風俗店・嬢の口コミに悪評を書いて訴えられた|名誉毀損・信用毀損・業務妨害
風俗店を利用したあと、しばらく経ってから「妊娠した」「病気をうつされた」と連絡が入り、中絶費用や治療費、慰謝料などの名目で金銭を求められる——こうしたご相談は少なくありません。
この種の請求が難しいのは、本当にそうした事実が起きている場合と、事実がないまま金銭だけを目的として持ちかけられている場合の両方があり得るという点です。前者であれば正面から向き合う必要がありますし、後者であれば応じる理由はありません。しかし、慌てて支払ってしまう方も、根拠なく「詐欺だ」と決めつけて無視してしまう方も、あとから状況を悪化させてしまうことがあります。
この記事では、「妊娠した」という請求と「病気になった」という請求について、支払う前に検証すべき共通の3つの問いを整理したうえで、それぞれに固有の論点と初動対応を解説します。
なぜ風俗の場面でこの2つの請求が起きやすいのか
「妊娠」と「性感染症」は、いずれも当事者以外には確かめようがなく、被害を主張する側が資料を握っているという共通点があります。しかも、いずれも相手の生活や身体に関わる深刻な話であるため、請求された側は「事実を疑うこと自体が失礼ではないか」という心理的な抵抗を感じやすく、確認を省いたまま支払いに応じてしまいやすい構造があります。
加えて、風俗という場面には次のような事情が重なります。
- 利用者側に「家族や職場に知られたくない」という強い動機があり、それが交渉材料になりやすい
- 店を介した関係のため、相手の氏名・連絡先・実態を利用者側が把握していないことが多い
- 業務の性質上、相手が不特定多数と接触していることが前提となるため、原因の特定が構造的に難しい
一方で、これらは「だから請求はすべて嘘だ」という結論を導くものではありません。**妊娠も感染も、現実に起こり得る事柄です。**大切なのは、真偽を決めつけることではなく、順序立てて確かめることです。
支払う前に検証すべき3つの問い
名目が中絶費用でも治療費でも慰謝料でも、検証の順序は共通しています。
問い①|主張されている事実は、実際に起きているか
妊娠しているのか、感染しているのか。これは客観的な資料で確かめる領域です。本人の説明やスクリーンショット一枚では、事実の裏づけになりません。
問い②|その原因が自分であるといえるか(因果関係)
事実があるとしても、それが自分との接触によって生じたと言えるかは別の問題です。ここが、風俗の場面で最も争いになりやすい部分です。
問い③|法的な支払義務が生じるか、金額は相当か
原因が自分であるとしても、直ちに請求額どおりの支払義務が生じるわけではありません。法的な根拠(何を理由に、いくらを求めているのか)と、金額の相当性は、別途検討する必要があります。
**請求されたことと、支払義務があることは同じではありません。**この3つを飛ばして金額の話に入ってしまうと、本来支払う必要のないものまで背負い込むおそれがあります。
「妊娠した」と言われたとき
事実の確認
医療機関を受診した事実と結果を示す資料を求めるのが出発点です。妊娠検査薬の写真は、撮影者や撮影時期を確認できず、それだけでは裏づけになりません。「きちんと対応したいので、一緒に医師の説明を聞かせてほしい」と受診への同席を申し出たときの反応は、ひとつの判断材料になります。事実であれば断る理由は乏しい一方、資料の提示も同席も一貫して避けられる場合は、慎重に構えるべき状況といえます。
なお、実際には妊娠していないのに妊娠したと偽って金銭を得る行為は、詐欺罪(刑法246条/10年以下の拘禁刑)にあたり得ます。
原因の確認
妊娠が事実であっても、それが自分との関係によるものかは別問題です。業務として不特定多数と接触している場合はもちろん、私生活上の交際相手がいる場合もあり、「あなたしかいない」という説明だけでは父子関係の裏づけにはなりません。DNA鑑定による確認が可能な場面もありますが、出生前の鑑定には制約もあり、応じるかどうかは相手の任意です。鑑定の提案に一切応じないという事情は、判断材料のひとつとなり得ます。
請求の中身を分ける
「妊娠したので払ってほしい」という請求には、性質の異なるものが混在していることがよくあります。
| 名目 | 法的な位置づけ |
|---|---|
| 養育費 | 認知によって父子関係が生じることが前提(民法779条・784条・877条1項) |
| 中絶費用・出産費用 | 話し合いによる合意、または事案により損害賠償として問題になる |
| 慰謝料・示談金 | 合意のうえでの性交渉というだけでは、原則として当然には生じない |
いずれにあたるかによって、検討すべき点はまったく異なります。
ここで押さえておきたいのは、「認知します」という発言は、あとから撤回することが容易ではないという点です。同様に、一部だけでも支払ってしまうと、責任を認めたものと評価される材料になり得ます。事実関係が固まる前の言質は避けてください。
「病気になった」と言われたとき
性感染症を理由とする請求は、妊娠のケースに比べて解説が少なく、対応に迷いやすい分野です。しかし、検討の枠組みは整理できます。
責任の法的な枠組み
まず前提として、性感染症を他人に感染させる行為は、法的な責任の対象になり得ます。
刑事面では、傷害罪(刑法204条/15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)が問題となり得ます。最高裁は、傷害罪は他人の身体の生理的機能を害するものである以上その手段を問わないとして、暴行によらずに病毒を感染させた場合にも成立し得ると判断しています(最高裁昭和27年6月6日判決)。故意がない場合でも、過失傷害罪(刑法209条1項/30万円以下の罰金または科料)が問題となる余地があります。なお、過失傷害罪は親告罪です(同条2項)。
民事面では、不法行為(民法709条・710条)として、治療費・通院交通費・休業損害・慰謝料などが問題となります。
責任が生じるかを分ける3つの視点
もっとも、感染が事実であることと、請求された側が賠償責任を負うことは別です。実務上は次の3点が争点になります。
(1)故意または過失があったか
不法行為責任も傷害罪も、故意または過失があってはじめて問題になります。自分が感染していることを知りながら性的接触を持ったのであれば故意が問題になりますし、知り得た事情があったのに確認を怠った場合には過失が問題になります。
裏を返せば、自分の感染を知らず、知り得る事情もなかった場合には、責任を認めるのが難しい方向に傾きます。性感染症には自覚症状が乏しいものもあり、この点は個別の事情によります。
(2)因果関係があるといえるか
これが最大の争点です。感染の時期を特定するには、疾患ごとに異なる潜伏期間や検査で判定できる時期を踏まえた医学的な検討が必要で、「直近に接触したのがあなただから」というだけでは、感染源の特定には足りません。
さらに、風俗という場面では、相手方も業務として不特定多数と接触していることが前提となります。厚生労働省も、性感染症は性的接触を介して感染し得るものとして、性器クラミジア感染症・性器ヘルペスウイルス感染症・尖圭コンジローマ・梅毒・淋菌感染症などを挙げていますが、いずれも感染経路を事後的に一対一で特定することは容易ではありません。
(3)双方の事情がどう評価されるか(過失相殺)
仮に責任が認められる場合でも、被害を受けた側にも落ち度があるときは、賠償額の算定にあたって考慮されます(民法722条2項)。避妊具を使わないことを双方が了解していた場合など、事情によっては金額に影響し得ます。
なお、下級審の裁判例では、避妊具を使用せずに性交渉を行って感染させた事案について、30万円程度の賠償を命じたものがあります。実際の金額は疾患の種類、治療期間、後遺症の有無、就労への影響などによって大きく異なり、一律の相場があるわけではありません。
まず自分が検査を受ける
請求を受けた段階で有効なのは、自分自身が医療機関で検査を受けることです。
- 陰性であれば、自分が感染源であるという主張に対する有力な反証になり得ます
- 陽性であっても、直ちに自分から相手にうつしたことを意味するわけではありません(むしろ自分が感染させられた側である可能性もあります)
- いずれにせよ、自身の健康のために早期の受診には意味があります
検査結果は日付とともに保管しておいてください。
時効
見落とされがちですが、時間が経った請求には時効の問題があります。不法行為に基づく損害賠償請求権は、原則として被害者が損害および加害者を知った時から3年で時効にかかりますが(民法724条)、人の身体を害する不法行為については5年とされています(民法724条の2)。行為時から20年という期間制限もあります。刑事の公訴時効は、傷害罪が10年、過失傷害罪が3年です。
時効は、援用(主張)してはじめて効果が生じます(民法145条)。また、一部でも支払ったり、分割払いの念書を差し入れたりすると、債務を承認したものとして時効が更新されるおそれがあります(民法152条)。
請求してきたのは「誰」か
請求への対応を考えるうえで、請求主体の確認は欠かせません。
本人からの請求である場合、その相手との間で解決を図ることになります。
店からの請求である場合は、注意が必要です。店が「うちの女の子の慰謝料だ」として金銭を求めてくる構図は、法的には整理が必要な問題を含んでいます。弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務(示談交渉の代理を含みます)を業として取り扱うことは、弁護士法72条が禁じており、違反には刑事罰が定められています。2026年2月には、無店舗型性風俗店の店長らが、従業員に代わって客と示談交渉し示談金を受け取ったとして弁護士法違反の疑いで逮捕された事例も報じられています。
また、店に支払っても、被害を主張する本人との間の清算が成立するとは限りません。あとから本人が改めて請求してくる、被害届が提出されるといった事態も想定されます。
なお、店が求める「罰金」は、刑罰としての罰金ではなく、規約上の違約金を指す俗称です。私人が刑罰を科すことはできませんので、名称だけで支払義務が確定するわけではありません。
不当な請求に傾くサインと、そうとは限らない要素
以下のような事情がそろう場合は、請求の正当性を慎重に確認すべき状況といえます。
- 受診や検査を示す客観的な資料の提示を、繰り返し求めても避ける
- 内訳の説明がなく、金額だけが提示される(あるいは理由を変えて増額する)
- 極端に短い支払期限を切る、深夜に連続して架電する
- 家族や勤務先への告知をほのめかす
- 現金手渡しや個人名義口座を指定し、領収書や合意書の作成を嫌がる
金銭を求めるにあたって「払わなければ職場に知らせる」といった害悪の告知を伴う場合には、恐喝罪(刑法249条/10年以下の拘禁刑)や脅迫罪(刑法222条/2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)の問題となり得ます。
一方で、次の事情は、それ自体が不当性を示すものではありません。
- 被害届を出す、法的手続をとると述べること(いずれも権利の行使です)
- 代理人弁護士の名義で通知が届くこと
- 時間が経ってから連絡が来ること(時間の経過は、事実であることの証明でも、作り話であることの証明でもありません)
正当な請求と不当な請求の線引きは微妙な場合が多く、自己判断は避けたほうが安全です。
請求を受けたときの初動
避けたいこと
- その場で支払う、ATMに同行する
- 「認知する」「自分のせいだ」など、事実関係が固まる前に責任を認める発言をする
- 内容を確認しないまま示談書・念書に署名する
- 一部だけ支払う、分割払いの約束をする
- LINEやメールの履歴を削除する(自分に有利な材料まで失われます)
- 感情的に反論する、あるいは一切応答せず放置する
とりたいこと
- 請求の中身を書き出す——誰が、何を根拠に、いくらを、いつまでに求めているのか
- 客観的な資料の提示を、書面で求める——受診や検査を示す資料、損害の内訳
- 自分でも検査を受け、記録を残す——性感染症の請求では特に重要です
- やり取りをそのまま保存する——日時のわかる形で
- 期限が示されていても即断しない——回答期限は相手が一方的に設定したものにすぎません
- 早い段階で弁護士に窓口を一本化する——直接のやり取りを止めることで、自宅や勤務先への連絡を抑えられる場合があります
まとめ
「妊娠した」「病気になった」という請求は、事実であればきちんと向き合うべきものですし、事実でなければ応じる理由のないものです。だからこそ、支払うか拒むかを決める前に、①事実があるか、②原因が自分といえるか、③法的な支払義務と相当な金額はいくらか——この順序で確認することが、どちらの場面でも出発点になります。
特に性感染症を理由とする請求では、感染経路の特定や故意・過失の有無といった、専門的な検討を要する論点が中心になります。一人で判断せず、資料を保全したうえで早めにご相談いただくことをおすすめします。


