弁護人を頼むタイミング|捜査段階で差がつく理由
この記事は、2026年10月時点の民法、刑法、弁護士法の規定をもとに、風俗店やメンズエステの利用をめぐるトラブルで金銭を請求されている男性客の方に向けて書いています。刑法の法定刑は、2025年6月1日施行の拘禁刑への一本化を反映した表記です。個別の事情によって見通しは変わりますので、具体的な対応はご相談のうえで判断してください。
「最初の電話では30万円と言われたのに、翌日には『店の損害も含めて80万円』になり、今日は『オーナーが出てくるなら150万円』と言われた」。風俗店でのトラブルで、こうしたご相談をいただくことがあります。金額が変わるたびに、「早く払わないとさらに上がる」と焦ってしまうものです。
示談金の相場や減額の可否を扱った解説は多くありますが、金額がやり取りのたびに動いていく場面で、何を記録し、何を口にせず、どこで流れを止めるのかまで整理したものは多くありません。
この記事では、請求額が連絡のたびに増えていく場面に絞って、増え方の型、金額が動く理由、ご自身でとれる対応、弁護士に窓口を移す判断の目安を順に説明します。何が金額の大きさを左右するのかという一般論は、本番トラブルの請求額が高額化する要因|何が金額を動かすのかで扱っています。すでに支払った後に追加の請求が続いている場合は、「これで最後」が繰り返される構造|追加請求が止まらない理由をご覧ください。
請求額の増え方には型がある
金額が上がっていく流れは、ご相談の場面でみると、いくつかの型に分けられます。どの型に当たるかによって、確かめるべきことが変わります。
| 増え方の型 | よくある言い方 | 確かめたいこと |
|---|---|---|
| 名目が足されていく | 「キャストへの慰謝料とは別に、店の営業損害もある」 | 名目ごとの根拠と、誰の損害なのか |
| 相手が増えていく | 「店長では話が収まらない。オーナーが出てくる」 | 誰が当事者で、誰に交渉の権限があるのか |
| 期限で額が変わる | 「今日中なら50万円、明日になれば100万円」 | 期限と金額を結び付ける根拠があるのか |
| 反応に応じて上がる | 値下げを頼んだ後や、勤務先を話した後に額が上がる | こちらが渡した情報が材料になっていないか |
| 刑事の話と結び付く | 「警察に行くかどうかで金額が変わる」 | 金額と引き換えに何が約束されるのか |
これらが重なって現れることも珍しくありません。キャスト本人への慰謝料に店の「罰金」や営業損害が加わり、さらに期限を過ぎたことを理由に上乗せされる、という流れです。店の「罰金」という名目については、「罰金」を請求された|私人が罰金を科すことはできないで説明しています。
金額が動くのは、まだ何も決まっていないから
合意するまで、提示額は相手方の希望にとどまる
契約は、一方の申込みに対して相手方が承諾したときに成立します(民法522条1項)。示談も契約の一つですので、こちらが承諾していない段階で示される金額は、相手方の希望額にとどまります。金額が動いているということは、裏を返せば、まだ何も決まっていないということでもあります。
一方で、増え続ける額を前にして「最初に言われた30万円なら払います」と伝えると、その額で合意が成立したと扱われたり、そこを出発点にさらに上乗せを求められたりすることがあります。早く区切りたい気持ちから一部の額だけでも先に認めることは、慎重に考えたいところです。
やり取りの中で、次の請求の材料が集められている
連絡のたびに額が上がる場面では、こちらが話した内容がそのまま次の請求の材料になっていることがあります。勤務先や家族の有無、すぐに用意できる金額を伝えた後に額が変わる、という経過はご相談の中でもしばしば見られます。
期限を区切る、要求を少しずつ重ねるといった進め方の仕組みは「期限を切る」「小さな要求を重ねる」|不当要求者が使う心理コントロールの型で整理しています。
根拠の確かな額は、短い間に大きくは動きにくい
実際に生じた損害を根拠にした請求であれば、1日や2日で額が倍になることは通常考えにくく、額が動くたびにその理由を説明できるかどうかは、根拠を見極める手がかりになります。支払いが遅れた場合の遅延損害金は、法定利率などによって計算されるもので(民法419条1項、404条)、「明日になれば倍」といった増え方とは性質が異なります。また、店の規約に違約金の定めがあっても、損害賠償額の予定(民法420条)としての効力には限界があり、過大な部分は公序良俗(民法90条)などによって制限されることがあります。
連絡のたびに記録をつける
金額が動く請求に向き合うときは、「いつ、誰が、いくらを、何の名目で求めたか」を連絡のたびに書き留めておくことが出発点になります。記憶だけに頼ると経過がすぐに曖昧になり、「最初からこの額だと言っていた」と言われたときに反論しにくくなります。たとえば次のような一覧です。
| 日時 | 相手(名乗った名前・立場) | 手段 | 示された金額 | 名目・期限 | 告げられたこと |
|---|---|---|---|---|---|
| 1回目(当日深夜) | 店長を名乗る男性 | 電話 | 30万円 | キャストへの慰謝料・翌日中 | 払わなければ警察に行く |
| 2回目(翌日昼) | 同じ男性 | メッセージ | 80万円 | 慰謝料と店の営業損害・当日中 | 家族に知らせるかもしれない |
| 3回目(翌日夜) | オーナーを名乗る別の男性 | 電話 | 150万円 | 内訳の説明なし・即日 | 自分が出てきた以上は額が変わる |
あわせて、次の点も意識しておいてください。
- 電話の後は、その日のうちに要点をメモし、可能であればメッセージで「本日のお話の確認です」と相手方に送っておくこと。
- 相手方から届いたメッセージやメールは、都合の悪いものも含めて削除しないこと。
- 相手方が名乗った名前、立場、電話番号、振込先として示された口座の名義を控えておくこと。
- こちらから伝えた情報(勤務先や住所など)も、いつ何を伝えたかを書き留めておくこと。
記録全体の作り方は、【風俗トラブル】自分側の記録をどう作るか|相談の前に整理しておく材料もあわせてご覧ください。
ご自身で対応する間に気をつけたいこと
総額と内訳を、書面で示してもらう
額が動き続けるときは、「請求はこれですべてか」「誰に対して、何の名目で、いくらなのか」を、メッセージや書面で示すよう求めることが考えられます。キャスト本人の損害と店の損害は性質が異なり、支払う相手も分けて考える必要があります(誰に払うのか|店の損害とキャスト個人の損害は別)。名目ごとの見方は、店からの請求書面の読み方|名目別に法的根拠を突き合わせるで説明しています。
額を認めず、期限に即答しない
「今日中なら」と期限と額を結び付けられても、その場で承諾する必要はありません。「内容を確認してから回答します」と伝えて持ち帰ることができます。伝え方は【風俗トラブル】支払期限を切られた|『今日中に』に応じないための伝え方を参考にしてください。値下げの交渉も、支払う意思や用意できる額を知らせることになるため、根拠が分からないうちは控えたほうがよい場面があります。
新たな情報を渡さない
勤務先、自宅の住所、家族の連絡先、収入や資産の状況は、求められても、その場で伝える必要はありません。身分証の写真も同じです。渡した情報は取り戻せず、次の連絡で上乗せの材料に使われるおそれがあります。
店の担当者がキャストの分まで交渉してくるとき
キャスト本人の損害について、弁護士でない店の担当者や関係者が報酬を得る目的で示談交渉を担うことは、弁護士法72条との関係で問題になることがあります。2026年2月には、宮崎市の無店舗型性風俗店の店長ら4人が、弁護士でないのに客と示談交渉をしたなどとして、弁護士法違反の疑いで逮捕されたと報じられました。交渉の相手が入れ替わっていく場面では、誰がどの立場で話しているのかを確かめておくことが大切です。詳しくは店がキャストに代わって示談交渉をしてよいのか|非弁行為という視点をご覧ください。
上乗せが「害を加える」話と結び付いたとき
金額の上乗せが、「払わなければ家族や勤務先に知らせる」「ネットに書く」といった言葉と一緒に示される場合は、正当な請求の範囲を超えている可能性があります。人を脅して金銭を交付させる行為は恐喝罪(刑法249条1項・10年以下の拘禁刑)にあたることがあり、金銭を求めていなくても害を加える旨を告げれば脅迫罪(刑法222条1項)が問題になることがあります。脅されて応じた合意については、取消しを主張できる場合もあります(民法96条1項)。
こちらに落ち度がある場面では、権利の行使と恐喝の境目は一律には決まりません。その線引きは店の請求が恐喝に変わる線引き|正当な権利行使との境界で扱っています。身の危険を感じる場合は、ためらわず警察に相談してください。
弁護士に窓口を移すという選択
窓口が一本になると、金額は動きにくくなる
金額が連絡のたびに動く状態は、ご本人と相手方が直接やり取りを続けている限り、止まりにくいものです。弁護士が代理人となって受任通知を送ると、以後の連絡は代理人に向けられるのが通常です(受任通知とは何か|送られると相手方との関係はどう変わるか)。相手方には請求の根拠と内訳を書面で示すよう求めることになります。
代理人が入った後に相手方が額を上げてきても、その理由を確かめ、根拠の示されない部分には応じられないことを伝えたうえで、総額を一つに固める交渉に進みます。合意に至る場合は、清算条項や接触禁止の条項を入れた書面で、それ以上金額が動かない形にしておくことが目標になります。清算条項の役割は清算条項の意味|後から追加請求されないためにで説明しています。
高額な請求に代理人が入って解決した例として、【解決事例】デリヘル利用中のトラブル|示談金500万円の請求から50万円での解決に導いた事例があります。結果は事案ごとに異なります。
早めに相談を検討したい場面
次のような場面では、ご自身でのやり取りを続けるほど選べる手段が狭まりやすいため、早めのご相談をおすすめします。
- 連絡のたびに名目や相手が増え、総額が分からなくなっている場面。
- 期限と金額を結び付けられ、決断を急かされている場面。
- 警察の名前が出ており、金額と被害届の扱いが結び付けられている場面。
- すでに一部の額を認める発言をしたり、書面に署名したりしてしまった場面。
よくあるご質問
最初に言われた額であれば、払ってしまったほうが早く終わりますか
早く終わるとは限りません。最初の額に根拠があるとは限らず、払ったことで「まだ払える」と受け止められ、別の名目や別の相手から請求が続くこともあります。払う場合でも、誰に、何の名目で払い、それで何が解決するのかを書面で確かめておくことが前提になります。
弁護士を入れると、相手が反発してさらに額が上がりませんか
相手方が強い言葉で反発することはありますが、代理人が入った後は、根拠の説明がない上乗せには応じない形で交渉を進めます。「弁護士を入れたら話は終わりだ」と告げられた場合の考え方は、【風俗トラブル】店から「弁護士を入れたら話は終わりだ」と言われたで説明しています。
まとめ
- 請求額が増える流れにはいくつかの型があり、型ごとに確かめるべきことが変わります。
- 示談は合意によって成立する契約であり(民法522条1項)、承諾する前に示される額は相手方の希望にとどまります。
- 一部の額だけでも認める発言は、合意の主張や次の上乗せの出発点に使われることがあります。
- 連絡のたびに、日時、相手、金額、名目、告げられたことを記録しておきます。
- 総額と内訳は書面で示すよう求め、期限を切られても即答せずに持ち帰ります。
- 上乗せが害を加える旨の言葉と結び付く場合は、恐喝罪や脅迫罪が問題になることがあります(刑法249条1項、222条1項)。
- 弁護士に窓口を移すと、清算条項などで金額を一つに固める交渉に進めます。
請求の額が動いているうちは、まだ何も決まっていない段階です。いまの額で決めてしまう前に、経過を記録で振り返り、どこで流れを止めるかを考えることが、区切りへの近道になります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


