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「スマホを勝手に見られている」「今どこにいるか、常に報告を求められる」「SNSのアカウントを教えろと言われ、断ると不機嫌になる」——。交際相手による行き過ぎた監視の相談は、決して珍しいものではありません。
こうした行為は「心配しているだけ」「愛情の裏返し」と説明されることが多く、受けている側も「自分が神経質なのだろうか」と迷いがちです。しかし、相手の承諾なく私生活の情報を取得する行為は、関係が近いという理由だけで正当化されるものではなく、内容によっては民事上の責任や刑事罰の問題になり得ます。
この記事では、交際中に起こりやすい監視行為が法律上どう位置づけられるのかを整理したうえで、監視されている状態から安全に関係を解消するための順序を、監視を受けている側の視点で解説します。
- 交際相手であっても、承諾のない私生活への立ち入りが当然に許されるわけではありません。
- スマホの扱いは、「本体を見る」「IDやパスワードでログインする」「監視アプリを入れる」で法的な評価が分かれます。
- 監視されている場合、別れを切り出す「前」の準備が、その後の安全を大きく左右します。
- 相手を問い詰める前に記録を残し、早い段階で警察や弁護士に相談することが、穏便な解決につながります。
身の危険を感じる場合は、ためらわず110番を。緊急でない相談は、警察相談専用電話「#9110」も利用できます。
「愛情」と説明される監視にも、法的な線引きがある
交際中の監視は、次のような形をとることが多く見られます。
- スマートフォンを無断で見る、内容を説明するよう求める
- SNSやメッセージアプリのIDとパスワードの共有を求め、ログインして閲覧する
- 位置情報の共有アプリを常時オンにするよう求める、切ると責める
- 出先での写真や通話による「証明」を繰り返し求める
- 友人・同僚との交流や外出を制限する、勤務先に連絡して在否を確かめる
これらは一つひとつを見れば「よくある束縛」と受け止められがちで、そのすべてが直ちに違法になるわけではありません。判断の分かれ目になるのは、本人の承諾があるか、そしてその承諾が自由な意思にもとづくものかです。断れば不機嫌になる、責められる、という関係の中で渋々応じた同意は、後から「承諾があった」と評価されるとは限りません。
また、「恋人だから」「心配だったから」という事情は、承諾がないことを埋め合わせる理由にはなりません。この点は、家族や配偶者の間であっても同じように考えられています。
行為ごとに見た法的な位置づけ
①スマートフォンを無断で見る
スマホの扱いは、行為の中身によって評価が分かれます。
まず、ロック(パスコード・指紋・顔認証)を解除して端末本体に保存された写真やデータを見るだけであれば、現行法上、それだけで直ちに犯罪にあたるとはいえないと整理されています。不正アクセス禁止法が禁じているのは、インターネット等の回線を通じて他人のIDやパスワードを入力する行為だからです。
一方、他人のIDやパスワードを入力してSNSやクラウドサービス、ショッピングサイト等にログインする行為は、不正アクセス行為にあたり得ます。同法違反の罰則は3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です(2025年6月1日施行の改正刑法により、懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されました)。同法は「何人も」不正アクセス行為をしてはならないと定めており、恋人・夫婦・親子といった関係性による例外は置かれていません。なお、あらかじめログイン済みでID等の入力が不要なアプリを開く行為は、これにあたらないと考えられています。
刑事責任とは別に、私生活上の情報を無断で見る行為は、プライバシーを侵害する不法行為(民法709条・710条)として損害賠償の対象になり得ます。認められる金額は事案によって幅があるため、見通しは個別に確認するのが確実です。
②監視アプリ・遠隔操作アプリを無断で入れられていた場合
本人に知らせずにスマートフォンへ遠隔操作アプリや監視アプリをインストールする行為は、不正指令電磁的記録供用罪(刑法168条の2、いわゆるウイルス罪)の問題になり得ます。罰則は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。過去には、配偶者や交際相手のスマートフォンに無断でこの種のアプリを入れたとして、供用罪の疑いで逮捕された事例が報道されています。
こうしたアプリには、位置情報のほか、通話・メッセージの履歴、カメラやマイクの遠隔操作といった機能を備えるものもあります。心当たりがある場合は、削除を急ぐ前に、画面を撮影するなどして状態を記録しておくことをおすすめします。
③位置情報を無断で取得される
GPS機器や紛失防止タグ(AirTagなど)を承諾なく取り付けたり、そこから位置情報を取得したりする行為は、ストーカー規制法の「位置情報無承諾取得等」(同法2条3項)として規制されています。令和7年12月30日施行の改正で、紛失防止タグを使った追跡も明確に対象へ加わりました。
交際中に問題になりやすいのが、一度は共有に同意していた場合の扱いです。共有アプリを自分でオンにした経緯があっても、その後に「もう共有したくない」と伝えれば、そこから先は承諾がない状態になります。承諾は一度きりで将来まで及ぶものではなく、撤回できると考えるのが自然です。「あのとき同意したのだから」と言われても、それだけで現在の取得が正当化されるわけではありません。
④生活そのものへの干渉
自宅や勤務先の近くでの待ち伏せ・見張りが繰り返される場合は、ストーカー規制法の「つきまとい等」の問題になります。
また、義務のないことを無理にさせる行為は強要罪(刑法223条)、害悪を告げて怖がらせる行為は脅迫罪(同222条)にあたり得ます。同棲を解消した後に合鍵で室内に立ち入る行為は、住居侵入罪(同130条)の問題となることがあります。暴力を伴う場合は、暴行罪・傷害罪として別に評価されます。
監視をやめさせたいとき、交際中でも取れる手段
関係を続けたい場合でも、監視だけを止めたい場合でも、進め方の基本は変わりません。
第一に、問い詰める前に記録を残すこと。 端末に入っていたアプリ、位置情報を知っていたとわかるやり取り、閲覧を認めた発言などは、スクリーンショットや写真で保全します。先に相手に指摘すると、証拠が消される、態度が硬化するといったことが起こりがちです。
第二に、中止の意思を明確に伝え、その記録を残すこと。 口頭だけでなく、メッセージなど後から確認できる形で「やめてほしい」と伝えた事実が残っていると、その後の対応で意味を持ちます。
第三に、応じない場合は第三者を入れること。 弁護士が代理人として通知を出し、窓口となることで、直接やり取りせずに中止を求めることができます。継続的な監視は、平穏な生活やプライバシーを侵害する不法行為として、慰謝料請求の対象になり得ます。もっとも、この段階での目的は金銭よりも「止めること」に置くほうが、結果的に落ち着くことが多いといえます。
第四に、公的な窓口の活用。 警察相談専用電話「#9110」のほか、同居している交際相手からの暴力については、配偶者暴力相談支援センターも相談先になります。同棲している(生活の本拠を共にする)交際相手は、DV防止法の保護命令の対象に含まれます。ただし、保護命令は暴力や一定の脅迫を受けたことなどが前提となるため、監視だけでは要件に届かない場合がある点は、あらかじめ知っておくとよいでしょう。
監視されている状態からの「安全な別れ方」
監視が続いている関係では、別れを切り出した瞬間が最も不安定になりやすい局面です。順序を整えておくことで、リスクを抑えられます。
1. 相手が握っている情報を棚卸しする
パスワード、位置情報の共有設定、合鍵、勤務先や学校、実家の住所、家族・友人の連絡先、SNSのアカウント。何を知られているかを書き出しておくと、後で何を変えるべきかが具体的になります。
2. 変更のタイミングをまとめる
パスワードの変更や共有設定の解除を早めに一つずつ行うと、相手が気づいて態度を硬化させることがあります。安全に連絡が取れる別の手段(信頼できる人の協力、別の端末)を確保したうえで、変更は切り出す直前から直後に集中させるほうが、混乱が少なくて済みます。
3. 別れを切り出す場所と方法を選ぶ
密室や自宅、深夜を避け、人の目がある場所を選ぶ。長時間の説得に付き合わない。その場で金銭の支払いを約束しない、書面に署名しない。これらは、交際関係の解消全般に共通する基本です。
4. 住まいの安全を整える
同棲を解消する場合、自力で追い出す・荷物を処分するといった対応は、かえってこちらの責任問題になります。合鍵の回収、退去の手順、賃貸契約の名義は、あらかじめ整理しておきます。転居を伴う場合には、住民票の写し等の交付制限といった支援措置も選択肢になります。
5. 周囲に共有しておく
家族や勤務先、学校に事情を伝えておくと、相手が回り道で接触しようとしたときに気づきやすくなります。令和7年の改正では、被害者への援助に努める主体として勤務先の雇用者や学校長が加えられており、周囲に伝えることの位置づけも明確になりました。
6. 別れた後に起こりやすいことを想定しておく
連絡の再開、待ち伏せ、位置情報の取得、交際中の画像を持ち出しての言動。いずれも、起きてから慌てるより、起きたら記録して相談すると決めておくほうが動きやすくなります。
よくある疑問
Q. 交際が続いている間でも、ストーカー規制法の対象になりますか?
同法は、恋愛感情やその他の好意の感情、あるいはそれが満たされなかったことへの怨恨を満たす目的で行われる行為を対象としており、条文上、交際が続いているかどうかで線引きされているわけではありません。位置情報の無承諾取得についても、承諾がないことが判断の分かれ目になります。もっとも、実際には関係の解消をめぐる場面で問題が表面化することが多いため、交際中の段階では、まず中止を求める記録を残しておくことが大切です。
Q. 監視の証拠を集めるために、相手のスマホを見てもよいですか?
おすすめできません。同じ行為をこちらが行えば、こちらが不正アクセスやプライバシー侵害を問われる立場になり、話し合いの構図が入れ替わってしまいます。証拠は、自分の端末に届いた通知、自分の持ち物から見つかった機器、相手の発言など、自分の側に残っているものから集めるのが基本です。
Q. 相手に「監視をやめないなら訴える」と伝えてもよいでしょうか?
伝え方によっては、相手を刺激して事態が動くことがあります。中止を求めること自体は問題ありませんが、感情的なやり取りに発展しそうな場合は、先に弁護士や警察に相談し、伝え方と順序を決めてから動くほうが安全です。
弁護士に相談することでできること
弁護士が代理人として窓口になれば、相手と直接やり取りせずに監視の中止を求めることができ、それ自体が抑止として働きます。二度と同様の行為をしない旨の合意を書面にする、接触禁止の条項を設ける、必要に応じて損害賠償を求める、といった対応も可能です。刑事の手続きが関わる場面では、警察への相談の進め方を整理することもできます。
「大げさにしたくない」「家族や勤務先、学校に知られたくない」という思いから、相談が遅れてしまう方は少なくありません。監視されている状態が続くこと自体が、日々の落ち着きを損ないます。迷っている段階でも、選べる手段を知っておくことが、次の一歩を決めやすくします。


