交際相手の借金を肩代わり・連帯保証したとき|返済義務の有無と、払ったお金の取り戻し方

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

 交際している相手に頼まれて借金の連帯保証人になった、あるいは滞納している支払いを立て替えた。その後で関係が終わり、督促だけが自分のところに残った——こうしたご相談は決してめずらしくありません。

 「別れたのだから、もう関係ないのでは」「立て替えた分は当然返してもらえるはず」と考えたくなるところですが、法律上の結論は、自分がどの立場でお金に関わったのかによって変わります。この記事では、返済義務があるかどうかを分ける確認点と、すでに払ってしまったお金を取り戻す方法を整理します。

 なお、法律上の夫婦であれば日常の家事に関する債務について連帯して責任を負う場面がありますが(民法761条)、この規定は婚姻していない交際相手同士には適用されません。「恋人だから当然に返済義務がある」ということはない、というのが出発点です。

1.まず、自分がどの立場かを整理する

 見た目は同じ「相手の借金を負担した」でも、法的には次の3つに分かれます。

① 連帯保証人になった

 債権者(貸金業者や賃貸人など)との間で保証契約を結んだ立場です。契約の相手は交際相手ではなく債権者である点が重要です。

② 保証人ではないが、肩代わりして支払った

 相手の代わりに振り込んだ、カードの引き落とし分を渡した、といったケースです。契約関係はなく、事実として支払いをした立場になります。

③ 自分名義で借りて、相手に渡した(いわゆる名義貸し)

 この場合、契約上の借主は自分自身です。お金を使ったのが相手であっても、貸主に対して返済義務を負うのは名義人であるあなたになります。携帯電話やローンの契約でも同じ構造です。

 ①と②は「相手の債務」を負担した立場、③は「自分の債務」を負っている立場であり、取れる手段が大きく異なります。まずはここを取り違えないことが大切です。

2.連帯保証人としての返済義務があるか:4つの確認点

 連帯保証人には、通常の保証人に認められる催告の抗弁権・検索の抗弁権・分別の利益が認められておらず(民法454条)、債権者から直接請求を受けたときに拒みにくい立場です。原則として自分の意思だけで保証人から外れることもできません。この点や、時効の援用、無断で保証人にされていた場合の対応については、当事務所の別記事(「注意!彼氏の借金の肩代わりをさせられる『連帯保証人』の恐ろしさ」)で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

 ここでは、それ以外に見落とされやすい確認点を挙げます。

確認点1:書面(または電磁的記録)があるか

 保証契約は、書面でしなければ効力を生じません(民法446条2項)。契約内容が電磁的記録によって記録されているときは、書面によるものとみなされます(同条3項)。

 保証は本人にとって負担の重い契約であるため、慎重に判断できるよう、口頭の約束だけでは成立しないこととされているのです。したがって、「相手の前で保証すると言った」「電話で承諾した」というだけであれば、保証契約が成立していない可能性があります。

 一方で、契約書の保証人欄に署名した、申込画面で同意のチェックを入れたという場合には、書面等の要件を満たしていると評価されることが通常です。

確認点2:賃貸借などの場合、極度額が定められているか

 交際相手の部屋の賃貸借契約で連帯保証人になった、というご相談も多くあります。この種の保証は、一定の範囲に属する不特定の債務を保証する「個人根保証契約」にあたります。

 個人根保証契約は、極度額(保証人が負う上限額)を定めなければ効力を生じません(民法465条の2第2項)。極度額の定めも書面等でする必要があります(同条3項)。この規律は2020年4月1日以降に締結された契約に適用され、それ以前の契約も、同日以降に合意で更新された場合には適用が問題となります。

 契約書を確認し、極度額の記載がない場合には、保証の効力自体を争える余地があります。

確認点3:自分の意思にもとづく契約か

 署名を無断で書かれていた、印鑑を勝手に使われていたという場合、自分の意思による契約とはいえず、責任を負わないと主張できる余地があります。ただし、請求を受けて一部でも支払ってしまうと、契約を認めた(追認した)と評価されるおそれがあります。心当たりのない請求には、安易に応じないことが重要です。

確認点4:消滅時効が完成していないか

 長期間放置されていた債権については、消滅時効(民法166条1項)が問題になります。時効は期間の経過だけで効果が生じるものではなく、援用の意思表示が必要です。

3.「肩代わり」は法的にどう扱われるか

 ここは誤解が多いところなので、整理しておきます。

 連帯保証人が支払う場合、それは他人の債務を代わりに払っているのではなく、自分自身が負っている保証債務を履行しているという位置づけになります。後述する第三者弁済の制限は受けません。

 これに対し、保証人ではない人が相手の借金を支払う場合は「第三者の弁済」(民法474条1項)にあたります。第三者による弁済は原則として可能ですが、弁済について正当な利益を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済することができず(同条2項本文)、債権者の意思に反して弁済することもできません(同条3項本文)。ここでいう正当な利益とは法律上の利害関係を指し、物上保証人などが典型例です。単に親族や友人、交際相手であるにとどまる場合は、通常これにあたらないと考えられています。

 実務上は、債権者が受領してしまえば弁済として扱われる場面が多いのですが、後から相手に請求する際の位置づけに影響するため、支払う前の確認が望ましいところです。

4.払ったお金を取り戻せるか:求償権の枠組み

 支払った分を主債務者(交際相手)に請求する権利を求償権といいます。請求できる範囲は、保証人になった経緯によって変わります。

相手から頼まれて保証人になった場合(委託あり)

 支出した財産の額を求償できます(民法459条1項)。あわせて、支払った日以後の法定利息や、やむを得ない費用、損害の賠償も請求の対象となります(同条2項、442条2項)。3つの類型のなかで最も回収できる範囲が広い形です。

 ただし、主債務の弁済期より前に支払った場合には、相手がその当時に利益を受けた限度に縮められ、求償できるのは弁済期が到来した後になります(民法459条の2)。

頼まれずに保証人になった場合(委託なし)

 相手がその当時に利益を受けた限度でのみ求償できます(民法462条1項)。法定利息や費用は含まれません。

 さらに、相手の意思に反して保証人になっていた場合は、求償の時点で相手が現に利益を受けている限度に限られます(同条2項)。たとえば、その後に相手が別の理由で債務を免れていたようなときには、請求できる額が減ることになります。

まだ払っていないが請求が来ている段階

 相手から委託を受けて保証人になった場合には、一定の要件のもとで、支払う前にあらかじめ求償権を行使できることがあります(民法460条)。相手が破産手続開始の決定を受けたのに債権者が配当に加入しないとき、債務が弁済期にあるとき、過失なく支払うべき旨の裁判の言渡しを受けたときが挙げられています。

保証人ではない立場で支払った場合

 相手から依頼を受けて支払ったのであれば、委任にもとづく費用の償還を請求する構成が考えられます。依頼がなかった場合には、事務管理や不当利得として請求することになりますが、認められる範囲は限定されがちです。

 なお、支払いによって、債権者が持っていた債権や担保が求償権の範囲で自分に移ることがあります(弁済による代位。民法499条以下)。担保が付いていた債務であれば、回収の手がかりになります。場で支払った場合[/小見出し]

最大の壁は「あれは贈与だった」という反論

 実際の紛争でもっとも争われるのは、条文の解釈ではなく事実の立証です。相手から「もらったものだと思っていた」「返す約束はしていない」と主張されたとき、立て替えや保証委託があった事実を証明する責任は、請求する側にあります。

 証拠として意味を持ちやすいのは、次のようなものです。

  • 振込明細、クレジットカードの利用明細、領収書
  • 「立て替えておく」「後で返す」といったやり取りが残るメッセージ
  • 保証を頼まれた経緯がわかるメッセージや通話履歴
  • 保証契約書、賃貸借契約書の写し

 求償権も債権ですので、消滅時効(民法166条1項)の適用を受けます。時間が経つほど証拠も残りにくくなるため、放置は避けたいところです。

5.相手が自己破産・債務整理をしたとき

 見落とされやすい、しかし重要な点です。

 主債務者が自己破産して免責許可の決定を受けても、その効力は債権者が保証人に対して有する権利には影響しません(破産法253条2項)。つまり、相手の借金が免除されても、保証人としての支払義務はそのまま残ります。

 他方で、保証人が持つ求償権は、相手にとっての債務ですから、免責の対象に含まれ得ます。結果として、「自分は払わなければならないのに、相手には請求できない」という状態が生じることがあります。任意整理や個人再生の場合も、手続の対象から外れた保証人に請求が向かう点は同じです。

 相手が債務整理を検討していると聞いた段階で、自分の立場を早めに確認しておく意味は小さくありません。

6.避けたい対応

  • 心当たりのない請求に一部でも支払う……契約を認めたと評価されるおそれがあります。
  • その場で念書や公正証書に署名する……とくに強制執行を認める文言のある公正証書は、後から覆すことが容易ではありません。
  • 相手や家族に強い言い方で取り立てる……内容によっては脅迫罪や恐喝罪の問題になり得ます。正当な請求であっても、方法を誤ると立場が悪くなります。
  • 裁判所からの書類を放置する……支払督促には2週間の異議申立期間があり、訴状を放置すれば欠席のまま判決が出ることもあります。

7.取り戻すための現実的な進め方

  1. 証拠を整理する……いつ、いくら、どの債務について支払ったのかを時系列でまとめます。
  2. 記録の残る形で請求する……内容証明郵便に法的な強制力はありませんが、請求した事実と時期を明らかにできます。
  3. 裁判手続を検討する……60万円以下の金銭の支払いを求める場合は少額訴訟(民事訴訟法368条1項)を利用できます。金額が大きい場合は通常訴訟、争いが少ない場合は支払督促も選択肢です。
  4. 回収可能性を見極める……判決を得ても、相手に財産や収入がなければ実際の回収は難しくなります。分割の合意書を作る、執行を認める文言のある公正証書にしておくなど、現実的な着地を考えることも必要です。

まとめ

  • 連帯保証、肩代わり、名義貸しは法的にまったく別の立場であり、まず自分がどれにあたるかの確認が出発点になります。
  • 保証契約は書面等がなければ効力を生じず(民法446条2項・3項)、賃貸借などの個人根保証では極度額の定めがなければ効力を生じません(同465条の2第2項)。契約書の確認には意味があります。
  • 支払った分の回収は求償権によりますが、請求できる範囲は保証を頼まれていたかどうかで変わります(民法459条・462条)。
  • 「贈与だった」と反論されたときに備え、支払いと経緯の記録を残しておくことが実際上は最も効きます。
  • 相手が免責を受けても保証債務は残る一方、求償権は失われ得ます。早い段階での確認をおすすめします。

 督促が届いている、署名した覚えのない契約が見つかった、立て替えた分の返還を求めたいといった段階でも、取り得る手立ては残っていることが少なくありません。ご自身の状況に置き換えた判断が難しいと感じられた場合には、一度専門家にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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