【解決事例】 出張先での盗撮トラブル|示談後に届いた追加請求への対応事例
本記事は、2026年9月29日時点で公表されている法令と、こども家庭庁の「こども性暴力防止法施行ガイドライン」および「こども性暴力防止法に関するQ&A」(令和8年4月)をもとに作成しています。日本版DBSは2026年12月25日に施行される制度のため、運用の細部は今後変わることがあります。
「学校に知らせれば、日本版DBSで教員を続けられなくなる」。店のスタッフからそう告げられ、提示された金額をその場で支払うべきか迷っている、というご相談をいただくことがあります。保育の仕事をしている方からは、「12月25日の施行までに示談を終えないと、記録に残ってしまうのではないか」と、急いだご様子で連絡をいただくこともあります。
日本版DBSが、子どもと接する一部の仕事について、性犯罪の前科の有無を国を通じて確認する仕組みだという説明は、それ自体は正しいものです。ただ、風俗トラブルの交渉の場では、制度の名前だけが先に立ち、誰と、何について、いくらで合意するのかという判断が、不安に押されて後回しになりがちです。
本記事では、日本版DBSが風俗トラブルの示談交渉や刑事手続への向き合い方にどう影響するのかに絞って整理します。どの行為が確認の対象になり得るかという線引きは日本版DBSで何が変わるのか|性犯罪歴の確認が始まる職種と風俗トラブルの接点で、不起訴で終わった場合の扱いは不起訴ならDBSに記録されないのか|こども性暴力防止法で扱っています。
日本版DBSが風俗トラブルに及ぶ経路は一つだけ
影響するのは刑事手続の最終的な結果
日本版DBSで照合されるのは、法律が「特定性犯罪」として定めた罪について、拘禁刑または罰金の裁判が確定した記録です(こども性暴力防止法2条7項・8項、34条)。キャストへの無断の接触や同意のない行為、隠し撮り、相手が18歳未満だった場合などは特定性犯罪に当たり得ますが、それが確認の対象として現れるのは、刑事事件となり、有罪の裁判が確定したときに限られます。風俗トラブルが日本版DBSにつながる経路は、刑事手続の結果という一本だけと考えると、交渉の場で何を優先すべきかが見えやすくなります。対象になる罪の範囲は、【日本版DBS】確認される『特定性犯罪』の範囲|対象になる罪・ならない罪で詳しく説明しています。
店への支払いや示談書だけでは記録は作られない
店との金銭の交渉、念書や示談書へのサイン、店が「罰金」や「違約金」と呼ぶ金額の支払いは、いずれも民事上のやり取りです。支払ったから記録が作られる、支払わなかったから記録が作られる、という関係にはありません。犯罪事実確認を申請できるのは、学校設置者や国の認定を受けた事業者などに限られ(同法33条)、店が情報を登録したり照会したりする仕組みもありません。
12月25日の前後で扱いは変わらない
確認の対象となる期間は、裁判が確定した日や刑の執行を終えた日などから数えます。そのため、施行日より前に確定した裁判でも、期間内であれば確認の対象になります。改正前の懲役の判決も、拘禁刑の判決とみなされます(同法附則3条)。反対に、施行前に店との交渉がまとまったとしても、それだけで刑事手続が終わるわけではありません。「施行前に払えば記録に残らない」「施行前の出来事だから関係ない」という説明は、いずれも制度の仕組みとは合わず、施行日を区切りに急いで合意する理由は、制度の側にはないといえます。
交渉の場で持ち出されやすい言葉と受け止め方
よく聞かれる言葉と制度上の実際
風俗トラブルの交渉で日本版DBSが話題にのぼる場面では、次のような言葉が使われることがあります。
| 持ち出される言葉 | 制度上の実際 | 気をつけたい点 |
|---|---|---|
| 「学校に知らせればDBSで終わりだ」 | DBSは事業者の申請を受けて国が照合する仕組みで、店からの連絡によって記録が作られることはない | 勤務先への連絡そのものは、DBSとは別の問題として対応が必要 |
| 「DBSに登録しておく」 | 店や個人が情報を登録・照会できる仕組みはない | 仕事への不安を材料に金銭を求める言動は、恐喝の問題になり得る |
| 「施行前に払えば記録に残らない」 | 照合されるのは有罪が確定した裁判で、支払いの時期とは関係しない | 期限を区切った支払いの求めには、その場で応じない |
| 「払わなければ被害届を出す」 | 被害届を出すこと自体は、被害を受けた方の権利 | 権利の告知と、根拠のない金額の要求とを分けて考える |
「学校に知らせる」と言われたとき
勤務先に直接連絡が入れば、DBSとは関係なく、職場で事情の説明を求められる可能性はあります。ただ、正当な請求の範囲を超える金銭を得る目的で勤務先への連絡をほのめかす言動は、恐喝(刑法249条)の問題になり得ます。DBSという言葉が出てきても、その場で金額を決める理由にはなりません。告げられた内容ごとの違法性は「家族と職場にバラす」と言われた|告知の中身別に見る違法性で、店の請求が恐喝に変わる線は店の請求が恐喝に変わる線引き|正当な権利行使との境界で整理しています。
職業を自分から伝えるかどうか
交渉の途中で、仕事への影響を心配するあまり、自分から職業や勤務先を話してしまう方がいます。職業が相手に伝わると、それを材料に請求額を引き上げられたり、勤務先への連絡をほのめかされたりするきっかけになりかねません。事実と異なることを伝える必要はありませんが、交渉に必要のない情報まで自分から伝えることは控えたいところです。本名や勤務先を明かさずに進める方法とその限界は、本名を明かさずに示談できるか|代理人限りでの合意の可否をご覧ください。
日本版DBSを踏まえて示談の中身を考える
示談の相手が誰なのかを確かめる
隠し撮りや同意のない接触が問題になっている場合、刑事手続の上で被害を受けたのはキャスト本人です。店にお金を支払っても、キャスト本人との示談が成立したことにはならず、本人が被害届を出す可能性は残ります。日本版DBSとの関係で意味を持つのは、刑事手続上の被害者との合意です。店が「キャストの分もまとめて」と言う場合でも、本人の意思が書面で確認できるかどうかを見ておく必要があります。店がキャストに代わって交渉することの問題は、店がキャストに代わって示談交渉をしてよいのか|非弁行為という視点で扱っています。
刑事手続との関係で意味を持つ条項
示談書のなかで刑事処分の判断に関わるのは、主に次の条項です。
- 被害を受けた方が、行為者を許す意思を示す宥恕の条項。
- 被害届を出さない、または出した被害届を取り下げる旨の条項。
- 今回の件について、これ以上の請求をしないことを確認する清算の条項。
もっとも、不同意わいせつ罪や撮影罪は告訴がなくても起訴できる罪で、宥恕や被害届の取下げがあっても、検察官がそれに従わなければならないわけではありません。示談は、処分を判断する際の事情の一つにとどまります。この点は示談が成立しても処分が残る場合|示談=不起訴ではない理由で、条項の書き方は風俗トラブルの示談書に必ず入れる6条項|抜けると後で効かないで説明しています。
金額は、DBSへの不安とは切り離して検証する
「前科がつけば仕事を失うのだから、この金額なら安いはずだ」という形で、日本版DBSを理由に上乗せされた金額を提示されることがあります。示談金の水準は、行為の内容や被害の程度、同種の事案での解決の幅などから検討するもので、請求を受けた側の職業によって決まるものではありません。提示額の検証の仕方は、示談金の水準をどう判断するか|提示額を検証する4つの視点をご覧ください。
すでに刑事手続が動いている場合の判断
事実に沿って説明することが前提になる
日本版DBSの導入により、罰金で終わる事件でも一定期間は確認の対象になることから、刑事事件を扱う法律事務所の解説でも、事実を認めるか争うかの判断をこれまで以上に慎重に考える必要があると指摘されています。ただ、仕事を守りたい気持ちから事実と異なる説明をすると、かえって不利な結果を招くおそれがあります。していないことを認める必要はなく、あったことを否定すべきでもありません。どこまでが事実で、どこに争いがあるのかを整理したうえで、見通しを踏まえて方針を決めることが大切です。身に覚えのない疑いをかけられている場合は、やっていないのに本番・わいせつを疑われた|冤罪事件の戦い方も参考になります。
略式手続を打診されたとき
撮影罪や迷惑防止条例違反などでは、正式な裁判を開かずに書面の審理で罰金を科す略式手続がとられることがあります。法廷に立たずに終わっても、略式命令は確定すれば有罪の裁判であり、特定性犯罪であれば、罰金を納めた日などから10年は確認の対象になります。略式命令の告知から14日以内であれば正式裁判を請求できます(刑事訴訟法465条1項)が、どちらを選ぶかは証拠の状況や見通しによって変わります。「罰金なら軽く済む」と考えて手続を進める前に、日本版DBSとの関係を含めて説明を受けておくことが大切です。
勤め先で確認を受けるときの流れ
特定性犯罪で有罪が確定し、確認の期間内にある場合、勤め先の申請による照合で該当すると判明すると、事業者に確認書が交付される前に本人へ通知が届きます(こども性暴力防止法35条5項)。通知から2週間以内であれば内容の訂正を求めることができ、この期間中に内定を辞退するなどした場合には、事業者に確認書は交付されない扱いとされています。確認書に記載されるのは、該当するかどうかと、該当する場合の区分および裁判の確定日で、罪名や事件の内容は記載されません(同法35条4項)。すでにその職に就いている方の扱いは、【日本版DBS】現在その職に就いている人はどうなるのか|施行後の扱いで整理しています。
よくあるご質問
店に支払いを済ませれば、日本版DBSとは関係がなくなりますか
店への支払いによって、日本版DBSとの関係が決まるわけではありません。関係するのは、刑事事件となり、特定性犯罪で有罪が確定した場合です。一方で、刑事手続上の被害者であるキャスト本人との示談が成立していれば、処分を判断する際の事情として考慮されます。支払いの相手と被害を受けた方が一致しているかを確かめることが大切です。
トラブルの相手が自分の勤め先を知っています。どうすればよいですか
勤め先への連絡をほのめかされている場合は、日本版DBSとは別の問題として対応を考えます。やり取りの記録を残し、要求された金額や期限をその場で受け入れないことが出発点です。弁護士が代理人として連絡の窓口になることで、直接のやり取りを止められる場合もあります。対応の考え方は、「金を払わなければ通報する」と脅されたら|風俗トラブルにおける恐喝罪への対処法もご覧ください。
日本版DBS以外に、勤め先に事件が伝わる経路はありますか
日本版DBSは、特定性犯罪で有罪が確定した記録を照合する仕組みで、逮捕や捜査の経歴そのものは確認書に記載されません。ただ、相手からの連絡や報道、勤務の欠勤など、制度とは別の経路で事実が知られることはあり得ます。経路ごとの違いは勤務先に伝わる経路|通知制度と事実上の伝達を分けるで、職場での処分との関係は風俗トラブルが原因の失職・懲戒|会社にバレる典型ルートと防止策で説明しています。
まとめ
- 日本版DBSで照合されるのは、特定性犯罪で拘禁刑または罰金の裁判が確定した記録です(こども性暴力防止法2条7項・8項、34条)。
- 店への支払いや示談書へのサインは民事上のやり取りで、それだけで記録が作られることはなく、店が登録や照会をする仕組みもありません(同法33条)。
- 施行日の前後で扱いは変わらず、施行前に確定した裁判も期間内であれば確認の対象になります(同法2条8項、附則3条)。
- 「学校に知らせる」「DBSに載せる」といった言葉を理由に金額を決める必要はなく、過大な要求は恐喝の問題になり得ます(刑法249条)。
- 刑事手続の上で被害を受けたのはキャスト本人であり、店への支払いが本人との示談を意味するとは限りません。
- 略式命令による罰金も確定すれば確認の対象となり、告知から14日以内であれば正式裁判を請求できます(刑事訴訟法465条1項)。
- 該当が判明した場合は、事業者に確認書が交付される前に本人へ通知され、2週間以内に訂正を求めるなどの機会があります(こども性暴力防止法35条5項)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。日本版DBSとの関係が気になる場面でも、まずはいま起きていることが店との金銭の問題なのか、刑事手続に関わる問題なのかを整理するところから始めます。
店やキャストから請求を受けて支払いを迫られている方も、すでに警察から連絡を受けて処分の見通しを知りたい方も、合意や署名をする前の段階でご相談ください。


