ストーカートラブルに遭ったら絶対にやってはいけない5つのこと|早期・穏便に解決するために
別れたはずの相手が、自宅の前に立っている。出勤する時間に駅で「偶然」顔を合わせる。職場の入り口付近で待たれている——。
元交際相手からのつきまといや待ち伏せは、暴力や明確な脅し文句をともなわないことも多く、「まだ何かされたわけではない」「警察に行くほどではないのでは」とためらううちに長期化しやすい類型です。相談をためらう傾向は、男女を問わず見られます。
もっともストーカー規制法は、暴力の有無ではなく、行為の性質とその繰り返しに着目した法律です。この記事では、待ち伏せ・押しかけといった「実際に接近してくる」タイプの行為に絞って、法律上どう位置づけられ、どの手続きを使えるのかを整理します。
1. 元交際相手のケースに特有の事情
元交際相手は、あなたの生活情報をすでに持っています。自宅の場所と帰宅時間、勤務先と通勤経路、休日の過ごし方、共通の知人、実家の所在地——探す手間をかけずに待ち伏せができてしまう点が、面識のない相手による被害との大きな違いです。
さらに、「話し合いたいだけ」「預けたままの荷物を返したい」「一度だけ会って区切りをつけたい」といった、一見すると筋の通った名目が用意されやすいという特徴もあります。名目に応じて一度会うと、その後の接触が「約束したはずだ」という主張の根拠にされることがあります。
一方で、元交際相手であることが手続き上プラスに働く面もあります。ストーカー規制法が規制するのは、「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」で行われる行為です。元交際相手からの接近は、この目的要件を満たしていると判断されやすい類型といえます。見知らぬ相手の場合に問題になりがちな「動機が分からない」という壁が、比較的生じにくいということです。
2. 待ち伏せ・押しかけは法律上どう扱われるか
条文が想定している行為
ストーカー規制法2条1項1号は、つきまとい、待ち伏せ、進路に立ちふさがること、住居・勤務先・学校その他現に所在する場所もしくは通常所在する場所(住居等)の付近での見張り、住居等への押し掛け、住居等の付近をみだりにうろつくこと、を規制対象としています。
具体例としては次のような行為となります。
- 尾行してつきまとう
- 通勤途中や外出先など、行動先で待ち伏せする
- 進路に立ちふさがる
- 自宅・職場・学校や実際にいる場所の付近で見張りをする
- それらの場所に押し掛ける
- それらの場所の付近をみだりにうろつく
見落とされやすいのは、守られる場所が自宅に限られない点です。勤務先や学校、そのとき現にいる場所も含まれます。「家までは来ていないから」という事情は、該当性を否定する理由にはなりません。
また、「一度だけ会って話したい」と繰り返し求める行為そのものも、面会・交際その他義務のないことの要求(同項3号)に当たり得ます。待ち伏せと面会要求は、実際には重なって現れることが少なくありません。
「繰り返し」と「不安を覚えさせる方法」
つきまとい等を同一の人に対して繰り返して行うと「ストーカー行為」となり、処罰の対象になります(1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金・18条)。
ただし、待ち伏せ・押しかけを含む1号から4号までの行為については、身体の安全、住居等の平穏もしくは名誉が害され、または行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法で行われた場合に限って、ストーカー行為として扱われます。すれ違った、同じ電車に乗り合わせた、といった事情がただちに犯罪になるわけではない、という限定です。
この点は、記録の取り方に直結します。残すべきは回数だけではありません。いつ・どこで・どのくらいの時間・どの位置に立っていたか・こちらがどう対応したかまで含めて残しておくと、「不安を覚えさせる方法だったか」の説明がしやすくなります。防犯カメラの映像、玄関先の写真、位置情報つきの記録、その日のうちに家族や知人へ送ったメッセージなども、後から時系列を再現する材料になります。
3. ストーカー規制法でできる対応
大まかな流れは次のとおりです。
- 警察への相談(緊急でない場合は警察相談専用電話 #9110、または最寄りの警察署)
- 警告(4条)——警察本部長・警察署長等の名義で、行為をやめるよう文書で求めるもの
- 禁止命令等(5条)——都道府県公安委員会が発出。有効期間は1年で、申出または職権により1年ごとに更新できます(5条8項〜10項)。緊急を要する場合は、警告を経ずに発出することもできます
- 検挙——ストーカー行為罪(18条)のほか、禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金(19条)、禁止命令等に違反した場合は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(20条)
2025年12月以降の改正点
待ち伏せ型の被害に関係の深い改正が続いています。
- 職権警告の創設(令和7年12月30日施行)。従来、警告には被害者からの申出が必要でしたが、警察が職権でも警告できるようになりました。相手と正面から対立する形になることをためらう場合の選択肢が広がっています
- 紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得の規制(同日施行)。所持品や車に小型のタグを付けて位置を把握する行為が、規制対象に加わりました。「先回りされている」心当たりがある場合に確認したい点です
- 援助の努力義務の主体に、勤務先の雇用者や学校長が追加されました
- 2026年3月10日からは、第三者への情報提供の防止にも手当てがされ、ストーカー行為等をするおそれのある者へ相手方の氏名・住所等を提供しないよう、警察本部長等が求められるようになりました
4. 同棲していた元交際相手なら、保護命令という別ルートもある
もう一つ検討したいのが、配偶者暴力防止法(DV防止法)の保護命令です。裁判所が接近禁止などを命じる制度で、警察が担うストーカー規制法の警告・禁止命令とは別系統の手続きです。
対象となる関係は、配偶者・元配偶者に加えて、生活の本拠を共にする交際相手、およびその関係にあった元交際相手です。内閣府男女共同参画局は、同居していた元交際相手に対する保護命令も認められるとしたうえで、関係を解消した後に初めて対象となる暴力を受けた場合は認められないと説明しています。関係解消前から暴力等を受けていたことが必要という趣旨です。
したがって、同棲していなかった元交際相手については、この制度は使えません。その場合はストーカー規制法と、民事の手続きで対応することになります。
要件としては、身体に対する暴力、または生命・身体・自由・名誉・財産に対し害を加える旨を告げてする脅迫を受けたことに加え、さらなる暴力等により心身に重大な危害を受けるおそれが大きいことが必要です。2024年4月1日施行の改正により、重篤な精神的被害を受けた場合にも対象が広がりました。
効果と期間は、接近禁止命令等が1年間(改正前は6か月間)、同居している場合の退去命令は2か月間などとされ、違反した場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金です。
要件を満たすかどうかは事案によりますが、同棲期間があったケースでは、ストーカー規制法と並行して検討する価値があります。
5. 手続きと同時に整えておきたいこと
- 住民票の写し等の交付制限(支援措置)。転居先を知られたくない場合、市区町村の窓口で申出ができます
- 勤務先・学校への共有。待ち伏せの現場が職場周辺であれば、受付や警備への情報共有が実際上の防波堤になります
- 私物・合鍵の受け渡しを口実にさせない。第三者を介する、宅配便で送るなど、対面を必要としない方法をとる
- 位置情報の点検。スマートフォンの共有設定、身に覚えのない機器やタグ、SNSに投稿した写真から生活圏が推測できないか
6. 弁護士に相談するタイミング
次のような段階に入っているときは、一度専門家に整理を任せることをおすすめします。
- 拒絶の意思を伝えたのに、自宅や職場の付近に現れる状態が続いている
- 連絡と待ち伏せなど、複数の手段にまたがっている
- 共通の知人や家族を経由して接触してくるようになった
- 警察に相談したが、状況が動いていないと感じている
弁護士に依頼した場合にできることは、該当性の整理と資料化(警察に持ち込みやすい形にまとめる)、代理人としての窓口の一本化、保護命令の申立て、民事の接近禁止の仮処分や慰謝料請求などです。どの手続きが適しているかは、同棲期間の有無、証拠の状況、切迫度によって変わります。
まとめ
- 待ち伏せ・押しかけ・見張り・うろつきは、ストーカー規制法2条1項1号が正面から規制する行為です
- 守られる場所は自宅に限られず、勤務先・学校・そのとき現にいる場所も含まれます
- 元交際相手のケースは、目的要件(恋愛感情や怨恨)を満たすと判断されやすい類型です
- 記録は「回数」だけでなく「どのような形で行われたか」まで残しておくと説明しやすくなります
- 2025年12月30日から職権警告と紛失防止タグの規制が、2026年3月10日から第三者への情報提供の防止が加わりました
- 同棲していた元交際相手であれば、DV防止法の保護命令も選択肢に入ります
一人で判断がつかない段階でも、状況を整理するところから相談は可能です。当事務所では男女トラブル・ストーカー被害のご相談を承っています。


