キャストに金銭をだまし取られた|疑似恋愛と詐欺の境界
示談の話がまとまると、あとは払うだけだと感じる方が多いと思います。ただ、風俗店やキャストとのトラブルでは、金額が決まった後の「渡し方」が後日の争いにつながることがあります。払ったこと自体は事実でも、それを後から示せる形にしていなければ、同じ請求を受け直したり、支払の意味を別のものとして扱われたりする余地が残るからです。
この記事では、示談金を実際に渡す場面に絞って、振込と現金のどちらを選ぶか、振込人の名義をどうするか、領収書や受領証に何を書いてもらうかを、払う側の立場から整理します。
この記事で扱うこと・扱わないこと
示談金をめぐる論点は幅広いため、ここでは「渡す場面」だけを扱います。次の点は別の記事の範囲になります。
- 提示された金額が妥当かどうかの検討。
- 店とキャスト個人のどちらに払うのかという支払先の決め方。
- 分割払いの回数や期限といった合意書の条項の作り方。
- すでに警察から連絡が来ているなど、刑事手続が動いている状況での個別の判断。
本名を相手に知られたくないという相談も多いのですが、匿名で示談ができるかどうかは別の論点です。ここでは、支払の経路から何が伝わってしまうかという点にだけ触れます。
「渡し方」が後で問題になるのはなぜか
払ったことを説明するのは、払った側
支払をめぐって争いになったとき、「払っていない」と言う側ではなく、「払った」と言う側が、その事実を示すことになります。相手が受け取った記憶を否定したり、担当者が入れ替わって引き継がれていなかったりする場面は、実際に起きます。渡し方を決めるというのは、そのときに手元に何が残っているかを決めることです。
示談書は約束、領収は実行の記録
示談書は「これから払う」という約束を書いたものです。約束したことと、そのとおりに払ったことは別の事実で、示談書だけでは後者は証明できません。示談書と領収の記録は、片方があればよいものではなく、二つそろって一つの流れになります。
「何に対する支払か」が残らないと蒸し返しの入口になる
風俗トラブルでは、店の利用料金、店が主張する違約金、キャスト個人への慰謝料など、性質の違う請求が同時に並ぶことがあります。お金が動いた記録だけが残り、名目が残っていないと、後から「あれは別の分だった」と整理し直される余地が生まれます。金額と同じくらい、名目を残すことが効いてきます。
渡し方は大きく3つ
| 渡し方 | 手元に残るもの | 弱いところ |
|---|---|---|
| 現金を直接渡す | 相手が作成した領収書・受領証 | 書面をもらい損ねると記録が何も残らない |
| 銀行振込 | 振込明細、通帳やアプリの履歴 | 何に対する支払かは記録に残らない |
| 相手方代理人の預り金口座へ振込 | 振込明細と代理人名義の受領書 | 相手方に代理人がついている場合に限られる |
どれか一つが正解というわけではありません。相手に代理人弁護士がついているなら三つ目が整理しやすく、その場で解決したい事情があるなら一つ目になることもあります。大切なのは、選んだ方法の「弱いところ」を、別の書面で埋めておくことです。
銀行振込で払うときに決めておく4点
振込先の口座名義が相手と一致しているか
示談書に書かれた相手方が個人なのに、指定された口座が法人名や第三者の名義になっていることがあります。この場合、後で「本人には届いていない」と言われる余地が残ります。名義が一致しないときは、なぜその口座なのかを示談書か書面のやり取りに残しておくと、説明がつきやすくなります。受け取る権限のある人に払ったといえるかどうかは、事情によって判断が分かれるところです。
振込人の名義を誰にするか
振込明細に残るのは、依頼した口座の名義です。本人名義で振り込めば、相手には氏名が伝わります。反対に、家族の口座や別名義から振り込むと、誰が払ったのかが記録の上ではっきりしなくなります。他人が代わりに払うこと自体は法律上ありうる形ですが(民法474条)、後から「本人は払っていない」と主張される材料にもなり得ます。名義を分ける場合は、示談書側で誰の債務を消すための支払かを書いておくと整理できます。
いつまでに着金させるか
「◯月◯日までに支払う」と決めたとき、その日に振込操作をすれば足りるのか、その日に着金している必要があるのかで、締切は変わります。金融機関の営業日や時間帯によっては翌営業日の扱いになります。期限が刑事手続の予定と結びついている場合はとくに、着金日を基準に、数日の余裕をもって動くほうが安全です。
振込手数料をどちらが負担するか
手数料を差し引いて送金すると、着金額が合意額より少なくなります。金額としてはわずかでも、「全額の支払があったか」という形式の話に持ち込まれることがあります。負担者を決めていないときは、こちら側で手数料を負担し、合意額ちょうどが着金する形にしておくと余計な議論を避けられます。
現金で渡すときに欠かせないもの
受取証書は「お願い」ではなく、請求できるもの
領収書をもらいたいと言い出しにくい、と感じる方は少なくありません。ただ、民法は、支払をする人は支払と引き換えに受取証書の交付を請求できると定めています(民法486条1項)。「渡したら後で送ります」ではなく、その場で受け取ってよいものだ、という位置づけです。同条2項では、書面に代えて電子データでの受け取りを求めることもできるとされています(相手に不相当な負担となる場合を除きます)。
受け取る人に権限があるか
風俗トラブルでは、キャスト本人ではなく、店長や送迎の担当者が受け取り役になる場面があります。渡した相手に受け取る権限がなければ、本人との関係では支払が済んでいないと扱われる可能性があります。外観を信じたことが保護される場合もありますが(民法478条)、そのためには過失がなかったといえる事情が要ります。誰の代理として受け取るのかを、書面の上ではっきりさせておくことが実際的です。
書面はその場で完成させる
後日郵送しますという約束は、連絡が途切れるとそのままになりがちです。金額の欄が空いた紙を先に渡す、印だけ押した紙を受け取る、といった形も避けたほうがよいでしょう。渡す前に記載事項を埋め、内容を確認してから現金を出すという順番にすると、後戻りの必要がなくなります。
領収書・受領証に入れておきたい項目
名称は「領収書」でも「受領証」でも構いません。中身として、次の項目が入っているかを見ます。
- 受け取った日付。
- 金額(改ざんを避けるため、漢数字や三桁区切りで書かれていると読み違いが減ります)。
- 宛名として、支払った人の氏名。
- 但し書きとして、何に対する支払かの特定(示談書の作成日、対象となった出来事の日付や店舗名など)。
- 全額なのか、一部なのか。分割なら何回目か。
- 受け取った人の氏名と署名または押印。
- 本人以外が受け取る場合は、誰の代理として受け取ったのか。
このうち後半の三つが抜けている書面をよく見かけます。金額と日付だけの紙は、お金が動いたことは示せても、何の支払かを示せません。示談書の控えと一緒に保管して、二つを突き合わせれば説明がつく状態にしておきます。
収入印紙が貼られていなくても、慌てなくてよい
領収書に収入印紙が必要かどうかは、受け取る側の立場と金額で変わります。損害賠償金や示談金は、商品やサービスの代金とは区別され、記載金額が5万円以上でも定額の印紙で足りる区分に整理されています。さらに、営業に関しない受取書は非課税とされているため、事業をしていない個人が受け取る場合は印紙自体が不要です。
押さえておきたいのは、印紙を貼る義務は書面を作成する側、つまり受け取った側にあるという点です。印紙が貼られていないことで、領収書としての効力がなくなるわけでもありません。払う側が心配する項目ではない、と考えて差し支えありません。
分割で払う場合に増える作業
1回ごとに記録を残す
分割にすると、支払は一度きりの出来事ではなくなります。毎回の振込明細を残す、あるいは回ごとに受領証をもらうという作業が続きます。同じ相手に複数の名目の支払があるときは、どの分の入金かを書き添えておかないと、受け取る側の判断で別の債務に充てられることがあります。
払い終えたときに回収するもの
全額を払い終えたら、支払が完了したことを示す書面を1通もらっておきます。あわせて、その過程で相手に差し入れた誓約書や借用書のような書面があれば、原本を返してもらいます。民法は、全額を支払ったときは債権に関する証書の返還を請求できると定めています(民法487条)。原本が相手の手元に残ったままだと、後から使われる余地が残ります。なお、示談書そのものは合意の記録なので、自分の分は保管しておきます。
領収書をもらえないとき
相手が書面を出したがらない、その場では応じてもらえない、ということもあります。そのときの選択肢は次のようなものです。
- 現金ではなく振込に切り替えて、金融機関の記録を残す。
- 示談書の中に「本日、上記金額を受領した」という一文を入れて、署名押印をもらう。
- 支払った旨と内訳をメールや書面で相手に送り、送信した記録を残す。
- 相手が受け取り自体を拒む場合には、法務局に預ける供託という手続もあります(民法494条)。
二つ目は現金をその場で渡すときに使いやすい形で、書面が1通で済みます。四つ目は手続の負担があるため、実際に使う前に弁護士に確認したほうがよい選択肢です。
家族に知られたくない場合に見落としやすい点
記録は自分の側にも残る
振込を選ぶと、相手側だけでなく自分の通帳やアプリの履歴にも記録が残ります。共有の口座を使っている場合や、家計を家族が管理している場合には、振込先の名義がそのまま目に入ることがあります。相手が店の法人名義であれば、店名が履歴に並びます。
家族の口座から振り込むこと
資金を家族から出してもらう場合、家族名義のまま振り込むと、事情の説明が必要になることがあります。名義を分ける判断は、証拠の残し方と秘密の保ち方が逆を向く場面です。どちらを優先するかは、何を一番避けたいのかによって変わります。
まとまった現金を用意した記録
現金で渡す場合でも、その現金を用意した過程には記録が残ります。出金の履歴、借入の履歴、カードの利用明細などです。現金渡しは記録が残らない方法だと考えると、想定と違う結果になることがあります。
受け取った書類をどう保管するか
領収書や受領証は、原本をそのまま保管し、あわせて撮影したデータを別の場所にも置いておくと、紛失に備えられます。紙は紛失や汚損があり、スマートフォンだけに入れておくと機種変更や故障で失われます。示談書の控え、領収書、振込明細を一つのまとまりとして保管すると、後から探す手間が減ります。
保管期間の目安は事案によって変わります。金銭の支払を求める権利は一定期間で時効にかかりますが、その期間は事情によって異なるため、少なくとも数年単位で残しておくという考え方が現実的です。解決したから捨ててよい、と早い段階で判断しないほうがよいでしょう。
避けたほうがよい渡し方
相談を受けるなかで、後で困りやすいと感じる形をまとめます。
- 書面を作らないまま、その場で全額を現金で渡してしまう。
- 相手が指定した個人間送金アプリだけで済ませ、名目が何も残らない状態にする。
- 受け取る権限を確認しないまま、居合わせた従業員に渡す。
- 金額欄や日付欄が空白の領収書を受け取る。
- 相手の言うままに但し書きの名目を変えてしまい、示談書の内容とずれた記載になる。
いずれも、その場では話が早く進むように見える点が共通しています。渡す直前は早く終わらせたい気持ちが強くなる場面なので、書面の確認だけは急がないと決めておくと判断がぶれにくくなります。
よくある質問
電子マネーやQRコード決済で払ってもよいですか
記録自体は残りますが、アカウント名が本人と一致しているか確認しにくく、名目も残りません。送金の上限や取消しの扱いもサービスごとに異なります。指定された場合でも、別途、受領証を書面でもらうことを組み合わせるほうが安全です。
領収書に押印がなくても有効ですか
押印は効力の要件ではありません。ただし、後になって「自分が書いたものではない」と言われたときの証拠としての強さは、署名や押印があるかどうかで変わります。手書きの署名を入れてもらえると、より確かなものになります。
宛名を源氏名や「上様」にしてもらえますか
誰が払ったのかを示すための書面なので、宛名が特定できないと役割を果たしにくくなります。氏名を出したくない事情がある場合は、代理人を立てて代理人名義で受け渡しをする形など、別の方法で調整するほうが筋が通ります。
振込明細だけで足りますか
金額と日付、相手の口座名義は残るので、支払があったこと自体は示せます。示談書に振込先と金額が特定して書かれていれば、二つを合わせて説明できます。逆に、示談書側の記載があいまいなときは、明細だけでは名目まで示せません。
弁護士に依頼した場合の流れ
弁護士に依頼すると、支払の窓口も代理人を通す形になります。相手方にも代理人がついていれば、代理人の預り金口座を経由して送金し、代理人名義の受領書を受け取るという流れが取りやすくなります。この形だと、金額と名目、受領の事実が一つの書面で整理され、本人同士が現金を直接やり取りする場面も減ります。
また、示談書の条項と支払の方法がずれていないか、受け取る側に権限があるか、といった確認は、渡してしまう前でなければ意味を持ちません。金額の話がまとまった段階で一度相談しておくと、渡し方の設計まで含めて組み立てられます。
まとめ
- 支払をめぐって争いになったとき、払った事実を説明するのは払った側になります。
- 示談書は約束の記録、領収書や受領証は実行の記録で、二つそろって意味を持ちます。
- 渡し方は現金、振込、相手方代理人の口座経由の三つが基本で、それぞれ弱いところが違います。
- 振込では、口座名義の一致、振込人の名義、着金日、手数料の負担を先に決めておきます。
- 現金の場合、受取証書は支払と引き換えに請求できるものとされています(民法486条1項)。
- 領収書には、日付、金額、宛名、但し書き、全額か一部か、受領者の署名を入れてもらいます。
- 収入印紙は受け取る側の問題で、貼られていなくても領収書の効力には影響しません。
- 分割なら1回ごとの記録を残し、完済時には支払完了の書面と、差し入れた書面の原本を回収します。
金額が決まった後の場面でも、進め方に迷う点があれば、渡してしまう前の段階で弁護士にご相談ください。


