被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶ
不貞の慰謝料、婚約の解消、交際相手からの金銭請求、しつこい連絡の停止——男女間のトラブルで弁護士に相談しようと思ったとき、多くの方が最初に気にされるのが「いくらかかるのか」という点です。
弁護士費用は、事務所ごとに自由に定められています。そのため「男女トラブルなら一律いくら」という公定の相場は存在しません。ただし、費用がどのような項目に分かれ、どの段階で発生し、何によって金額が変わるのかという構造は共通しています。この構造を知っておくと、料金表を比べるときにも、見積もりを受けたときにも判断がしやすくなります。
この記事では、離婚に伴う手続きを除いた男女トラブル(交際関係・婚約・内縁・不貞など)を念頭に、弁護士費用の内訳と目安、依頼から解決までの流れ、契約前に確認しておきたい点を整理します。
1.前提:弁護士に払う費用と、相手に払うお金は別枠
最初に切り分けておきたいのが、次の2つです。
- 弁護士費用……相談料・着手金・報酬金・日当・実費など、弁護士に支払うもの
- 慰謝料・示談金・解決金……トラブルの相手方に支払う(または相手方から受け取る)もの
慰謝料を請求された側の方が「弁護士に頼むと、慰謝料に加えて費用がかかるのか」と迷われることがありますが、この2つは性質の異なるお金です。逆に請求する側であれば、受け取った慰謝料の中から報酬金を支払う形になることが多く、手元に残る金額は「回収額-弁護士費用」で考える必要があります。
金額そのものの妥当性(慰謝料の目安や減額事由)については、費用とは別の判断になります。
2.費用の内訳は大きく5つ
公開されている料金表を見ると、多くの事務所が次の項目で費用を組み立てています。
| 項目 | 内容 | 目安として示されていることが多い水準 |
|---|---|---|
| 相談料 | 相談の時間に対して発生 | 30分5,000円前後、1時間5,500円など。初回無料としている事務所も多い |
| 着手金 | 正式に依頼した時点で発生。結果にかかわらず返還されないのが原則 | 交渉からの依頼で10万円台〜30万円程度 |
| 報酬金 | 事件終了時に、成果に応じて発生 | 経済的利益の10〜20%程度、または定額 |
| 日当 | 出張・裁判所への出頭など、事務所外での活動 | 1回あたり数万円程度。かからない事務所もある |
| 実費 | 郵便代、内容証明の費用、収入印紙、交通費など | 実額。契約時に一定額の事務手数料を定める例もある |
これに加えて、交渉の代理は依頼せず書面だけを作ってもらう「手数料」型のメニューを設けている事務所もあります。内容証明の作成・送付で5万円台〜、合意書・誓約書の作成で10万円台〜といった設定が公開されています。
注意しておきたいのは、交渉から訴訟に移る際に追加の着手金が必要になる場合があることです。交渉段階の金額だけを見て総額を見積もると、想定とずれることがあります。
3.「経済的利益」の意味は、請求する側と請求される側で逆になる
報酬金の算定基準となる「経済的利益」は、立場によって指すものが正反対になります。ここは費用を考えるうえで最も誤解が生じやすい部分です。
| 経済的利益とされるもの | お金の流れ | |
|---|---|---|
| 請求する側 | 相手方から受け取れた金額 | 回収したお金の中から報酬金を支払える |
| 請求された側 | 当初の請求額から減らせた金額 | 手元にお金は入らないまま、報酬金を支払う |
たとえば300万円を請求され、交渉の結果100万円で合意できた場合、減額分の200万円が経済的利益として扱われるのが一般的です。減額幅が大きいほど成果は大きい一方、報酬金も大きくなります。
つまり請求された側は、入ってくるお金がないところから費用を支出する構造になります。それでも依頼する意味があるかどうかは、「減らせる見込み額」と「弁護士費用の合計」を並べて比べて判断することになります。ここを最初に確認しておかないと、解決後に想定外の負担が生じかねません。
なお、経済的利益の定義や、減額分の何%を報酬とするかは事務所ごとに異なります。段階的に割合が変わる方式、定額方式、定額と割合の併用など、設計はさまざまです。
4.お金の増減で測れない依頼もある
男女トラブルでは、金銭の請求を伴わない依頼も少なくありません。
- 連絡や接触をやめてもらうための通知・合意書
- 交際関係を解消するにあたっての条件の取り決め
- 手元にある写真・動画を削除してもらうための交渉
- 関係を続けるにせよ終えるにせよ、後日のトラブルを防ぐ書面の作成
こうした依頼では「いくら取れたか」という物差しが使えないため、着手金+定額の報酬金、あるいは手数料方式で設定されているのが通例です。金額の多寡ではなく「状況が止まったかどうか」が成果になるため、費用対効果も回収額では測れません。
料金表を見るときは、自分の目的が「金銭の回収・減額」なのか「状態の解消」なのかを先に決めておくと、比べるべきメニューがはっきりします。
5.依頼から解決までの流れと、費用が発生するタイミング
一般的な進み方と、費用の発生時期を対応させると次のようになります。
① 相談
事実関係と手元の資料を確認し、見通しと方針、費用の見積もりを聞きます。ここで発生するのは相談料のみで、依頼を決める義務はありません。無料相談の場合は、その範囲(初回のみか、時間の上限があるか)を確認しておきます。
② 委任契約
依頼する範囲を決め、委任契約書を取り交わします。着手金はこの段階です。弁護士には報酬や費用について説明する職務上の義務があり、委任契約書の作成も原則として求められていますので、口頭のやり取りだけで進めない方が安全です。
③ 相手方への通知・窓口の一本化
代理人として受任した旨を相手方に通知し、以後の連絡窓口を弁護士に移します。郵便代や内容証明の費用といった実費が発生します。
なお、相手が個人の場合、弁護士が入ったことで直接連絡が法律上禁止されるわけではありません。事実上は止まることが多いものの、続くこともあり得るという前提で考えておく必要があります。
④ 交渉
書面のやり取りを重ね、支払いの有無・金額・条件を詰めていきます。この期間中に追加費用が生じるかどうかは契約次第です。まとまらず訴訟に移行する場合、追加着手金や日当が加わることがあります。
⑤ 合意書の締結・終了
合意内容を書面化します。清算条項、接触や口外に関する条項をどう設計するかで、後の蒸し返しの余地が変わります。分割払いにする場合は、公正証書にするかどうかも検討材料です(作成手数料は実費)。報酬金と実費の精算はこの段階です。
期間は事案によって差が大きく、交渉で収まるのか訴訟に進むのかで大きく変わります。「◯か月で解決」と一律に見込むことは難しいのが実情です。
6.一律の相場を示しにくい理由
かつては日本弁護士連合会の報酬基準がありましたが、2004年に撤廃され、弁護士報酬は各事務所が自由に定めることになりました。そのため、同じ内容の依頼でも事務所によって金額が異なります。
インターネット上には「不倫慰謝料の弁護士費用は◯万円」といった数字が並んでいますが、その多くは離婚を伴うケースを前提にしたものです。離婚を含まない男女トラブルは、争点も手続きも異なるため、そのまま当てはめられるとは限りません。
目安としては、交渉のみで終わる場合は数十万円台、訴訟まで進むと100万円前後に及ぶこともあるという程度に押さえたうえで、実際の金額は個別の見積もりで確認するのが確実です。
7.契約前に確認しておきたい6点
費用面での行き違いは、確認しておけば防げるものがほとんどです。
- 依頼する範囲……交渉までか、訴訟までか。刑事手続きが絡む場合はそれも含むか
- 追加着手金の条件……訴訟移行時、相手方が複数の場合、反訴された場合など
- 経済的利益の定義……何を基準に報酬金を計算するか。請求された側なら「何と比べた減額分か」
- 日当・実費の扱い……上限や事務手数料の有無
- 支払い方法……分割の可否、着手金の支払時期
- 途中で終了した場合の精算……委任契約は当事者のいずれからでも解除できますが、その時点までの費用の扱いは契約で決まります
「着手金無料」を掲げるプランもありますが、報酬金の割合が高めに設定されていることもあります。着手金と報酬金は合計で比べるのが実際的です。
8.負担を軽くする方法と、その限界
法テラスの民事法律扶助
収入・資産が一定の基準以下であるなどの要件を満たせば、無料の法律相談と、弁護士費用の立替えを利用できる場合があります。ただし立替えですので、原則として毎月分割で返していくことになります。刑事事件に関する相談は対象外です。
分割払い 対応している事務所もあります。可否と回数は依頼前に確認してください。
弁護士費用保険
補償の対象となるかは、弁護士に相談した時期ではなくトラブルの原因となった事実がいつ発生したかで判断されます。契約から3か月程度の待機期間、離婚や親族間のトラブルについては1〜3年の不担保期間が設けられている商品が多く、すでに起きている問題のために今から加入しても使えないのが通常です。
9.弁護士費用を相手に請求できるか
「悪いのは相手なのだから、弁護士費用も払わせたい」と考えるのは自然なことですが、原則として弁護士費用は各自の負担です。
例外として、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟では、「認容された額の1割程度」が弁護士費用相当の損害として認められる運用が定着しています(最高裁昭和44年2月27日判決)。不貞や貞操権侵害を理由とする慰謝料請求は不法行為にあたりますので、訴訟まで進んだ場合にはこの枠が乗る可能性があります。
もっとも、注意点が2つあります。ひとつは、交渉段階での解決には基本的に乗らないこと。もうひとつは、請求された側から見れば、これは負担が増える方向に働くということです。
10.おわりに
弁護士費用は、金額そのものよりも「どの項目が、いつ、何を基準に発生するか」を把握できているかどうかで、納得感が大きく変わります。
そして男女トラブルでは、請求する側と請求された側とで、費用の意味も、費用対効果の測り方も変わります。まずはご自身がどちらの立場で、何を得たいのか(お金なのか、状態の解消なのか)を整理したうえで、見積もりを受けてみてください。相談の時点では、依頼するかどうかを決めている必要はありません。


