【刑事事件】闇バイト|報酬を受け取っていない・未遂で終わった場合の評価

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

この記事は2026年9月時点の法令・裁判例をもとにしています。2025年6月以降、懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されているため、条文の刑名は拘禁刑で表記しています。実際の見通しは、関与の内容と残っている記録によって変わります。


闇バイトに関わってしまった方からのご相談では、「結局、お金は一円も受け取っていない」「現場で警察が来て、何も渡されないまま終わった」というお話を伺うことが少なくありません。そこには、報酬を得ていなければ、あるいは犯行が完了していなければ、責任は問われないか、問われても軽く済むのではないか、という見込みが含まれていることが多いように感じます。
 先に整理しておくと、報酬を受け取ったことも、結果が現実に生じたことも、犯罪が成立するための条件ではありません。一方で、これらの事情がまったく意味を持たないわけでもなく、処分の内容を決める場面では確かに評価されます。この記事では、報酬を受け取っていない場合と未遂で終わった場合が法律上どう位置づけられ、実際の処分にどう影響するのかを、条文と最高裁の判断に沿って整理します。

報酬を受け取っていないことは、犯罪の成否とは別の問題

 まず押さえておきたいのは、報酬の話と、罪が成立するかどうかの話は、まったく別の層にあるということです。

報酬は犯罪の成立要件ではない

 詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させたことによって成立します(刑法246条1項・10年以下の拘禁刑)。窃盗罪は、他人の財物を窃取したことによって成立します(同法235条)。条文のどこにも、行為者が報酬を得たことという要件は置かれていません。組織の中で誰にいくら分配されたかは、成立する罪名を変える事情ではないということです。
 現実にも、報酬が支払われないまま検挙される例は珍しくありません。摘発される可能性が高い役割ほど後払いにされ、検挙後は連絡手段ごと切られてしまうことがあります。受け取れなかったという事実は、ご本人にとっては切実な出来事ですが、刑事責任の有無を左右する事情としては働きません。

「約束があった」という事実のほうが拾われる

 後で触れる最高裁の決定でも、受領役を担った方について、報酬約束のもとで荷物の受領を引き受けたという形で事実が認定されています。実際に支払われたかどうかではなく、対価を得る前提で役割を引き受けたという点が、関与の自発性を示す事情として拾われているわけです。
 取調べでも、報酬の金額・支払方法・約束の経緯は必ずといってよいほど確認されます。「たぶん報酬だと思っていました」と曖昧に答えてしまうと、後から訂正しにくい調書が残ることがあります。

では、報酬の有無はどこで効くのか

 成否に影響しないとしても、報酬にまつわる事情が意味を失うわけではありません。次の三つの場面では、主張の材料になり得ます。

  • 共謀があったといえるか。対価を伴う依頼をどのような説明で引き受けたのかは、違法性の認識の程度を推し量る材料として扱われます。
  • 組織の中での位置づけ。報酬の多寡や分配の仕組みは、中心的な立場だったのか末端だったのかを説明する手がかりになります。
  • 量刑の評価。利益をまったく得ていないことは、動機や利得の程度を示す事情として考慮される余地があります。


 ただし、報酬を受け取っていないというだけで共同正犯が幇助にとどまる、といった単純な図式にはなりません。役割の重要性や反復の有無と合わせて評価されるためです。関与の名目が軽く見えることの危うさについては、「口座を売っただけ」「名義を貸しただけ」は軽いのか「荷物を運ぶだけ」だった|運び屋の刑事責任と『知らなかった』という主張でも整理しています。

未遂でも処罰の対象になる|「実行の着手」という区切り


刑法43条は「減軽することができる」と定めているにとどまる

 未遂について定めた刑法43条は、犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者について、その刑を減軽することができるとしています。「することができる」という書き方であり、裁判所の裁量に委ねられた減軽です。未遂だから当然に軽くなる、という規定ではありません。
 どの罪について未遂を処罰するかは各条文で定められています(同法44条)。闇バイトで問題になりやすい類型では、詐欺・恐喝について250条、窃盗・強盗について243条に未遂処罰の規定が置かれており、結果が生じなかった場合の処罰の枠組みは用意されています。

被害者宅に着く前でも着手が認められた例

 最高裁令和4年2月14日決定(刑集76巻2号101頁)は、いわゆるキャッシュカードすり替え型の事案です。警察官を名乗る者が被害者に電話でうそを告げた後、すり替え役として向かった方が、被害者宅の手前およそ140メートルの路上で警察官の尾行に気づき、犯行を断念しました。
 最高裁は、告げられたうその内容が封筒から注意をそらす隙をつくり出すものであったことと、実行役が現場付近まで接近していたことを合わせて評価し、キャッシュカードの占有を侵害するに至る危険性が明らかに認められるとして、この時点で窃盗罪の実行の着手があったと判断しています。相手と顔も合わせていない、何も受け取っていないという状況でも、未遂罪が成立し得るということです。

中身のない荷物を受け取った場合

 最高裁平成29年12月11日決定は、被害者がうそを見破り、警察に相談したうえで現金の入っていない箱を発送した、いわゆるだまされたふり作戦の事案です。被告人は、作戦が始まったことを知らないまま、報酬約束のもとで受領を引き受け、中身のない荷物を受け取りました。
 最高裁は、だまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず、被告人は加功前の欺罔行為の点も含めた詐欺について、詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うとしました。途中から関わっただけである、受け取った荷物は空だった、という説明が、そのまま責任の否定につながるわけではないということです。
 同じように、捜査機関側が応募者を装って接触する手法もあります。この点は仮装身分捜査(雇われたふり作戦)とは|応募段階で摘発される仕組みで扱っています。また、強盗の計画にとどまった段階の評価については、実行に至らなかった場合|強盗予備罪と未遂の分かれ目をご覧ください。

「途中でやめた」は中止未遂になるのか


自己の意思によるかどうかが分かれ目になる

 刑法43条ただし書は、自己の意思により犯罪を中止したときについて、刑を減軽し、または免除すると定めています。こちらは裁量ではなく、要件を満たせば必ず減軽または免除されます。中止未遂と呼ばれる類型です。
 もっとも、この「自己の意思により」という要件は、実務上そう簡単には認められません。警察官の姿が見えた、被害者に不審がられた、指示役と連絡が取れなくなった、といった外部的な事情によって断念した場合は、やむを得ず中断した障害未遂として扱われるのが通常です。先ほどの令和4年の事案も、尾行に気づいての断念でした。
 逆にいえば、外から止められる前にご自身の判断で離れたのであれば、その経緯は具体的に示しておく価値があります。

抜けたという主張は、どの時点かで意味が変わる

 まだ実行に着手していない段階で離れた場合は、共謀の効力を断ち切れたかという問題になります。着手した後であれば、中止未遂にあたるか、共犯関係からの離脱が認められるかという問題になります。
 いずれの場面でも見られるのは、離脱の意思を相手方に伝えたか、そしてそれまでに自分が与えた影響を取り除いたかという点です。指示役に断りを入れた、渡した情報の削除を求めた、警察に相談したといった外形的な行動が残っていれば、主張の裏づけになります。内心でもう行かないと決めていた、というだけでは足りないとお考えください。
 なお、抜けようとすると脅されるという相談は非常に多く寄せられます。安全面を含めた進め方は「家に行く」「学校にバラす」と脅されている|安全に抜けるための手順で、まだ実行していない段階でできることは応募しただけで、まだ何もしていない|この段階でできることで整理しています。

未遂・報酬未受領は処分にどう影響するのか

 ここまでを、場面ごとに整理すると次のようになります。

評価の場面未遂・報酬未受領が働く方向あわせて見ておきたい点
犯罪の成否影響しない実行の着手が認められれば未遂罪が成立する
法定刑刑法43条本文による減軽の余地がある裁量による減軽であり、当然に軽くなるわけではない
起訴・不起訴の判断結果が生じていない点は軽い方向に働く関与の回数や組織性は重い方向に働く
量刑財産的被害が現実化していない点は考慮される余罪が加わると全体の位置づけが変わる
被害弁償弁償すべき金額が小さい、または生じていない謝罪や再発防止の姿勢は別途示す必要がある


未遂1件で終わるとは限らない

 未遂で現行犯逮捕された場合でも、押収された端末の解析や共犯者の供述から、過去の既遂事件が明らかになることがあります。そうなると、評価の対象は「未遂1件」ではなくなります。再逮捕が重なる仕組みについては再逮捕が繰り返されるのはなぜか|余罪と追起訴の見通しを、特殊詐欺全体での量刑の見方については特殊詐欺は初犯でも実刑があり得る|量刑を左右する事情をご覧ください。

未遂であっても、相手方は存在する

 未遂の場合、財産的な損害が生じていないことが多く、弁償すべき金額としては大きくならないのが通常です。しかし、標的とされた方が不安や生活上の影響を受けていることに変わりはなく、金額の大小とは別に、謝罪や見舞いの形での解決が検討される場面はあります。
 弁償の順序や原資の考え方は被害者が複数いる|弁償の順序と原資の作り方で、返金や弁償の時期が結果に与える影響については詐欺で不起訴を目指すには|返金・弁償のタイミングが結果を変える理由で扱っています。

未遂・報酬未受領を正しく評価してもらうために

 「何も受け取っていない」「途中でやめた」という事情は、口頭で述べるだけでは他の説明に埋もれがちです。次の点を早い段階で整えておくことをおすすめします。

  1. 応募から断念までの経緯を、日時が分かる形で時系列に書き出しておきます。
  2. 指示役とのやり取りは、削除せずにそのまま残しておきます。アプリの仕様で消えてしまう場合は、画面を撮影して保存します。
  3. 報酬について、約束の内容と、実際に受け取ったものの有無を分けて整理しておきます。
  4. 取調べでは、覚えていない部分を無理に埋めず、そのまま伝えます。供述の残り方については黙秘したほうがよいのか|黙秘の効果とリスクの整理もご参照ください。
  5. 出頭や自首を考えている場合は、その前に弁護士へご相談ください。自分から出頭すべきか|自首の成否と実務上の意味受け子をしてしまった|自首・出頭の判断と弁護士同行の意味で判断の材料を整理しています。


よくあるご質問


報酬を受け取っていないことは、こちらで証明しなければならないのですか

 犯罪事実の立証責任は検察官にあり、報酬を受け取っていないことをご本人が証明しなければならない立場ではありません。ただし、口座の入出金履歴や、支払いを求めるやり取りが残っていれば、説明の裏づけになります。

未遂であれば、必ず執行猶予になるのでしょうか

 そうとは限りません。刑法43条本文の減軽は裁量によるものであり、量刑では関与した回数、組織の中での役割、余罪の有無といった事情が合わせて評価されます。未遂であることは有利に働き得る事情の一つですが、それだけで結論が決まるものではありません。

現場に向かう途中で引き返した場合も罪になりますか

 引き返した時点と理由によって評価が変わります。令和4年の最高裁決定は被害者宅の付近まで接近した段階で着手を認めていますので、目的地に近づいてから引き返した場合には未遂が問題になり得ます。一方、外部から止められる前にご自身の判断で離れたのであれば、中止未遂や共犯関係からの離脱として主張する余地があり、経緯を具体的に示せるかどうかが分かれ目になります。

 報酬を受け取っていない、結果も生じていない。その事実は確かに存在するのに、思っていたほど有利に扱われないと感じられることがあります。多くは、それらの事情がどの場面で、どのように効くのかが整理されないまま扱われているためです。成否の話なのか、刑の減軽の話なのか、量刑の話なのかを切り分けて示すことで、同じ事実でも伝わり方は変わります。ご家族の立場から気づいた段階でできることは、【親向け】子どもが闇バイトに関わっているかもしれない|兆候と最初の対応にまとめています。


同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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