「抜きあり」を期待した客が逮捕される3つのケースと回避策|弁護士が解説
「その場の雰囲気に流されて、店側に言われるまま示談金を払ってしまった」
「規約違反だと言われ、違約金をカードで決済してしまった」
メンズエステなどの利用中に、店側から高額な示談金や違約金を求められ、断り切れずに支払ってしまう方は少なくありません。支払いを終えて冷静になったとき、「あれは本当に払う必要があったのか」「もう取り戻せないのか」と不安になり、この記事にたどり着いた方も多いのではないでしょうか。
先に結論をお伝えします。いったん自分の意思で支払ったお金は、原則として取り戻すことができません。ただし、これはあくまで原則であって、一定の事情がある場合には返金請求が認められる余地があります。
返金の可否を分けるのは、大きく分けて次の2点です。
- なぜ払ったのか(そもそも支払う法的義務があったのか)
- どうやって払ったのか(現金・振込・クレジットカードのいずれか)
この記事では、すでに支払ってしまった示談金・違約金を取り戻せる可能性がどの程度あるのか、どのような場合に返金請求ができ、どのような場合に難しいのかを整理して解説します。
そもそも、その示談金・違約金に支払義務はあったのか
返金請求ができるかどうかを考える出発点は、「支払ったお金に、そもそも支払う法的義務があったのか」という点です。義務がないお金を支払っていた場合、それを取り戻せる可能性が出てきます。
「違約金」に支払義務が生じないケース
メンズエステなどでは、施術中の行為を理由に、店側から「規約違反だ」「誓約書に違反した」として違約金・罰金を請求されることがあります。
しかし、店が独自に定めた規約や誓約書に基づく違約金の請求が、そのまま法的に有効とは限りません。金額が不相当に高額であったり、そもそも請求の前提となる事実がなかったりする場合には、支払義務が認められないこともあります。
「示談金」を支払ったケース
示談金は、本来、当事者間で生じたトラブルを解決するために支払うお金です。実際に相手に損害を与え、その賠償として合意のうえで支払ったのであれば、それは有効な示談であり、あとから「やはり返してほしい」と主張するのは容易ではありません。
一方で、被害の実体がないにもかかわらず「被害届を出す」などと言われ、不安から支払ってしまった場合には、話が変わってきます。請求の根拠自体が乏しいお金であれば、返金請求の法的な足がかりになり得ます。
つまり、返金請求を検討するうえでの第一の分かれ目は、**「支払義務がなかったお金かどうか」**です。ここが認められて初めて、次に説明する法的手段が意味を持ってきます。
一度払ったお金を取り戻せる場合・取り戻せない場合
「支払義務がなかったお金だ」といえる場合でも、実際に返金が認められるかどうかは、その支払いに至った経緯によります。ここでは、返金請求の法的な枠組みを整理します。
原則:自分の意思で払ったお金は取り戻せない
法律の世界では、いったん自分の意思で(任意に)支払ったお金を後から取り戻すことは、原則として認められていません。「支払うと決めて払った以上、その判断には責任が伴う」という考え方が根底にあるためです。
したがって、「よく考えれば払う必要はなかった」というだけの理由では、返金は難しいのが実情です。返金が認められるのは、次に挙げるような例外的な事情がある場合に限られます。
例外1:だまされて・脅されて払った場合(取消し)
支払いの前提となる事実についてうそをつかれて(詐欺)、あるいは害を加えると告げられて(強迫)、その結果として支払ってしまった場合には、その意思表示を取り消すことができます(民法96条)。
たとえば、施術中の行為に問題がなかったにもかかわらず「これは犯罪だ、払わなければ通報する」と虚偽の説明で不安をあおられて支払った場合や、その場を離れられない状況で支払いを迫られた場合などが、これに当たり得ます。
取消しが認められれば、支払ったお金は「法律上の原因がないもの」となり、後述する不当利得としての返還を求めることができます。
例外2:支払う義務がなかった場合(不当利得の返還)
支払う法的な義務がなかったお金を受け取った相手は、法律上の正当な理由なく利益を得たことになります。これを不当利得といい、支払った側は返還を請求できます(民法703条、704条)。
前の項目で説明したとおり、店側に支払義務のない違約金・罰金だったといえる場合には、この不当利得返還請求が返金の根拠になり得ます。
例外3:あまりに不当な内容だった場合(公序良俗違反)
請求内容や合意の内容が、社会通念上とうてい容認できないほど不当・過大である場合には、その合意自体が無効と判断されることがあります(民法90条)。相場からかけ離れた法外な金額を、断りにくい状況で支払わされたようなケースが想定されます。
返金が難しくなる場合もある点に注意
一方で、正直にお伝えしておくべき限界もあります。
支払ったお金の性質が、違法な行為の対価そのものだと評価される場合には、その返還を法律上求めにくくなることがあります(不法原因給付、民法708条)。何のためのお金として支払ったのかによって、評価が変わり得るということです。
また、たとえ請求に応じる義務がなかったとしても、「だまされた」「脅された」という事情を裏づける証拠がなければ、実際の返還は容易ではありません。相手が「客が自分の意思で払った」と主張すれば、それを覆すだけの材料が必要になるためです。
このように、返金請求ができるかどうかは、支払いに至った経緯と、それを示す証拠の有無に大きく左右されます。
支払方法によって、取り戻せる可能性は大きく変わる
返金の可否を考えるうえで、法的な根拠と並んで重要なのが**「どうやって払ったか」**です。実務上、支払方法によって回収の難易度は大きく異なります。
現金で手渡した場合
現金をその場で手渡した場合は、残念ながら最も回収が難しい支払方法です。
理由は主に2つあります。
1つは、「渡した」「もらっていない」という水掛け論になりやすく、支払った事実そのものを証明しにくいこと。
もう1つは、相手方(店・従業員)の身元を特定できないと、そもそも請求先が定まらないことです。領収書や、支払いの経緯を示すやり取りの記録が残っていない場合、回収のハードルはさらに上がります。
銀行振込で支払った場合
振込で支払った場合は、振込先の口座情報が手がかりになるぶん、現金手渡しよりは対応の余地があります。口座名義から相手方を特定できる可能性があるほか、その口座が詐欺などに使われている疑いがある場合には、金融機関による口座凍結や、いわゆる振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)に基づく被害回復の枠組みを検討できることもあります。
ただし、これらの手続きが使えるかは事案によって異なり、必ず回収できるわけではありません。振込明細は必ず保管しておいてください。
返金請求を進めるときの基本的な流れ
実際に返金を求めていく場合、おおまかには次のような流れになります。
1. 支払った証拠を確保する
振込明細、カードの利用明細、領収書、店側とのやり取り(メール・SNS・録音)、サインさせられた誓約書や示談書の控えなど、支払いの事実と経緯を示すものをできる限り集めます。
2. 相手方・支払先を特定する
交渉や請求を行うには、相手が誰かを特定する必要があります。店舗の所在や口座名義などが手がかりになります。
3. 返金を求めて交渉する
相手方に対し、支払義務がなかったこと、または詐欺・強迫による支払いであったことを示して返金を求めます。内容証明郵便などの書面で意思表示を明確にする方法もあります。
4. 応じない場合は訴訟等を検討する
任意の交渉で応じない場合、訴訟等の手続で返還を求めることになります。判決などで返還が認められれば、その後の回収手続きに進めます。
ここで押さえておきたいのは、警察は原則として金銭トラブル(民事)には介入しないという点です。店側の行為が詐欺や恐喝に当たるとして刑事事件になる可能性はありますが、それによって払ったお金が自動的に戻ってくるわけではありません。返金そのものは、基本的に民事の問題として進める必要があります。
返金請求にあたって注意しておきたいこと
自分一人で店側に押しかけない
支払ったお金を取り戻したい一心で、直接店に連絡を取ったり出向いたりするのは避けたほうが賢明です。かえってトラブルが拡大したり、追加の請求や、身元を理由にした報復的な言動を受けたりするおそれがあります。免許証や名刺のコピーを取られている場合、その悪用を心配される方も少なくありません。
費用と回収見込みのバランスを冷静に見る
正直にお伝えすると、支払った金額が比較的少額の場合、返金請求にかかる手間や費用のほうが上回ってしまうこともあります。一方で、数十万円から数百万円といった高額の示談金・違約金を支払ってしまったケースでは、専門家が介入することで状況を立て直せる余地は十分にあります。
まずは、自分のケースで回収の見込みがどの程度あるのかを見極めることが大切です。
まとめ
- いったん自分の意思で支払った示談金・違約金は、原則として取り戻すことはできません。
- ただし、支払義務がなかった場合や、だまされた・脅されて支払った場合には、不当利得の返還請求や意思表示の取消しによって、返金が認められる余地があります。
- 返金の見込みは、支払方法によっても大きく変わります。現金手渡しは最も難しく、振込であれば回収の手がかりが残ることがあります。
- 返金は基本的に民事の問題であり、警察に届け出ても自動的にお金が戻るわけではありません。
「払ってしまったから、もう終わりだ」とあきらめる前に、支払いに至った経緯と支払方法を整理してみてください。ケースによっては、まだ取り得る手段が残っていることがあります。ご自身での判断が難しい場合は、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。


