
辞めるかどうかを考えるための4つの視点
| 視点 | 確かめたいこと |
|---|---|
| 相手との接点 | 相手は職場の内部の人か、外部の人か。職場以外に接点はあるか |
| 相手が持っている情報 | 自宅の住所、電話番号、SNS、家族の連絡先などをどこまで知っているか |
| 危険の程度 | 脅しの言葉、待ち伏せ、押しかけなど、身体への危険を感じる行動があるか |
| 職場の対応 | 会社が配置や勤務形態の変更、来訪者への対応などにどこまで応じてくれるか |
相手が職場の内部の人か、外部の人か
相手が同僚や上司など職場の内部の人であれば、会社は人事上の措置として配置換えや接触の制限を検討できる立場にあります。相手が元交際相手や客など外部の人であれば、会社にできることは来訪者への対応や電話の取次ぎの制限などが中心になります。どちらに当たるかで、職場に残りながらとれる手段の幅が変わります。
相手がどこまで情報を持っているか
相手が自宅の住所や個人の連絡先を知っている場合、退職だけでは接触の経路を断ち切れません。職場を離れることを考えるのであれば、住所や連絡先の見直しをあわせて検討する必要が出てきます。転居も視野に入る場合は、【ストーカートラブル】相手の家の近くに住んでいる|引っ越すべきかの判断もあわせてご覧ください。
危険の程度と職場の対応
身体への危険を感じる行動がある場合は、退職するかどうかより先に、当面の安全を確保することを優先してください。危険が差し迫っているときは迷わず110番通報をすることが大切です。そのうえで、会社がどこまで協力してくれるかを確かめると、辞めずに済む道があるかどうかが見えてきます。
辞める前に職場でとれる手段
会社には、従業員が生命や身体の安全を確保しながら働けるよう配慮する義務があるとされています(労働契約法5条)。ストーカー被害は私生活上の問題と受け止められがちですが、職場の周辺や職場の人間関係の中で起きている被害であれば、会社に相談し、配慮を求めることは不自然なことではありません。
会社に求められる配慮の例としては、次のようなものがあります。
- 勤務する部署や店舗、勤務時間帯の変更。
- 在宅勤務や時差出勤への一時的な切り替え。
- 受付や代表電話で、相手からの来訪や問い合わせに応じない取扱い。
- 同僚が相手と接触することになった場合の対応方法の共有。
- 有給休暇や休職制度を使った一時的な休み。
どこまで応じてもらえるかは会社の規模や業務の内容によって異なりますが、退職を申し出る前に一度相談してみる価値はあります。勤務地や勤務時間の調整については【ストーカートラブル】勤務先に配慮を求める|勤務地や勤務時間の変更で、相手が職場の上司や同僚である場合については【ストーカートラブル】職場の上司・同僚からの執拗な好意|会社に伝える前にで詳しく説明しています。相手が職場に電話をかけてきたり押しかけてきたりしている場合は、元恋人が職場へ電話・押しかけ|会社を巻き込む嫌がらせへの対応も参考になります。
また、休暇や休職で一度職場から距離を置くことは、退職と違って元に戻すことができる選択です。気持ちが落ち着かないまま退職を決めるよりも、まずは休んで状況を整理し、その間に次に述べる手段を進めるという順序も考えられます。
職場の外で並行して進める手段
職場での調整と並行して、相手の行動そのものを止めるための手続を進めることが大切です。相手の行動が止まれば、退職する必要がなくなる場合もあります。
ストーカー規制法では、勤務先など通常いる場所の付近で見張ることや押しかけることも「つきまとい等」に含まれています。警察に相談し、警告や禁止命令といった手続を求めることが考えられます。禁止命令の流れについては【ストーカートラブル】禁止命令を出してもらうには|申出の方法と出るまでの期間をご覧ください。
警察の手続とは別に、裁判所に接近禁止の仮処分を申し立てる方法もあります。両者の使い分けについては接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで整理しています。
弁護士に依頼すると、相手への連絡の窓口を弁護士に移し、接触をやめるよう書面で求めたり、接触しないことを約束する合意書を交わしたりすることも考えられます。どこに先に相談するか迷う場合は【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序も参考にしてください。
それでも退職を選ぶときに押さえておきたいこと
職場の協力が得られない、心身の負担が大きく働き続けることが難しいなど、退職を選ぶ事情は人それぞれです。退職を決めた場合も、次の点を確認しておくと、その後の生活や安全を守りやすくなります。
退職の時期と手続
期間の定めのない雇用であれば、退職の申入れから2週間が経過すると雇用は終了するとされています(民法627条1項)。就業規則で別の定めがあることも多いため、確認したうえで会社と相談するとよいでしょう。出勤すること自体に危険がある場合は、残っている有給休暇の消化や、私物の引き取り方法についても会社と調整しておくと安心です。
退職後の所在が伝わらないようにする
退職した後に、相手が元の職場を通じて転職先や新しい住所を探ろうとすることも考えられます。会社に事情を伝え、外部からの問い合わせには転職先や連絡先を答えないよう依頼しておくことが大切です。離職票などの書類の送付先、同僚への伝え方、SNSに勤務先を表示していないかといった点もあわせて見直しておきましょう。転居も行う場合の手続については、【ストーカートラブル】引っ越した先を知られないための手続の順序で説明しています。
雇用保険の離職理由
ストーカー被害を理由とする退職は、原則として自己都合退職として扱われることが多いと考えられます。2025年4月以降の自己都合退職では、基本手当(いわゆる失業給付)の給付制限期間は原則1か月とされています。
ただし、被害による心身の不調で働き続けることが難しくなった場合には、医師の判断などをもとに、正当な理由のある自己都合退職(特定理由離職者)として扱われる可能性があります。また、配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にある方を含みます)からの暴力などを避けるために転居し、それにより離職した場合も、特定理由離職者とされる取扱いがあります。いずれも最終的に判断するのはハローワークですので、退職前に相談しておくと見通しを立てやすくなります。
退職による損失を相手に請求できるか
ストーカー行為によって受けた損害は、相手に賠償を求めることが考えられます。精神的な苦痛に対する慰謝料のほか、通院費用、仕事を休んだことによる収入の減少(休業損害)、転居にかかった費用などが検討の対象になります。
退職によって収入が減ったことについても請求を検討する余地はありますが、ストーカー行為と退職との結びつき(因果関係)が争点になりやすく、認められるかどうか、どの範囲まで認められるかは事案によって大きく異なります。退職を考えている段階から、被害の経過や心身の状態、会社とのやり取りを記録に残しておくことが、後の請求の土台になります。請求できる項目の考え方については【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立てをご覧ください。
迷っている間に残しておきたい記録
退職するかどうかを決めかねている間も、記録は残しておくことをおすすめします。次のような記録は、警察への相談、会社への説明、相手への請求のいずれにも役立つことがあります。
- 相手が職場の周辺に現れた日時・場所・様子のメモ。
- 職場への電話やメールの記録、受付での対応の記録。
- 会社に相談した日時と、会社から示された対応の内容。
- 通院した場合の診断書や領収書。
- 休んだ日数や減った収入がわかる給与明細。
まとめ
ストーカー被害で職場を辞めるべきか迷ったときは、退職によって相手との接点がどこまで断てるのか、辞めずにとれる手段は残っていないかを、まず整理することが大切です。会社への相談、休暇や休職による一時的な距離の確保、警察や裁判所の手続、弁護士を通じた対応を組み合わせることで、働き続けながら被害を止められる場合もあります。退職を選ぶ場合も、所在が伝わらないための手当てや記録の保存をしておくことで、その後の生活を守りやすくなります。一人で決めきれないときは、早めに専門家にご相談ください。弁護士に依頼した場合の変化については【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で説明しています。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


