「口座を売っただけ」「名義を貸しただけ」は軽いのか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

「口座を売っただけで、詐欺そのものには関わっていない」「名義を貸しただけだから、自分は周辺的な立場だ」。警察から連絡を受けた方や、そのご家族から、こうした言葉をうかがうことがあります。振り込みの指示を出したわけでも、現金を受け取りに行ったわけでもない。だから自分の関わりは軽いはずだ、という受け止め方です。

 この「だけ」という感覚そのものは、多くの場合、本人の実感として正確です。ただ、法律が見ている場所は少しずれています。そのうえ2026年7月10日、この分野の法定刑が引き上げられました。インターネット上に残っている解説の多くは、改正前の数字のままです。

 この記事では、口座や名義を渡す行為が法律上どう扱われるのか、2026年の改正で何が変わったのか、そして刑事手続とは別にどのような不利益が生じ得るのかを整理します。

「渡しただけ」という言葉が抜け落とすもの


 犯罪収益移転防止法(以下「犯収法」)が処罰の対象としているのは、その口座を使って行われた詐欺そのものではありません。口座やカード、口座を動かすための情報を不正に渡したこと自体です。

 つまり、渡した後にその口座で何が起きたかを本人が把握していなくても、渡す行為の時点で犯収法違反は問題になり得ます。「詐欺には関わっていない」という説明は、詐欺罪についての反論にはなり得ても、犯収法違反そのものを否定する説明にはなりにくい、ということです。

 そして詐欺の共犯にあたるかどうかは、そのうえに別の問題として重なってきます。「渡しただけ」という言葉は、この二層構造のうち上の層だけを指していることが多く、下の層がそのまま残ります。

2026年7月10日、法定刑が引き上げられた


 警察庁の公表資料によると、犯収法の改正法(令和8年法律第34号)は令和8年6月10日に公布され、預貯金通帳の不正譲渡等に対する罰則の引上げと「送金犯罪」に関する罰則の創設については、同年7月10日から施行されています。

 引上げの内容は次のとおりです。

行為の類型改正前2026年7月10日から
通帳・カード等を譲り渡す、譲り受ける1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金
業として(反復継続の意思で)行った場合3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金
譲り渡すよう勧誘・誘引する行為1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金
口座開設時に本人特定事項を偽る行為1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金


 いずれも、拘禁刑と罰金を併せて科すことが可能とされています。

検索して出てくる「1年以下・100万円以下」は改正前の数字


 この分野の解説記事は数多く公開されていますが、その大半は改正前に書かれたものです。「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」という記載を見かけた場合、それは2026年7月9日までの法定刑を指しています。

 あわせて、条文の番号自体も動いています。従来の第28条は第26条に、第27条は第25条に移動しました。「犯収法28条2項」という表記のある解説は、改正前の条文を前提にしたものだと考えて読む必要があります。

対象は通帳とキャッシュカードだけではない


 「口座売買」という言葉から連想されるのは通帳とキャッシュカードですが、条文が並べているのはそれだけではありません。渡したものによって、適用される条文が分かれています。

渡した・教えたもの規定している条文
預貯金通帳、キャッシュカード、暗証番号、ネットバンキングのIDとパスワード法26条
残高を移せるタイプの電子マネー(高額電子移転可能型前払式支払手段)のアカウント情報法27条
資金移動業者の送金・受取に使うカードや情報法28条
電子決済手段(いわゆるステーブルコイン)を扱うアカウントの情報法29条・法30条
暗号資産交換業者のアカウントのIDとパスワード法31条


 「銀行口座は渡していない」という説明が、そのまま安全側の結論に結びつくわけではない、ということです。決済アプリや暗号資産のアカウントを渡した場合も、別の条文が用意されています。

口座番号だけを伝えた場合


 一方で、対象が無制限に広がるわけでもありません。警察庁の施行通達は、法26条にいう「預貯金の引出し又は振込みに必要な情報」について、暗証番号やネットバンキングのIDとパスワードのように、口座内の資金を直接動かすために必要な情報を指すものと説明しています。

 そのうえで、口座番号については、通常は口座番号だけで口座内の財産を動かすことはできないため、基本的にはこれに当たらないと解されるとしています。振込先として口座番号を伝えただけ、という事案と、暗証番号やログイン情報まで渡した事案とは、条文上の位置づけが異なります。

「お金はもらっていない」で結論が変わる部分と、変わらない部分


 条文は、二つの経路を用意しています。

  • 他人になりすまして金融サービスの提供を受けること、またはそれを第三者にさせることを目的とした譲渡等。この場合、有償か無償かは問われません
  • 通常の商取引や金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で行った譲渡等


 「お金はもらっていない」「知り合いに貸しただけ」という説明は、二つ目の経路については意味を持ちます。しかし一つ目の経路は、対価の有無を要件にしていません。無償であったことが、それだけで結論を決めるわけではないということです。

「業として」と評価されると何が変わるのか


 同種の行為を反復継続する意思をもって行った場合は「業として」にあたるとされ、法定刑は5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金に引き上げられました。複数の金融機関で口座を作って渡した、期間をおいて何度か応じた、といった事情がここで検討されます。

 ここには、刑の重さ以外の効果もあります。警察庁の施行通達は、業として行った場合の拘禁刑の長期が4年を超えることになった結果、この罪が組織的犯罪処罰法にいう「長期四年以上の拘禁刑が定められている罪」に該当することとなり、その行為により得た財産や、報酬として得た財産が同法の「犯罪収益」に該当することになると説明しています。

 犯罪収益にあたる財産は、同法に基づく没収・追徴の対象となり得ます。受け取った報酬が手元に残る前提で考えていた場合、その前提自体が変わることになります。

犯収法違反だけで終わるとは限らない


 渡す行為の前後には、別の犯罪が問題になる場面があります。

  • 他人に渡す目的を隠して金融機関の窓口で口座を開設した場合、金融機関に対する詐欺罪が問題になり得ます
  • 渡した口座が実際に特殊詐欺などに使われた場合、詐欺の共犯として評価される可能性が検討されます
  • 口座に振り込まれた金を別の口座に送る行為をした場合は、2026年7月10日に新設された「送金犯罪」(法32条)の問題が別に生じます


 このうち詐欺の共犯については、口座を渡したという事実だけで自動的に成立するものではありません。何をどこまで認識していたか、どのような関与だったかが具体的に検討されます。逆に言えば、この点は説明の仕方によって結論が動き得る領域でもあります。

携帯電話の「名義貸し」は成立要件が違う


 「名義を貸した」という相談には、携帯電話やSIMカードの契約が含まれていることがあります。こちらは根拠となる法律が別で、要件も異なります。

 携帯電話不正利用防止法は、携帯電話事業者の承諾を得ずに、業として有償で通話可能な端末設備等を譲り渡す行為などについて、2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科可)を定めています。「業として有償で」が要件に入っているため、1回限りで無償の譲渡は、この条文にはあたりにくいと考えられます。

 ただし、自分で使う意思がないのに契約した場合には携帯電話会社に対する詐欺罪の問題が残りますし、後述するとおり、通信料金と端末代金の支払義務は契約者である本人に残ります。

刑事手続とは別に起きること


 処分の見通しとは別の軸で、生活面の不利益が生じます。

  • 口座が犯罪に利用されたと判断されると、金融機関によって取引が停止され、口座が凍結されます
  • 警察庁の広報資料では、他の金融機関でも口座の開設や利用ができなくなる場合があると案内されています
  • 被害者から、民事上の損害賠償を請求されることがあります
  • 携帯電話の名義貸しでは、自分が使っていない通信料金や端末代金の請求が名義人に届きます


 これらは刑事事件としての結論が出る前から動き始めることがあり、不起訴になった場合に自動的に元に戻るという性質のものでもありません。

「知らなかった」はどこまで通るのか


 ここは整理して考える必要があります。

 犯収法の条文が求めているのは、「その口座が詐欺に使われることの認識」ではありません。求められているのは、なりすまし目的についての認識か、正当な理由がないのに有償で渡したという事実です。したがって「詐欺に使われるとは思わなかった」という説明は、それ自体では犯収法違反の成立を否定する説明になりにくいものです。

 一方で、詐欺の共犯にあたるかどうかを判断する場面では、何をどこまで認識していたかが正面から問題になります。ここで意味を持つのは、「知らなかった」という一言ではなく、いつ、誰から、どのような説明を受け、どの時点で何を疑ったのかという経過です。

 やり取りの記録が残っていれば、その経過は言葉ではなく資料で示せます。逆に記録がないと、同じ内容を話しても、後から作った説明との区別がつきにくくなります。

いまの段階でできること


  1. 募集を見たページ、相手とのメッセージ、通話履歴、振込明細など、経過が分かるものを保存する
  2. 相手から記録を消すよう指示されても応じない。消えて困るのは自分の側です
  3. 金融機関から確認の連絡が来たとき、事実と異なる説明をしない
  4. 警察から連絡が来た場合、何をどう話すかを整理してから応じる
  5. 自分が何を渡し、何を渡していないのかを時系列で書き出しておく
  6. 早い段階で弁護士に相談する


 特に、渡したものの範囲を自分で正確に把握できていない方は少なくありません。通帳を渡したのか、カードだけなのか、暗証番号やログイン情報を伝えたのか、決済アプリのアカウントを渡したのか。ここまで見てきたとおり、この区別は適用される条文に直接関わります。

おわりに


 「口座を売っただけ」「名義を貸しただけ」という言葉は、本人の実感としては正確なことが多いものです。ただ法律が見ているのは、犯罪に使われる道具を提供したかどうかという点であり、2026年の改正はその評価を一段引き上げました。改正前の数字を前提にした情報が今も広く残っているため、実際より軽く見積もったまま時間が過ぎてしまうことがあります。

 同時に、経過をどう説明できるかによって見通しが動く余地は残っています。すでに口座が凍結されている、警察から連絡が来た、相手と連絡が取れなくなったという段階でも、その時点でできることはあります。当事務所では24時間体制で相談を受け付けており、初回のご相談は無料です。ひとりで抱え込まず、早い段階でご相談ください。

 なお、本記事は一般的な法令の説明であり、個別の事案の見通しを述べるものではありません。実際の処分は、事案の内容や経過によって異なります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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