ネット・AIの風俗トラブル情報は正しい?誤情報に注意すべきポイント
「あの店は違法なはずだから、公安委員会に通報したい」。風俗店とのトラブルでご相談にみえた方から、こうしたお話をうかがうことがあります。反対に、店側から「客に公安委員会へ通報すると言われている」というご相談が寄せられることもあります。どちらの側も、通報という言葉で同じものを思い描いているとは限りません。
インターネット上には「風営法違反は公安委員会に通報できる」という説明が並んでいます。許可や届出の相手方が公安委員会であり、営業停止などの処分を出すのも公安委員会ですから、この説明自体が誤りというわけではありません。ただ、実際に何かを伝えようとしたときの窓口がどこかというと、そこには少しずれがあります。伝える先も、動く手続も、返ってくるものも、入口によって違います。
この記事では、風営法違反を伝えたいと考えたときの入口を、110番、警察署の生活安全課、そして書面による申出という三つに分けて整理します。店側が処分を受けた場合の対応や、支払った料金を取り戻すための交渉については、それぞれ別の記事で扱っています。
「公安委員会に通報したい」という言葉が指しているもの
同じ「通報」でも、頭の中にあるものは人によって違います。ご相談をうかがっていると、おおむね次の三つのどれかに整理できます。
三つの入口が一つの言葉にまとまっている
一つ目は、いま目の前で起きていることを警察に知らせたいという場面です。二つ目は、店の営業のやり方について行政に情報を伝え、調べてもらいたいという場面です。三つ目は、警察に相談したのに動いてもらえなかったという不満を伝えたい場面です。この三つはいずれも通報と呼ばれますが、動く仕組みも、伝える先も別々です。
それぞれの入口が向いている場面
どれを選ぶかは、いま何に困っているかで決まります。次の表は、入口ごとの違いをおおまかに整理したものです。
| 入口 | 伝える先 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 110番 | 警察の通信指令室 | いま起きている、身の安全にかかわる事態 |
| 警察相談専用電話(#9110) | 各都道府県警察の相談窓口 | 急を要しないが警察に相談したいこと |
| 警察署の生活安全課 | 営業所を管轄する警察署 | 店の営業のやり方についての情報提供 |
| 書面による申出 | 処分の権限を持つ行政庁 | 是正のための処分や指導を求めたいとき |
| 文書による苦情申出 | 都道府県公安委員会 | 警察職員の職務執行についての苦情 |
表の最後の行だけ、他とは性質が異なります。ここが混同されやすいところなので、次に説明します。
処分を決めるのは公安委員会、事務を担うのは警察
公安委員会は、警察を管理するために置かれた合議制の行政委員会です。風営法上の許可や処分の名義人は公安委員会ですが、日々の事務は警察本部と警察署が担っています。
許可も届出も、実際の窓口は警察署です
キャバクラなどの風俗営業は公安委員会の許可を受けて営むもので、店舗型の性風俗店は公安委員会への届出(風営法27条)、デリバリー型は営業の本拠となる事務所を管轄する公安委員会への届出(同法31条の2)が必要とされています。もっとも、これらの書類は営業所の所在地を管轄する警察署に提出するのが通常の運用です。名義は公安委員会でも、実際に人が対応しているのは警察署の生活安全課です。
この点は、公安委員会自身が案内しています。ある府の公安委員会は、風俗営業をはじめとする許可に関する質問や情報提供は、実際の事務を取り扱っている警察本部または警察署に申し出るよう、公式サイトで明記しています。公安委員会あてに封書を送っても、内容を確認するのは警察の担当部署です。
公安委員会あての文書申出は別の制度です
公安委員会が文書で受け付ける申出として広く知られているのは、警察法79条に基づく苦情申出です。これは、警察職員の職務執行について苦情がある人が、文書で申し出ることができるという制度です(警察法79条1項)。公安委員会は申出を誠実に処理し、処理の結果を文書で申出者に通知しなければならないとされています(同条3項)。
注意したいのは、対象が警察職員の職務執行に限られている点です。東京都公安委員会も大阪府公安委員会も、申出者本人と直接関係のない一般論としての申出はこの制度の対象にならないこと、公安委員会は個別の犯罪捜査を直接指揮できないことを、それぞれ案内しています。「あの店を調べてほしい」という内容は、この制度が想定している苦情とは別のものです。相談に行ったときの警察官の対応に納得できないという不満であれば、この制度の対象になり得ます。
110番を使う場面と、使いにくい場面
三つの入口のうち、判断に迷いにくいのが110番です。基準は「いま」かどうかです。
いま起きていることには110番
店内で帰らせてもらえない、複数人に囲まれている、暴力を受けそうだといった状況であれば、ためらう理由はありません。自分にうしろめたい事情があると感じていても、身体の安全が先です。110番は緊急の事案を扱う回線ですから、通話は短くなり、まず場所と何が起きているかを聞かれます。
終わったことの申告には向きません
一方、数日前の出来事や、営業のやり方そのものに対する疑問は、110番の想定する場面ではありません。この場合は、警察相談専用電話(#9110)に電話をして案内を受けるか、営業所を管轄する警察署に連絡して生活安全課につないでもらうことになります。
なお、匿名で情報を伝える仕組みとして、警察庁の委託を受けた民間団体が運営する匿名通報の窓口があります。ただし対象となる事案が限られており、少年の福祉を害する犯罪、児童虐待、人身取引、暴力団に関するものなどが挙げられています。受付は平日の日中に限られています。風営法違反一般が対象に含まれているわけではないため、使えるかどうかは事案の内容次第です。
生活安全課に情報を伝えるときの実務
風俗営業の担当は、多くの警察署で生活安全課に置かれています。いきなり訪ねるよりも、代表番号に電話をして用件を伝え、担当につないでもらうほうが話が早く進みます。
整理しておくと話が早いもの
情報提供は、思い出しながら話すよりも、事実を並べて渡すほうが伝わります。次のようなものが手元にあると、担当者が確認しやすくなります。
- 店の名称、所在地または待ち合わせ場所、利用した日時。
- 広告やホームページの画面を保存したもの。
- 料金の案内、レシート、振込やカード決済の記録。
- やり取りが残っているメッセージの画面。
- 何が行われていたか、見聞きした事実の時系列メモ。
推測と事実は分けて伝えるほうが望ましいといえます。「違法な店だと思う」という評価より、「このような説明を受け、実際にこうだった」という事実のほうが、確認の手がかりになります。
自分の行為も説明することになる場面があります
ここが、利用した側から情報を伝える場合に特有の難しさです。店の違反を説明しようとすると、自分がその場で何をしたのかにも触れざるを得ないことがあります。伝えたい違反と、自分の行為とが同じ出来事の中にある場合、話は店だけの問題では終わりません。
店のルールに反する行為をした、撮影をしていた、金銭を渡していたといった事情がある場合には、情報提供を先に進める前に自分の側を整理しておいたほうがよい場面があります。何を伝え、何は伝えなくてよいのかは、事案によって判断が分かれます。
匿名で伝えられる範囲
電話で情報を伝える段階では、名前を名乗らないという選択もできます。ただし匿名の情報は裏づけを取りにくく、扱いが慎重になりやすい面があります。反対に、名前を伝えたからといってその内容が店に知らされるわけではありませんが、調査の過程で情報源が推測される可能性は残ります。
書面で申し出るという方法
口頭の情報提供とは別に、書面で是正を求める制度があります。あまり知られていませんが、法律に根拠のある仕組みです。
誰でも申し出ることができる制度
行政手続法36条の3は、何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分または行政指導がされていないと思料するときは、権限を持つ行政庁に対して申し出て、その処分等をするよう求めることができると定めています。自分が被害を受けたかどうかは要件になっていません。
申出書に書く事項
申出は書面で行い、氏名または名称と住所、法令に違反する事実の内容、求める処分または行政指導の内容、その根拠となる法令の条項、当該処分等がされるべきと思料する理由、その他参考となる事項を記載するものとされています(同条2項)。申出を受けた行政庁は、必要な調査を行い、その結果に基づいて必要があると認めるときは、当該処分等をしなければならないとされています(同条3項)。
損害を回復するための制度ではありません
もっとも、この制度は違法状態の是正を促すためのものであり、申出をした人の損害を取り戻すためのものではありません。調査の義務はありますが、申出をした人に結果を通知しなければならないとは書かれていません。警察法79条の苦情申出に通知の定めがあるのと比べると、この違いははっきりしています。支払った金銭を取り戻したいのであれば、返金の交渉や民事の請求という別の道を並行して考えることになります。
申告のあとに何が動くのか
情報が伝わったあと、行政の側では段階を踏んだ手続が進みます。ここを知っておくと、期待の置きどころを誤らずに済みます。
報告の徴収と立入り
公安委員会は、この法律の施行に必要な限度で、営業者に業務に関する報告や資料の提出を求めることができ、警察職員に営業所へ立ち入らせることができるとされています(風営法37条)。立入りを行う警察職員は身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示することとされています。報告や資料の提出で足りる場合には立入りまでは行わないという運用の基準も示されています。
指示から営業停止・取消しへ
違反が確認された場合の処分は、いきなり重いものが出るわけではありません。まず改善を求める指示処分があり(風営法25条、店舗型の性風俗店については29条、デリバリー型については31条の4)、その上で営業停止や許可の取消し、届出制の営業については営業廃止命令という段階が置かれています(同法26条、30条、31条の5)。
各都道府県警察が公表している処分基準では、取消しや営業停止命令は、その事由について指示処分を行い、指示に違反した場合に行うのを通常とする、という考え方が示されています。例外もありますが、一度の情報提供でただちに店が閉まると考えると、実際の運びとは食い違うことになります。
結果が知らされるとは限りません
処分がされたかどうか、いつどのような内容だったかは、情報を伝えた人に通知されるわけではありません。行政処分の相手方は店であって、申告した人は手続の当事者ではないからです。行政処分が公表されている場合には、都道府県警察のサイトで確認できることもあります。
申告する側が気をつけておきたいこと
最後に、伝える側の立場から注意しておきたい点をまとめます。
- 事実と評価を分けて伝える。断定できないことは、断定しない形で伝える。
- 自分の行為に触れざるを得ない事案かどうかを、先に確認しておく。
- 返金や示談の交渉と、行政への申告は、目的の異なる別の手続として扱う。
- 「通報されたくなければ支払え」「支払わなければ通報する」というやり取りは、それ自体が別の問題を生む。
- 事実に反する申告は、それ自体が責任を問われ得る(軽犯罪法1条16号)。
- 店で働いている立場から申告する場合は、雇用や契約の面で別の考慮が必要になる。
通報を交渉の材料として使うことの危うさや、店から通報をほのめかされた場合の対応については、別の記事で詳しく扱っています。
よくあるご質問
匿名でも受け付けてもらえますか
電話での情報提供であれば、名前を名乗らずに伝えることもできます。ただし、行政手続法36条の3の申出は氏名または名称と住所を記載するものとされており、書面による申出を匿名で行うことは想定されていません。匿名かどうかで、その後の扱いが変わり得る点は理解しておくとよいでしょう。
伝えた内容は店に知らされますか
情報提供の内容や提供者が、そのまま店に伝えられる仕組みにはなっていません。もっとも、調査や処分の手続の中で、どの出来事に関する話かが店側に伝わることはあります。自分しか知り得ない事実を伝える場合には、その点を意識しておくことになります。
公安委員会に直接手紙を出したほうが早いですか
早くなるとは限りません。公安委員会は合議制の行政委員会で、事務を担っているのは警察本部と警察署です。許可に関する情報提供は警察本部か警察署へという案内が出ていることからも、営業所を管轄する警察署に伝えるほうが、実際の確認につながりやすいといえます。
まとめ
- 「公安委員会に通報する」という言葉には、緊急の通報、行政への情報提供、警察職員への苦情という別々の入口が混ざっている。
- 処分の名義人は公安委員会だが、許可・届出も情報提供も、実際の窓口は営業所を管轄する警察署の生活安全課である。
- 公安委員会が文書で受け付ける苦情申出は、警察職員の職務執行についての制度であり、店の営業に関する申告とは別である(警察法79条)。
- いま起きていることは110番、急を要しないことは警察相談専用電話(#9110)や警察署という切り分けになる。
- 書面で是正を求める方法として、行政手続法36条の3の申出がある。調査の義務はあるが、損害を回復するための制度ではない。
- 申告のあとは、報告の徴収や立入り(風営法37条)を経て、指示、営業停止、取消しや営業廃止命令という段階を踏む。
- 処分の結果が申告した人に通知されるとは限らず、返金は別の手続で求めることになる。
風俗店とのトラブルでお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗店の利用に関するトラブルのご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。どこに何を伝えるべきか、そもそも伝えることが自分にとって適切なのかは、事案の中身によって判断が変わります。
行政へ伝えたいと考えている方も、店から通報をほのめかされて困っている方も、動く前にご相談いただければ、選べる手段が残っている段階でご一緒に整理できます。


