【解決事例】結婚を伝えた相手から退職と慰謝料を求められた|受任通知の届け方を整え、接触が止まった事例
本記事は、2026年10月時点の不正アクセス禁止法、ストーカー規制法などの法令に基づいて作成しています。2025年6月1日施行の改正刑法により、懲役刑と禁錮刑は拘禁刑に一本化されており、本記事の法定刑もこれに沿って記載しています。各サービスの設定画面の名称や手順は変更されることがあるため、実際の操作は各サービスの案内をご確認ください。
「交際相手と別れることを決めたものの、相手が自分のSNSやメールのパスワードを知っている。いつ、どこから変えればよいのか分からない」というご相談があります。反対に、「別れ話の前日にすべてのパスワードを変えたところ、相手が異変に気づいて問い詰められた」「変えたはずなのに、回復用のメールアドレスが相手のままで、すぐに入り直された」という経過をたどった方もいます。
別れる前にパスワードを変えておくという助言は、それ自体は誤りではありません。ただ実際には、どのアカウントから手をつけるか、変える前に何を残しておくか、別れ話の前と後でどこまでを済ませるかによって、その後の展開が変わります。パスワードという一点だけを見ていると、回復用の連絡先やログインしたままの端末といった別の入口が残ることもあります。
この記事では、交際相手にパスワードを知られている方が、別れる前にアカウントを切り替える順序と、その法的な意味を整理します。位置情報の共有アプリの解除や、性的な画像の削除交渉は、それぞれ別の記事で扱っていますので、該当する箇所でご案内します。
交際中に教えたパスワードは、別れた後も使ってよいことにはならない
承諾を得たログインは不正アクセスにあたらない
他人のIDとパスワードを入力してアカウントに入る行為は、不正アクセス禁止法が禁じる「不正アクセス行為」の典型です(不正アクセス禁止法2条4項1号、3条)。もっとも、同じ条文は、そのアカウントの利用権者の承諾を得て行うものを除いています。交際中に「見てもいいよ」とパスワードを教え、相手がそれを使ってログインしていた場合、その時点では承諾があったと評価される余地があります。
承諾は、関係の変化とともに区切ることができる
ただ、一度パスワードを教えたことが、将来にわたる無期限の承諾を意味するわけではありません。交際が終わり、利用をやめてほしいという意思がはっきりした後のログインは、承諾を得ないものと評価され得ます。不正アクセス行為の法定刑は、3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です(同法11条)。
ここで問題になるのは、承諾がいつ終わったのかを後から示せるかどうかです。パスワードを変更し、回復用の連絡先を自分だけのものに切り替えることは、それ自体が「以後は使わせない」という意思を形にする行為でもあります。切り替えの日時を記録しておくと、その後のログインを問題にするときの起点になります。
相手のパスワードを知っている場合も、考え方は同じ
反対に、ご自身が相手のパスワードを知っている場合にも同じ構造が当てはまります。別れる前に相手の本心を確かめたい、やり取りを確認しておきたいという気持ちからログインすると、ご自身が責任を問われる側に回るおそれがあります。成立範囲については他人のIDでログインした|不正アクセス禁止法の成立範囲で、閲覧の場面については元交際相手のSNSを見ていた|のぞき見が罪になる場面で詳しく解説しています。
切り替える前に、相手に何を知られているかを棚卸しする
パスワード以外にも「入口」はある
相手がアカウントに入る手段は、パスワードだけではありません。交際中に端末を一緒に設定した、同じ部屋で暮らしていたといった事情があると、次のような入口が残っていることがあります。
| 入口 | 見落としやすい点 |
|---|---|
| パスワード・暗証番号 | 複数のサービスで同じものや似たものを使い回している |
| 回復用のメールアドレス・電話番号 | 再設定の連絡先が、相手のアドレスや相手の端末になっている |
| ログインしたままの端末 | 相手のスマホやパソコン、タブレットで、自分のアカウントが開いたままになっている |
| スマホ本体のロック解除 | 画面ロックの番号を知られている、相手の顔や指紋が登録されている |
| パスワード管理機能の共有 | 保存したパスワードを共有する設定や、家族向けの共有グループに相手が入っている |
| 連携ログイン | SNSや買い物のサービスに、メールやクラウドのアカウントでまとめてログインしている |
特に見落とされやすいのが回復用の連絡先です。多くのサービスでは、パスワードを忘れたときの再設定の連絡やログインの通知が、登録したメールアドレスや電話番号に届きます。ここが相手のものになっていると、パスワードを変えても、相手が再設定の手続をとって入り直せてしまうことがあります。
変える前に、いまの状態を記録しておく
多くのサービスには、ログインしている端末の一覧や、ログインの履歴を確認できる画面があります。他の端末からログアウトさせると、その一覧から相手の端末が消えることがあるため、切り替えの前に画面を撮影し、確認した日時とあわせて残しておくことをおすすめします。見慣れない端末や、ご自身が使っていない時間帯のログインがあれば、その部分も同じように記録します。
記録を先に、切り替えを後にするという順序を守ると、相手がアカウントに入っていたことを後から示す材料が残ります。記録した画像やデータの保管方法については、LINE・メール・録音データの保存と渡し方|消してはいけない理由もあわせてご覧ください。
切り替える順序|回復の要から、枝葉のサービスへ
1番目は、メールアドレスと電話番号
最初に手をつけたいのは、ほかのサービスの再設定用の連絡先になっているメールアカウントです。ここを相手に握られたままだと、SNSや買い物のサービスのパスワードを変えても、再設定の連絡がそのメールに届いてしまいます。メールアカウントについては、次の順に確認します。
- 回復用のメールアドレスと電話番号が自分だけのものになっているかを確認し、相手のものがあれば外す。
- 新しいパスワードに変更する。ほかのサービスで使ったことのない、推測されにくいものにする。
- 二段階認証を設定し、確認コードの届け先を自分の端末に限る。
- ログイン中の端末の一覧から、自分の端末以外をログアウトさせる。
- 連携しているアプリやサービスの一覧を確認し、心当たりのないものを解除する。
パスワードより先に回復用の連絡先を整えることが、この順序の中心です。順序が逆になると、変更の通知や確認コードが相手に届き、切り替えたこと自体が相手に伝わったり、手続を相手に止められたりすることがあります。
2番目は、スマホ本体とクラウドのアカウント
次に、スマホと結びついたクラウドのアカウント(Apple IDやGoogleアカウントなど)を切り替えます。これらには写真、連絡先、予定、端末の位置などが集まっていることが多く、パスワードを知られていると生活の多くの部分が見えてしまいます。メールと同じ順序で切り替えたうえで、スマホ本体の画面ロックの番号を変え、相手の顔や指紋が登録されていないかを確認します。
家族向けの共有グループや、共有アルバム、共有カレンダーに相手が入っている場合も、ここで整理します。位置情報の共有アプリについては別れた後も位置情報を見られている|共有アプリ・見守りアプリの解除と法的対応で、写真や予定など位置情報以外の経路については【ストーカートラブル】スマホや共有サービスから居場所が漏れている|位置情報以外の経路を止めるで、手順を詳しく扱っています。
3番目は、SNS・メッセージアプリ・決済のサービス
メールとクラウドを自分だけのものにした後で、SNS、メッセージアプリ、ネットショッピング、決済のサービスへと進みます。根元を先に固めておけば、ここでの再設定の連絡はご自身にしか届きません。
メッセージアプリは、パソコン版やタブレットなど別の端末でのログインを認める設定になっていることがあります。ログイン中の端末を確認し、心当たりのないものはログアウトさせます。ネットショッピングや決済のサービスは、登録された住所や購入履歴から生活の様子が分かることがあるため、後回しにしすぎないようにします。
別れ話の前に済ませること、後に回すこと
相手に気づかれやすい切り替え、気づかれにくい切り替え
切り替えの中には、相手の画面に変化が出るものと出にくいものがあります。おおまかな目安は次のとおりです。
| 作業 | 相手の側に生じやすい変化 |
|---|---|
| ログイン履歴・端末一覧の記録 | 変化は出にくい |
| 回復用の連絡先の確認・変更 | 変化は出にくい(連絡先が相手のものになっている場合を除く) |
| パスワードの変更 | 相手がログイン中であれば、ログアウトされることがある |
| 他の端末からのログアウト | 相手が次に開いたときに入れなくなる |
| 位置情報・アルバム・家族グループの共有停止 | 相手の画面から表示が消え、気づかれることがある |
別れ話の前に済ませておきたいもの
別れ話の前には、少なくとも記録と回復用の連絡先の整理を済ませておくと安心です。そのうえで、パスワードの変更やログアウトをいつ行うかは、相手との関係によって判断が分かれます。
話し合いで穏やかに別れられそうな場合は、別れ話の直前か直後にまとめて切り替え、「今後はアカウントを使わないでほしい」と伝えておく方法があります。伝えた内容がメッセージなどで残れば、承諾を撤回した時点がはっきりします。他方、相手が交際中からスマホを確認したがる、連絡がつかないと強く責めるといった傾向がある場合は、別れ話の前に急に切り替えると、相手の不信を招いて話し合いが難しくなることもあります。どの時点で切り替えるかは、相手が変化に気づいたときにどう反応しそうかを基準に考えるのが現実的です。
別れ話の場で伝えた内容を残しておく方法については、【男女トラブル】別れ話を録音しておくべきか|交際を終える話し合いでの記録の作り方で整理しています。
身の危険を感じる場合は、順序より安全を優先する
相手から暴力を受けたことがある、別れを切り出すと何をされるか分からないと感じている場合は、アカウントの切り替えよりも、身の安全の確保を先に考える必要があります。警察の相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署に相談し、必要であれば避難先を確保してから切り替える、という順序もあり得ます。
交際中の監視や束縛が続いている場合の別れ方については恋人に行動を監視される・スマホを覗かれる|プライバシー侵害と安全な別れ方を、相手を刺激せずに関係を断つ方法についてはストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方をご覧ください。
二人で使っていたアカウントや、相手名義の端末がある場合
共有していたアカウントは、締め出す前に整理する
動画配信や音楽の定額サービス、共有アルバムなど、二人で一つのアカウントを使っていた場合、ご自身の判断だけで相手を締め出すと、費用の負担やデータの扱いをめぐって新たな争いになることがあります。契約者が誰か、料金を誰が支払っていたか、保存されたデータが誰のものかを確認し、自分のデータを自分のアカウントに移したうえで自分が抜ける、という形をとる方が、もめにくいことが多いでしょう。
相手名義の契約で使っていた端末や回線
スマホの回線契約や端末そのものが相手名義になっている場合、契約上の管理は名義人である相手の側にあります。その端末に相手のアカウントでログインしたままになっていれば、端末の位置や中身を相手が確認できることもあります。自分名義の新しい回線や端末を用意してデータを移し、そのうえで相手名義のものは返却や解約の手続に乗せる、という順序が考えられます。名義の変更や費用の清算が必要になる場合は、別れ話の中で、あるいは代理人を通じて取り決めておくとよいでしょう。
性的な画像が共有の場所に残っている場合
交際中に撮影した性的な画像が、共有アルバムや、相手の端末と同期するクラウドに残っていることがあります。共有を止めても、相手の手元にすでに保存された画像は残ります。削除を求める交渉については、別れた相手が裸の画像を持っている|拡散される前に削除させる交渉で詳しく解説しています。
切り替えた後も、相手がアカウントに入ってきたら
通知と履歴を残し、相談先につなぐ
切り替えた後に見慣れない端末からのログイン通知が届いた、相手しか知らないはずのやり取りを相手が口にした、といった場合は、通知や履歴の画面をそのまま記録します。承諾を撤回した後のログインは、不正アクセス行為にあたる可能性があります。各都道府県警察のサイバー犯罪の相談窓口に相談するときは、切り替えた日時、その後のログインの日時と端末、相手が何を知っていたかを時系列でまとめておくと、話が伝わりやすくなります。
また、恋愛感情などを背景に、相手が「行動は把握している」と思わせる内容を告げてくる場合には、ストーカー規制法の「監視していると思わせるような事項を告げる」行為にあたることがあります(ストーカー規制法2条1項2号)。
自分で取り返そうとしない
相手が入ってくることに腹を立て、相手のアカウントに入って確かめたり、やり取りをSNSで公開したりすると、ご自身が別の責任を問われることになりかねません。記録を残したうえで、警察や弁護士に対応を委ねる方が、結果として早く落ち着くことが多いでしょう。
弁護士が間に入るという方法
弁護士がご本人の代理人として相手に連絡し、アカウントや端末に触れないこと、保存しているデータを削除すること、今後連絡しないことなどを求め、合意書の形で残す方法もあります。ご本人が相手と直接やり取りをせずに関係を終えられる点が、この方法の特徴です。代理人を立てる意味については、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
交際中に自分からパスワードを教えていた場合でも、相手のログインを問題にできますか
交際中に教えていたという事情は、その当時のログインが承諾に基づくものだったかどうかの判断に影響します。他方で、別れた後や、使わないでほしいと伝えた後のログインは、承諾がない状態で行われたものと評価され得ます。パスワードを変更した日時や、撤回の意思を伝えた日時を記録しておくことが、その区切りを示す材料になります。
パスワードを変えたことは、相手に知られますか
変更の通知は、多くの場合、アカウントに登録されたメールアドレスや端末に届きます。回復用の連絡先がご自身のものだけになっていれば、通知が相手に直接届くことは通常ありません。ただし、相手の端末でログインしたままになっていた場合は、ログアウトされたことで変化に気づかれることがあります。
切り替えれば、相手の端末に残っている自分のデータも見られなくなりますか
自分のアカウントのパスワードを変えて相手の端末をログアウトさせれば、それ以降に増えるデータを相手が見ることは通常防げます。ただし、すでに相手の端末に保存された写真やメッセージは、切り替えによって消えるわけではありません。削除を求める必要がある場合は、交渉の中で削除と不拡散を約束してもらうことを検討します。
まとめ
- 交際中に教えたパスワードでのログインは、承諾があれば不正アクセス行為にあたらないが、承諾は関係の終わりとともに撤回できる(不正アクセス禁止法2条4項1号)。
- 承諾を撤回した後のログインは、3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象となり得る(同法3条、11条)。
- 切り替えの前に、ログイン履歴や端末の一覧を日時とともに記録しておく。
- 切り替えは、回復用のメールアドレスと電話番号、クラウドのアカウント、SNSや決済のサービスの順に、根元から進める。
- 別れ話の前には記録と回復用の連絡先の整理を済ませ、相手に気づかれやすい切り替えの時期は、相手の反応を見込んで判断する。
- 二人で使っていたアカウントや相手名義の端末は、自分のデータを移してから整理する。
- 切り替えた後もログインが続く場合や、監視していると告げられた場合は、記録を残して警察や弁護士に相談する(ストーカー規制法2条1項2号)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。相手にアカウントやスマホの情報を知られたまま別れ話を進めることに不安がある方、別れた後も相手のログインや連絡が続いている方は、状況の整理からご相談いただけます。
相手と直接やり取りをせずに関係を終えたい方には、弁護士が代理人として相手との連絡を引き受け、データの削除や接触しないことの約束を書面に残す方法もご案内しています。交際中に知った相手のパスワードの扱いに迷っている方からのご相談もお受けしていますので、お早めにご相談ください。


