店員から暴行を受けた|被害届と損害賠償

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

料金や店のルールをめぐって言い争いになり、その流れで胸ぐらをつかまれた、突き飛ばされた、殴られた。性風俗店とのトラブルの相談のなかには、こうした場面が混ざっていることがあります。ただ、その時点で頭を占めているのは「支払をどうするか」であることが多く、自分が受けた暴行のほうは後回しになりがちです。

 この記事では、店員から有形力を向けられた側、つまり客が被害を受けた立場に立つ場面を扱います。取り上げるのは二つです。一つは警察に被害届を出すという刑事の入口、もう一つは相手に損害賠償を求めるという民事の入口です。この二つは同じ出来事から始まりますが、相手も進み方も別々です。

 なお、この記事は店とのやり取りを有利に運ぶための手引きではありません。自分の側にも思い当たることがある場合の扱いにも触れますが、支払を免れる方法を説明するものではない点を先にお断りしておきます。

この記事が想定している場面


  • 料金の説明をめぐって言い合いになり、店の事務所で胸ぐらをつかまれた。
  • 帰ろうとしたところで腕を強く引かれ、壁に押し当てられた。
  • 店を出た後、送迎の車内で同乗していた店員から殴られた。
  • 複数の店員に囲まれ、そのうちの一人に突き飛ばされて転倒した。


 どの場面にも共通しているのは、その場の中心が金銭の話であって、暴行そのものについて記録を残す余裕がなかったという点です。囲まれた状況で自分がとった言動が後にどう読まれるかについては別の記事で扱っていますので、ここでは有形力を受けた後にどう動くかに絞って整理します。

被害届と損害賠償は別々に動く

 一つの出来事から始まっていても、刑事の手続と民事の手続は別のものです。警察に被害届を出したからといって、治療費や慰謝料が自動的に支払われるわけではありません。逆に、相手と金銭の話がついたからといって、刑事の手続が当然に終わるとも限りません。まず、この二つを分けて考えるところから始めるのが整理しやすい進め方です。

比べる点被害届(刑事の手続)損害賠償(民事の手続)
入口警察への申告話し合い、書面での請求、調停や訴訟
相手国が相手方を処罰するかどうかを判断する手を出した本人や店に支払を求める
求めるもの捜査と処罰治療費や慰謝料などの金銭
自分の立場被害を申告した人請求する当事者
結果までの時間捜査の進み方によって見通しが立ちにくい相手が応じれば早く、争えば長くなる


片方の結果がもう片方を自動的に決めるわけではない

 刑事の手続で相手が起訴されなかったとしても、それだけで民事の請求ができなくなるわけではありません。処罰するかどうかの判断と、損害を金銭で埋め合わせるかどうかの判断は、見ている基準が違うからです。

 反対に、相手側から示談を持ちかけられ、金銭を受け取って「今後この件について何も求めない」という内容の書面に署名すると、刑事の手続にも影響が及ぶことがあります。どちらを先に動かすか、あるいは同時に進めるかは、受けた被害の内容と手元にある材料によって変わります。

「暴行」と「傷害」はどこで分かれるか

 手を出された場合、ケガという結果が生じたかどうかで扱いが変わります。押された、つかまれた、平手で叩かれたといった行為は、ケガに至っていなければ暴行として、ケガが生じていれば傷害として扱われるのが基本的な整理です。

 ここで実務上の分かれ目になりやすいのが、ケガがあったこと自体ではなく、ケガがあったと示せる記録が残っているかどうかです。診断書がない場合や、出来事から日数が空いてから作られた診断書しかない場合には、その日の行為からそのケガが生じたと説明しにくくなり、傷害ではなく暴行として扱われることがあるとされています。

目に見える傷がなくても受診する意味

 打撲や首の痛みは、当日はそれほど感じず、翌日以降に強くなることがあります。また、痣や腫れは数日で薄れていきます。その場では「大したことはない」と感じても、受診しておくことで、いつの時点でどのような症状があったかが記録として残ります。

診断書は民事の場面でも使う

 診断書は警察に出す資料としてだけでなく、後から治療費や慰謝料を求める際にも土台になります。刑事の手続に進むかどうかを決めかねている段階でも、受診と記録は先にしておいて差し支えのない部類の行動です。

その場でしておきたいこと


  1. 身の危険が続いていると感じるときは、その場で110番する。
  2. その場を離れられるなら、まず安全な場所まで距離を取る。
  3. 店名、ビル名、部屋の場所、時刻を書き留める。
  4. 手を出した人の外見や呼ばれ方など、後で特定につながる情報を覚えておく。
  5. その場で支払や示談の話をまとめない。


手を出し返すと立場が変わる

 押し返す、振りほどく、物をつかんで投げるといった行動は、身を守るための動きであっても、後から見れば双方が有形力を用いた場面として整理されることがあります。相手の行為が問題になっている場面で、自分の行為も同じテーブルに乗ってしまうと、話が一気に複雑になります。可能な範囲でその場を離れることを優先するほうが、後の手続では扱いやすくなります。

消えやすいものから順に押さえる

 暴行を受けたという事実は、時間の経過にとても弱い種類の事実です。体に残った痕は数日で薄れ、店内の映像は一定期間で上書きされていくことがあり、記憶も日ごとに輪郭を失います。どの順番で手をつけるかを決めるうえでは、消えるのが早いものから押さえるという考え方が実際的です。

時期押さえておくもの遅れると起きやすいこと
その日のうち痛みのある部位や傷の写真、着ていた衣類、時刻の記録痣や腫れが薄れ、後から撮り直せない
翌日ごろまで医療機関の受診と診断書日数が空くと、その日の行為とケガの結び付きを説明しにくくなる
数日以内警察への相談と申告店内や周辺の映像が上書きされることがある
その後相手を特定する手がかりの整理在籍や店舗の表示が変わり、たどりにくくなる


映像は自分では取り寄せにくい

 店内の防犯カメラの映像は、店側が管理しているものです。第三者からの求めに応じて開示する義務が当然にあるわけではなく、当事者が直接求めても応じてもらえないことのほうが多いのが実情です。捜査機関を通じて確認される流れになることが一般的ですので、映像に頼りたい事情があるときほど、警察への相談を先延ばしにしないという判断が意味を持ちます。

誰に請求できるのか


手を出した本人

 まず相手方になるのは、実際に有形力を用いた本人です。治療費や慰謝料といった損害の賠償を求める相手は、この人が基本になります。もっとも、源氏名や役職しか分からない場合が少なくなく、氏名や住所をどう特定するかが最初の課題になります。

店に請求できる場合

 従業員が仕事の場面で他人に損害を与えたときは、雇っている側も一緒に賠償の責任を負うことがあります。料金の請求や退店の対応といった、店の業務の流れのなかで起きた出来事であれば、店に対しても請求を検討する余地があります。相手本人に資力がない場合には、この点が実際上の意味を持ちます。

店に請求できるとは限らない事情

 一方で、店とスタッフの関係が雇用ではなく業務委託の形になっている例もあり、また、業務とは関係のない私的ないさかいと評価される場面もあります。派遣型で現場がホテルや自宅であった場合には、その場に店の管理が及んでいたかどうかも問題になります。店に請求できるかどうかは、店の説明だけで決まるものでも、一律に決まるものでもありません。

損害賠償として求められるもの

 損害賠償は、ひとまとまりの金額として決まっているものではなく、項目ごとに積み上げて考えます。

  • 治療費など、実際に支出した医療関係の費用。
  • 通院にかかった交通費。
  • ケガのために仕事を休んだことによる収入の減少。
  • 精神的な苦痛に対する慰謝料。
  • 壊された衣類や持ち物などの損害。


 それぞれの項目について、支出したこと、その支出がその出来事から生じたこと、内容として行き過ぎでないことを示す資料が必要になります。領収書、診断書、勤務先の記録などがこれにあたります。請求する額と、最終的に認められる額は別のもので、資料の裏づけがない部分は削られていくのが通常です。

 また、収入の減少を求める場合には、休んだ事実だけでなく、休む必要があったこと、一日あたりいくらであったかを示す必要があります。この部分は争いになりやすく、勤務先の証明や源泉徴収票などが手元にあるかどうかで進み方が変わります。

被害届を出すときに整えておくこと


  1. いつ、どこで、誰に、何をされたかを時系列に沿ってまとめる。
  2. 診断書と、撮影した写真を用意する。
  3. 相手を特定する手がかり(店名、呼ばれていた名前、役割、当日の予約記録)を整理する。
  4. 自分の側の事情についても、聞かれた範囲で落とさずに説明できるようにしておく。
  5. 連絡方法や連絡先について、希望があれば先に伝えておく。


 説明が長くなると、どこが犯罪にあたる部分なのかが伝わりにくくなります。経緯は簡潔にまとめ、有形力を受けた場面をはっきり区切って伝えるほうが、話が通りやすくなります。

「民事の話です」と言われた場合

 金銭のもめごとから始まった出来事では、窓口で民事の問題として整理されてしまうことがあります。この場合の考え方や出し直しの進め方は別の記事で扱っていますので、そちらを参照してください。ここでは、料金の当否から説明を始めると民事の枠に入りやすい、という点だけ触れておきます。

自分の側にも思い当たることがある場合

 店のルールに反する行為があった、支払を拒んでいた、こちらも強い言葉を使ったといった事情があると、被害を申告してよいのか迷うことがあります。

 まず、自分の側に落ち度があったとしても、それによって相手が有形力を用いてよいことになるわけではありません。両者は別々に判断されます。ただし、民事の場面では、自分の言動が損害の発生や拡大に関わっていると評価されると、賠償額が調整されることがあります。また、自分の行為が別に問題になる可能性も残ります。

 自分の側に説明しにくい事情があるときに、どの順序で誰にどこまで話すかについては、専門の記事で詳しく扱っています。相談の順序が変わることがある、という点だけここでは押さえておいてください。

しないほうがよい対応


  1. その場で押し返す、殴り返す。
  2. 後日、一人で店に行って抗議する。
  3. 店名や相手の情報をSNSや掲示板に書き込む。
  4. その場で口頭だけの約束をまとめる。
  5. 撮った写真や録音を編集したり、撮り直したりする。


 いずれも、自分の側の行為が新たな問題として持ち上がるおそれのある行動です。特に記録の加工は、たとえ見やすくする意図であっても、資料としての価値を下げてしまいます。撮ったものはそのまま残し、必要であれば別に複製を作るという扱いにしておくほうが安全です。

相手から先に示談を持ちかけられたとき

 店側から「今回の件はこれで」と金銭の提示を受けることがあります。この段階で署名を求められる書面には、今後この件について互いに何も求めないという趣旨の条項が入っていることが少なくありません。

 署名すると、後からケガの状態が悪化した場合や、別の損害が判明した場合でも、追加で求めることが難しくなります。提示された金額の当否だけでなく、書面の効力がどこまで及ぶかを確認してから判断する場面です。示談書の条項の見方については、別の記事にまとめています。

弁護士が入ると変わること


  1. 相手方や店とのやり取りの窓口を一本化し、直接の接触を減らせる。
  2. 相手の特定や、記録の取り寄せについて、取り得る手段を検討できる。
  3. 請求できる項目と、資料の不足している部分を切り分けられる。
  4. 刑事の申告と民事の請求のどちらから動かすかについて、見通しを立てやすくなる。


 もっとも、早く相談すればよい結果になると決まっているわけではありません。相手の資力や、その場に残った材料によっては、費用と手間に見合う回収が見込めないという結論になることもあります。その見込みも含めて早い段階で確認しておくことが、相談する意味の中心にあります。

まとめ


  • 被害届と損害賠償は別の手続で、片方の結果がもう片方を自動的に決めるわけではない。
  • ケガの結果が生じたかどうかで扱いが変わり、その判断は記録の有無に左右される。
  • 痛みが軽くても受診しておくと、症状と時期が記録として残る。
  • 体の痕、映像、記憶の順に消えていくため、消えやすいものから押さえる。
  • 請求先は手を出した本人だけとは限らず、店に及ぶ場面もあるが、一律には決まらない。
  • 損害賠償は項目ごとの積み上げで、請求額と認められる額は別のものになる。
  • 自分の側の落ち度があっても、相手の行為が当然に許されることにはならない。
  • その場での押し返し、単独での抗議、記録の加工は、後の手続で不利に働きやすい。


 当事務所では、風俗店とのトラブルに関するご相談を初回無料でお受けしています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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