【風俗トラブル】振込先が個人名義の口座だった|払う前に確かめること

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

この記事は、2026年10月1日時点の民法、犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法)、犯罪による収益の移転防止に関する法律(2026年7月10日施行の改正を反映)をもとに作成しています。個別の事案では、事実関係によって結論が変わることがあります。


「示談金はこちらに振り込んでください」と送られてきた振込先が、店の名前ではなく個人の名前だった。風俗店を利用した後に金銭を請求された方から、こうした場面についてのご相談をいただくことがあります。「店長の口座だと言われたが本当なのか」「女性本人の口座に払えばそれで終わるのか」「振り込んだ後で、名義が店と関係なさそうだと気づいた」といった声です。

 世間では「個人口座を指定してくるのは詐欺の典型だから払ってはいけない」と説明されることがあります。怪しい請求に個人名義の口座が使われることがあるのは事実ですが、キャスト本人が自分の受けた損害について請求する場合のように、個人名義の口座がごく自然な場面もあります。名義が個人かどうかだけで判断すると、正当な請求を放置して事態をこじらせることも、反対に、店の人らしく見える人の口座へ確認なく払ってしまうことも起こり得ます。

 この記事では、振込先が個人名義だったときに、払う前に何をどの順番で確かめるかを整理します。支払うべき金額が妥当かどうか、店とキャストのどちらに権利があるかの詳しい整理、領収書の作り方は、それぞれ別の記事に譲ります。

個人名義の口座が指定されるのはどんな場面か

個人名義というだけで不正とは限らない

 風俗店の中には、会社ではなく個人事業として営まれている店もあり、その場合は経営者個人の名義の口座が事業に使われていることがあります。また、キャスト本人が受けた精神的苦痛についての慰謝料は本人の権利ですから、本人が自分の口座を示すのは不自然なことではありません。口座が個人名義であること自体は、請求が不当であることを意味しません。

名義人はおおむね三つに分かれる

 振込先の名義人は、請求している人との関係で、次の三つに整理できます。

名義人請求している人との関係払う前に確かめたいこと
キャスト本人請求者と名義人が同じ請求の中身が本人の損害に関するものか
店の経営者・スタッフ個人店の代わりに受け取るという説明店として受け取る権限があるか、誰の分をいくら受け取るのか
説明のない第三者請求者との関係が分からないなぜその口座なのか、名義人が誰なのか


問題になるのは名義よりも「つながり」

 確認の中心は、名義が会社か個人かではなく、「請求している人」「お金を受け取る権利がある人」「口座の名義人」の三者が一本の線でつながっているかどうかです。このつながりを説明できない口座に振り込むと、払ったのに清算が済んでいない、という状態が残るおそれがあります。

確かめたいこと①|口座名義人は請求者本人か、代わりに受け取る人か

請求者本人の口座の場合

 名義人が請求者本人であれば、つながりは比較的分かりやすくなります。ただし、キャスト本人の口座に店の損害の分まで含めて払う形になっていないか、反対に、店の関係者の口座に本人の慰謝料まで含めて払う形になっていないかは、別に確かめておきたいところです。店の損害とキャスト個人の損害の区別は、誰に払うのか|店の損害とキャスト個人の損害は別で整理しています。

店の経営者やスタッフ個人の口座の場合

 「店長の口座です」「オーナー個人の口座です」と説明された場合は、その人に受け取る権限があるかどうかが問題になります。受け取る権限のない人への支払いは、本来の権利者が実際に利益を受けた範囲を除いて、支払ったことにならないのが原則です(民法479条)。その例外として、受け取る権限があるように見える人に、事情を知らず、落ち度もなく支払った場合には、支払いが有効とされることがあります(同法478条)。確かめずに払ったこと自体が、後で落ち度と評価される余地があるという点は意識しておきたいところです。

請求者と関係の分からない第三者の口座の場合

 「会社の口座は今使えない」「経理担当の口座」など、説明があいまいなまま、請求者とも店とも関係の見えない名義の口座を示されることがあります。この場合は、名義人が誰で、請求者とどういう関係にあり、なぜその口座で受け取るのかを、振り込む前に文面で説明してもらうことが出発点になります。説明が得られないまま振り込むことは、控えたほうがよいでしょう。

確かめたいこと②|何のお金を、誰のために受け取るのか

名目と振込先を対応させる

 風俗トラブルの請求では、キャスト本人への慰謝料と、店への違約金や営業上の損害など、性質の違うお金が一つの金額にまとめて示されることがよくあります。内訳が分からないまま一つの口座に振り込むと、後で「あれは店の分で、本人の分はまだ受け取っていない」と言われたときに、説明が難しくなります。

受け取る権限を書面で示してもらう

 店の関係者が本人の分もまとめて受け取るのであれば、本人から受け取りを任されていることを示す書面(委任状など)や、本人の署名が入った合意書を求めるのが一つの方法です。これは支払いを先延ばしにするための確認ではなく、同じ請求を二度受けないための確認です。確認を求める連絡は、電話ではなくメッセージや書面など、後に残る形にしておくと、後で経緯を説明する際に役立ちます。店が本人に代わって交渉すること自体の問題は、店がキャストに代わって示談交渉をしてよいのか|非弁行為という視点で扱っています。

確かめたいこと③|口座そのものについて

振込の画面に表示される名義を控える

 多くの金融機関では、振込先の金融機関名、支店、口座番号を入力すると、受取人の口座名義(カナ)が画面に表示されます。相手から伝えられた名義と一致しているか、表示された名義が誰なのかを、最後の確定操作をする前に確かめ、画面を撮影するなどして控えておくとよいでしょう。この控えは、後で相手を特定する手がかりにもなります。

口座の売買・名義貸しという問題

 詐欺などに使われる口座の中には、売買された口座や、名義を貸した口座が含まれていることが知られています。預貯金の通帳やキャッシュカードを他人になりすまして使う目的で譲り受けたり、正当な理由なく有償で譲り渡したりする行為は、犯罪による収益の移転防止に関する法律で処罰の対象とされており、2026年7月10日施行の改正で罰則が引き上げられました。名義人が請求の関係者と結びつかない口座については、こうした口座である可能性も視野に入れておく必要があります。口座を提供した側の責任については、「口座を売っただけ」「名義を貸しただけ」は軽いのかで解説しています。

振込先が変わる、手渡しへの切り替えを求められる

 「さっきの口座は使えなくなった」と別の個人名義の口座を示される、振込ではなく現金の持参や電子マネーでの支払いを求められる、といった場合は、一度立ち止まって経緯を整理したほうがよい場面です。支払期限を短く区切られたときの伝え方は、【風俗トラブル】支払期限を切られた|『今日中に』に応じないための伝え方で扱っています。

確かめたいこと④|払ったことが清算につながるか

合意書の当事者と振込先をそろえる

 示談書や合意書を作る場合は、合意の当事者(誰と誰の合意か)、支払う金額と名目、振込先の口座とその名義人を、同じ書面の中で対応させておくことが大切です。合意の当事者は店なのに、振込先は第三者の個人口座で、その関係が書面のどこにも書かれていない、という状態は避けたいところです。示談書に入れておきたい条項は、風俗トラブルの示談書に必ず入れる6条項|抜けると後で効かないで整理しています。

振込の記録だけでは足りない部分

 振込の明細には、日付、金額、振込先が残ります。しかし、「何のお金を、誰への支払いとして払ったのか」までは残りません。名目と受領の事実は、振込の記録とは別の書面で残しておくことが望ましいといえます。渡し方ごとの記録の残し方は示談金の渡し方|振込名義・領収・受領証で残すべきもので、領収書や受領書の作り方は【風俗トラブル】示談金の領収書・受領書をどう作るか|後日の否認に備えるで詳しく扱っています。

確認を求めたときの反応から見えてくること

 確認を求めたときの相手の反応も、状況を見極める材料になります。次のような反応が重なる場合は、支払いを急がず、第三者に相談することを考えてよい場面です。

  • 名義人が誰なのか、請求者とどういう関係なのかの説明を拒む。
  • 「今日中に振り込まなければ警察に行く」などと、確認の時間を与えない。
  • 店の公式の連絡先では、請求の事実を確認できない。
  • 合意書や受領書の作成に応じない。
  • 振込先の口座や名義が、やり取りのたびに変わる。


 いずれも、それだけで請求が不当だと決めつけられるものではありません。ただ、正当な請求であれば、誰にいくら払えば清算になるのかを説明することに、本来それほどの支障はないはずです。請求の性質の見分け方については、美人局と正当な慰謝料請求の見分け方|払う前に確認すべきことも参考になります。

すでに振り込んでしまった場合

まず記録を保存する

 振込の明細(振込先の金融機関、支店、口座番号、名義、日時、金額)、振込を指示されたメッセージ、相手の連絡先、店のサイトの表示などを保存します。後から相手のアカウントが削除されたり、サイトの表示が変わったりすることもあるため、早めに保存しておくと役立ちます。

振り込め詐欺救済法の仕組みと限界

 詐欺や恐喝など、人の財産を害する犯罪で振込が使われた場合には、金融機関がその口座について取引を停止し、口座に残っている資金を被害を受けた人に分配する仕組みがあります(振り込め詐欺救済法)。振込からの時間が短いほど、口座に資金が残っている可能性はあります。

 もっとも、取引を停止するかどうかは金融機関が判断し、分配されるのは口座に残っている金額の範囲に限られます。また、実際に何らかのトラブルがあり、それについての損害賠償として支払ったお金のように、犯罪による振込とはいえない場合には、この仕組みは使えません。金融機関や警察への連絡とあわせて、弁護士に事情を整理してもらうのが現実的です。

正当な請求への支払いだった場合

 振込先が個人名義でも、請求に根拠があり、受け取る権限のある人の口座だったのであれば、支払い自体は有効です。その場合に残る課題は、清算が済んだことを書面で確認できるかどうかです。支払った後に返金を求められるかという問題は払ってしまった示談金・違約金は取り戻せるか?返金請求の可否で、支払った相手が別人だったと分かった場合は【風俗トラブル】支払った後に相手が別人だと分かった|本人確認をしない示談の危うさで扱っています。

弁護士が間に入る場合の流れ

 弁護士が代理人になると、相手方に受任を通知し、以後の連絡を弁護士に一本化します。そのうえで、請求しているのが誰で、誰の損害についての請求なのかを確認し、受け取る権限を書面で示してもらってから合意書を作ります。支払いは、合意書の締結と引き換えに行うなど、払ったことを後から説明できる形を事案に応じて選びます。どの口座に払うかは、合意の内容が固まってから決める順番にすることで、払った後の食い違いを減らすことができます。振込先だけを告げられた事案の解決例として、【解決事例】風俗店から30万円を請求され振込先だけを告げられた男性が、合意書の締結と本人確認を条件に約1週間で解決した事例もご覧ください。

よくあるご質問

店に電話したら「その口座で合っている」と言われました。払ってよいでしょうか。

 店の関係者が口頭で認めたという事情は、確認の材料の一つになります。ただ、電話に出たのが誰だったのか、店としていくらを誰の分として受け取るのかは、口頭だけでは後に残りません。受け取る人の名前と内訳が書かれた書面を受け取ってから払うほうが、後の説明が容易になります。

名義がキャストの本名のようです。本人の口座なら問題ありませんか。

 本人の慰謝料を本人の口座に払うこと自体は自然です。ただ、本当に本人の口座なのか、店の分も含めた金額になっていないか、合意書に本人の署名があるかは、確かめておきたい点です。本人と直接会ったりやり取りを重ねたりすることには別の問題もあるため、確認の方法は慎重に選ぶ必要があります。

振り込むと、自分の名前が相手に伝わりますか。

 通常、振込をした人の名義は、受取人の通帳や入出金明細に表示されます。本名を相手に知られたくない場合の考え方は、本名を明かさずに示談できるか|代理人限りでの合意の可否で扱っています。

まとめ


  1. 振込先が個人名義であることだけで、請求が不当とは限らない。
  2. 確認の中心は、請求している人、受け取る権利のある人、口座の名義人がつながっているかどうか。
  3. 受け取る権限のない人への支払いは原則として支払ったことにならず、有効とされるのは落ち度がない場合などに限られる(民法478条・479条)。
  4. 内訳と受け取る権限は、口頭ではなく書面で確かめる。
  5. 振込の画面に表示された名義を控え、合意書の当事者・名目・振込先を対応させる。
  6. 振込の記録には名目が残らないため、受領の事実は別の書面で残す。
  7. 犯罪による振込であれば振り込め詐欺救済法の仕組みがあるが、取引の停止は金融機関の判断で、分配は残高の範囲に限られる。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。
振込先を指定されて支払うかどうか迷っている方も、すでに振り込んだ後で名義に不安を感じている方も、振込の画面やメッセージを手元に置いたうえでご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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