本番トラブルの請求額が高額化する要因|何が金額を動かすのか

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

風俗店での本番行為をめぐって金銭を求められる場面では、想像していたより大きな金額が示されることがあります。数十万円のつもりでいたところに三桁の数字が出てくる、という相談は珍しくありません。

 困るのは、金額の大きさそのものよりも、なぜその金額になるのかが分からないことです。理由が見えないまま数字だけが動くと、判断の手がかりがないまま返事を迫られることになります。

 この記事では、本番トラブルで示される請求額が高くなるとき、その金額を押し上げているものは何かを整理します。相場の数字をお示しすることが目的ではありません。金額の当否そのものよりも、その金額がどう組み立てられているかを見る手順をお伝えします。

この記事が前提としている状況


 読み進める前に、扱う範囲をはっきりさせておきます。

  • 当事者がいずれも成人であること。相手方が18歳未満であった可能性がある場合は、金額の話とは別の問題が先に立ちます
  • 店やキャストの側から金銭を求められている、客の立場の方を想定していること
  • すでに逮捕された、警察から呼出しを受けているなど、刑事手続が動いている場合は、この記事の一般論ではなく個別の相談が必要であること
  • 店のルールに反する行為を勧める趣旨ではないこと


 また、行為の類型ごとの金額の目安や、実際に成立した金額の一覧は扱いません。数字を並べることが、かえって自分の事案を測り誤らせることがあるためです。

「高額だ」と感じたとき、最初に分けておきたいこと


請求額と、支払義務のある額は別のもの


 相手から示された金額は、相手の主張です。話し合いの出発点であって、支払うべき金額が確定したものではありません。逆に、示された金額が大きいというだけで、その請求に根拠がないことにもなりません。

 示された金額に応じるかどうかをどう決めるかについては別の記事で扱っています。ここでは、その手前にある「金額の中身を見る」作業に絞ります。

高額化には、性質の違う二つがある


 請求額が大きくなる理由は、大きく二つに分かれます。

 一つは、損害の実体が大きいために金額が積み上がっている場合です。相手方が通院している、仕事を休んでいる、といった事情が実際にあれば、金額はその分だけ大きくなります。この場合、金額が大きいこと自体は不自然ではありません。

 もう一つは、損害の実体とは離れたところで金額が膨らんでいる場合です。名目のはっきりしない項目が混じっている、規約の定額がそのまま乗っている、同じ損害が二か所で数えられている、といった形です。

 この二つは見た目では区別がつきません。区別する手がかりは一つで、その金額が何に対するお金なのかを説明できるかという点です。

請求額は、一つの数字ではない


 「示談金」「慰謝料」「罰金」といった言葉は、まとまった一つの金額を指すように聞こえます。しかし中身を開くと、性質の異なる複数の項目が合算されていることがほとんどです。項目ごとに、根拠になる考え方も、本来それを請求できる人も違います。

項目何に対するお金か根拠になる考え方本来の請求者
慰謝料精神的な苦痛民法709条・710条キャスト本人
治療費・検査費通院や検査に実際にかかった費用民法709条キャスト本人
休業損害働けなかった期間の収入の減少民法709条キャスト本人
店に生じたとされる損害予約の取消しや代替の手配などで店側に生じたとされるもの民法709条・415条
違約金・罰金名目規約や誓約書に書かれた定額民法420条
名目のはっきりしない上乗せ迷惑料、口止め料、解決金など定まっていない定まっていない


内訳が示されないまま合算されることがある


 風俗店側の顧問業務を扱う法律事務所の解説でも、店の損害とキャストの損害を内訳を明示しないまま合計した金額で解決することが多い、という実務が説明されています。

 内訳が示されないこと自体が違法だというわけではありません。ただ、内訳が見えない状態には、次のような性質があります。

  • 同じ損害が二か所で数えられていても気づけない
  • 実際には生じていない項目が混じっていても確かめようがない
  • どの部分について争っているのかが、こちらにも相手にも共有されない
  • 合意した後で「この分は含まれていなかった」という話が出やすくなる


 内訳の説明を求めることは、争う姿勢を示すことではありません。何について合意しようとしているのかを確かめる作業です。

損害の実体が金額を押し上げる要因


 まず、金額を押し上げる側の事情のうち、実体に関わる部分を挙げます。ここは、あとから交渉で動かしにくい領域です。

行為の態様と、そこに至る経過


 何がどこまであったのか、どういうやり取りを経ていたのかは、相手方の受けた被害の評価に直結します。相手方が拒む意思を示していたかどうか、その場でどのようなやり取りがあったかは、金額の話の前に、そもそも法的にどう評価される場面なのかを左右します。

相手方に生じたとされる結果


 通院している、しばらく出勤できていない、退職した、感染の検査を受けている──こうした事情が主張されると、慰謝料以外の項目が加わり、金額は積み上がります。

 結果が重いほど金額が大きくなること自体は、損害賠償の考え方として自然です。もっとも、主張されている結果と、実際に生じた結果と、その行為との結びつきは、それぞれ別に確かめられるべきものです。診断書や領収書といった裏づけの有無を確認することには意味があります。

回数と反復


 一度きりの出来事か、同じ相手に繰り返しているか、他の店でも同種の話があるかは、評価を変えます。相手方の処罰感情にも影響し、その結果として金額にも表れます。

記録が残っているかどうか


 防犯カメラ、通話記録、当日のやり取り、その場での発言の録音などが残っていると、事実関係についての争いが少なくなります。争いが少なくなること自体は中立的な事情ですが、こちらに不利な内容が記録として残っている場合は、金額を下げる方向の主張がしにくくなります。

店に生じたとされる損害は、どこまで請求できるのか


 ここが、本番トラブルの請求額を考えるうえで見落とされやすい部分です。

慰謝料を請求できるのは、原則として本人


 精神的な苦痛に対する賠償を求めることができるのは、その苦痛を受けた本人です。店はキャストの苦痛について、自分の名前で慰謝料を請求できる立場にはありません。

 店が窓口として金額を伝えてくること自体は、実務としてよくあります。ただ、窓口になっていることと、その金銭を請求する権利を持っていることは別です。

「店の売上が減った」という部分


 店側の請求には、キャストが休んだために売上が減った、辞めてしまって採用し直す必要が生じた、といった項目が含まれることがあります。

 法律の考え方では、こうした損害は直接の被害者ではない第三者に生じた損害として整理されます。交通事故の分野では「企業損害」「間接損害」と呼ばれ、原則として賠償の対象にはなりにくいと扱われてきました。

 例外を認めた代表的な判断として、最高裁昭和43年11月15日判決があります。事案は、個人で営んでいた薬局を法人にしたもので、社員は被害者とその配偶者だけ、薬剤師も取締役も被害者ひとりという会社でした。最高裁は、実権が個人に集中し、会社の機関としての代替性がなく、経済的に個人と会社が一体をなす関係にあるとして、会社の利益の損失についても相当因果関係を認めています。

 裏を返せば、個人と会社が経済的に一体といえるような限られた場面についての判断です。複数のキャストが在籍し、経営者と従業員が別である通常の店舗について、そのまま当てはまるものではありません。

店がキャストに実際に支払った分


 これとは別に、店がキャストの休業分の補償や治療費を実際に負担した、という場合があります。これは店固有の損害というより、本人が受け取るはずだったものを店が立て替えた形に近く、別の整理になります。

 いずれにしても、この部分は実際に支払ったという事実があってはじめて出てくる話です。規約に書いてあるから、という説明とは性質が違います。

規約や誓約書の定額


 「本番をしたら◯◯万円」という定めがある場合、その金額は損害の計算ではなく、あらかじめ決めておいた金額です。定額を定めておくこと自体は法律上の仕組みとしてあり得ますが、それがそのまま通るかどうかは別に検討されます。条項ごとの効き方については別の記事で扱っています。

損害の大きさとは別に、金額を動かしているもの


 実務で金額を動かしているのは、損害の実体だけではありません。むしろ、次のような事情のほうが金額の幅を作っていることがあります。

その場か、持ち帰るか


 金額は、その場で決めようとする局面でもっとも大きくなりやすい傾向があります。時間が限られ、比べる材料がなく、その場を離れたいという気持ちが働くためです。「今日中に」「これから事務所へ」といった形で期限が短く切られているときは、期限そのものが金額を押し上げる要素として働いていないかを見てください。

こちらの情報がどこまで渡っているか


 勤務先、家族構成、収入の見当がつく情報、身分証の写しなどが相手方に渡っていると、金額はその情報に合わせて動きやすくなります。

 支払う側の資力や社会的な立場が金額に反映されることは、性犯罪一般の示談でも見られる現象です。風俗の場面では、そこに「知られたくない相手がいる」という事情が重なります。すでに伝わってしまった情報を引き戻すことは困難ですが、これ以上広げないという選択は残っています。

窓口が誰か


 本人同士でやり取りしている段階では、感情と金額が結びついたまま動きます。代理人が入ると、内訳の説明や裏づけの提示という手順を踏むことになり、金額の根拠が可視化されやすくなります。

 なお、店の従業員がキャストの代理人として金銭の交渉をすることには、弁護士法上の問題が生じる場合があります。誰が誰の立場で話しているのかは、確認しておく意味があります。

刑事の見通しが金額に反映される仕組み


 本番トラブルでは、民事の金銭の話と、刑事の手続の話が同時に進むことがあります。この二つは別のものですが、金額には相互に影響します。

 刑事事件になるおそれが強いと感じているほど、支払う側には「金額が大きくても早く終わらせたい」という動機が働きます。この動機は相手方にも見えています。結果として、刑事の見通しに対する不安そのものが金額に上乗せされるという構造が生まれます。

 これは相手方が特別なことをしているわけではなく、交渉一般に見られる働き方です。だからこそ、金額を検討する前に、自分の事案が刑事手続との関係でどのあたりに位置しているのかを把握しておくことに意味があります。見通しが分からないまま金額だけを議論すると、判断の軸が不安の側に寄ります。

 なお、金銭の合意が成立したからといって、刑事の結論が自動的に決まるわけではありません。この点は別の記事で扱っています。

下げようとして、かえって上げてしまうことがある対応


 金額を抑えたいという意図でとった行動が、逆の結果につながることがあります。

  1. 事実と違う全面的な否認をして、あとで一転して認める。経過に一貫性がないと、他の説明の信用も揺らぎます
  2. 内訳を確かめないまま金額だけを値切る。何について争っているのかが共有されず、話が動かなくなります
  3. 連絡を絶つ、着信を拒否する。相手方が刑事の手続に切り替える動機になり得ます
  4. 相手方本人に直接連絡する。事案によっては、それ自体が新たな問題として評価されます
  5. その場で一部だけ支払う、支払う約束を書面にする。支払義務を認めたものと評価される余地があります


請求の仕方が、別の問題になる場合


 請求する側の言動が一定の線を越えると、それ自体が脅迫罪や恐喝罪の問題として検討されることがあります。

 もっとも、「被害届を出す」「弁護士に依頼する」といった予告そのものは、直ちに違法とされるものではありません。正当な権利の主張と、線を越えた要求との境目は、言葉の激しさだけでは決まりません。この区別については別の記事で詳しく扱っています。

 ここで押さえておきたいのは、相手の言い方に問題があることと、こちらに支払義務があるかどうかは別の問題だという点です。片方を理由にもう片方を無視すると、判断を誤ります。

金額の話をする前に整理しておきたいこと


 相談に来られる方の多くは、金額の妥当性から話を始めようとされます。しかし、先に整理しておいたほうが早い項目があります。

整理する項目確かめること
誰から誰への請求か店の名前で来ているのか、キャスト本人からか、代理人を名乗る人からか
請求の内訳どの項目がいくらか。内訳の説明を受けているか
裏づけの有無診断書、領収書、休業の事実など、示されているものは何か
自分が出した情報身分証、勤務先、家族のこと。どこまで相手に渡っているか
時間の切られ方いつまでにという期限が、誰の都合で作られているか


 あわせて、その日の経過を時系列で書き出し、やり取りの記録を消さずに残しておいてください。自分に不利に見える部分も含めて残すほうが、あとで説明が成り立ちます。

まとめ


  • 示された金額は相手の主張であり、支払義務の額とは別のものです
  • 高額化には、損害の実体が大きい場合と、実体と離れて膨らんでいる場合があり、見た目では区別がつきません
  • 請求額は複数の項目の合算であることがほとんどで、項目ごとに根拠も請求できる人も違います
  • 慰謝料を請求できるのは原則として本人であり、店が窓口になっていることと請求権を持つことは別です
  • 店の売上減少にあたる部分は第三者に生じた損害として整理され、賠償の対象になりにくいと扱われてきました
  • 金額を動かしているのは損害の実体だけではなく、時間の切られ方、こちらの情報、窓口が誰かといった事情も影響します
  • 下げようとしてとった行動が、かえって金額や事案の評価を悪くすることがあります


 早い段階で整理を始めたほうが選択肢は残りやすい一方で、早く動けば良い結果が得られると決まっているわけでもありません。事案ごとに事情は異なりますので、具体的な判断については、経過が分かる資料をそろえたうえで弁護士にご相談ください。

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Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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