出張先・地方でトラブルになった場合|遠方での対応

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

出張先・地方でトラブルになった場合|遠方での対応

出張先や旅行先で風俗店とのトラブルに巻き込まれたとき、多くの方が最初に考えるのは「明日、予定どおり帰れるのか」ということです。ただ、その後の展開を左右するのは、帰れるかどうかよりも、手続がどこで進むのかという点です。事件が起きた場所は、警察から呼び出される先、裁判所の場所、そして相手方が使える手段にまで影響します。ここでは、遠方でトラブルになった場合に何が変わり、何は変わらないのかを、条文と実際の手続に沿って整理します。

距離が変えるのは「罪の重さ」ではなく「手続の条件」

 最初に押さえておきたいのは、地元で起きたか出張先で起きたかによって、成立し得る犯罪の内容や、請求が認められるかどうかの判断そのものが変わるわけではない、ということです。距離が変えるのは、手続が行われる場所と、そこから生まれる時間・費用の条件です。

距離によって変わらないもの距離によって変わるもの
成立し得る犯罪の種類と要件呼び出しや裁判が行われる場所
支払義務の有無と金額の考え方その場で判断を迫られる時間的な余裕
証拠の評価のされ方依頼先の選択肢と、移動にかかる費用


 この区別を先に置いておくと、遠方だから不利になるという漠然とした不安と、実際に手当てが必要な部分とを切り分けやすくなります。以下では、刑事・民事・その場の交渉・発覚経路・依頼先の順に見ていきます。

刑事の手続は「事件が起きた土地」を軸に動く


呼び出しは、原則として事件地の警察から来る

 風俗トラブルで警察が動く場合、捜査を担当するのは、原則としてその出来事があった場所を管轄する警察です。帰宅してしばらく経ってから、出張先の県の警察署から電話や呼出状が届く、という形になります。

 このとき届くのは任意の出頭要請であることが多く、刑事訴訟法198条1項は、逮捕・勾留されている場合を除いて出頭を拒むことも、出頭後にいつでも退去することもできると定めています。犯罪捜査規範102条も、任意出頭は電話や呼出状によって日時・場所・用件を伝えるものとしています。つまり、指定された日にどうしても行けない事情があるなら、日程の相談をすること自体は想定の範囲内です。無断で応じないまま放置するのとは意味が違います。

住んでいる地域の警察で対応が進む場合もある

 あまり知られていませんが、警察どうしが手続を分担する仕組みがあります。犯罪捜査規範28条は、捜査のために必要があるときは、他の警察に対して被疑者の呼出しや取調べ、参考人の呼出しや取調べ、職員の派遣などを依頼できると定めています(共助の依頼)。実際に、遠方の事件について居住地に近い警察署で事情を聴かれることもあります。

 また、被害を届け出る側に立つ場合も同様で、犯罪捜査規範61条1項は、被害届は管轄区域の事件かどうかを問わず受理しなければならないとしています。63条1項は、告訴・告発・自首についても同じ扱いを定めています。恐喝に近い請求を受けたようなケースで、帰宅後に地元の警察署へ相談に行く選択肢が閉ざされているわけではありません。

 ただし、どこで手続を行うかを決めるのは捜査機関側であり、本人が選べる権利ではありません。「近くの署でお願いしたい」と伝えることはできても、そのとおりになるとは限らない点は押さえておいてください。

身柄を取られた場合、その土地から動けなくなる

 逮捕された場合は事情が変わります。警察は逮捕から48時間以内に検察官へ送致し、検察官は24時間以内に勾留を請求するかどうかを判断します(刑事訴訟法203条1項・205条1項)。勾留されれば、留置される先は事件地の警察署です。仕事の予定に関係なく、その土地にとどまることになります。

 遠方であることは手続の細部にも表れます。犯罪捜査規範135条は、遠隔の地で被疑者を逮捕したため時間制限に従えなかったときは、遅延事由報告書を作成して送致書に添付すると定めています。距離が手続に影響することが、規範上も想定されているわけです。

 弁護人の窓口も現地になります。犯罪捜査規範130条2項3号は、被疑者の資力が50万円以上のときは、勾留を請求された裁判官が所属する裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内にある弁護士会に、あらかじめ弁護人選任の申出をしておく必要があると教示すべきものとしています。逮捕直後に呼べる当番弁護士も、その地域の弁護士会が担当します。

起訴されれば、裁判所も事件地になりやすい

 刑事訴訟法2条1項は、裁判所の土地管轄を犯罪地または被告人の住所・居所・現在地によると定めています。実務では犯罪地の裁判所に起訴されることが多く、公判が開かれれば、被告人には出頭義務があります(同法286条)。何度も遠方へ通うことになれば、その負担自体が生活や仕事に響きます。同法19条1項は、裁判所が適当と認めるときに他の管轄裁判所へ事件を移送できると定めていますが、当然に認められるものではありません。

民事の請求は「どこで争うか」で負担が変わる


店側から訴えられる場所は、店の所在地になり得る

 民事の原則は、被告の住所地を管轄する裁判所です(民事訴訟法4条1項)。ところが、お金の支払いを求める訴えには例外があります。民事訴訟法5条1号は財産権上の訴えについて義務履行地の管轄を認めており、民法484条1項により金銭債務は債権者のところへ持参して支払うのが原則とされています。結果として、請求する側である店の所在地の裁判所にも訴えを起こせることになります。

 さらに、店の利用規約や誓約書に管轄の合意条項が入っている場合があります。民事訴訟法11条は、第一審に限り、書面による合意で管轄裁判所を定められると規定しています。書面に何が書かれていたかで、争う場所が変わり得るということです。

支払督促が届いた場合は、自分の住所地が舞台になる

 一方で、通常の訴訟ではなく支払督促が使われた場合は逆になります。民事訴訟法383条1項により、支払督促は債務者の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てるものとされ、義務履行地の管轄は認められていません。届いた書面に対して2週間以内に督促異議を申し立てれば、同法395条により、その簡易裁判所またはその所在地を管轄する地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされ、通常の裁判手続に移ります。

 注意したいのは、異議を出さないまま放置した場合です。仮執行宣言を経てさらに2週間が過ぎると、支払督促は確定判決と同じ効力を持つとされています(同法396条)。遠方から届いた書面を「関係のない土地の話」と受け取って置いておくと、この期間を使い切ってしまいます。

移動そのものを減らせる場面もある

 民事訴訟法17条は、当事者や証人の住所などの事情を考慮し、著しい遅滞を避け、または当事者間の公平を図るために必要と認めるときは、他の管轄裁判所へ移送できると定めています。また近年は、期日をウェブ会議で行う運用が広がっており、出頭のために毎回現地へ向かうとは限りません。移動の負担は、手続の設計によってある程度は調整できる部分だと考えてください。

「今日中に」という要求は、距離が作り出す圧力

 出張先のトラブルでは、その場で高額の支払いを求められることが少なくありません。背景には、帰りの新幹線や飛行機の時刻、翌朝の会議といった、こちらの事情がはっきり見えているという構造があります。時間に追われている人ほど、内容を確かめないまま合意しやすくなります。

 この場面で確認しておきたいのは、次の点です。

  • 請求の名目が何か(料金・違約金・損害の賠償など)と、その根拠が示されているか。
  • 金額の内訳が説明されているか、総額だけを提示されていないか。
  • 支払う相手が店なのか、キャスト個人なのかがはっきりしているか。
  • 今日中に決めなければならない法的な理由が、実際に存在するか。


 その場で全額を用意できない、内容が理解できない、といった状態で署名や送金をすると、後から取り戻す作業は一気に難しくなります。移動の予定より、判断の材料をそろえるほうが先だと考えたほうが、結果的に負担は小さくなります。安全に不安を感じる状況であれば、ためらわずに110番することも選択肢です。

出張中だからこそ生じる「伝わりやすさ」

 遠方のトラブルには、地元では起きにくい発覚経路があります。

  • 同行者や現地の取引先がいて、行動の空白が説明しづらい。
  • 宿泊先や交通手段を会社が手配していて、記録が社内に残っている。
  • 経費精算や出張報告で、日時と場所の説明を求められる。
  • 社用の携帯やパソコンに連絡が届く可能性がある。
  • 身柄を取られると、翌日以降の予定に穴が空き、欠勤の理由の説明が必要になる。


 もっとも、これらは制度として会社に通知される仕組みとは別の話です。捜査機関が勤務先へ自動的に連絡するわけではなく、事実上どこから伝わるかという問題です。両者を混同すると、必要のない範囲まで自分から説明してしまうことにつながります。心配な点があるなら、話す相手と範囲を決めてから動くほうが安全です。

遠方の事件を、どこの弁護士に依頼するか

 依頼先は、大きく分けて二つの考え方があります。

依頼先向いている場面留意点
事件地の事務所出頭同行や現地での面会が頻繁に必要な場合居住地での打合せがしづらい
居住地の事務所書面と電話・オンラインで進められる場合現地対応のたびに出張費用が生じ得る


 弁護士報酬は2004年に自由化されており、共通の相場表は存在しません。遠方対応にかかる日当や交通費の扱いも事務所ごとに異なります。依頼前に、どの作業に、いくら、どのタイミングで発生するのかを見積書で確認しておくと、後の食い違いを避けられます。費用の内訳や見積書の見方については、当事務所の別のコラムでも取り上げています。

 なお、示談交渉や捜査機関とのやり取りの多くは、書面と電話で進められます。「遠方だから対応できない」と決めつける前に、どの場面で現地へ行く必要があるのかを整理してみてください。

出張先でトラブルになったときの進め方

 実際に起きてしまった場合、次の順序で考えると整理しやすくなります。

  1. その場の安全を最優先にし、身体の危険を感じる状況なら110番する。
  2. 金額と名目、相手が誰かをメモか録音で残し、その場での署名・送金は保留する。
  3. 支払いや連絡先の交換をした場合は、日時・方法・金額を記録しておく。
  4. 帰宅後、届いた書面(請求書・呼出状・支払督促など)は封を切って期限を確認する。
  5. 警察から連絡が来たら、応じる意思があることを伝えたうえで日程を相談する。
  6. 早い段階で弁護士に相談し、どこで何が進むのかの見取り図を作る。


まとめ

 遠方でのトラブルについて、押さえておきたい点をまとめます。

  • 距離によって罪の重さや請求の当否が変わるわけではなく、変わるのは手続の場所と時間・費用の条件である。
  • 刑事の捜査は原則として事件地の警察が担当するが、共助の仕組みにより居住地の警察で対応が進む場合もある。
  • 被害届・告訴・自首は、管轄区域の事件かどうかを問わず受理される取扱いになっている。
  • 逮捕されればその土地で身柄を扱われ、当番弁護士や弁護人選任の窓口も現地の弁護士会になる。
  • 店側が金銭を請求する訴訟は、義務履行地の管轄により店の所在地でも提起され得る。
  • 支払督促は自分の住所地の簡易裁判所が舞台になり、2週間以内の督促異議で通常の裁判に移る。
  • その場の「今日中に」という要求は、帰る予定を見越した時間の圧力であることが多い。


 当事務所は男女間・風俗に関するトラブルのご相談を数多くお受けしており、遠方の事案についても書面と電話・オンラインを併用して対応しています。弁護士には守秘義務があり、ご相談の内容がご家族や勤務先に伝わることはありません。手続がどこで進むのかが分からない段階でも、状況を整理するところからお手伝いできますので、お早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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