交際関係のモラハラ・精神的DV|証拠の残し方と法的対応

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

 交際相手からの暴言や人格否定、行動の細かな支配などが続き、「これは自分が我慢すればいいことなのか、それとも問題のある行為なのか」と迷っている方は少なくありません。こうした精神的な攻撃は、あざや傷のように目に見える形が残らないため、あとから第三者に説明しづらいという難しさがあります。

 「モラハラ(モラルハラスメント)」や「精神的DV」は法律上の明確な定義がある言葉ではありませんが、その言動が一定の程度に達すれば、慰謝料の対象になったり、刑事上の問題になったりすることがあります。そして、いざ法的な対応を考えるときに鍵を握るのが「証拠」です。

 この記事では、交際中(未婚のカップル)を主な想定として、恋人間のモラハラ・精神的DVがどのように法的に評価され得るのか、被害を裏づける証拠をどう残しておけばよいのか、そして取り得る対応の選択肢を整理します。男女どちらの立場でも起こり得る問題として解説します。

この記事の要点

  • モラハラ・精神的DVに法律上の定義はないが、程度によっては慰謝料請求や刑事上の問題につながり得る
  • 未婚の交際関係では「離婚」という枠組みがなく、夫婦のケースとは使える手続きが一部異なる
  • 精神的な被害は目に見えにくいため、記録・録音・メッセージ・医療機関の記録などを複数組み合わせて残しておくことが重要
  • 証拠集めのために相手のスマートフォンを無断で見るなど、かえって自分が不利になる行為は避ける
  • 身の危険を感じる場合は、証拠の有無にかかわらず、警察(緊急時は110番、相談は#9110)や配偶者暴力相談支援センターなどに早めに相談する

モラハラ・精神的DVとは(恋人間で起こりやすい形)

 モラハラは「精神的DV」とも呼ばれ、言葉や態度によって相手を精神的に追い詰める行為を広く指します。一度きりの強い言動というより、程度の軽い言動が繰り返し積み重なり、次第に相手が自信を失い、相手の顔色をうかがうようになっていく点に特徴があります。

モラハラに当たり得る言動の例

 交際関係で問題になりやすいものとして、次のような言動が挙げられます

  • 「お前は何もできない」などと人格や能力を繰り返し否定する
  • 大声で怒鳴る、ため息や舌打ち、無視(サイレントトリートメント)で相手を萎縮させる
  • 交友関係やスマートフォンを細かく制限・監視し、行動を逐一報告させる
  • 「別れるなら死ぬ」「周りにばらす」などと言い、関係をやめられない状況に追い込む
  • お金を管理して自由に使わせない、生活費を渡さないなど経済的に締めつける

 これらは、それ自体が直ちに犯罪になるとは限りませんが、繰り返し継続することで相手の心身に影響を及ぼし、法的な問題として評価される場合があります。

「けんか」と「モラハラ」の線引き

 対等な立場での一時的な口論と、モラハラとは区別して考えられるのが一般的です。判断の手がかりになるのは、(1)一方的か(力関係の偏り)、(2)継続・反復しているか、(3)相手を支配・コントロールする意図がうかがえるか、といった点です。もっとも、この線引きは事案ごとの評価であり、一律に決まるものではありません。判断に迷う場合は、後述の証拠を残しつつ、専門家に相談して整理するのが現実的です。

恋人(未婚)の場合に知っておきたい法律の枠組み

 「モラハラ 証拠」で検索すると、夫婦の離婚を前提とした解説が多く見つかります。しかし、婚姻していない交際関係では、離婚の場合とは前提が一部異なります。ここを押さえておくと、自分に合った対応を選びやすくなります。

夫婦の離婚問題との違い

 夫婦の場合、モラハラは離婚原因(民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」)の有無という文脈で語られることが多くあります。しかし未婚のカップルには、そもそも解消すべき「婚姻」がありません。関係を終わらせること自体は当事者の自由であり、離婚調停や離婚裁判といった手続きも関係しません。この点で、離婚を前提とした一般的な解説がそのまま当てはまるわけではありません。

慰謝料(不法行為責任)は交際関係でも問題になり得る

 一方で、慰謝料の土台となる不法行為責任(民法709条・710条)は、婚姻の有無を問いません。相手の言動が社会通念上許される限度を超え、違法といえる程度に達していて、それによって精神的苦痛を受けたと評価される場合には、恋人間であっても慰謝料を請求できる余地があります。

 ただし、恋人からの精神的な攻撃がすべて慰謝料の対象になるわけではありません。日常的な意見の対立や価値観の相違にとどまるものは、違法とまでは評価されにくいのが実情です。継続性・悪質性・心身への影響の程度などを踏まえた総合的な判断になり、そこで証拠が意味を持ちます。

刑事上の問題になり得る言動

 言動の内容によっては、刑事上の問題として整理できる場合もあります。あくまで一般的な整理ですが、たとえば次のような条文が関係し得ます。

  • 脅迫罪(刑法222条)…「危害を加える」「周囲にばらす」など、生命・身体・自由・名誉・財産に害を加える旨を告げた場合。2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
  • 強要罪(刑法223条)…脅して義務のないことを無理にさせた場合。3年以下の拘禁刑
  • 名誉毀損罪(刑法230条)/侮辱罪(刑法231条)…事実を示して社会的評価を下げた場合や、公然と侮辱した場合。侮辱罪は2022年7月施行の改正で法定刑が引き上げられ、現在は1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金などが定められています
  • 傷害罪(刑法204条)…継続的な精神的攻撃によって、うつ状態やPTSDなどの医学的な精神疾患を発症した場合には、傷害罪に当たり得ると考えられており、そのように判断した裁判例もあります

 いずれも成立するかどうかは具体的な事情次第で、軽々に「犯罪だ」と決めつけられるものではありません。ただ、どの条文が視野に入るのかを知っておくと、記録すべきポイントが見えてきます。

DV防止法の保護命令は「同居」しているかが分かれ目

 配偶者からの暴力を防ぐDV防止法(配偶者暴力防止法)には、裁判所が相手に接近禁止などを命じる「保護命令」の仕組みがあります。恋人でもこれを使えるのかは、よく尋ねられる点です。

 ここで重要なのは、DV防止法の対象が、法律婚・事実婚の配偶者に加えて「生活の本拠を共にする交際相手」(=同棲している交際相手)とされていることです。裏を返せば、同居していない恋人は、この法律の保護命令の対象には原則として含まれません。

 また、2024年4月に施行された改正によって、保護命令の対象が精神的な被害の方向へ広がりました。具体的には、脅迫の対象に「自由・名誉・財産」への加害の告知が加わり、接近禁止命令の要件も「身体に」重大な危害を受けるおそれから「心身に」重大な危害を受けるおそれへと改められています。保護命令の期間も6か月から1年に延び、違反した場合の罰則も2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金へと加重されました。

 もっとも、この改正をもってしても、保護命令はあくまで身体に対する暴力、または一定の脅迫があることを土台としています。暴力や脅迫を伴わない言葉だけのモラハラが、それ単独で当然に保護命令の対象になるわけではない点は、正確に理解しておく必要があります。同居している交際相手から暴力や脅迫を受けている場合には保護命令の申立てを検討でき、そうでない場合は慰謝料請求や後述の接触遮断など、別の手段を組み合わせて考えていくことになります。

証拠の残し方(見えにくい被害だからこそ)

 精神的な攻撃は形に残りにくいからこそ、「言った・言わない」の水掛け論になりがちです。慰謝料請求でも刑事の相談でも、第三者が見て事実を確認できる客観的な材料を、複数の角度から残しておくことが力になります。

記録(日記・メモ)
 いつ、どこで、どのような言動があったか、そのとき自分がどう感じたかを、日付とともに書き留めておきます。あとから追記したと疑われにくいよう、できるだけ出来事の直後に記録し、日常の出来事も交えて継続的に残しておくと、記録全体の信用性が高まります。手書きのノートでも、スマートフォンのメモやメールの下書きに日時が残る形でも構いません。

録音・録画
 暴言や威圧的なやり取りの場面を録音・録画したデータは、有力な材料になり得ます。会話の当事者が自分の身を守るために記録する録音は、一般的に証拠として用いることができると考えられています。注意したいのは、暴言部分だけを短く切り取ると編集・改ざんを疑われやすい点です。前後の流れが分かる形で残し、先ほどの記録(メモ)と突き合わせられるようにしておくと、経緯を説明しやすくなります。

メッセージ・メール・SNS
 暴言や過度な要求、支配的なやり取りが文字で残っている場合、それ自体が直接の証拠になります。つらい内容であっても、自分から削除してしまわないことが大切です。端末の故障や紛失に備え、スクリーンショットを撮る、別の場所に保存しておくといった二重の備えをしておくと安心です。

心身の不調は医療機関の記録に
 眠れない、気分が落ち込むといった不調が続く場合は、心療内科や精神科を受診し、その通院記録や医師の診断書を残すことが、被害と心身への影響を客観的に示す材料になります。受診時に、相手からどのような言動を受けているかを具体的に伝えておくと、その内容がカルテに記録されることもあります。これは何よりまず自分の健康を守るための行動でもあります。

第三者の存在
 家族や友人に相談していた事実、そのときのやり取り(メッセージなど)も、状況を裏づける一つの材料になります。相談した相手や日付が分かる形で残しておくとよいでしょう。

証拠集めで気をつけたいこと

 証拠を集めようとするあまり、かえって自分が不利な立場に立たされることは避けたいところです。たとえば、相手のスマートフォンやSNSアカウントを無断で見る行為は、状況によっては不正アクセス禁止法違反やプライバシー侵害の問題を生じさせ、立場が入れ替わってしまうおそれがあります。証拠は、あくまで自分が正当に取得・保管できる範囲で集めるのが基本です。相手のスマートフォンの無断閲覧や監視といった問題は、別のコラムで詳しく取り上げています。

法的対応と身を守るための手順

 集めた証拠をどう生かすかは、あなたが何を望むかによって変わります。慌てて一つの手段に飛びつくより、優先順位をつけて考えるのが安全です。

まずは安全の確保と相談先
 身体的な暴力や、身の危険を感じる言動がある場合は、証拠がそろっているかどうかにかかわらず、安全の確保が最優先です。緊急時は110番、すぐの危険ではないが不安があるときは警察相談専用電話#9110に連絡できます。あわせて、各地の配偶者暴力相談支援センターや、DV相談の窓口(電話・メール・チャット等)でも相談を受け付けています。

慰謝料請求・接触の遮断
 関係を解消したうえで慰謝料を請求したい場合は、集めた証拠をもとに、示談交渉や内容証明郵便による請求、最終的には訴訟という流れが考えられます。また、別れたあとに連絡や接触が続く場合の対応として、接触を控えてもらう合意書の取り交わしや弁護士名義の通知など、いくつかの方法があります。しつこい連絡や待ち伏せが続くケース、SNSでの執拗な連絡への対応、警察がすぐに動いてくれないと感じるときの進め方については、それぞれ別のコラムで扱っています。

別れることを考えている場合
 モラハラ・精神的DVのある関係から離れる際は、相手を過度に刺激しない進め方や、相手が握っている情報の整理など、いくつか押さえておきたい点があります。相手からの監視がある場合の安全な別れ方については、専用のコラムで手順を解説していますので、あわせてご覧ください。

まとめ

 恋人からのモラハラ・精神的DVは、目に見えにくいぶん、一人で抱え込みやすい問題です。しかし、未婚の交際関係であっても、程度によっては慰謝料請求や刑事上の問題として取り上げられる可能性があり、その判断を左右するのが日頃からの証拠です。記録・録音・メッセージ・医療機関の記録などを、無理のない範囲で、複数の角度から残しておくことをおすすめします。

 そのうえで、自分が何を望むのか(関係を解消したいのか、慰謝料を求めたいのか、まず安全を確保したいのか)によって、取るべき手段は変わってきます。判断に迷うときや、身の危険を感じるときは、早めに専門家や相談窓口に相談してください。当事務所でも、男女間のトラブルについて無料相談を受け付けています。

身の危険を感じる場合は、ためらわず110番、警察相談専用電話#9110、または最寄りの配偶者暴力相談支援センターにご連絡ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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