接触禁止条項・口外禁止条項の書き方と限界

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

示談の話し合いが金額の面で折り合ったあと、最後まで残りやすいのが「今後は連絡を取らない」「この件は他人に話さない」という二つの約束です。示談書では、それぞれ接触禁止条項、口外禁止条項(守秘義務条項)と呼ばれます。

 この二つは、書き方しだいで意味が大きく変わります。範囲が広すぎると現実に守れず、曖昧すぎるとどこからが違反なのかで新たな争いになります。他方で、書いてあることがそのまま実現するわけでもありません。相手の行動を強制的に止める仕組みは、示談書の条項そのものには備わっていないからです。

 この記事では、二つの条項をどう書くかという点と、書いても届かない範囲がどこにあるのかという点を、対にして整理します。刑事事件の示談を想定していますが、考え方は民事のトラブルの合意書でも共通します。

この記事で扱うことと扱わないこと

 この記事で扱うのは、接触禁止条項と口外禁止条項の書き方の考え方と、その条項で届く範囲です。違約金の定め方や、条項に無理が出やすい書き方についても触れます。

 一方、次の点は別の記事で扱う内容になるため、ここでは深入りしません。

  • 示談金の金額や相場の考え方。
  • 宥恕条項(相手を許す旨の条項)や清算条項の意味と効果。
  • 被害届の取下げ、告訴の取消しの手続。
  • 示談交渉の始め方や、相手方との連絡の取り方。


 また、示談書に条項を入れたからといって、刑事処分の見通しが決まるわけではありません。処分の判断は捜査機関や裁判所が行うものであり、この記事で扱う二つの条項は、あくまで当事者どうしの約束をどう作るかという話です。

接触禁止条項・口外禁止条項とは何を約束する条項か


接触禁止条項

 示談が成立したあと、当事者が互いに近づいたり連絡を取ったりしないことを約束する条項です。加害者とされる側が一方的に義務を負う形にすることもあれば、双方が相互に負う形にすることもあります。痴漢や盗撮などの事件では、被害者の方の生活上の不安に直接関わるため、金額と並んで重視されることの多い条項です。

口外禁止条項

 事件の内容や、示談が成立したという事実、示談書に書かれた条件などを、第三者に話さないことを約束する条項です。守秘義務条項という名前で置かれることもあります。当事者双方の名誉や生活の平穏を守る目的で設けられ、双方が相互に義務を負う形にするのが一般的です。

出発点は当事者どうしの契約であること

 示談は、法律上は和解契約にあたります(民法695条)。接触禁止条項も口外禁止条項も、その契約の一部として置かれる約束です。ここが、後で述べる限界の話の出発点になります。契約である以上、当事者が合意した範囲でしか効きませんし、合意していないことは書いても意味を持ちにくい、ということです。

示談書の条項と、裁判所や公安委員会が出す命令との違い

 「接触禁止」という言葉から、接近禁止命令のような公的な制度を思い浮かべる方がいます。しかし、示談書の条項とこれらの命令は、性質の異なるものです。

項目示談書の接触禁止条項保護命令・禁止命令等
根拠当事者どうしの合意法律に基づく裁判所または公安委員会の判断
決める主体当事者双方地方裁判所または都道府県公安委員会
違反したときに直接生じること債務不履行として損害賠償や違約金の問題になる刑罰の対象となる
期間合意で決める。定めがないと争いになりやすい法律で枠が定められている


 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律に基づく保護命令に違反した場合、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金の対象とされています。ストーカー行為等の規制等に関する法律でも、禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金、それ以外の禁止命令等違反は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と定められています。

 これに対し、示談書の接触禁止条項に違反しただけでは、その違反自体が刑罰の対象になるわけではありません。同じ「接触禁止」でも、背後にある仕組みが違うという点は、条項を作る前に押さえておきたいところです。

接触禁止条項をどう書くか


誰と誰の間の約束にするか

 まず決めるのは、義務を負うのが一方だけか、双方かという点です。一方だけの形にすると、被害者の方の側から連絡が来た場面の扱いが決まりません。相互の形にすると、双方が同じ制約を受けます。どちらが適切かは事案によって変わります。

 もう一つ迷いが出やすいのが、「甲の関係者」「甲の家族」といった書き方です。関係者という言葉は、読む人によって範囲が変わります。範囲を広げたい場合は、同居のご家族、勤務先の同僚といった形で、区切りが分かる書き方にしておくほうが、後の解釈の食い違いを減らせます。

何を禁止するのかを具体的に書く

 接触という言葉だけでは、どの行為までを指すのかが定まりません。実務では、面会、電話、手紙、メール、SNSのメッセージや投稿を通じた働きかけなど、手段を並べて書くことが多くなっています。

 近年は、直接メッセージを送らなくても関わりが生じる場面があります。SNSでの申請や、共通の知人を介した伝言などです。気になる場合は、その点も条項に含めるかどうかを話し合っておくと、後で判断に困りにくくなります。

例外を先に置いておく

 「いかなる理由があっても接触しない」という書き方は、一見すると強い条項に見えますが、現実に守れない場面を生みます。同じ職場に勤めている、同じ路線を使っている、子どもを介した連絡が要る、といった事情があるときは、そのままでは形だけの条項になりかねません。

 こうした場合は、禁止の範囲を絞る書き方が検討されます。業務上必要な範囲を除く、緊急の連絡は代理人を通じて行う、といった形です。また、街中で偶然見かけた場面をどう扱うかも、あらかじめ書いておくことがあります。速やかにその場を離れる、といった書き方です。

期間を書くかどうか

 期間の定めを置かない条項が多いのですが、そうすると期限のない約束になります。長期にわたって関係が固定されることを避けたい場合は、年単位で期間を区切る案を出すこともあります。ただし、被害者の方の側からすると期間を切ること自体に不安が生じるため、話し合いの中で調整すべき点です。

口外禁止条項をどう書くか


何を秘密にするのかを分けて書く

 秘密にする対象は、少なくとも三つに分けられます。事件そのものの内容、示談が成立したという事実、示談書に書かれた条件です。どれを含めるかで、条項の重さが変わります。

 たとえば、事件の内容までを対象にすると、当事者は出来事そのものを話せなくなります。金額だけを秘密にしたいのであれば、対象を条件の部分に絞る書き方も考えられます。

誰に対して話してはいけないのかを決める

 「第三者に口外しない」という書き方が一般的ですが、第三者の範囲は当然には決まりません。同居のご家族、勤務先、報道機関、インターネット上の不特定の相手では、話が及ぶ影響がまったく異なります。

「正当な理由がある場合を除き」の中身を書き出す

 多くの示談書には、正当な理由がある場合を除く、という留保が入っています。ただ、この一文だけでは、何が正当な理由にあたるのかが読む人に伝わりません。トラブルを避けたい場合は、例外にあたる場面をいくつか書き出しておく方法があります。

  • 弁護士、税理士など、守秘義務を負う専門家に相談する場合。
  • 捜査機関や裁判所から説明を求められた場合。
  • 法令に基づいて開示が必要となる場合。
  • 同居のご家族に対し、必要な範囲で説明する場合。


 書き出しておくことで、後から「これは違反にあたるのか」と悩む場面を減らせます。相手方から示された案にこの留保がない場合は、追加を求めることも検討できます。

方法とほのめかしの扱い

 口頭で話す場合だけでなく、書面、SNSへの投稿、匿名の書き込みなども対象に含めるのが通常です。実際には、名前を出さずに事件を思わせる投稿をする、といった形が問題になることがあります。条項の中で、特定の人物を推知させる形での投稿を含める旨に触れておく方法があります。

二つの条項の限界

 ここからが、条項の書き方と同じくらい大事な部分です。丁寧に書いた条項でも、届かない範囲があります。

捜査機関や裁判所とのやり取りまでは縛れない

 口外禁止条項は、当事者間の合意として原則的には有効と考えられています。しかし、内容があまりに広く、捜査機関への協力や、法廷で事実を述べることまで封じる趣旨を含む場合には、公序良俗に反するものとして効力が認められない可能性があります(民法90条)。

 この点は、裁判の実務でも意識されています。無条件の口外禁止条項であっても全面的な禁止まではできず、証人が証言を拒める理由に当然になるわけではない、という指摘が、元裁判官による実務書の中でも示されています。被害者の方が捜査機関に事実を話すことまで止める条項は、そもそも想定されていないと考えておくのが安全です。

相手の行動を強制的に止める仕組みではない

 接触禁止条項があっても、それだけで相手の行動を物理的に止められるわけではありません。約束に反した場合に、損害賠償や違約金という金銭の問題として処理されるのが基本です。

 示談書を公正証書にしておけば強制執行ができる、と説明されることがありますが、これには範囲があります。執行認諾文言を付けた公正証書が強制執行の根拠になるのは、金銭の一定額の支払などを目的とする請求についてとされています(民事執行法22条5号)。接触しない、口外しないという不作為の約束そのものは、この形では対象になりません。違約金という金銭の支払として定めておけば、その部分は対象になり得ます。

違反があったことの立証が難しい

 特に口外禁止条項では、情報が広まっていることが分かっても、誰から漏れたのかを示すのが難しい場面が多くあります。相手が話したのか、別の経路で伝わったのかを区別できないと、請求は進みません。接触禁止条項でも、偶然の遭遇と意図的な接近の区別が争点になることがあります。

違反だけで示談全体をやり直せるとは限らない

 示談の中心は、多くの場合、金銭の支払と紛争の終結です。接触禁止や口外禁止は、それに付随する約束と位置づけられます。そのため、これらの条項に違反があったからといって、示談契約そのものを解除したり、なかったことにしたりするのは容易ではないと考えられています。実務では、損害賠償や違約金の請求を検討する形になります。

違約金をどう考えるか

 違約金の定めを置くかどうかは、よく相談を受ける点です。

 違約金は、法律上、損害賠償の額をあらかじめ決めておくもの(賠償額の予定)と推定されます(民法420条3項)。この定めがあると、請求する側は、実際にいくらの損害が生じたかを示さなくても、決めた金額を請求できると説明されます。損害の大きさを金額で示しにくい類型では、この点に意味があります。

 もっとも、決めた金額がそのまま通るとは限りません。改正前の民法420条1項には、裁判所はその額を増減できないという一文がありましたが、この部分は削除されています。公序良俗による制約が、以前から認められていたことを踏まえたものと説明されています。金額が事案の実態から大きく離れていれば、その一部が効力を持たないと判断される余地があります。

 もう一つ、金額を書くこと自体の副作用もあります。金額が明示されていると、その金額を払えば接触してもよいという受け取り方をされかねない、という指摘です。金額を書くか、書かずに一般の損害賠償の規律に委ねるかは、相手の姿勢や事案の性質を見て決める部分になります。

無理が出やすい書き方

 実際の示談書の案で、後から問題になりやすい書き方を整理します。

よく見られる書き方どこで無理が出やすいか考えられる書き換えの方向
甲の関係者にも一切接触しない関係者の範囲が読む人によって変わる同居の家族、勤務先の同僚など区切りが分かる形にする
いかなる理由があっても連絡しない手続や緊急の事情で連絡が要る場面まで違反になる代理人を窓口とする方法を併記する
本件について一切口外しない専門家への相談や家族への説明までためらうことになる例外にあたる場面をいくつか書き出す
違反した場合は相当額を支払う相当額が定まらず、結局は争いになる金額を定めるか、一般の規律に委ねるかを選ぶ


 いずれも、強い言葉で広く書けば効果が上がる、という関係にはないという点が共通しています。守れる内容にしておくほうが、結果として双方の安心につながります。

刑事事件で特に問題になりやすい場面


相手の氏名や住所が分からない場合

 性犯罪をはじめとする事件では、被害者の方の氏名や連絡先が伏せられたまま手続が進むことがあります。この場合、接触禁止条項に相手を特定する情報を書き込めません。

 実務では、示談書に個人を特定する情報を載せず、双方の代理人を通じてやり取りする形をとることがあります。条項の側でも、連絡は代理人を通じて行う旨を書いておく方法があります。どのような書式が適切かは事案ごとに異なるため、この段階で弁護士に確認しておくほうが、行き違いが起きにくくなります。

捜査や裁判が続いている間に条項違反が起きたとき

 示談が成立しても、そのあと捜査や裁判が続く場合があります。この時期に接触禁止条項に反する行動があると、金銭の問題にとどまらない影響が生じ得ます。示談の趣旨に沿わない行動として受け止められることがあるためです。

 また、行動の内容によっては、示談とは別に、新たな法的問題として扱われる可能性もあります。示談書を交わしたからその後の行動が問題にならない、という関係ではありません。

受け取る側から読み直すと

 ここまでは条項を作る側の視点で書きましたが、相手方から示された案に署名を求められる立場になることもあります。その場合、次の点を先に確認しておくと判断しやすくなります。

  1. 禁止される行為の範囲が、自分の生活の中で守れる内容になっているか。
  2. 例外の定めがあるか。専門家への相談や、家族への説明が含まれているか。
  3. 期間の定めがあるか。定めがない場合、それでよいと考えられるか。
  4. 違約金の定めがあるか。ある場合、その金額の根拠を説明してもらえるか。
  5. 双方が義務を負う形か、一方だけが負う形か。


 署名した後で内容を変えるのは簡単ではありません。分からない言葉が残っている状態で署名しないほうが、後の負担は小さくなります。

弁護士に相談する意味

 接触禁止条項も口外禁止条項も、書式そのものはインターネット上にいくつも出ています。ただ、そのまま使えるかどうかは、当事者の関係や事件の内容によって変わります。同じ路線を使っているのか、職場が重なるのか、相手の氏名が分かっているのか。こうした事情で、置くべき例外は変わります。

 弁護士に依頼した場合、条項の設計だけでなく、相手方との窓口を代理人が担うことができます。当事者が直接やり取りしない形をとれるため、交渉の途中で新たな行き違いが生じにくくなる面もあります。

 もっとも、弁護士に依頼すれば望む内容の合意ができる、という関係ではありません。条項は相手方が納得しなければ成立しませんし、刑事処分の見通しについても、結果を約束できるものではありません。その前提のうえで、選べる書き方を並べて検討することに意味があります。

よくあるご質問


接触禁止条項に違反すると、逮捕されるのですか

 示談書の条項に違反したこと自体が、直ちに逮捕の理由になるわけではありません。損害賠償や違約金の問題として扱われるのが基本です。ただし、その行動が別に法律に触れる場合は、そちらの問題として扱われます。

口外禁止条項があると、家族にも話せないのでしょうか

 条項の書き方によります。同居のご家族への説明を例外として書いておけば、その範囲では問題になりません。書かれていない場合は解釈の問題になるため、署名の前に確認しておくことをお勧めします。

相手が条項に違反したと思うのですが、どうすればよいですか

 まず、違反にあたる事実を示せる資料が手元にあるかを確認します。そのうえで、条項に定めた効果に沿って請求を検討します。相手方に直接連絡を取ることで、こちらが接触禁止条項に反すると受け取られる場合もあるため、進め方は慎重に決めるほうがよいでしょう。

まとめ


  • 接触禁止条項と口外禁止条項は、示談という和解契約の一部として置かれる約束である。
  • 保護命令や禁止命令等とは仕組みが異なり、条項違反そのものが刑罰の対象になるわけではない。
  • 接触禁止条項では、義務を負う人、禁止する行為、例外、期間の四つを分けて考える。
  • 口外禁止条項では、秘密にする対象、相手方、方法、そして例外を書き分ける。
  • 「正当な理由がある場合を除き」の中身は、あらかじめ書き出しておくと後の判断に迷いにくい。
  • 捜査機関への説明や法廷での供述まで封じる内容は、効力が認められない可能性がある。
  • 不作為の約束は、公正証書にしても直ちに強制執行の対象にはならない。
  • 違約金には損害額を示す負担を減らす面があるが、金額がそのまま通るとは限らない。
  • 広く強く書くほど効果が上がるわけではなく、守れる内容にしておくことが結果的な安心につながる。


ご相談を検討されている方へ

 示談書の条項は、一度署名すると内容を変えるのが難しくなります。示された案に不安がある、どこまで書けばよいか判断がつかない、といった段階でご相談いただければ、選べる書き方を一緒に整理できます。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件の示談交渉と示談書の作成についてご相談を承っています。作成前の段階でも、すでに案が手元にある段階でも、お気軽にお問い合わせください。

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Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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