不起訴ならDBSに記録されないのか|こども性暴力防止法

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

本記事は、2026年12月25日に施行される「こども性暴力防止法」(いわゆる日本版DBS)について、2026年9月時点でこども家庭庁が公表している法律・ガイドライン・Q&Aをもとに作成しています。施行までの間に、運用の細部が補足される場合があります。


性犯罪の疑いで捜査を受け、不起訴になった。あるいは、いままさに処分を待っている。そうした方から「日本版DBSに記録が残り、こどもに関わる仕事に就けなくなるのではないか」というご相談をいただくことがあります。

 結論を先にお伝えすると、現行の法律では、不起訴で終わった事件は日本版DBSで「該当者」として扱われません。ただ、この一文だけでは見落としやすい点があります。DBSは記録を積み上げる名簿ではなく、確定した有罪判決の記録と照らし合わせる仕組みであること。不起訴と略式の罰金とでは扱いが分かれること。そして、不起訴でもDBSの外で動く仕組みがあることです。本記事では「記録」という言葉を分けて整理しながら、この関係を確認します。

現行法では、不起訴は「特定性犯罪事実該当者」に当たらない

 日本版DBSは通称で、法律上の手続名は「犯罪事実確認」です。学校や認可保育所、国の認定を受けた学習塾などの事業者が、こどもと接する業務に就く人について、こども家庭庁を通じて性犯罪の前科の有無を確認します。確認の対象となる「特定性犯罪事実該当者」は、次のように定められています(こども性暴力防止法2条8項)。

  • 特定性犯罪で拘禁刑の実刑が確定した人は、刑の執行を終えた日などから20年。
  • 特定性犯罪で拘禁刑の執行猶予付き判決が確定した人は、裁判が確定した日から10年。
  • 特定性犯罪で罰金が確定した人は、刑の執行を終えた日などから10年。


 いずれも「裁判が確定した」ことが出発点です。不起訴は、検察官が事件を裁判にかけないと判断する処分ですから、確定した裁判そのものがありません。こども家庭庁のQ&Aも、不起訴や示談になった人は刑事裁判による事実認定を受けていないため該当者に当たらない、と説明しています。嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予のどの区分で終わっても、扱いは同じです。

DBSは「登録していく名簿」ではなく「照合する仕組み」

 事業者から申請を受けたこども家庭庁は、本人の氏名・生年月日・本籍などの情報を法務大臣に提供します。法務大臣は、特定性犯罪の事件のうち拘禁刑または罰金の裁判が確定したものの保管記録(刑事確定訴訟記録法に基づき検察庁が保管する記録)と、その情報を照らし合わせます(同法34条)。合致する記録がなければ「該当しない」旨が、合致すれば裁判の確定日などが通知される流れです。

 照合の相手は、はじめから「有罪が確定した事件の記録」に限られています。そのため、「DBSに記録されない」というよりも、「DBSが照合しに行く先に、不起訴の事件はもともと含まれていない」と表現するほうが実態に近いといえます。

「記録」という言葉を3つに分けて考える

 不起訴とDBSの関係を考えるとき、「記録」という言葉には少なくとも次の3つが混ざっています。

記録の種類中身不起訴の場合
照合先の記録特定性犯罪で拘禁刑・罰金が確定した事件の保管記録含まれない
確認の結果として作られる記録犯罪事実確認書と、こども家庭庁の管理簿「該当者と認められない」旨が記載される
捜査の過程で作られる記録警察・検察の事件記録など一定期間残るが、DBSの照合先ではない


 犯罪事実確認が行われると、事業者には確認書が交付され、こども家庭庁でも管理簿が作られます(同法35条・36条)。確認のたびに記録は作られますが、不起訴で終わった方の場合、その中身は「該当しない」というものです。確認書は、確認日から5年を経過した年度の末日や本人の離職日などを起点に、30日以内に廃棄・消去されることになっています(同法38条)。

 一方、捜査を受けた事実そのものは、警察や検察の記録として一定期間残り、いわゆる「前歴」として扱われます。ただ、これは犯罪事実確認の照合先ではなく、事業者がDBSを通じて目にすることはありません。

分かれ目は「逮捕されたか」ではなく「最終的な処分」

 犯罪事実確認での扱いを、最終的な処分ごとに並べると次のとおりです。

最終的な処分犯罪事実確認での扱い確認の対象となる期間
不起訴(嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予など)該当しない対象外
罰金(略式命令を含む)該当する罰金の納付などから10年
拘禁刑の執行猶予付き判決該当する裁判の確定から10年
拘禁刑の実刑判決該当する刑の執行終了などから20年
無罪判決の確定該当しない対象外
少年事件の保護処分該当しない対象外(刑罰の裁判ではないため)


 逮捕されたか、在宅で捜査されたか、書類送検されたかといった途中の経過は、この扱いを直接は左右しません。なお、施行前に言い渡された懲役の判決も拘禁刑の判決とみなされるため(同法附則3条)、施行前の事件だから対象外になるわけではありません。

略式の罰金は「軽く済んだ」とは限らない

 痴漢や盗撮などの事件では、正式な裁判を開かずに書面の審理で罰金を科す「略式手続」がとられることがあります。法廷に立たずに終わるため「裁判にならなかった」と受け止める方もいますが、略式命令も裁判の一種で、確定すれば罰金の前科になります。特定性犯罪であれば、納付などから10年は該当者と扱われます。

 略式手続は、本人に異議がないことを書面で確かめたうえで進められ(刑事訴訟法461条の2)、略式命令の告知から14日以内であれば正式裁判を請求することもできます(同法465条1項)。どちらがよいかは事件の内容や証拠によって異なりますが、「罰金なら記録に残らない」と考えて手続を進めるのは避けたいところです。

示談は、処分を通じてはじめて意味を持つ

 示談そのものが犯罪事実確認の扱いを決めるわけではありません。示談の成立は、検察官が起訴するかどうかを判断する際の事情の一つです。示談が成立しても罰金が確定すれば該当者となりますし、示談ができなかった事件が不起訴になることもあります。

不起訴は「その時点での結論」

 捜査中や処分保留の段階、起訴されて判決を待っている段階では、まだ確定した裁判がないため、この時期に犯罪事実確認が行われれば結果は「該当しない」となります。ただし、その後に有罪判決が確定すれば、転職や異動に伴う確認や、5年ごとの再確認(同法4条4項など)の機会に反映されます。

 また、不起訴はその時点の証拠を前提とした判断です。新たな証拠が見つかった場合などには事件が再び捜査の対象になる(再起)ことがあり、検察審査会の議決をきっかけに起訴に至る仕組みもあります。こうした経過で有罪が確定すれば、その時点から確認の対象になります。

不起訴でも、DBSの外で動く仕組みがある


事業者は前科以外の事情でも措置をとる

 法律は事業者に対し、犯罪事実確認の結果だけでなく、こどもとの面談で把握した状況や相談の内容その他の事情を踏まえ、性暴力等が行われるおそれがあると認めるときは、こどもと接する業務から外すなどの措置をとるよう求めています(同法6条)。Q&Aは、こうした場面として、こどもや保護者から被害の申出があった場合や、調査の結果、性暴力等や「不適切な行為」があったと合理的に判断された場合などを挙げています。

 これらは刑事手続とは別に、職場の中の事実をもとに判断されます。刑事事件が不起訴でも、職場の調査で事実が認められれば、業務の変更や懲戒の対象になり得ます。反対に、事実確認が済んでいない段階で事実があることを前提とした懲戒処分などを行うことはできないとされ、加害がなかったと確認された従事者の職場復帰には配慮が求められています。

教員・保育士には別の照会の仕組みがある

 教員と保育士については、児童生徒等への性暴力等を理由とする免許の失効や登録の取消しといった行政処分の情報を照会するデータベースが、日本版DBSとは別にあります。Q&Aは、両者は確認する中身が異なり重複がない場合があるため、施行後も引き続き照会が必要だとしています。刑事罰を受けていない行為でも、懲戒免職などを経てこちらの記録に載ることはあり得ます。

採用時の誓約書で問われる内容を確認する

 ガイドラインやQ&Aでは、採用選考の段階で、特定性犯罪の前科がないことを誓約書などで確認しておくことが適当とされています。問われているのが「特定性犯罪の前科」であれば、不起訴で終わった事件はこれに当たりません。ただ、書面の文言は事業者によって異なり得ますので、何を尋ねられているかを読んだうえで回答することが大切です。

本人が結果を前もって確かめる方法はない

 犯罪事実確認は事業者の申請で行われるもので、本人が自ら申請する仕組みはありません。Q&Aも、犯罪事実の有無の情報は本人に対しても開示できないとしています。本人に届くのは、「該当者である」と判明した場合の事前通知です(同法35条5項)。不起訴で終わった方は事前通知の対象にならず、事業者に「該当しない」旨の確認書が交付されます。何も通知が届かないのは、通常の流れと考えてよいでしょう。

不起訴になった方・処分を待っている方が確認しておきたいこと


  1. 処分の内容を書面で確かめておきます。不起訴処分告知書は請求しなければ交付されず(刑事訴訟法259条)、不起訴の区分までは記載されないのが一般的です。
  2. 略式手続を打診されたときは、罰金でも確定すれば対象になることを踏まえ、説明を受けてから判断します。
  3. こどもに関わる仕事の誓約書や申告書は、問われている範囲を文言に沿って確認します。
  4. 取調べでは、事実と異なる説明をしないことが大切です。DBSを気にするあまり事実と違う供述をすると、かえって不利な結果を招くおそれがあります。


 処分が決まる前であれば、事件の見通しや示談の進め方、略式手続への対応を早めに検討できます。ただし、弁護士が関与したからといって特定の処分が約束されるわけではなく、見通しは事件の内容や証拠、被害の状況によって変わります。

よくあるご質問


起訴猶予は罪を認めた扱いなので、DBSに載るのではありませんか

 現行法では載りません。起訴猶予も不起訴処分の一つで、確定した有罪判決がないためです。もっとも、起訴猶予の事案も対象に含めるべきだという意見はあり、法律の附則には、施行後3年をめどに、特定性犯罪事実該当者の範囲を含めて制度の在り方を検討する旨が定められています(附則6条)。今後の見直しの動きには注意が必要です。

逮捕されたことや捜査を受けたことは、DBSで職場に伝わりますか

 犯罪事実確認書に記載されるのは、該当者に当たるかどうかと、該当する場合の区分・裁判の確定日です。逮捕や捜査の経歴そのものは記載されません。ただし、報道や職場での調査など、DBSとは別の経路で事実が知られることはあり得ます。

まとめ


  • 現行法では、不起訴で終わった事件は、嫌疑不十分でも起訴猶予でも犯罪事実確認で該当者と扱われません。
  • DBSは有罪が確定した事件の記録と照合する仕組みであり、不起訴の事件はもともと照合先に含まれていません。
  • 略式命令による罰金も確定した裁判であり、特定性犯罪であれば納付などから10年は該当者と扱われます。
  • 不起訴はその時点での結論であり、再起や検察審査会を経て起訴に至れば扱いが変わります。
  • 不起訴でも、職場での調査や教員・保育士のデータベースなど、DBSの外で動く仕組みがあります。


 「不起訴ならDBSに載らない」という理解は、現行法の説明として誤りではありません。ただ、処分が決まる前なら略式手続への向き合い方が、決まった後なら職場での調査や誓約書への対応が、別の課題として残ることがあります。ご自身の状況がどこに当たるのかを整理するところから、ご相談ください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼