別れ話のもつれでLINE・電話が止まらない|接触禁止を実現する方法
「交際しているのだから、性行為に応じるのは当たり前」——そうした感覚が、いまも当事者双方に残っていることがあります。しかし2023年7月に施行された改正刑法は、婚姻関係の有無にかかわらず性犯罪が成立することを条文上はっきりと示しました。恋人同士・パートナー同士であっても、同意のない性的行為は法的な問題になり得ます。
一方で、交際関係だからこそ「同意があったかどうか」が後から食い違い、当事者双方が深く傷つく事案も少なくありません。この記事では、恋人間の不同意・性的強要について、被害を受けた側・疑いを向けられた側の双方の視点から、法律上の枠組みと現実的な対応を整理します。
この記事の要点
- 刑法177条・176条には「婚姻関係の有無にかかわらず」と明記され、夫婦間・交際関係でも成立し得る
- 「交際している」ことは、その時々の性的行為への同意そのものではない
- 性交等に至らない行為でも、不同意わいせつ罪・強要罪・撮影罪などが問題になり得る
- 交際関係の事案は同意の有無が争点になりやすく、双方にとって早期の記録と相談が重要
- 身の危険を感じるときは110番、緊急でない相談は警察相談専用電話#9110、性暴力被害の相談は#8891(ワンストップ支援センター)へ
交際相手でも不同意性交等罪は成立する
2023年の改正で条文に明記された
2023年7月13日に施行された改正刑法により、従来の強制性交等罪と準強制性交等罪が統合され、**不同意性交等罪(刑法177条)が定められました。同時に、強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪も不同意わいせつ罪(刑法176条)**に整理されています。
この改正で注目されたのが、条文に「婚姻関係の有無にかかわらず」という文言が加えられた点です。改正前から、配偶者間でも性犯罪は成立し得ると解されていましたが、それを確認的に明文化したものと説明されています。
夫婦であっても成立するのですから、法律上の身分関係すらない交際関係であれば、なおさら「恋人だから罪にならない」という理屈は成り立ちません。
「交際している」は同意ではない
法的に問題となるのは、その行為の時点で、その行為について同意があったかです。
- 交際期間が長いこと
- 過去に何度も性的関係があったこと
- その日デートをして自宅やホテルに行ったこと
これらはいずれも、当日その行為に同意したことを直ちに意味するものではありません。逆に、途中まで応じていたとしても、拒む意思を示した後の行為は別に評価され得ます。
どのような場合に「同意がない」と評価されるのか
8つの類型
刑法176条1項は、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態の原因として、8つの類型を挙げています。177条もこれを引用しています。交際関係で問題になりやすい場面と合わせて整理します。
| 類型(176条1項各号) | 交際関係で問題になり得る場面 |
|---|---|
| ①暴行・脅迫 | 押さえつける、腕をつかんで引き倒す、応じなければ別れる・写真をばらまくと迫る |
| ②心身の障害 | 相手が体調不良・強い抑うつ状態にある |
| ③アルコール・薬物 | 飲酒で意識がはっきりしない状態 |
| ④睡眠その他意識が明瞭でない状態 | 眠っている間に行為に及ぶ |
| ⑤拒む「いとま」がない | 不意打ち的に行為に及ぶ |
| ⑥恐怖・驚愕 | 予想と異なる事態に直面し、身体がすくんで動けない |
| ⑦虐待に起因する心理的反応 | 日常的な暴力・暴言の下で逆らえない状態が続いている |
| ⑧経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力 | 生活費や住まいを握られ、断れば生活が立ちゆかないと憂慮している |
交際関係の事案で特に問題になりやすいのは、⑥や⑦です。**はっきり「嫌だ」と言わなかったこと、抵抗しなかったことは、同意があったことと同じではありません。**恐怖で身体が動かなくなる反応(いわゆるフリーズ)は、改正法が正面から想定した状況のひとつです。
このほか、行為がわいせつなものでないと誤信させた場合や人違いをさせた場合(177条2項)、相手が16歳未満の場合(同3項)にも成立し得ます。16歳未満のうち、13歳以上16歳未満については、行為者が5歳以上年長であるときに処罰対象となる仕組みです。年齢差が5歳未満でも、各自治体の青少年保護育成条例が問題になることがあります。
刑罰・時効
- 不同意性交等罪:5年以上の有期拘禁刑(上限20年)。罰金刑はありません
- 不同意わいせつ罪:6月以上10年以下の拘禁刑
- 致傷結果が生じた場合:無期または6年以上の拘禁刑(181条2項)
- 未遂も処罰対象(180条)
- 2017年の改正で非親告罪となり、被害者の告訴がなくても起訴し得ます
- 公訴時効:不同意性交等罪は15年、致傷の場合は20年。被害当時18歳未満だったときは、18歳になるまでの期間が加算されます
性交等に至らない「性的強要」も問題になり得る
恋人間で相談が寄せられるのは、性交そのものだけではありません。
- 身体に無理やり触れる、キスをする、服を脱がせる……不同意わいせつ罪(176条)
- 裸の写真や動画を送るよう迫る……強要罪(223条・3年以下の拘禁刑)。要求に脅し文句が伴えば脅迫罪(222条)、金銭を求めれば恐喝罪(249条)が問題になり得ます
- 拒んでいるのに性的な姿態を撮影する……性的姿態等撮影罪(2023年7月13日施行・3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)。交際中に撮った画像であっても、撮影時に同意がなければ別に評価されます
- 「別れるなら画像をばらまく」と迫る……脅迫・強要のほか、実際に公表すればいわゆるリベンジポルノ防止法の問題となります
避妊に協力しない、性行為中に避妊具を外す行為(いわゆるステルシング)については、海外で処罰の対象としている国もありますが、日本の現行刑法では177条2項の誤信類型が限定的に定められていることから、同条での処罰は難しいとする見解が示されています。ただし、法的評価が定まらないことと、行為に問題がないことは別です。健康被害や望まない妊娠が生じた場合には、民事上の損害賠償が検討され得ます。
民事上の損害賠償は別に検討できる
刑事事件として立件されるかどうかとは別に、**不法行為に
基づく慰謝料請求(民法709条・710条)**は婚姻の有無を問わず可能です。刑事手続に進むことをためらう場合でも、民事だけを選択することはできます。
消滅時効は、原則として損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年です。ただし、生命または身体を害する不法行為にあたる場合には、主観的起算点からの期間が5年となります(民法724条の2)。性被害はこれに該当し得るため、期間の判断は個別に確認が必要です。
被害を受けた側がまずできること
安全の確保が最優先
いま危険が及んでいる状況であれば、迷わず110番してください。緊急ではないものの警察に相談したい場合は#9110、性暴力の被害相談は#8891(ワンストップ支援センター・24時間対応)が利用できます。ワンストップ支援センターは、産婦人科医療やカウンセリング、法律相談などにつなぐ役割を担っています。
記録を残す
- 日時・場所・何があったかを、思い出せる範囲で時系列にメモする
- 前後のメッセージのやり取りを消さない(スクリーンショットと元データの両方を残す)
- 医療機関を受診し、診断書やカルテを残す
- 衣類などをそのまま保管する
保護命令には限界がある
DV防止法の保護命令は、配偶者・元配偶者のほか、**生活の本拠を共にする交際相手(同棲)**とその元交際相手が対象です。同居していない恋人は原則として対象外である点は、正直にお伝えしておく必要があります。この場合は、弁護士名義の通知による接触の遮断、面談強要禁止の仮処分、ストーカー規制法に基づく警察の警告・禁止命令といった別の手段を検討することになります。
「同意があったはず」と考えている側の注意点
交際関係の事案は、双方の認識が食い違いやすい類型でもあります。後になって被害申告がなされ、当事者にとって寝耳に水というケースも実際にあります。
疑いを向けられた場合に避けたい行動は次のとおりです。
- 相手に直接連絡して説明・謝罪を試みる(証拠隠滅や口裏合わせと評価されるおそれがあります)
- メッセージ履歴やデータを削除する
- その場で示談書にサインする、請求された金額を即座に支払う
- 取調べで、言われるまま内容を確認せずに調書に署名押印する
一方で、やり取りの記録を残すこと、事実関係を時系列で整理すること、早い段階で弁護士に相談して窓口を一本化することは、いずれの立場でも意味を持ちます。
なお、不同意性交等罪は非親告罪であるため、示談が成立すれば当然に不起訴になるわけではありません。処分の判断にあたって考慮される要素のひとつであり、宥恕(許す意思)の条項の有無なども影響します。また、被害申告に付随して金銭が要求される場合でも、請求された金額がそのまま支払義務の額になるわけではなく、脅し文句を伴う要求であれば別の問題として検討する余地があります。
よくあるご質問
Q. 交際中の出来事でも、警察は取り合ってくれますか。
交際関係にあることは、犯罪の成否を左右するものではありません。もっとも、実務上は同意の有無が争点になりやすく、記録や周囲への相談歴の有無が判断に影響することがあります。
Q. 何年も前のことですが、いま相談できますか。
公訴時効は不同意性交等罪で15年です。民事の損害賠償にも時効がありますが、起算点の考え方は事案によります。時間が経っていることを理由に相談をあきらめる必要はありません。
Q. 同意書を作っておけば安全ですか。
その都度書面を交わすことは現実的ではなく、書面があれば以後すべて同意があったことになるものでもありません。重要なのは、その時々の相手の意思を確認することです。
Q. 同性のパートナーでも同じですか。
不同意性交等罪の「性交等」には肛門性交・口腔性交なども含まれ、当事者の性別による区別はありません。被害・加害のいずれについても、性別を問わずご相談いただけます。
まとめ
- 2023年の改正で、性犯罪は婚姻関係の有無にかかわらず成立することが条文に明記された
- 交際していることや過去の関係は、その時点の同意を意味しない
- 拒めなかった背景に恐怖・支配関係がある場合も、法は正面から想定している
- 性交等に至らない強要・撮影・画像の悪用も、別個の犯罪として問題になり得る
- 被害を受けた側・疑いを向けられた側のいずれにとっても、記録を残し早期に相談することが選択肢を広げる
恋人間の性的なトラブルは、周囲に相談しづらく、当事者だけで抱え込みやすい問題です。どちらの立場であっても、感情的なやり取りを重ねる前に、事実関係を整理して専門家に相談されることをおすすめします。


