【男女トラブル】交際相手から経済的に支配されている|お金の管理から抜け出す

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年10月時点の民法・刑法、および2024年(令和6年)4月1日施行の改正後の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(以下「DV防止法」)にもとづいて解説しています。個別の事情によって結論が変わることがあるため、具体的な対応は専門家にご相談ください。


「給料が入ると、彼氏に通帳とカードごと渡すことになっている」「使い道を毎回説明しないとお金を出してもらえない」。ご相談の現場では、交際相手にお金の管理を握られ、自分の収入なのに自由に使えなくなっている方の声をお聞きします。反対に、「最初は自分から管理をお願いしたので、今さら返してほしいとは言いにくい」と、関係の始まり方を気にして動けずにいる方もいらっしゃいます。

 「経済的DV」についての解説の多くは、夫婦を前提に、生活費(婚姻費用)を請求する方法や離婚の手続を中心に組み立てられています。その説明自体は誤りではありませんが、結婚していない交際相手との間では、婚姻費用という仕組みがそもそも使えず、別の考え方で整理する必要があります。

 この記事では、交際相手(同棲中・別居を問いません)にお金の管理を握られている場面に絞り、法的な位置づけと、口座やカードの管理を自分の手に戻す順序、取り戻しや清算の考え方を解説します。身体的な暴力や暴言への対応、保護命令の詳しい要件は、それぞれの記事に譲ります。

交際相手との間の「経済的DV」|夫婦の場合と何が違うのか

お金を通じて相手を動かすという見方

 「経済的DV」は法律上の用語ではなく、お金を通じてパートナーの自由を狭め、相手を思いどおりに動かそうとする行為を広く指す言葉です。交際関係のご相談では、たとえば次のような形で表れます。

  • 給与の振込口座の通帳・キャッシュカードを相手が持ち、必要な分だけ渡される。
  • ネットバンキングや決済アプリのパスワードを相手が管理している。
  • 買い物のたびにレシートの提出や使い道の説明を求められる。
  • 自分名義のクレジットカードを相手が使い、明細を見せてもらえない。
  • 相手の支払いや借入れのために、自分名義で借りるよう求められる。
  • 仕事を辞めるよう求められる、あるいは働くことを制限される。


 どれか一つに当てはまれば直ちに違法になるわけではありません。お互いが納得して家計を一本化しているカップルもいます。問題になるのは、本人がやめたいと思っても言い出せず、お金を出してもらえるかどうかが相手の機嫌に左右されている状態です。

交際相手には「生活費を分担する義務」がない

 夫婦には、互いに扶助する義務(民法752条)と、婚姻から生じる費用を分担する義務(同法760条)があります。夫婦の経済的DVの解説が「婚姻費用の請求」を中心に据えるのは、この義務があるためです。

 これに対し、結婚していない交際相手同士には、こうした扶助・分担の義務は法律上ありません。一見すると守りが弱いように思えますが、裏を返せば、自分の給料や預金は、もともと自分だけのものであるという原則がそのまま当てはまるということでもあります。交際しているからといって、相手に収入を渡す義務も、管理を任せ続ける義務もありません。

同棲しているかどうかでDV防止法の扱いが変わる

 DV防止法の保護命令は、法律婚・事実婚の相手方に加え、「生活の本拠を共にする交際相手」にも準用されています(DV防止法28条の2)。一方、同棲していない交際相手は対象外で、つきまといなどがあればストーカー規制法で対応することになります。

 ただし、保護命令の申立ては、身体に対する暴力や、生命・身体・自由・名誉・財産に対する脅迫を受けたことが前提です。お金の管理を握られているというだけでは、通常は保護命令の対象になりません。暴力や脅しを伴っている場合の考え方は交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応とストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?で、暴言や行動の制限については交際関係のモラハラ・精神的DV|証拠の残し方と法的対応で詳しく解説しています。

お金の管理を任せた・預けたという関係をどう整理するか

「管理を任せた」のであれば、いつでもやめられる

 交際相手に通帳やカードを渡して家計の管理を頼んだという関係は、法的には、事務の処理を相手に任せる委任(準委任)に近いものとして整理できる場合があります(民法643条・656条)。どのような合意だったかは事案ごとに判断されますが、この考え方に立つと、次のような帰結になります。

  • 委任は、各当事者がいつでも解除できるとされている(民法651条1項)。
  • 任された側は、求めがあれば処理の状況を報告する義務を負う(同法645条)。
  • 任された側は、受け取った金銭などを本人に引き渡す義務を負う(同法646条1項)。


 つまり、最初に自分から管理をお願いしていたとしても、「今後は自分で管理する」と伝えて、通帳・カードや残っているお金の返還を求めることはできると考えられます。「自分から頼んだのだから文句は言えない」と思い込む必要はありません。

渡したお金が「贈与」とされる場面もある

 一方で、すべてのお金を後から取り戻せるわけではありません。デート代や生活費として相手に渡し、そのまま使われたお金は、贈与や共同生活の費用の負担と評価されやすく、返還を求めるのは簡単ではありません。

 どのお金が「預けたもの」で、どのお金が「渡したもの」なのかは、渡したときのやり取りや、相手が何に使ったかで判断が分かれます。贈与と貸付の区別については別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違い、立て替えた生活費の扱いについては交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?もあわせてご覧ください。

無断の引き出しや使い込みは刑事の問題になり得る

 預けたカードで、頼んでいない引き出しや買い物をされていた場合には、民事上の返還請求(不法行為・不当利得、民法709条・703条)に加えて、窃盗罪や横領罪(刑法235条・252条)などが問題になり得ます。

 親族間の窃盗などについては刑を免除する規定(刑法244条1項、いわゆる親族相盗例)がありますが、対象は配偶者・直系血族・同居の親族に限られます。最高裁は、内縁の配偶者にもこの規定は適用・類推適用されないと判断しており(最決平成18年8月30日)、交際相手には及ばないと考えられます。

 もっとも、警察に相談するか、被害届を出すかは、関係を終える進め方とあわせて慎重に判断すべき事柄です。ATMでの引き出しやカード決済を脅しによって強いられている場合は、ATMで金を下ろさせられる・カードを切らされる|悪質な恐喝からの離脱法で解説しています。

お金の管理を自分の手に戻す順序

動く前に、記録を手元に残す

 管理を取り戻す動きを始めると、相手が通帳や明細を隠したり、やり取りを消したりすることがあります。切り替えに着手する前に、お金の流れが分かる記録を、相手の目に触れない場所に保管しておくことが出発点です。

  • 通帳の記帳、または金融機関で発行できる取引明細。
  • クレジットカードの利用明細や、決済アプリの利用履歴。
  • お金の管理や使い道をめぐるLINE・メッセージのやり取り。
  • 渡した金額・日付・名目を書き留めたメモや日記。


 共有しているスマートフォンやクラウドに保存すると、相手に見られるおそれがあります。保存先の選び方は恋人に行動を監視される・スマホを覗かれる|プライバシー侵害と安全な別れ方や【ストーカートラブル】スマホや共有サービスから居場所が漏れている|位置情報以外の経路を止めるも参考になります。

「お金の入口」から先に切り替える

 通帳を返してもらう交渉より先に、これから入ってくるお金を自分だけが使える口座に向けておくと、相手の管理から抜け出しやすくなります。主な手段と注意点は次のとおりです。

手段やること注意点
給与の振込口座新しい口座を開設し、勤務先に振込先の変更を届け出る変更の締め日を確認し、切り替え月の給与の行き先を把握しておく
通帳・キャッシュカード金融機関に紛失・再発行の手続をとり、旧カードを使えなくする暗証番号は相手が推測できないものに変える
ネットバンキング・決済アプリパスワードと認証用のメールアドレス・電話番号を変更する認証先が相手の端末になっていないか確認する
クレジットカードカード会社に連絡し、カードの停止・再発行を行うカードの貸与は会員規約で禁止されていることが一般的で、名義人の負担になり得る


 暴力や脅しのおそれがある場合は、切り替えを相手に知られないうちに済ませ、伝えるのは安全を確保した後にするのが基本です。同棲中であれば、避難先や持ち出す物を先に決めておくことも大切です。

自分名義の借入れや契約を洗い出す

 相手の求めで自分名義の借入れやローン、携帯電話の契約などをしている場合、その返済義務は原則として名義人である自分が負います。自分の名義でどのような借入れやカードがあるかは、信用情報機関(CIC・JICC・全国銀行個人信用情報センター)に本人開示を請求することで確認できます。

 相手のために借りたお金の返済や、肩代わりしたお金の取り戻し方は交際相手の借金を肩代わり・連帯保証したとき|返済義務の有無と、払ったお金の取り戻し方で解説しています。

取り戻す・清算するときの考え方

返還を求めやすいお金と、難しいお金

 預けた口座に残っている預金や、預けたカードで無断に引き出された分は、返還を求めやすいお金です。一方、共同生活の費用として使われた分や、相手への贈り物として渡した分は、返還を求めるのが難しくなります。

 大切なのは、相手が示す「総額」で考えるのではなく、渡した経緯ごとに一つずつ分けて、返還を求められるものと求められないものを仕分けることです。この仕分けをしておくと、交渉の見通しが立てやすくなります。

逆に「これまでの生活費を返せ」と言われたら

 管理をやめると伝えたとたん、相手から「今まで面倒を見てきた分を返せ」と求められることがあります。交際中に相手が負担した生活費は、贈与や共同生活の費用の負担と評価されることが多く、別れたからといって当然に返す義務が生じるわけではありません。交際期間がどう影響するかは【男女トラブル】交際期間の長さは金銭の清算に影響するのかで解説しています。

書面に残して関係を終える

 返還額や返還方法が決まったら、口約束で終わらせず、合意書にまとめておくことをおすすめします。返還の内容とあわせて、ほかに請求し合う債権がないことを確認する清算条項や、今後の接触についての取り決めを入れておくと、後から蒸し返されにくくなります。書面の効力については【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力、清算条項については清算条項の意味|後から追加請求されないためにをご覧ください。

弁護士が間に入ると何が変わるのか

連絡の窓口を代える

 お金の管理を握られている関係では、本人が「返してほしい」と切り出すこと自体が難しく、話し合いの場で言いくるめられてしまうことも少なくありません。弁護士が代理人として受任を通知すると、以後の連絡は弁護士が受けることになり、相手と直接やり取りをしないまま、通帳・カードの返還や金銭の清算を進められるようになります。

安全面での連携

 相手が感情的になり、つきまといや脅しに発展するおそれがある場合には、警察への相談と並行して交渉を進めることもあります。別れ話の進め方全般については交際関係解消時のトラブル|別れ話でもめたときの対処法を弁護士が解説、話し合いの記録の残し方は【男女トラブル】別れ話を録音しておくべきか|交際を終える話し合いでの記録の作り方で解説しています。

よくあるご質問

同棲していない交際相手でも「経済的DV」といえますか。

 「経済的DV」は法律上の用語ではないため、同棲の有無にかかわらず、お金を通じた支配の実態を表す言葉として使われます。ただし、DV防止法の保護命令が使えるのは同棲している交際相手に限られます。同棲していない場合は、無断の引き出しであれば民事の返還請求や刑事上の問題、つきまといであればストーカー規制法というように、行為ごとに使える手段を考えることになります。

自分から「管理してほしい」と頼んだ場合でも、取り戻せますか。

 管理を任せる関係は、委任に近いものとして、いつでもやめられると考えられます(民法651条1項)。今後は自分で管理すると伝えて、通帳・カードや残っているお金の返還を求めることができます。ただし、任せていた期間に生活費として使われた分は、返還を求めるのが難しい場合があります。

相手に言われて自分名義で借りたお金は、返さなければなりませんか。

 貸金業者などとの契約の当事者は名義人であるため、原則として名義人が返済義務を負います。相手の強迫によって契約させられた場合には取消し(民法96条1項)が問題になり得ますが、立証の負担は小さくありません。相手のために借りた事情が分かる記録を残し、相手に対する返還請求とあわせて検討することになります。

まとめ


  1. 交際相手には夫婦のような扶助・費用分担の義務がなく(民法752条・760条参照)、自分の収入や預金は自分のものという原則がそのまま当てはまる。
  2. DV防止法の保護命令は同棲中の交際相手に準用されるが(DV防止法28条の2)、お金の管理だけでは通常は対象にならない。
  3. 管理を任せた関係は委任に近いものとして、いつでもやめられ(民法651条1項)、報告と引渡しを求められる(同法645条・646条1項)。
  4. 無断の引き出しは返還請求(同法709条・703条)のほか、窃盗罪・横領罪(刑法235条・252条)が問題になり得て、親族相盗例(同法244条1項)は交際相手には及ばないと考えられる。
  5. 切り替えの前に記録を残し、給与の振込口座など「お金の入口」から順に切り替える。
  6. 自分名義の借入れは信用情報機関への本人開示で確認できる。
  7. 返還額が決まったら、清算条項や接触についての取り決めを入れた合意書で関係を終える。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。交際相手との関係の解消や、それに伴う金銭の清算について、全国からのご相談に対応しています。

交際相手にお金の管理を握られて抜け出せずにいる方はもちろん、別れ際に相手から清算を求められて対応に迷っている方も、一人で抱え込まずにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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