【男女トラブル】元恋人の代理人を名乗る「行政書士」から請求が来たら?
元交際相手から借りたお金の返済が滞っているときに、「返さないなら詐欺で訴える」と言われると、自分が犯罪者として扱われるのではないかと不安になる方は少なくありません。ただ、借りたお金を約束どおり返せていないことと、詐欺罪が成立することは、法律上は別の問題として整理されています。この記事では、「詐欺で訴える」という言葉が何を指しているのか、詐欺が問題になるのはどのような場面か、そして返す義務とどう向き合えばよいのかを順に解説します。
本記事は2026年10月時点の法令にもとづいています。2025年6月に施行された改正刑法により、従来の懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されたため、法定刑は拘禁刑で表記しています。
「詐欺で訴える」という言葉には二つの手続が混ざっている
「訴える」という言葉は日常会話では広く使われますが、法律上は大きく二つの手続に分かれます。一つは、貸したお金を返すよう裁判所に求める民事の手続です。もう一つは、警察に被害届や告訴状を出し、刑事事件として捜査を求める手続です。
「詐欺で訴える」という言い方は、このうち刑事の手続を指していることが多いと考えられます。ただ、言っている側も両者を区別しないまま使っている場合があります。相手が求めているのが「お金を返してほしい」ということなのか、「処罰を求めたい」ということなのかによって、こちらがとるべき対応の順序も変わります。
| 手続 | 向かう先 | 求めるもの |
|---|---|---|
| 民事 | 裁判所(支払督促・少額訴訟・通常訴訟など) | 貸したお金の返還 |
| 刑事 | 警察・検察(被害届・告訴) | 処罰 |
刑事の手続で処罰が決まっても、それによって借りたお金の返済義務がなくなるわけではありません。反対に、詐欺に当たらないとしても、返す義務そのものは残ります。この二つを分けて考えることが、落ち着いて対応するための出発点になります。
返せないことだけで詐欺罪になるわけではない
詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させた場合に成立する犯罪で、法定刑は10年以下の拘禁刑です(刑法246条1項)。お金の貸し借りに当てはめると、借りる時点で相手をだましてお金を受け取ったかどうかが問われることになります。
そのため、判断の中心になるのはお金を借りた時点で、返すつもりと返す見込みがあったかどうかです。借りたときには返すつもりがあり、収入などから返せる見込みもあったものの、その後に失業や病気などの事情で返済が難しくなったという経過であれば、通常は約束どおりに返していない状態(債務不履行)として、民事の問題にとどまると考えられています。
ただ、貸した側から見ると、「だまされた」のか「返せなくなった」のかは外から見分けにくいものです。返済の連絡に応じない、説明が二転三転するといった対応が続くと、相手が詐欺を疑う気持ちを強めることもあります。
詐欺が問題にされやすい事情
- 借りるときに伝えた理由(家族の入院、借金の返済など)が事実と異なっていたこと。
- 借りた時点で、収入や返済の当てがほとんどなかったこと。
- 一度も返済しないまま連絡を絶ったこと。
- 同じ時期に、同じような理由で複数の人から借りていたこと。
- 借りた直後に、伝えていた使い道とは別の用途に使っていたこと。
これらの事情があっても、それだけで直ちに詐欺罪が成立するわけではありません。借りた当時の収入、返済の実績、やり取りの内容などを合わせて判断されます。
詐欺とは評価されにくい事情
- 借りた後に、一部でも返済を続けてきたこと。
- 借りた当時、仕事や収入があったこと。
- 伝えていた使い道どおりにお金を使っていたこと。
- 返済が止まった理由として、失業や病気など借りた後の事情の変化があること。
- 返済の時期や方法について、相手と連絡を取り合ってきたこと。
詐欺罪の故意がいつの時点で判断されるかについては、支払うつもりはあった|詐欺罪の故意はいつの時点で判断されるかでも解説しています。借金と詐欺の関係を刑事事件の側面から整理した借りた金を返せないと詐欺になるのか|借入時の欺罔の有無もあわせてご覧ください。
警察は個人間の貸し借りにどこまで関わるのか
警察には、民事上のトラブルには原則として立ち入らないという考え方(いわゆる民事不介入)があります。個人間でお金を貸し借りし、返済が滞っているというだけの相談であれば、まずは民事の問題として扱われ、裁判所の手続や弁護士への相談を案内されることが少なくありません。
もっとも、借りるときの説明に明らかな嘘が含まれている、金額が大きい、同じような被害を訴える人が複数いるといった事情があれば、被害届が受理され、警察から事情を聞きたいと連絡が来ることもあります。「交際していた相手との貸し借りだから警察は関係ない」と言い切れるわけではありません。
警察から連絡が来た場合は、無視するのではなく、折り返す前に弁護士に相談し、何をどう説明するかを整理しておくと落ち着いて対応しやすくなります。初動の考え方は「警察から電話が来た」|折り返す前に確認したい3つのことで解説しています。
詐欺に当たらなくても、返す義務は残る
詐欺の心配がないと分かっても、借りたお金を返す義務がなくなるわけではありません。相手は、支払督促や少額訴訟、通常の訴訟といった民事の手続で返還を求めることができます。判決などが確定した後も支払わなければ、給料や預金を差し押さえられることもあります。
一方で、元交際相手から求められている金額が、すべて「借りたお金」とは限りません。交際中にもらったと理解していたお金、二人で使った費用、相手が自分の判断で支払ったものなどが、別れた後にまとめて「貸した」と主張されることもあります。もらったお金か借りたお金かの区別は、別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いや「渡した金を返せ」と言われた女性へ|返済義務があるケース・ないケースで詳しく解説しています。
また、個人間の貸し借りでも、利息制限法の上限(元本10万円未満は年20%、10万円以上100万円未満は年18%、100万円以上は年15%)を超える利息の約束は、超えた部分が無効になります。返済が遅れるたびに利息や「迷惑料」が上乗せされている場合は、本来返すべき金額を計算し直す余地があります。
「詐欺で訴える」と言われたときに避けたい対応
強い言葉を向けられると、その場を収めようとして、後から困る対応をとってしまうことがあります。次のような対応は、いったん立ち止まって考えることをおすすめします。
- 返せる見込みのない金額や期日を、その場で約束すること。
- 利息や違約金が上乗せされた新しい借用書に、内容を確かめないまま署名すること。
- 返済のために、別の人や貸金業者から新たに借りること。
- 相手からの連絡をすべて断ち、返済について何も伝えないこと。
- 謝罪の気持ちから、事実と異なる内容まで認める文面を送ること。
特に、連絡を一切断つことは、相手に「最初から返すつもりがなかった」と受け取られるきっかけになりかねません。すぐに全額を返せない場合でも、返す意思があること、いつまでにどのように返すかを検討していることを伝えておくことには意味があります。
反対に、守れない約束を重ねることも、後になって「返すと言って返さなかった」という形で、相手の疑いを強めるおそれがあります。約束する前に、実際に返せる金額を見積もることが大切です。
返す意思を示しながら、話し合いの土台を整える
相手と話し合う前に、手元の記録をもとに事実関係を整理しておくと、金額の食い違いや誤解を減らしやすくなります。
| 整理しておきたいこと | 主な資料 |
|---|---|
| 借りた日と金額 | 振込履歴、通帳、借用書 |
| 借りるときに伝えた理由 | LINEなどのメッセージ |
| これまでに返した日と金額 | 振込履歴、受け取りのやり取り |
| 返済の約束(期日・方法・利息) | 借用書、メッセージ |
| 返済が止まった事情 | 離職票、診断書、収入の資料など |
整理ができたら、毎月の収入と支出から無理のない返済額を見積もり、返済計画として示します。分割で返すことで合意できた場合は、口約束のままにせず、金額、回数、支払日、遅れた場合の扱いなどを書面にしておくと、後から「約束が違う」と争いになることを防ぎやすくなります。書面の作り方は分割払いの示談書|期限の利益喪失条項と公正証書が参考になります。
合意書には、約束した金額を支払えば互いにそれ以上の請求をしないことを確認する条項(清算条項)や、被害届や告訴をしない旨を盛り込むこともあります。ただし、こうした約束は当事者間の取り決めであり、警察や検察の判断そのものを拘束するものではない点には注意が必要です。
相手の言い方が度を越えている場合
貸したお金を返すよう求めることは、貸した側の正当な権利です。被害届や告訴を検討していると伝えること自体も、それだけで違法になるわけではありません。
ただし、権利を行使する場面でも、その方法が社会通念上許される範囲を超えれば、恐喝罪が成立しうるとされています(最高裁昭和30年10月14日判決)。たとえば、次のような求め方は、返済の請求とは別に検討が必要です。
- 実際に貸した額を大きく超える金額を、「払わなければ警察に行く」と迫って求めること。
- 家族や勤務先に借金のことを知らせると繰り返し告げること。
- 返済の代わりに、性的な関係や意に沿わない行為を求めること。
- 自宅や職場に押しかけ、長時間居座ること。
このような状況では、相手と一対一でやり取りを続けるほど、冷静な話し合いが難しくなりがちです。権利行使と恐喝の境目については、「訴えるぞ」「警察に行くぞ」は脅迫か|正当な権利行使との境界線や恐喝と借金の取り立ての境界|個人間の債権回収がアウトになる線で解説しています。
弁護士に相談することで変えられること
弁護士にご依頼いただくと、相手とのやり取りの窓口を弁護士に代えることができます。直接責められる状況から距離を置いたうえで、借りた金額と返済済みの金額を確認し、無理のない返済計画を相手方に提案することが可能になります。
また、借りた経緯や返済の実績をもとに、刑事事件として扱われる可能性がどの程度あるのか、警察から連絡があった場合にどう対応するのかといった見通しも、早い段階で検討できます。返済額が大きく分割でも返済が難しい場合には、債務整理を含めた選択肢を比較することも考えられます。
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よくあるご質問
借用書を書いていなくても、詐欺で訴えられることはありますか
借用書がなくても、振込履歴やメッセージのやり取りから貸し借りの事実が示されることはあります。被害届や告訴を出すこと自体は、借用書の有無にかかわらず可能です。ただし、詐欺罪に当たるかどうかは、借用書の有無ではなく、借りた時点での説明や返す意思・見込みなどから判断されます。
少しでも返済していれば、詐欺にはならないのですか
一部でも返済を続けてきたことは、借りた時点で返すつもりがあったことをうかがわせる事情の一つになります。もっとも、それだけで判断が決まるわけではなく、借りるときに伝えた理由が事実と違っていた場合などは、別に問題とされることがあります。
全額を返せば、刑事事件にはならないのですか
返済して相手と合意できれば、相手が被害届を出さない方向で話がまとまることがあります。ただし、すでに捜査が始まっている場合、返済したことは処分を決める際の事情として考慮されるものの、それによって手続が当然に終わるわけではありません。
「詐欺で訴える」という言葉は強く響きますが、借りたお金を返せていないことと、詐欺罪が成立することは同じではありません。慌てて約束を重ねたり、連絡を断ったりする前に、借りた経緯と返済の状況を整理し、返す意思をどう示していくかを考えることが、民事・刑事の両面で落ち着いた解決につながりやすくなります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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