【解決事例】交際中に受け取った自宅購入資金の一括返金を求められた|条件を確定させ接触禁止条項付きの合意書で解決した事例
マッチングアプリで知り合った海外在住だという相手から、「贈り物の通関料を立て替えてほしい」「家族が入院して治療費が必要になった」と送金を頼まれることがあります。おかしいと感じた段階で断れば、それで話は終わると考える方が多いと思います。実際、まだ送っていない段階で断れば、金銭の被害はそこで止まることが多いといえます。ただし、それまでのやり取りの中で何を相手に渡してきたかによっては、断った後にも別の問題が残ることがあります。
本記事では、送金を断ることの法的な位置づけと、断るだけでは済まないことがある場面、断った後に備えておきたいことを順に整理します。
本記事は2026年10月時点の法令に基づいています。犯罪収益移転防止法の改正(2026年7月10日施行)による口座売買の罰則引上げと、いわゆる送金バイトへの罰則の新設を反映しています。
統計に見るSNS型ロマンス詐欺の広がり
警察庁が2026年6月に公表した確定値によると、2025年のSNS型ロマンス詐欺の認知件数は5,645件、被害額は約546.4億円で、いずれも前年より増えています。2025年上半期の暫定値では、最初に接触した手段としてマッチングアプリが最も多く挙げられていました。お金の渡し方では暗号資産によるものが増え、被害総額の半分近くを占めています。
外国人と名乗る相手であっても、実際の国籍や性別は分からないことがあります。一方で、海外の方との真剣な交際も当然あり、相手が外国人であること自体を疑う理由にする必要はありません。目を向けるべきなのは国籍ではなく、会ったことのない相手からお金の話が出ているかどうかです。
送金を断ること自体に法的な問題はない
交際中の相手や知り合ったばかりの相手から送金を頼まれても、応じる法的な義務はありません。好意を示されていたことや、相手が困っていると訴えていることは、お金を払う理由にはなりません。
一度「送る」と答えてしまった場合でも、書面によらない贈与は、実際に渡す前であれば撤回できるのが原則です(民法550条)。口頭で「貸す」と約束しただけの段階でも、貸し借りの契約はお金を渡したときに成立するのが原則とされています(民法587条)。まだ一円も送っていない段階で断れば、お金の面ではそこで区切りをつけられることが多いといえます。
問題になるのは、送金を頼まれるまでの間に、相手に何を渡していたかです。
断るだけでは済まないことがある場面
身分証や住所、勤務先を伝えている
「信頼の証に」と言われて運転免許証やマイナンバーカードの画像を送っていた場合、断った後にその情報が悪用されるおそれがあります。他人名義での口座開設や携帯電話の契約、別の詐欺での名義の使用などが考えられます。紛失の届出と再発行、金融機関への連絡などで、被害が広がるのを抑える手立てを検討します。詳しくは身分証の写真を送ってしまった|個人情報を握られた後の対処で解説しています。
性的な画像や動画を送っている
やり取りの途中で性的な画像を求められ、送ってしまっていることがあります。送金を断ったとたんに「家族や職場に送る」「ネットに出す」と言われる、いわゆるセクストーションに移る場合があります。要求に応じてお金を払っても画像が消される保証はなく、要求がさらに続くこともあります。対応の順序はセクストーション(性的脅迫)に遭ったら|最初の1時間で決まることで解説しています。
「受け取ったお金を転送してほしい」と頼まれている
送金の依頼には、自分のお金を送ってほしいというものだけでなく、「あなたの口座に振り込まれるお金を、指定する口座に移してほしい」という形もあります。相手のためと思って引き受けたつもりでも、詐欺の被害金を移す役割を担わされていることがあります。
2026年7月10日施行の改正犯罪収益移転防止法では、口座の売買や譲渡に対する罰則が引き上げられ、報酬と引き換えに口座を使った資金の移動をさせる、いわゆる送金バイトへの罰則も新設されました。刑事責任を問われない場合でも、口座が凍結されて生活に必要な口座が使えなくなることがあります。
弁護士ドットコムには、外国人の交際相手にお金を貸す流れで自分名義の口座を使わせ、後に恋愛詐欺を疑って警察に相談したものの、自分の口座の凍結や立場を心配しているという相談が寄せられています。口座を使わせていた場合は、断るだけでなく、その口座をどう扱うかを早めに考える必要があります。関連して出し子・送金バイトをしてしまった|2026年改正で何が変わったのかもご覧ください。
荷物の受け取りを引き受けている
国民生活センターは、荷物を代わりに受け取ってほしいと頼まれ、受け取りの際に通関料などを請求されるという相談が目立つと注意を呼びかけています。送金そのものは断っても、受け取りを承諾して氏名や住所を伝えていれば、配送業者や税関を名乗る別の人物から支払いを迫られることがあります。名乗っている相手が本物かどうかは、こちらから公式の窓口に問い合わせて確かめることが大切です。
すでに一部を送っている
一度でも送金していると、「あと少しで全額が戻る」「ここでやめると今までの分が無駄になる」と、追加の支払いを求められやすくなります。断ることに加えて、送った分を取り戻す手立てを並行して検討することになります。
よくある依頼の名目と注意したい点
| 依頼の名目 | よく添えられる説明 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 荷物の通関料・配送料 | 贈り物を送ったので受け取ってほしい | 氏名や住所を伝えていると、別の名義で請求が続くことがある |
| 渡航費・ビザの費用 | 会いに行きたいが手続きにお金が必要 | 会う約束が先延ばしになり続ける形になりやすい |
| 治療費・事故の費用 | 本人や家族が急に入院した | 急ぎを強調され、考える時間を与えられないことが多い |
| 投資の資金 | 二人の将来のために一緒に運用しよう | 暗号資産で送らせる形が増えている |
| 口座の利用・転送 | 海外からは送金できないので代わりに受け取ってほしい | 自分が資金移動の役割を担わされるおそれがある |
断るときの伝え方と、残しておくもの
断る際に、詳しい理由を説明したり、相手の話の矛盾を指摘して議論したりする必要はありません。説得しようとすると、新しい事情を持ち出されてやり取りが長引くことがあります。「お金のやり取りはしません」と短く伝え、それ以上の議論には応じないことが基本です。
連絡を絶つ前に、次のものを手元に残しておくと、後で警察や弁護士に相談する際の材料になります。
- 相手のプロフィール画面(表示名・写真・自己紹介・ID)の保存。
- アプリ内と、LINEなど移行先のメッセージアプリでのやり取り全体。
- 送金先として示された口座、暗号資産のアドレス、受取人の名義。
- 相手から送られてきた身分証や書類の画像。
- 自分が相手に伝えた情報の一覧(氏名・住所・勤務先・送った画像など)。
退会やブロックをするとやり取りが見られなくなるアプリもあるため、記録を残してから手続きをする順序が大切です。保存の進め方は【男女トラブル・マッチングアプリ】退会するとやり取りは消えるのか|証拠を残す順序で解説しています。あわせてアプリの運営会社に通報しておくと、同じ相手から他の利用者への接触を抑えることにもつながります。
断った後に脅しや連絡が続いたら
送金を断った後に、「裏切られた」「訴える」と責め立てられたり、画像の拡散や家族への連絡をほのめかされたりすることがあります。害を加える内容を告げて要求を通そうとする行為は、脅迫罪や恐喝罪にあたる可能性があります。身の危険を感じるときは110番、急ぎではない相談は警察相談専用電話(#9110)を利用できます。
返信をしないことで状況が悪くなるのではと不安に思う方もいますが、相手に返信する義務はありません。届いた言葉の受け止め方は【男女トラブル】既読無視をしたら脅すようなメッセージが来た|返信しないことの位置づけと、届いた言葉の見分け方もご覧ください。
すでに送ってしまった場合
銀行振込で送った場合は、早めに振込元の金融機関に連絡し、振込先口座の凍結などを求めることが考えられます。振り込め詐欺救済法に基づいて凍結された口座に残高があれば、被害者への分配を受けられる可能性があります。あわせて警察に相談し、被害届の提出を検討します。消費者ホットライン(188)でも相談先の案内を受けられます。
暗号資産で送った場合や海外の口座に送った場合は、相手をたどることが難しく、回収できないことも少なくないのが実情です。可能性と限界は国際ロマンス詐欺で送金してしまった|被害回復の可能性と限界で整理しています。
なお、「被害金を必ず取り戻せる」とうたって高額な着手金を求める相談先による二次被害も報じられています。見分け方はロマンス詐欺の「二次被害」に注意|高額着手金を謳う相談先の見分け方で解説しています。
弁護士に相談することで整理できること
送金を断った段階で相談するのは早すぎるのでは、と考える方もいます。ただ、身分証や画像を渡している、口座を使わせていたといった事情があれば、断った後に何が起こりうるかを先に見通しておくことには意味があります。
弁護士は、脅しや請求が続いた場合に本人に代わって窓口となるほか、口座の扱いについて警察や金融機関にどう説明するかを一緒に整理できます。送金してしまった場合も、回収の見込みを過大に見積もることなく、取れる手段と費用の釣り合いを検討します。
会ったことのない相手からの送金依頼は、断れば多くの場合そこで区切りがつきます。そのうえで、これまでに何を渡してきたかを振り返り、残っている心配があれば早めに手を打っておくことが、断った後の生活を守ることにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


