「示談金」名目の高額請求|相場から離れた金額を提示されたら
「ルール違反だから罰金です」——職場、お店、貸主、団体、あるいは個人から、そう言われて金銭を求められることがあります。「罰金」という言葉には独特の重みがあり、逆らってはいけないもののように感じられます。
しかし、法律上の「罰金」は、国が刑事手続を経て科す刑罰の名前です。私人や会社が誰かに罰金を科すことはできません。
一方で、「罰金という名目に根拠がない」ことと「一円も払わなくてよい」ことは、まったく別の話です。この記事では、「罰金」と呼ばれる請求を受けたときに、どこを見て支払義務の有無を判断すればよいのかを整理します。
1. 「罰金」は国が科す刑罰の名前
罰金は、刑法9条が定める刑の種類のひとつです。金額は原則として1万円以上とされ(刑法15条)、刑事裁判または略式手続を経て言い渡され、支払先は検察庁です。
そして、どのような行為にどのような刑罰を科すかは、あらかじめ法律で定めておかなければなりません(罪刑法定主義。憲法31条)。つまり、刑罰を定め、科すことができるのは国だけであり、会社や店舗、団体、個人が独自に「罰金」を作り出すことはできません。
紛らわしい言葉との違いも整理しておきます。
| 呼び方 | 性質 | 科す主体 |
|---|---|---|
| 罰金・科料 | 刑事罰 | 国(裁判所) |
| 過料 | 行政上の秩序罰(刑罰ではない) | 国・自治体等 |
| 反則金 | 交通反則通告制度に基づくもの | 国(警察・行政) |
| いわゆる「罰金」 | 法律上は存在しない呼び名 | 私人・会社・店舗など |
したがって、私人から届いた「罰金○万円」という請求は、その名目自体には法的な根拠がないということになります。就業規則やお店のルール、貼り紙にそう書いてあっても、この結論は変わりません。
2. 名目に根拠がなくても、支払義務が残ることがある
ここが最も誤解の多いところです。インターネット上には「罰金は違法だから支払う必要はない」という説明も見られますが、そこで止めてしまうと判断を誤るおそれがあります。
私人の間で支払義務が生じる場面は、おおむね次の4つです。
- 契約(合意した内容に違反した場合の違約金・損害賠償など。民法415条、420条)
- 不法行為(他人に違法に損害を与えた場合。民法709条)
- 不当利得(法律上の原因なく利益を得た場合。民法703条)
- 事務管理など、その他法律が定める場合
「罰金」という名目が使えないだけで、実質が上のいずれかにあたるなら、支払義務は残ります。
わかりやすいのが私有地の無断駐車です。「無断駐車は罰金3万円」という貼り紙があっても、通りかかった人がそれに同意したとは通常評価されませんから、貼り紙どおりの3万円を支払う義務は生じにくいと考えられます。もっとも、他人の土地を無断で使ったこと自体は不法行為にあたり得るため、近隣の駐車料金相場を基準とした賃料相当の損害賠償は問題になり得ます。
つまり実務では、「罰金」という名目を外し、その請求の実体は何なのかに置き換えて考えることになります。
3. 名目ではなく中身を見る——5つの問い
置き換えの作業は、次の5点を順に確認すると進めやすくなります。
① 誰が誰に請求しているか
雇う側と働く側、事業者と消費者、貸主と借主、対等な個人同士——立場によって、当てはまる規制がまったく違います。ここを飛ばすと、次以降の検討が空回りします。
② 事前に「合意」があったといえるか
契約に基づく違約金は、当事者の合意があってはじめて意味を持ちます。個別に説明を受けて署名した書面と、一方的に掲示された貼り紙や、後から知らされたルールとでは、合意といえるかの評価が変わります。
③ その金額は何に対応しているか
実際に生じた損害に対応する金額なのか、それとも損害の有無や大小と関係なく「一律いくら」と決められた定額なのか。この定額性が、以下で述べる各種の規制が働く入口になります。
④ 定額を制限するルールが働く場面か
民法420条は、契約で損害賠償の額をあらかじめ定めること自体は認めています(違約金は賠償額の予定と推定されます。同条3項)。もっとも、2020年施行の改正で「裁判所はその額を増減することができない」という文言は削除されており、公序良俗違反(民法90条)などを理由に効力が争われる余地はあります。加えて、労働の場面や消費者取引の場面には、次章のとおり特別の規制があります。
⑤ 支払を求める言動が線を越えていないか
請求すること自体は権利の行使ですが、その方法が社会通念上許される範囲を超えれば、脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(刑法249条)の問題になり得ます(最高裁昭和30年10月14日判決の考え方)。ただし、「訴える」「弁護士に依頼する」といった予告そのものが直ちに違法になるわけではありません。
4. 場面別の見立て
| 場面 | 主に働くルール | 見通し |
|---|---|---|
| 会社が従業員に | 労働基準法16条(賠償予定の禁止) | 「遅刻したら1回○円」のような定額の取り決めは無効となり得る。ただし現実に生じた損害の賠償請求まで禁じる趣旨ではない |
| 給与からの天引き | 労働基準法24条(全額払いの原則) | 一方的な控除は認められにくい |
| 懲戒としての減給 | 労働基準法91条 | 就業規則の定めが前提で、金額にも上限がある |
| 店がキャストに | 労働者性の判断 | 契約書の名称ではなく実態で判断される |
| 事業者が消費者に | 消費者契約法9条1項1号 | 平均的な損害の額を超える部分は無効 |
| 個人間の契約書 | 民法420条・90条・96条 | 合意自体は可能だが、実損との乖離や、迫られて署名した経緯が問題になり得る |
| 貼り紙・刑事 | 合意の有無 | 一方的な掲示は合意といえないことが多い。ただし不法行為責任は別途検討が必要 |
労働の場面では、規制が比較的はっきりしています。労働基準法16条が禁じているのは「あらかじめ金額を決めておくこと」であり、契約を結んだ時点で違反となる点に特徴があります。
なお、契約書に「業務委託」と書かれていても、それだけで労働基準法の適用が外れるわけではありません。勤務時間の管理や指揮監督の実態から労働者と認められた例もあり、令和7年6月25日の東京地方裁判所判決は、キャバクラで働いていた方について労働者性を認め、罰金等の名目による控除を無効としたうえで、運営会社に約2,000万円の支払を命じたと報じられています。
5. すでに払ってしまった場合/これから求められている場合
一度支払ったお金を取り戻すのは、容易ではありません。義務がないと知りながら支払った場合の返還請求は制限されますし(民法705条)、支払の任意性が争点になることもあります。強く迫られて意思が抑圧された状態での支払であれば、取消し(民法96条1項)を主張する余地はありますが、当時のやり取りが残っているかどうかで見通しが変わります。
また、一部だけ払う、分割の念書を書くといった対応は、債務を認めたものと評価されることがあります(民法152条1項)。額を減らすつもりの行動が、義務の存在を固める結果になりかねません。
求められている段階では、次の順序が現実的です。
しておきたいこと
- 請求書、規約、誓約書、掲示物、やり取りの記録を保存する
- 「何に対する、いくらの請求か」を書面で示してもらう
- 自分がした行為と、相手に生じた不利益を時系列で整理する
- 期限を確認し、その前に相談先を確保する
避けたいこと
- その場で現金を渡す、口座に振り込む
- 内容を確認しないまま念書や誓約書に署名する
- 感情的なやり取りを重ねる、一人で長時間の交渉に応じる
- 記録を消す
6. 「罰金ではない」からといって、突っぱねればよいわけではない
最後に、逆方向の注意にも触れておきます。
「罰金」という言葉の使い方が不正確でも、相手方に実際の損害が生じていることはあります。無断駐車の例のように、名目を正せば別の根拠で請求が成り立つ場面は珍しくありません。名目の誤りだけを理由にすべてを拒めば、後から訴訟を起こされ、かえって負担が大きくなるおそれもあります。
大切なのは、言われた名目をそのまま受け入れることでも、名目の誤りを理由にすべてを拒むことでもなく、その請求の実体と金額の妥当性を切り分けて確認することです。判断に迷う場合や、支払を求める言動に威圧を感じている場合には、早い段階で弁護士にご相談ください。


