風俗嬢に貸したお金が返ってこない|個人間の債権回収の進め方
風俗店で知り合った女性と店外で会った、あるいはサービス中のことを理由に、後から「慰謝料を払え」と求められる。こうしたご相談は少なくありません。
このとき多くの方が最初に考えるのは「これは美人局ではないか」ということです。ただ、その場で結論を出すのは簡単ではありません。美人局と正当な慰謝料請求は、初期の見え方が似ていることがあるからです。
この記事では、請求を受けた側が「払う前」に何を確認すればよいのかを整理します。
判断を誤る方向は、実は二つある
美人局について解説した記事の多くは「美人局は犯罪だから払う必要はない」という一方向の説明になっています。それ自体は間違いではありませんが、実務で問題になる誤りは二方向あります。
誤り①:恐喝的な要求を、正当な請求だと思い込んで払ってしまう
「家族に知られたくない」「自分にも落ち度がある」という気持ちから、根拠を確かめないまま支払ってしまうケースです。一度支払うと「支払う人だ」と認識され、数か月後に追加の要求が来ることも珍しくありません。
誤り②:法的根拠のある請求を、美人局だと決めつけて突っぱねてしまう
こちらは見落とされがちです。裁判例の中には、不貞行為を理由に慰謝料を請求された男性が「夫婦が結託した美人局だ」と主張したものの、結託を裏づける証拠がないとして主張が退けられ、慰謝料と弁護士費用の支払いを命じられたものもあります。「罠にはめられた」という思い込みだけで強い態度に出ると、後の交渉や裁判で不利にはたらくおそれがあります。
つまり必要なのは、払うか払わないかを直感で決めることではなく、請求の中身を分解して確かめることです。
まず、請求を三つに分解する
確認すべきポイントは次の三つに整理できます。
①誰が請求しているのか
被害を受けたとされる本人か、配偶者・交際相手を名乗る第三者か、店舗か、代理人の弁護士か。名乗っている立場と実際の立場が一致しているかどうかは、最初に確認すべき点です。
②何を法的根拠としているのか
不貞行為に基づく慰謝料なのか、サービス範囲外の行為による被害の賠償なのか、店との契約に基づく違約金なのか。「誠意を見せろ」「迷惑料だ」といった表現は、法的根拠を示していません。
③どういう手段で求めているのか
期限を切って現金を求めているか、書面でのやり取りに応じるか。ここが恐喝罪・脅迫罪に関わる部分です。
この三つのうち、②の法的根拠が説明できない請求ほど、美人局を含む不当要求の可能性が高まります。
美人局の疑いが強まる七つのサイン
請求の内容そのものから読み取れる特徴です。一つ当てはまれば直ちに美人局というわけではなく、複数が重なるほど疑いが強まる、という見方をしてください。
- 名目が法的根拠を示していない……「口止め料」「誠意」「迷惑料」など、どの権利に基づく請求なのかが説明されない。
- その場・現金・即時を強く求める……ATMへの同行を促す、振込先だけを伝えてくる、考える時間を与えない。
- 自分の立場を裏づける資料を出さない……配偶者だと主張しながら婚姻関係を示すものを見せない、在籍している店舗名を明かさない。
- 「警察」「家族」「会社」が金額とセットで出てくる……被害を訴えること自体は自由ですが、それを金銭要求の材料として持ち出す形になっているかどうかが分かれ目です。
- 出会いから請求までの経緯に食い違いがある……当日は既婚であることに触れていなかった、年齢の説明が変わった、店外で会うよう誘導されていた、など。
- 書面を残したがらない、または内容を読ませない……示談書や領収書の作成を避ける、その場で署名だけを求める。
- 一度支払っても終わらない……「これで最後」と言われた後に別名目の請求が続く。
逆に、正当な請求でありうる四つのサイン
次のような特徴がある場合、美人局だと決めつけて無視するのは危険です。
- 請求者が被害を受けた本人で、サービス範囲外の行為が問題になっている……お触りや本番の強要など、実際に行為があった場合は、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪という刑事の問題と、慰謝料という民事の問題が同時に生じ得ます。この場合の請求は法的根拠を持ちます。
- 弁護士名の書面で、事実経過・法的根拠・金額の考え方が示されている……ただし弁護士名の書面が届いたからといって、記載された金額をそのまま支払う義務が確定するわけではありません。
- 婚姻関係や交際の実態を裏づける資料が示されている
- 金額が実務上の水準の範囲に収まっている……極端に高額な要求は、根拠が薄いことの表れである場合があります。
風俗利用の場面に特有の三つの確認点
ここからは、性風俗の利用という文脈に固有の論点です。
(1)店内のサービスを理由とした「夫からの不貞慰謝料請求」は成立のハードルが高い
風俗店での性的サービスも、内容によっては不貞行為にあたり得るとされています。一方で、この種の請求では**「相手が既婚者であることを知っていたか、知り得たか」の立証が壁**になります。
裁判例の考え方として、風俗店では客が既婚者かどうかを確認することが予定されていないため、客の側の故意・過失の立証は難しいと整理されています。これは客の配偶者がキャストに請求する場面で語られることの多い理屈ですが、**その裏返しとして、キャストの配偶者を名乗る人物が客に請求する場面でも同様の問題が生じます。**店内でのサービスに限られる関係であれば、客の側に「既婚者と知りながら関係を持った」という評価を加えるのは、通常は容易ではありません。
したがって、店内サービスだけを理由に高額な不貞慰謝料を求められている場合は、根拠を確かめる必要性が高いといえます。反対に、店外で継続的に会っていた場合は、事情が変わり得ます。
(2)「警察に行く」がどこまで現実的かを冷静に見る
成人同士であれば、売春・買春という行為そのものに客を処罰する規定は置かれていません(処罰の対象は勧誘・周旋・場所の提供などです)。「警察に通報する」という言葉が、必ずしも客側の処罰に直結するわけではない、ということです。
ただし、これには重要な例外があります。相手が18歳未満であった場合や、同意のない性的行為があったとされる場合は、まったく別の問題として扱われます。自己判断で「どうせ立件されない」と決めつけるのは適切ではなく、心当たりがある場合ほど早く弁護士に事実関係を伝えることをおすすめします。
(3)店からの「罰金」は刑罰ではない
店が提示する「罰金」は、刑罰ではなく違約金の俗称です。私人が刑罰を科すことはできません。契約や誓約書の内容、金額の相当性によって支払義務の有無が変わるため、金額の妥当性を論じる前に、そもそも支払義務があるかを確認する順序になります。
払う前にやっておきたい五つのこと
- その場で即答・即払い・署名をしない……身の安全の確保が最優先で、その場で争う必要はありません。「持ち帰って確認します」で足ります。
- やり取りを消さずに残す……LINE、通話履歴、振込記録、示談書の写真。恥ずかしさから消してしまう方が多いのですが、後から根拠を検証する材料がなくなります。
- 請求の根拠を書面で示すよう求める……ただし自分で交渉を続けると、感情的なやり取りが証拠として残るリスクがあります。窓口は早めに一本化するのが安全です。
- 心当たりのある事実は、弁護士には正直に伝える……不利な事実を伏せたまま「美人局だ」と主張すると、後から前提が崩れます。
- 相手に新たな情報を渡さない……勤務先、家族構成、自宅住所。これらは次の要求の材料になります。
相手の行為が犯罪にあたり得る場合
金銭要求の手段によっては、次のような犯罪が成立し得ます。
- 恐喝罪(刑法249条)……害悪を告知して畏怖させ、金銭を交付させる行為。10年以下の拘禁刑。未遂も処罰されます。
- 脅迫罪(刑法222条)……金銭要求を伴わなくても、「家族にバラす」といった害悪の告知自体が問題になり得ます。2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。
- 強要罪(刑法223条)……脅して義務のないことを行わせる行為。3年以下の拘禁刑。
- 詐欺罪(刑法246条)……成人であるのに未成年だと偽るなど、虚偽の事実を告げて金銭を交付させる行為。10年以下の拘禁刑。
また、脅されて支払ってしまった場合でも、民法96条により強迫を理由として意思表示を取り消せる余地があります。もっとも、相手の特定や回収可能性という現実的な壁があるため、払う前に相談したほうが、選べる手段は多くなります。
まとめ
美人局か、正当な慰謝料請求か。この見極めは、当事者が一人で行うには情報が偏りがちです。相手は「払わなければ大変なことになる」と伝えてきますし、こちらには後ろめたさがあります。
確認すべきなのは、誰が、どの法的根拠で、どういう手段で求めているのかという三点です。根拠が説明できない請求に応じる義務はありませんし、逆に根拠のある請求を無視することにもリスクがあります。どちらであっても、その場で結論を出さずに持ち帰ることが、選択肢を残すことにつながります。


