「家に行く」「学校にバラす」と脅されている|安全に抜けるための手順
「最近、うちの子の様子がおかしい」。そう感じていても、思春期にありがちな変化なのか、それとも何かに巻き込まれているのか、外から見分けるのは簡単ではありません。闇バイトに関する報道が続くなかで、我が子の変化をどう受け止めればよいのか迷っている保護者の方は少なくないと思います。
インターネット上には「危険なサイン」の一覧が数多く出ています。ただ、サインに気づいたあとに何を確かめ、どこに、どの順番で相談すればよいのかまで書かれたものは多くありません。ここで止まってしまうと、心配なまま数週間が過ぎたり、逆に問い詰めてしまって子どもが口を閉ざしたりします。
この記事では、よく挙げられる兆候をいったん整理したうえで、保護者の方が最初の段階でできることを、法律や手続との関係から整理します。
兆候だけで白黒はつかない
最初にお伝えしたいのは、兆候の一覧に当てはまるかどうかで「関わっている/関わっていない」を判定することはできない、ということです。挙げられている変化の多くは、部活動や交友関係の変化、進路の悩みなど、まったく別の理由でも起こります。
他方で、「これくらいなら大丈夫」と自分に都合のよい情報だけを信じてしまう心理は、大人にも子どもにも働きます。保護者の側では「うちの子に限って」という形で働くため、気になる変化があっても様子見が長引きやすくなります。
そこで、兆候は「関与の証拠」ではなく「確かめるべきことがあるという合図」として扱うのが現実的です。大事なのは、兆候の数を数えることではなく、そのあとに事実を確認できるかどうかです。
よく挙げられる兆候を、四つの型に分けて見る
公的機関や実務家が挙げている変化は、おおむね次の四つの型に整理できます。右の列は、その変化の裏側で実際に起きていることがある事実です。
| 型 | よく挙げられる現れ方 | 確かめたい事実 |
|---|---|---|
| お金 | 急にお金を持つ/逆に借りたがる/家の現金が不自然に減る | 報酬を受け取った、逆に「ペナルティ」を請求されている |
| 持ち物・通信 | スマホを手放さない/画面を隠す/見慣れないメッセージアプリが入っている | 匿名性の高いアプリに誘導され、やり取りが残らない形になっている |
| 行動 | 行き先を言わずに出かける/早朝や深夜の外出が増える | 荷物の受け取り、運搬、現金の引き出しなどに動いている |
| 人間関係 | DMのやり取りが急に増える/別アカウントを作る/先輩や知人からの誘いの話が出る | 勧誘を受けている、あるいは他の人を誘う側に回っている |
一つ当てはまったからといって、関与を意味するものではありません。注目したいのは、複数の型の変化が同じ時期に、しかも短期間のうちに重なっているかどうかです。
入口はSNSだけではない
保護者の方が見落としやすいのが、勧誘の入口です。警察庁が保護措置の対象とした事案(2024年10月の通達開始から2025年11月末までに544件)では、応募のきっかけとして最も多かったのは知人の紹介で、全体の30.7%を占めていました。次いでX(23.2%)、その他のSNS(21.9%)でした。年代別では10代が24.8%を占めています。
つまり、SNSの投稿だけを警戒していても届かない経路があります。「先輩に誘われた」「友達に紹介された」という話が出たときこそ、いちばん確認が必要な場面だといえます。
兆候より先に確かめたい五つの事実
弁護士が相談を受けたとき、最初に確認するのは兆候ではなく、次の五つです。ご家庭でも、この順番で確かめられると状況がはっきりします。
- 誰から、どこで誘われたのか(SNSか、知人か)
- 何を渡したのか(身分証の画像、住所、家族構成、自撮り写真、銀行口座、スマートフォン)
- 実際に何をしたのか(応募して連絡を取っただけか、受け取り・運搬・送金・引き出しをしたか)
- お金を受け取ったのか、逆に請求されているのか
- やめたいと伝えたあと、脅されていないか
この五つが分かると、まだ連絡を取っただけの段階なのか、すでに別の犯罪として評価され得る行為をしている段階なのかが見えてきます。とくに、何を渡したのかと、実際に何をしたのかは、評価を分ける要素になります。銀行口座やスマートフォンを渡す行為は、強盗や詐欺の実行役でなくても、犯罪収益移転防止法や携帯電話不正利用防止法の問題として、それ自体が独立して扱われることがあります。2026年7月に施行された改正により、口座等の不正な譲渡に対する法定刑は引き上げられ、報酬を得て送金を代行する行為についても罰則が設けられました。
年齢によって、親にできることが変わる
もう一つ、保護者の方が混乱しやすいのが年齢です。成年年齢は18歳ですが、少年法が適用される「少年」は20歳未満で、この二つはずれています。年齢によって手続の枠組みと親の立場が変わります。
| 年齢 | 手続の枠組み | 保護者の立場 |
|---|---|---|
| 14歳未満 | 刑事責任を問われない(刑法41条)。児童相談所を中心とした対応になる | 監護する立場として関与の中心にいる |
| 14歳以上18歳未満 | 少年法が適用される。事件は家庭裁判所で扱われる | 法定代理人として手続に関わる |
| 18歳・19歳 | 成年だが少年法上は「特定少年」として扱われる | 契約や依頼は本人が行う。事実上の支援者 |
| 20歳以上 | 通常の刑事手続 | 本人の同意なく手続に関与することはできない |
18歳を過ぎているお子さんの場合、弁護士との契約も、警察への相談も、原則として本人が行うことになります。ただし、保護者の方がご自身の相談として弁護士に事情を話し、どう声をかけるべきかを整理することはできます。弁護士には守秘義務があり、相談の内容が学校や勤務先に伝わることはありません。
気づいてからの数日で、やっておきたいこと
- 問い詰める前に、時間と場所を選ぶ(責めることが目的ではないと最初に伝える)
- やり取りを消させない。端末の初期化やアカウントの削除を急がない
- 渡したもの(身分証の画像、口座、スマートフォン、住所、家族構成)を書き出す
- 相手からの連絡があれば、ブロックする前に画面を保存しておく
- 警察の相談窓口に、保護者から相談する
- 弁護士に、いまどの段階なのかの見立てを相談する
記録を消さないほうがよい理由
保護者の方がとっさにしがちなのが、スマートフォンの中身を消させることです。しかし、これは二重の意味で不利に働くことがあります。
一つは、消えるのが相手の手元の情報ではなく、子ども自身の説明を裏づける材料のほうだという点です。警察庁が公表した相談事例では、匿名性の高いアプリを削除した直後に、別の経路で個人情報を送り返されて脅されたという例が紹介されています。やり取りは、脅されていた経過や、いつ抜けようとしたのかを示す記録でもあります。
もう一つは、法律上の位置づけです。刑法は他人の刑事事件に関する証拠を隠滅する行為を処罰の対象としており、親族が本人のために行った場合には刑を免除することが「できる」とされているにとどまります。家族だから問題にならない、とは言い切れません。
状況を悪くしやすい対応
- 感情的に責め立て、子どもが説明をやめてしまう
- 端末を取り上げて中身を消す、アカウントを削除させる
- 保護者が相手方に直接連絡し、交渉しようとする
- 請求された「違約金」「ペナルティ」を保護者が支払う
- 「もう少し様子を見よう」と判断を先送りする
このうち支払いについては、補足が必要です。犯罪への加担を前提とした約束は、公の秩序に反するものとして法律上の効力が認められません(民法90条)。支払う義務があるとは考えにくい一方で、支払えば相手に「支払う家庭だ」という材料を与えることになります。実際、報酬が支払われないどころか金銭を要求されたという例が繰り返し報告されています。
「相談したら、うちの子が捕まるのでは」
これが、多くの保護者の方が動けなくなる理由です。ここは率直にお伝えします。相談すれば立件を免れる、という制度があるわけではありません。
そのうえで、知っておいていただきたい事実が二つあります。
一つは、警察が2024年10月以降、闇バイトから抜けようとして脅されている人とその家族について、一時的な避難や周辺の警戒といった保護措置を行っていることです。前述のとおり、2025年11月末までに544件の実施が公表されています。警察庁は、保護措置の後に本人や家族が危害を加えられた事例は把握していないと説明していますが、これは今後の安全を約束するものではありません。
もう一つは、検挙される人の構造です。警察庁がまとめた令和7年(2025年)の特殊詐欺の検挙人員は2,307人で、そのうち主犯として検挙されたのは66人、全体の2.9%にとどまっています。指示を出している側にはたどり着きにくく、現場で動いた人が先に検挙される、という形になりやすいということです。関わり続けるほど、本人の立場は重くなっていきます。
また、自ら申告した経過や、途中で抜けようとした事実は、その後の処分や少年の場合の判断において考慮され得る事情です。だからこそ、記録と経過を残しておくことに意味があります。
見落とされやすい二つの型
子どもが「誘う側」になっている場合
実行役をしていなくても、他の人を誘っていた場合は別の重い評価を受けることがあります。犯罪の実行者を募集したり紹介したりする行為は、職業安定法が定める「公衆道徳上有害な業務」に就かせる目的での募集・紹介にあたるとされ、1年以上10年以下の拘禁刑または20万円以上300万円以下の罰金が定められています。警察庁・文部科学省・こども家庭庁が連名で公表した2026年6月のメッセージでも、他の人に紹介しただけでも検挙され得ることが明記されています。
「うちの子はやっていない、誘っただけ」という説明が出てきたときは、むしろ確認を急ぐ場面です。
保護者のほうに連絡が来る場合
子どもが家族構成や自宅の情報を渡していると、保護者の方に直接連絡が来ることがあります。この場合、着信や文面を保存したうえで、やり取りを続けずに警察に相談してください。金銭を渡すことは、要求を止める方向には働きにくいのが実情です。
相談先の選び方
事件になっているかどうか分からない段階では、警察相談専用電話(#9110)や、各都道府県警察の少年相談窓口を利用できます。いずれも、被害届を出すかどうかを決めていなくても相談できる窓口です。
弁護士に相談する意味は、段階の見立てにあります。何を渡し、何をしたのかを整理すれば、いまどの位置にいるのか、出頭や自首を検討する段階なのか、まだ引き返せる余地があるのかの見通しが立ちます。当事務所では24時間の受付体制をとっており、初回のご相談は無料です。出頭や自首への同行は全国に対応しています(移動にかかる実費は別途必要です)。すでに身柄を取られている場合は、即日の接見にも対応しています。
なお、学校への説明や、被害者への弁償をどうするかは、事実関係が固まったあとに検討する段階の問題です。最初の段階では、まず何が起きているのかを正確につかむことを優先してください。
まとめ
- 兆候は「確かめるべきことがある」という合図であり、それ自体で関与を示すものではない
- 確かめるのは、誰から誘われ、何を渡し、何をし、お金がどう動き、脅されていないかの五つ
- 勧誘の入口として最も多いのは知人の紹介であり、SNSだけを見ていても届かない
- やり取りを消させないこと。消えるのは、子ども自身を説明する材料のほう
- 年齢によって手続の枠組みと保護者の立場が変わる。18歳以上は本人が動く必要がある
- 迷っている段階でも、#9110や少年相談窓口、弁護士に相談することはできる
お子さんの変化に気づいた時点で、すでに動き出しています。判断がつかないままでも、事実を書き出し、記録を残し、相談してみることはできます。早い段階であるほど、選べる手段は多く残っています。


