【不貞慰謝料】請求する側にも落ち度がある場合の主張
この記事は、2026年10月時点の民法(2020年4月施行の改正後の使用貸借・賃貸借の規定)、借地借家法、配偶者暴力防止法(2024年4月施行および2025年12月施行の各改正を反映)に基づいて作成しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的なご判断は弁護士にご相談ください。
「同棲していた部屋は相手の名義。別れ話になったら『自分の家だから今月中に出ていって』と言われた」「家賃は半分ずつ払ってきたのに、追い出されるのは納得できない」。男女トラブルのご相談では、名義を持たない側からこうした声が寄せられます。反対に、名義人の側からは「別れた相手が部屋から出ていかない」というご相談も少なくありません。
一般には「名義人でなければ住み続ける権利はない」と説明されることが多く、それ自体は大きく外れていません。ただ、名義人だからといって鍵を替えたり荷物を運び出したりしてよいわけではなく、住んでいた側にも、退去までの時期や費用について話し合う余地が残されています。「出ていくしかない」か「居座れる」かの二択で考えると、見えなくなる部分があります。
この記事では、名義を持たない側の立場から、別れた後も住み続けられるのか、出ていくとしたら何を決めておくべきかを整理します。名義人の側の対応は【男女トラブル】同棲していた部屋から相手が出ていかない|名義を貸した側にできることで、敷金や原状回復の負担は同棲解消の敷金・原状回復・退去費用は誰が払う?で扱っていますので、あわせてご覧ください。
まず確かめたいのは「何に基づいて住んでいたか」
名義人と大家・所有者の関係
「相手名義の部屋」といっても、相手が大家と賃貸借契約を結んで借りている部屋なのか、相手が所有するマンションなのかで、関係する人が変わります。賃貸であれば、部屋を使う権利は大家と名義人の契約から生まれており、あなたはその契約の当事者ではありません。持ち家であれば、所有者である名義人との関係だけが問題になります。
名義人とあなたの関係
次に、名義人があなたに部屋を使わせていた関係の中身です。家賃を払わずに住んでいたのであれば、法律上は無償で物を貸し借りする「使用貸借」(民法593条)と整理されるのが一般的です。家賃や光熱費を分担していた場合も、同居の生活費を出し合っていたにすぎないと見られることが多く、名義人との間に独立した賃貸借があったと言えるかは、金額や取決めの内容によって分かれます。
契約書に同居人として載っているか
賃貸借契約書や入居申込書に「同居人」として名前が載っていることがあります。これは大家が入居者を把握するための記載であり、それだけで賃借人と同じ権利を持つわけではありません。ただ、大家や管理会社があなたの居住を承知していたことを示す資料にはなり、後で名義の切り替えを相談する際の出発点にもなります。
住み続けられるかどうかは、名義の有無だけでなく、どのような関係で住んでいたかによって考え方が変わります。おおまかな目安は次のとおりです。
| 住んでいた形 | 法律上の整理の目安 | 住み続けられるか |
|---|---|---|
| 家賃を払わずに同居していた | 使用貸借 | 名義人が終了を求めれば、原則として退去の方向 |
| 家賃・光熱費を分担していた | 多くは生活費の分担。取決め次第で賃貸借の余地 | 分担の中身によるが、大家との契約は名義人のまま |
| 内縁・事実婚の関係にあった | 夫婦に準じた扱いが及ぶ場面がある | 財産の清算と一体で話し合う |
| 名義人から暴力を受けていた | 配偶者暴力防止法の対象になり得る | 退去命令で一時的に名義人を退去させられる場合がある |
家賃を払っていなかった場合|使用貸借はどう終わるのか
期間も目的も決めていなければ、名義人はいつでも終わらせられる
使用貸借で、期間も使い道も決めていなかったときは、貸主はいつでも契約を解除できるとされています(民法598条2項)。交際中に「一緒に住もう」と始めた同棲で、いつまでという約束をしていることはまれですから、この規定が当てはまる場面は多いといえます。
「同棲のため」という目的があった場合
期間は決めていなくても、使う目的を定めていた場合は、その目的に従った使用を終えた時に契約が終わり(同法597条2項)、目的に従った使用に足りる期間が過ぎれば貸主は解除できます(同法598条1項)。同棲を目的として住まわせていたのであれば、交際が終わった時点で目的は果たされた、あるいは失われたと評価されやすく、使用貸借の構成では、別れた後も長く住み続ける根拠は見出しにくいのが実情です。
借地借家法の保護は及ばない
賃貸住宅の借主は、借地借家法によって、貸主から一方的に契約を終わらせられないよう保護されています。しかしこの法律は建物の賃貸借を対象としており(借地借家法1条)、無償の使用貸借には及びません。「何年も住んでいたのだから簡単には追い出されないはず」と考えていても、無償で住んでいた限り、その保護は期待しにくいことになります。
家賃を分担していた場合|払っていたことは何を意味するか
分担していた=借りていた、とは限らない
「家賃の半分を毎月渡していた」という場合、名義人から部屋を借りていた(賃貸借)とも考えられそうです。しかし、同棲中の分担は、食費や光熱費と一緒に生活費を出し合う感覚で行われることが多く、独立した貸し借りの契約があったと評価されるかは、金額が相場に見合っていたか、「家賃」として払う取決めがあったかなどによって判断が分かれます。使用貸借でも、借主は通常の必要費を負担するとされており(民法595条1項)、費用を出していたことだけで無償の関係でなくなるわけではありません。
大家との関係では、契約の当事者は名義人
仮に名義人との間で賃貸借に近い関係があったとしても、大家と賃貸借契約を結んでいるのは名義人です。名義人が大家との契約を解約すれば、部屋を使う権利の土台がなくなり、大家から明渡しを求められる立場になります。また、名義人だけが出ていきあなたが住み続ける形は、大家から見れば承諾のない転貸や賃借権の譲渡にあたるおそれがあり(民法612条)、二人の間だけで「このまま住んでいい」と決めても、大家に対しては通用しないことがある点に注意が必要です。
払ってきた家賃を返してもらえるか
出ていくことになった場合に、それまでの分担分を返してほしいと考える方もいます。ただ、実際に住んで部屋を使っていた期間の分担は、使用の対価や生活費として清算済みと見られるのが通常です。前払いしていた月の分や、名義人の個人的な支出に充てられていた分など、事情によって話し合いの対象になるものはあります。交際中のお金の考え方は交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?で扱っています。
内縁・事実婚にあたる場合は考え方が変わる
同棲と内縁の違い
長く一緒に暮らし、周囲からも夫婦同然と見られていた、家計を一つにしていた、互いに結婚の意思を持っていた、といった事情があれば、単なる同棲ではなく内縁(事実婚)と評価されることがあります。内縁の解消では、離婚の際の財産分与に準じた清算が問題になる場面があり、住まいの扱いも、その清算の一部として話し合うことになります。
住み続ける根拠になり得るか
ただ、内縁であっても、名義人の部屋に住み続ける権利が当然に認められるわけではありません。財産の清算の話し合いの中で、一定期間の居住や転居費用の負担を求めるといった形で調整するのが現実的です。内縁にあたるかどうかの判断や解消時の扱いは【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのかをご覧ください。
「今すぐ出ていけ」と言われても、追い出されるわけではない
名義人も実力で追い出すことはできない
住む根拠が弱い場合でも、名義人が裁判所の手続を経ずに、鍵を替えて締め出したり、荷物を勝手に運び出したりすることは、自力救済として原則許されません(最高裁昭和40年12月7日判決)。例外が認められる余地は、緊急やむを得ない特別の事情がある場合に限られます。名義人が退去を実現するには、話し合いで合意するか、建物明渡しの訴えを起こして判決を得たうえで強制執行を申し立てる(民事執行法168条)ことになります。
「手続に時間がかかるから住み続けられる」は危うい
訴訟から強制執行までには数か月以上かかることもあり、その間は事実上住み続けられることになります。しかし、使用貸借が終わった後の居住は権原のない占有と扱われ、退去までの期間について家賃相当額の支払いを求められる可能性があります(民法703条・709条)。訴訟になれば自分の側の弁護士費用もかかり、敗訴すれば訴訟費用の負担も求められます(民事訴訟法61条)。時間を稼ぐことだけを目的に退去を拒むと、費用の負担が膨らみ、交渉の余地も狭まりやすいことは知っておきたいところです。
退去を約束した後の出入りには注意
退去の時期を約束して部屋を出た後、鍵を返さずに出入りしたり、名義人から退去を求められているのに残り続けたりすると、刑事上の問題に発展するおそれもあります。どのような場合に不退去罪が成立するかは退去を求められたのに帰らなかった|不退去罪はいつ成立するかで解説しています。名義人の側から弁護士が介入し、話し合いで退去時期を決めて解決した例としては【解決事例】自分名義の部屋に元交際相手が住み続けた|交渉で退去を実現し、その後の接触も止まった事例があります。
住み続けたいとき・出ていくときに話し合っておくこと
退去の時期と、それまでの費用
すぐに次の住まいを用意できないときは、退去の時期に猶予をもらう交渉が考えられます。その際は、退去日だけでなく、猶予期間中の費用や引き渡しの方法まであわせて決め、書面に残しておくと後の行き違いを防げます。話し合いで決めておきたい項目は、次のとおりです。
- 退去日と、その日までの家賃・光熱費の負担割合。
- 共同で買った家具・家電の帰属と、運び出しの日時。
- 残った荷物の扱いと、期限を過ぎた場合の処理方法。
- 合鍵の返却方法と、返却の確認の取り方。
- 敷金・原状回復費用の負担。
- 郵便物の転送や、住民票を移す時期。
- 合意した内容以外に請求し合わないことの確認。
家具・家電の分け方は【男女トラブル】同棲を解消するとき、家具・家電はどう分けるのか|共同で買ったものの扱い、残った荷物は【男女トラブル】相手の荷物が家に残っている・自分の荷物を取りに行きたい|勝手に処分してよいか、合鍵は【男女トラブル】別れた相手が合鍵を持っている|返してもらう交渉と、鍵を替える判断で個別に扱っています。最後の項目はいわゆる清算条項で、どこまでの請求が消えるかは清算条項の意味|後から追加請求されないためにをご参照ください。
自分の名義に切り替えて住み続ける
部屋そのものに住み続けたく、家賃も自分で払えるのであれば、名義人と大家の契約を終わらせ、あなたが新たに大家と契約する方法があります。名義の切り替えには大家・管理会社・保証会社の審査や承諾が必要で、名義人の協力も欠かせません。新規契約として初期費用がかかる場合もありますので、管理会社に早めに条件を確認しておくとよいでしょう。名義が変わらないまま名義人だけが出ていく形は、滞納があれば名義人に請求が及ぶため、名義人の側も応じにくいのが通常です。
転居した後の手続
退去した後は、転居から14日以内に住民票を移す届出が必要です(住民基本台帳法22条・23条)。郵便物の転送届も出しておくと、名義人の部屋に自分宛ての郵便が届き続けることによる行き違いや、受け取りをめぐる連絡を避けられます。
名義人から暴力を受けている場合
同棲中の交際相手も配偶者暴力防止法の対象
配偶者暴力防止法は、生活の本拠を共にする交際相手からの暴力にも準用されます(同法28条の2)。同棲中に暴力を受け、関係を解消した後も引き続き暴力を受ける場合も含まれます。
退去命令は「時間を確保する」ための制度
保護命令の一つである退去命令は、裁判所が加害者に対し、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去するよう命じるものです(同法10条の2)。部屋が加害者の名義であっても対象になり、期間は原則2か月です(住居の所有者または賃借人が被害者のみである場合は6か月)。退去命令は住み続ける権利を与えるものではなく、安全に転居の準備をするための期間を確保する制度と理解しておくのが適切です。保護命令の要件や流れは交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応をご覧ください。身の危険を感じるときは、交渉より先に警察や配偶者暴力相談支援センターに相談してください。
よくあるご質問
家賃を半分払ってきたのに、出ていかなければならないのですか
分担していたことだけで、名義人に対して住み続ける権利が生じるとは限りません。大家と契約しているのが名義人である以上、名義人が契約を終わらせれば、住み続けることは難しくなります。ただ、これまでの分担の経緯は、退去日の猶予や費用負担を話し合う際の事情として考慮されることがあります。
名義人が鍵を替えてしまい、部屋に入れなくなりました
名義人であっても、裁判所の手続を経ずに締め出すことは原則として許されません。とはいえ、鍵を壊して入るなどの行動をとると、こちらの側の問題になりかねません。まずは身の回りの物や生活に必要な物の受け取り方法を書面やメッセージで求め、話し合いが難しい場合は弁護士を通じて退去時期や荷物の引き取りを交渉するのが現実的です。
約束した退去日までに次の部屋が見つかりません
退去日が近づいてから黙って住み続けると、合意違反として家賃相当額を請求されるなど、立場が悪くなるおそれがあります。見通しが立たないと分かった時点で早めに事情を伝え、延長する期間とその間の費用負担を改めて合意し、書面に残しておくことをおすすめします。
まとめ
- 相手名義の部屋に住んでいたときは、名義の有無だけでなく、どのような関係で住んでいたかによって考え方が変わる。
- 家賃を払わずに住んでいた場合は使用貸借と整理されることが多く、期間も目的も決めていなければ名義人はいつでも解除できる(民法598条2項)。
- 同棲を目的としていた場合も、交際が終われば目的は果たされたと評価されやすい(民法597条2項・598条1項)。使用貸借には借地借家法の保護は及ばない(借地借家法1条)。
- 家賃を分担していても、大家との契約の当事者は名義人であり、二人の間の合意だけで住み続けることは大家に対して通用しないことがある(民法612条)。
- 名義人も鍵の交換や荷物の運び出しで実力的に追い出すことはできないが(最高裁昭和40年12月7日判決)、居座りを続けると家賃相当額の請求などを受けるおそれがある(民法703条・709条)。
- 退去するときは、退去日・費用・荷物・合鍵・敷金などを合意書にまとめ、清算条項で後の請求を整理しておく。
- 名義人から暴力を受けている場合は、退去命令によって一時的に安全な期間を確保できる場合がある(配偶者暴力防止法10条の2・28条の2)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。同棲を解消するにあたって住まいの扱いが決まらない、名義人から急な退去を求められて困っている、話し合いに応じてもらえないといったお悩みについて、事情を伺ったうえで、退去時期や費用の交渉、合意書の作成までお手伝いします。
相手名義の部屋に住んでいて今後の住まいに不安がある方も、別れた相手に部屋から出ていってもらいたい名義人の方も、一人で抱え込まず、早めにご相談ください。


