同棲中に飼っていたペットはどちらが引き取る?ペットの帰属トラブル
本記事は、2026年10月時点の民法および刑法(2023年7月施行の性犯罪規定の改正を反映)に基づいて記載しています。実際の結論は個別の事情によって変わるため、具体的な対応は弁護士にご相談ください。
「避妊すると言っていたのに、実際にはしていなかったことが後で分かった」「途中で避妊具を外されていた」というご相談は、女性の側から寄せられることが少なくありません。反対に、男性の側から「約束を破ったと言われて慰謝料を求められている。あのときは相手も了解していたはずだ」というご相談をいただくこともあります。
この種の問題は、妊娠や中絶に至った後の費用負担として説明されることが多く、その説明自体は誤りではありません。ただ、法律上の出発点は「妊娠したかどうか」ではなく、「相手が性交に応じたときの同意の範囲を超えていたかどうか」にあります。この順序で考えると、妊娠に至らなかった場合や、刑事事件として扱われにくい場合に何が問題になるのかも見えやすくなります。
この記事では、交際相手や知人との関係を前提に、避妊の約束が守られなかったときの同意の範囲と、民事・刑事それぞれの責任の考え方を整理します。中絶費用の分け方は中絶費用は相手に請求できる?男女の費用負担、避妊の有無そのものが争いになる場面は避妊の有無が争点になる場面|感染・妊娠の主張と請求で詳しく扱っています。
「避妊する」という約束は法律上どう扱われるのか
約束そのものを守らせることはできない
避妊をする、しないという約束は、通常の契約のように、守られなかったことを理由に履行を強制したり、決めておいた違約金を当然に請求したりできる性質のものではありません。性的な行為のあり方は、その都度の本人の意思に委ねられるべき事柄だからです。交際中に「避妊しなかったら○万円を払う」といった書面を作っていたとしても、その金額がそのまま認められるとは限りません。交際相手との書面の効力の一般論は【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で扱っています。
問題になるのは「同意の範囲」を超えたかどうか
他方で、避妊を条件として性交に応じた人にとって、避妊のない性交は、同意した行為とは別のものです。相手がその条件を知りながら嘘をついたり、途中で避妊をやめたりした場合には、同意の範囲を超えた性交をさせられたことになります。いつ、誰と、どのような性的関係を持つかを自分で決める利益(性的自己決定権)を侵害したものとして、不法行為(民法709条、710条)が問題になります。避妊の約束違反は「契約を守らなかった問題」ではなく、「同意の範囲を超えて権利を侵害した問題」として整理するのが出発点です。
妊娠に至らなかった場合はどうなるか
権利の侵害は、同意の範囲を超えた性交がなされた時点で生じています。そのため、妊娠に至らなかった場合でも、慰謝料の請求が考えられないわけではありません。もっとも、妊娠や中絶に至った場合と比べると、精神的苦痛の程度は控えめに評価されやすい傾向があります。相手の行為の態様、嘘の内容、その後の対応、緊急避妊薬の服用や検査のために生じた負担といった具体的な事情を踏まえて判断されることになります。
「守られなかった」にもいくつかの形がある
一口に「避妊の約束が守られなかった」といっても、事情によって法的な評価は変わります。ご相談で多い形を整理すると、次のとおりです。
| 類型 | 典型的な場面 | 主な争点 |
|---|---|---|
| 避妊していると偽った | 「つけている」「不妊手術を受けた」と事実と違う説明をした | 嘘をついたことをどう示すか |
| 途中で避妊をやめた | 同意を得ずに途中で避妊具を外した(いわゆるステルシング) | 外したことを相手が認識していたか |
| 約束はあったが、その場で避妊しなかった | 事前に約束していたが、行為の際に避妊しないまま続けた | その場で双方が了解していたか |
| 故意によらない失敗 | 避妊具の破損、ピルが十分に機能しなかった | 原則として違法とされにくく、その後の対応が問われる |
| 女性側が避妊していると偽った | 「ピルを飲んでいる」と事実と違う説明をした | 子の認知・養育費とは切り分けて考える必要がある |
「その場で了解していた」かどうかが分かれ目になる場面
3つ目の類型では、事前の約束があっても、行為の際に双方が避妊しないことを了解していたと評価されれば、同意の範囲を超えたとはいえないことになります。交際が続いている関係では、同意があったと推認されやすい面もあります。継続的な関係と同意の考え方は交際中・夫婦間でも成立するのか|継続的関係と同意の推認をご覧ください。逆に、その場で避妊を求める言葉を述べていた、行為を止めるよう求めていたといった事情があれば、同意の範囲外であったことを示す材料になります。
故意によらない失敗の場合
避妊具の破損のように、どちらにも落ち度がない失敗では、性交そのものは同意の範囲内であり、違法とはされにくいのが一般的です。ただし、妊娠が分かった後に話し合いに応じない、連絡を絶つといった対応が、別に責任を問われる理由になることがあります。この点は次の章で触れます。
女性側が「避妊している」と偽った場合
「ピルを飲んでいると言われていた」という男性側のご相談もあります。相手の嘘によって望まない形で親になったという主張に法的な評価を与える余地を論じる見解もありますが、裁判実務で確立した扱いはありません。少なくとも、生まれた子の認知や養育費は子のための制度であり、相手の嘘を理由にその負担を免れることは難しいと考えておくのが現実的です。
責任の中身は3つに分けて考える
同意の範囲を超えた性交そのものへの責任
1つ目は、同意の範囲を超えた性交をさせられたこと自体に対する慰謝料です。前述のとおり、妊娠の有無にかかわらず問題になり得るもので、緊急避妊薬の費用や検査費用など、行為の直後に生じた出費もこの延長で検討します。
妊娠・中絶に至った場合の責任
2つ目は、妊娠し、中絶を選んだ場合の責任です。避妊していると偽られて妊娠した場合には、妊娠するかどうかを自分で決める機会を奪われたことになり、中絶手術の費用や通院費、身体的・精神的な負担に対する慰謝料が問題になります。
また、性交と妊娠の双方に同意があった場合でも、男性側が中絶に伴う負担を軽減するための話し合いや協力を怠ったことを理由に、責任を認めた高裁判決もあります(東京高裁平成21年10月15日判決)。避妊の約束が守られたかどうかとは別に、妊娠が分かった後の対応そのものが責任の根拠になり得る点は押さえておきたいところです。費用の分け方の考え方は【男女トラブル】中絶費用は折半なのか|「おかしい」と感じたときの整理の仕方で整理しています。
出産を選んだ場合や、感染が生じた場合
3つ目は、出産を選んだ場合の認知や養育費、性感染症に感染した場合の損害です。認知や養育費は、避妊の約束が守られたかどうかとは別の制度として扱われます(民法779条、787条)。基本的な流れは交際・パパ活相手の妊娠|認知・養育費・中絶同意書の基礎知識で、感染をめぐる請求は性感染症をうつされた場合|請求できるのはどんな場合かで扱っています。
刑事事件として扱われるのか
不同意性交等罪の「だまし」の類型は2つに限られている
2023年の刑法改正で、強制性交等罪は不同意性交等罪(刑法177条)に改められました。このうち、相手をだまして性交に応じさせる類型は、「行為がわいせつなものではないとの誤信」と「人違い」の2つに限って定められています(同条2項)。避妊の有無について嘘をつく、途中で避妊具を外すといった行為は、相手と性交すること自体には同意がある場面のため、この2つにはあたらないと解する見解が有力です。避妊具を外す行為について別の罪の成立を論じる議論もありますが、現時点で処罰の扱いが定まっているとはいえません。
それでも刑事の問題になる場面
一方で、避妊を求めて行為を拒んでいたのに暴行や脅迫を用いて続けた場合や、飲酒の影響で拒む意思を示せない状態だった場合などは、刑法176条1項各号の事由にあたるかどうかが別に問題になります。交際相手との間でも不同意性交等罪は成立し得ます。この点は恋人間の不同意・性的強要|交際相手でも成立する不同意性交等罪で詳しく扱っています。
刑事で扱われなくても民事の責任は別に考える
刑事事件として立件されないことは、民事上の責任がないことを意味しません。刑罰の対象を定める刑法と、損害の公平な分担を図る民法とでは、判断の基準が異なるためです。刑事で扱われにくい行為であっても、同意の範囲を超えた性交として不法行為の責任が問題になる余地は残ります。
約束と違反の事実をどう示すか
約束があったことを示す材料
まず、避妊を条件にしていたことを示す必要があります。事前のメッセージで避妊について話していたやり取り、以前にも避妊を求めていた経緯などが材料になります。口頭だけの約束でも請求ができなくなるわけではありませんが、相手が「そんな話はしていない」と述べた場合に備え、残っている記録を整理しておくことが大切です。
守られなかったことを示す材料
次に、約束が守られなかった事実を示す材料として、次のようなものが考えられます。
- 行為の直後に抗議したメッセージと、それに対する相手の返信。
- 相手が謝罪したり、避妊しなかったことを認めたりしたやり取り。
- 緊急避妊薬の処方や検査を受けた際の受診記録・領収書。
- いつ、どこで、何があったかをその日のうちに書き留めたメモ。
とくに、相手が事実を認めたメッセージは重要な材料になります。消さずに保存しておきましょう。記録の残し方の一般論は男女トラブルの証拠の集め方|LINE・録音・写真を法的に有効にするで、話し合いを記録する際の注意点は【男女トラブル】別れ話を録音しておくべきか|交際を終える話し合いでの記録の作り方で扱っています。
請求する側が気をつけたいこと
つらい思いをした直後は、相手に強い言葉を向けたくなるものです。ただ、「払わなければ職場に知らせる」「家族に伝える」といった伝え方は、正当な請求の範囲を超えていると受け取られるおそれがあります。権利行使と脅しの境界については「訴えるぞ」「警察に行くぞ」は脅迫か|正当な権利行使との境界線をご覧ください。
請求を受けた側が確認すること
何について請求されているのかを分ける
避妊の約束を守らなかったとして請求を受けた場合は、まず請求の中身を、同意の範囲を超えた性交への慰謝料、妊娠・中絶に関する費用と慰謝料、その後の対応に関する責任に分けて確認します。中絶費用のように実費の裏付けがあるものと、慰謝料のように金額の幅があるものとでは、検討の仕方が異なるためです。
応じる前に確認しておきたいこと
行為の際に双方が了解していたのか、約束の内容はどうだったのかといった事実関係について、自分の認識を時系列で整理しておきます。そのうえで、妊娠の事実や費用の裏付けが示されているかを確認します。妊娠の事実自体の確認が必要になる場面については「妊娠した」「病気になった」と請求されたら|妊娠詐欺・示談金詐欺の見極め方で扱っています。
支払いに応じる場合は、何に対する支払いなのか、これで解決とするのかを書面に残しておくことが大切です。後からの再請求を防ぐ条項については示談書に必ず入れる条項と、入れると危険な条項をご覧ください。
よくあるご質問
避妊具が破れていたことに後から気づいた場合も、慰謝料を請求できますか
どちらにも落ち度がない破損であれば、性交そのものは同意の範囲内であり、慰謝料の請求は難しいのが一般的です。ただし、破損に気づいていながら伝えずに続けた場合には、同意の範囲を超えたと評価される余地があります。また、妊娠が分かった後の対応が不誠実であった場合には、その対応が別に責任の根拠となることがあります。
一度会っただけのマッチングアプリの相手でも請求できますか
関係の長さや交際の有無は、請求ができるかどうかを直接左右するものではありません。問題になるのは、同意の範囲を超えた性交があったかどうかです。もっとも、相手の氏名や住所が分からない場合には、まず相手を特定することが課題になります。アプリ上のやり取りは、退会によって見られなくなることもあるため、早めに保存しておきましょう。
請求できる期間に制限はありますか
不法行為に基づく請求には時効があり、原則として、損害と相手を知った時から3年です(民法724条1号)。身体への侵害を伴う場合には5年とされる場面もあります(同法724条の2)。時効の数え方は請求の種類によって異なるため、男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかもあわせてご確認ください。
まとめ
- 避妊の約束は、守られなかったことを理由に履行を強制できる契約とは性質が異なる。
- 避妊を条件として性交に応じた場合、その条件を外れた性交は同意の範囲を超えたものとなり、性的自己決定権の侵害として不法行為が問題になる(民法709条、710条)。
- 権利の侵害は性交の時点で生じているため、妊娠に至らなかった場合でも請求が考えられないわけではない。
- 責任の中身は、同意の範囲を超えた性交そのもの、妊娠・中絶に関する負担、出産や感染に伴う問題の3つに分けて考える。
- 妊娠が分かった後の対応そのものが、責任の根拠になり得る(東京高裁平成21年10月15日判決)。
- 避妊に関する嘘は、不同意性交等罪の誤信類型(刑法177条2項)にはあたらないと解する見解が有力だが、民事の責任は別に検討される。
- 請求には時効があり、原則として損害と相手を知った時から3年である(民法724条1号)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。避妊の約束が守られなかったことで心身の負担を抱えている方、反対に約束を守らなかったとして請求を受けている方のどちらからのご相談にも対応しています。
事実関係の整理から、相手との交渉、合意書の作成まで、状況に応じた進め方をご提案します。お一人で抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。


